第二十話 復活して
SIDE:レオンス
「……どう? 俺の醜い姿は?」
目が覚めた時の言葉は既に決めていた。
そりゃあ、自分を魔物創造の材料にするなんて無茶なことをしたんだから、形が変わっていてもおかしくない。
とまあ、そう思ってベルに聞いてみたのだが、ベルの泣き顔では……俺の見た目が人間のままなのかどうかは判断できなかった。
「いえ……凄く……とても美しくて……尊くて……格好いい姿だと思います」
え? それって……本当に俺か? 俺は何かの神にでも姿が変わってしまったんじゃいのか……?
心配だから後で鏡を見ておかないと。
「それは良かった。はあ……今回ばかりは本当に死んだかと思った」
姿はどうであれ、とりあえず死ななくて済んで良かった。
やっぱり、カイトの剣は凶悪だな。
「う、うう……わあああん」
「ちょっと。ベル……って裸!?」
また大声を上げて泣き始めたベルを慰めようとすると、今更ながらベルが裸だったことに気がついた。
そうだ……獣化する時に服が全部破けてしまったんだっけね。
今度、獣化しても破けない服を創造してあげないと。
「そんなこと……そんなことなんて……どうでも良いんです。レオ様が生きていて本当に良かった……」
「ありがとう……」
自分の為に大切な人が死んでしまうというのは、例え自分が助かったとしても……いや、自分だけが助かってしまうからこそ辛いものだ。
俺もじいちゃんに助けられた時は本当に辛かった。
そういう意味で……残されたエレーヌのためにも、カイトには生きていて欲しかった。
「カイトはどうなった?」
「カイトさんなら……今私が直しています」
「あ、リーナ……」
声がした方に急いで顔を向けると、目が真っ赤になったリーナがカイトを治療していた。
「もう……本当は私もベルさんと一緒に旦那様の傍にいたかったのに……」
「本当にごめん……」
「別に良いですよ。でも……思いっきり後で泣きますから」
「お手柔らかに頼むよ……。それで、カイトは治りそう?」
「目を覚ますかは……正直、五分五分です。生命力はほとんど感じません。傷は全て塞ぎましたが、この状態では、失った腕を取り戻すことは無理です……」
そうか。とりあえず、すぐに死ななかったことだけでも、リーナには感謝しないと。
「そうか。助けてくれてありがとう」
「本当ですよ……。どうして、大好きな旦那様を刺した奴なんか、治療しないといけないんですか」
「そうだな……。でも、カイトだって大切な人の為に仕方なく戦っていたんだ。少しは許してあげてくれ」
カイトも後がない状態だったんだ。
俺が逆の立場だったと思うと、カイトのことは憎めないんだよね……。
「それに……カイトには生きていて貰わないと困る。そうだろ? 影士?」
「「影士?」」
「そんなことないですよ~~~。私の計画では、勇者にはここで死んで貰う予定でしたから~~~」
俺が呼ぶと、カイトの影からもう聞き慣れた声が飛んできた。
「え? バルスさん……」
「二人にはわからないだろうな。こいつの着けている魔法アイテム、人から絶対的な信頼を獲得できる類いの物だ」
バルスは鑑定を防ぐ魔法アイテムと一緒に、魅了魔法のような人に信頼して貰えるような魔法具を持っていた。
だから、本当は怪しいはずのバルスを俺たちは信用し続けていた。
「やっぱり気がつきましたか~~~。もう~~~レオンス様は人を辞めてしまいましたからね~~~」
そう。たぶん、この魔法アイテムの対象は人にだけ。
だから、人じゃなくなった俺にはその効果がなくなった。
「そういうお前だってそうだろう? それで、これは創造士の命令か?」
「ほお~~~? そこまで気がついていたのですか~~~!?」
「そりゃあそうだろう。じゃなかったら、もう俺は死んでいる」
もし、バルスが破壊士だったら俺は殺されていただろう。
俺より長く生きている転生者で、あの魔王ですら操ることのできた奴が俺を殺せないわけがない。
まあ、なぜわざわざこんな勇者を使って殺そうとしたのかはわからないけど。
「言われてみれば~~~確かにそうですね~~~」
「それで、答えを聞かせろよ」
「半分……いや、今回は四分の三が創造士様の命令ですよ~~~」
「四分の一はお前の判断か……。勇者を殺すことか?」
「正解~~~。神達に一泡吹かせる為なら、勇者は邪魔ですから~~~。ですが、お優しい創造士様は、まだその決断を迷われていま~~~す。だから~~~私が強制的に道を決めさせて頂こうと思い~~~今回の行動に至りました~~~」
「神に一泡吹かせるため……引き分けにして終わらせることか?」
「ええ。その為には、創造士、破壊士、魔王の三人だけしかこの世界に残っている権限はございません」
そうだな。そうしないと、同時に死ぬなんてことはできない。
「いや、それなら……お前は」
その条件にバルスは入っていないじゃないか。
「もちろんあと八十年以内に死ぬ予定で~~~す」
「良いのか?」
「ご心配な~~~く。私はもう、三百年は生きていますから~~~。十分楽しませて頂きました~~~」
三百年か……俺には想像出来ない長さだな。
確かに、それだけ生きていれば十分な気もする。
「なるほど。それで、どうして創造士は勇者を殺すことに躊躇っているんだ? もう、千年近く生きているんだろ? まさか、そんな情とか……」
「そのまさかですよ~~~。それに、あなただってわかっているじゃないですか~~~? レオンス様の人格は~~~創造士様のコピーで~~~す。レオンス様~~~自分が死にそうなのに~~~勇者を助けようとしたじゃないですか~~~」
「つまり、創造士も似たような感じだと?」
俺と同じように勇者に情が湧いていて、殺すことができない?
「は~~~い。情が湧いてしまった人のことは~~~例え裏切られようとも~~~殺せませ~~~ん」
「なるほどな。それで、どうして今回はこんなに面倒なことをした? わざわざ戦争を起こさなくても、お前なら俺たちを簡単に殺せただろ?」
「それについては複雑な訳がございまして~~~。一つは、私の自分勝手なルールで~~~す」
「ルール?」
「ええ。私は決して~~~自分の手で人を殺すようなことはしませ~~~ん。そして、人を殺すことを強制もしませ~~~ん。あくまで、その選択肢を影から与えてあげることしか私はしませ~~~ん」
「そうやって、人を扇動してきたわけか……」
なるほど。全ての謎は解けた。
国王が急に頭の良い行動をしたことや、王城での襲撃事件。
全てはこいつが影で人を操っていた結果なのだ。
「もちろん。自己満足なのはわかっていますよ~~~。それでも~~~私はこのやり方にこだわっていま~~~す。今回だって~~~勇者は自分の意思でレオンス様に剣を刺しましたから~~~」
選択肢がそれ以外ないところでその選択肢を渡すお前は……まるで悪魔みたいだな。
まあ、無差別に人を殺すような奴じゃないだけまだマシか。
「それで、一つってことはまだ理由はあるのか?」
「それは~~~私からは語れませ~~~ん。とりあえず~~~呼び出されているので~~~帰らせて頂きま~~~す。あ、創造士様から伝言~~~」
「影士の馬鹿が悪いことをした。一休みしたら、私のところに来てくれ。場所はもう知っているよね? あ、今の君は魔法を使ったら死ぬから、それだけは忘れないように。会えることを楽しみにしているよ~。い~~~じょう。それでは~~~」
何が以上だよ。ふざけやがって。
魔法を使ったら死ぬ? 創造士は俺を呼び出して何を話すつもりなんだ?
はあ……どうせ考えても意味はないか。
「それにしても……今回の戦争は破壊士じゃなくて、創造士の仕業だったとは」
転生者が関わっているのは予想出来ていたけど、それがまさか味方だと思っていた陣営の方だったとは思いもしなかった。
「うう……」
「よしよし」
まだ泣き止まないベルの頭を撫でながら、自分の魔力を感じてみようと魔力感知を使ってみた。
……ん? 魔力が少しずつ漏れている。
なるほど……魔力が減り続ける体になってしまったのか。これなら確かに、魔法を使ったら死ぬな。
「レオ! 無事だったの?」
「あ、シェリー。壁の外はどうなった?」
振り返ると、シェリーとルーがこっちに向かって走ってきていた。
あっちの殲滅戦も終わったみたいだな。
「無事、殲滅完了。将軍の遺体も見つかったわ」
「そうか……。惜しい人を亡くしたな」
将軍、ちょっと非道なところもあったけど、優秀だったから王国から引き抜きたかったな。
「そんなことより……どうしてベルが裸で泣いているわけ? もしかしてレオが……?」
「ち、違うって」
何を言っているんだ! 俺はさっきまで死にかけていたんだから。
ただ……ちょっと役得とか考えている……わけではないぞ。うん。
「わかっているわよ。ベルが狼になっているところは壁からでも見えていたもの」
「……シェリーたちはあの姿を知っていたのか」
「もちろん。ダンジョンで何度あの姿に助けられたことか」
ああ、ダンジョンではお馴染みの姿だったのか。
俺の前でも見せてくれれば良かったのに。まあ、変身する度に裸になっていたら、そりゃあやりたくもないか。
「ベル、あの姿になったら本当に強いからね~。今回も、勇者相手に圧勝だったし」
「まあ、そうだね……いや、隠していても仕方ないか」
そう言って、俺は二人に腹の傷跡を見せた。
と言っても、俺の体には傷はないんだけどね。服に空いた穴と、血を見て貰う為だ。
「凄い血ね……どうしたの?」
「実はカイトに致命傷を貰った」
「「え!?」」
「だ、大丈夫だったの?」
「うん。まあ、創造魔法でなんとか」
「なんとか……って、本当に大丈夫なの?」
「うん。大丈夫。魔法は使えなくなってしまったけど」
たぶん。大丈夫だろう。
シェリーとルーが反応しなかったから、姿も元のままだろうし。
魔力が減っていることに関しては……創造士に聞くしかないな。
「え……魔法が使えない?」
「うん。この体で魔法を使ったら死ぬみたい」
「そ、そんな……」
「それと、まだ何かあるみたいだから、詳しい人のところに行かないといけない」
「詳しい人? 誰それ……」
「創造士だよ。あのダンジョンの奥にいる」
「え!? 魔法も使えないのに、入っても大丈夫なの!?」
あ、言われてみれば……。魔法が使えない状態で、俺は戦えるのか?
いや、無理だな。
「うん……皆に守って貰おうかな。軽い運動くらいなら、別に構わないと思うけど……もしものことがあったら怖いからさ」
「わかった。今度は、私たちがレオを守る番ね。大丈夫。任せなさい」
危ないからシェリーはお留守番とかここで言ったら怒られるだろうな……。
まあ、実際……シェリーの魔法は俺よりも凄いし、たぶんシェリーがいないと攻略は難しいよな。
「頼んだ。あ、でも……俺のダンジョンを余裕で攻略できるくらいの力は必要かも。なんせ、俺の上位互換みたいな人が全力で造ったであろうダンジョンだから」
「え……」
「大丈夫! 私が本気を出すから!」
ショックを受けているシェリーの横で、ルーがにっこりと笑った。
久しぶりに暴れられる機会を得られて嬉しいのだろう。
「いや……創造士が破壊士の対策をしていないはずがないと思うから、ルーがいても厳しいと思うよ」
「それじゃあ、どうするのよ」
「一週間、本気で準備をしよう。それで、ヘルマンとアルマ、ギーレ、ギルと一緒に挑むしかない」
それで無理だったら……まあ、会うのは諦めるしかない。
まあ、創造士もそこまで考えがない人じゃないと思うし、たぶん苦労はしても攻略はできると思うんだけどね。
「わかった。一週間で限界まで強くなるわ」
「無理はしなくていいよ。あ、そうだ。ベルにこれを渡しておくよ」
そう言って、俺は自分の足に着けていたミサンガをベルに手渡した。
「これは……?」
「強くなれるお守りみたいな物さ。今の俺が着けていたとしても意味がないものだし、ベルが着けていて」
レベルが上がるのが早くなるミサンガだ。
これのせいで、俺はおかしな成長をしてしまった。
まあ、今は緊急事態だし、ベルのレベルがおかしなことになっても仕方ないだろう。
「そんな……私なんかが」
案の定、ベルは受け取ろうとしなかった。
本当、可愛い奴だな。
「ベルが俺を守ってくれるんでしょ? そう約束したじゃないか」
「で、でも……私はレオ様を守れませんでした」
「いいや。ちゃんとこうして俺は生きているんだし、守れたと思うよ」
「それでも……」
「それでも? ベルはもう、俺のことを守ってくれないのか?」
「いえ……」
「なら良いじゃないか。これを着けて、目一杯強くなってくれ」
「わかりました……」
ベルの了承を得て、俺はベルの足にミサンガを着けてあげた。
俺の代わりにベルを強くしてくれよ。頼んだからな。
原稿六巻をよろしくお願いいたします。
それと、ポストカードも同日十月十日に発売されますので、どうかよろしくお願いいたします。
ポストカードのオリジナルイラスト、凄いですよ~~~