第十九話 大切な人の為に④
今回はちょっと短めですが、内容が重いので許してください。
SIDE:カイト
片腕が無くなり、体中が骨折している……もう、俺の体はボロボロだ。
意識を保っているだけでやっと……。
それなのに、目の前の狼は傷一つない。
ベルさん……何もかも俺より上だったな……。
誰にも負けないと思っていた速さでも、勝ててなかった。
そんなベルさんがこの街で三番目って……二番目と一番のレオはどれだけ強いんだよ。
ああ……あの一瞬で殺すのを躊躇していなければ、また展開は変わっていたかもな。とか思っていたけど、どっちにしても俺はレオに勝てなかったんだろうな……。
うう……また意識が朦朧としてきた。俺、ここで死ぬのかな。
ここに来るまで、俺はレオの部下を殺してしまった。流石のレオでも、俺を助けようとは思わないだろう。
ごめんよ……エレーヌ。俺はもう、帰れそうにない。
結局、子供の名前……まだ考えてなかったな。
ああ。もうすぐだったのに……会えないで終わってしまうのか。
とても残念だ。神様……今、俺を見ているのか?
あなたの期待に応えられなくて、申し訳なかったな。
こんな死に方で……悔いはめちゃくちゃ残ってはいるけど、この世界に連れて来て貰えて凄く感謝している。
エレーヌと結婚できた。それだけで、俺の人生は最高だったと思える。
凄く……凄く感謝しているから。頼む、どうかエレーヌだけは助けてやってくれ。
お願いだ……
『おいおい。立ち尽くして何を考えているのか思考に潜り混んでみたら……お前、よりにもよって神頼みかよ』
お前は……。
いきなり知らない人からの念話に俺は驚く元気はなかった。それに、もしかすると死ぬ前の幻覚や幻聴の類いな気がした。
『そうだな……お前がお願いしていた神からの使者ってところかな』
どういうことだ。神頼みを馬鹿にしていた奴が神を名乗るのか?
『ああ。お前は喋るな。もう、お前にはそこまで時間が残されていない。俺だけが喋る』
……わかった。
胡散臭いが……本当に神の使いかもしれないから、ちゃんと聞くことにした。
『聞き分けが良くて助かるよ。さて、お前が大好きなエレーヌちゃんを助ける方法だが、一つだけある』
どうすれば良い……。
『おお、信じてくれるのか?』
もう死ぬんだ。猫の手でも借りたいんだよ。
というか、もう信じる以外の選択肢は俺に残されていないだろ。
『そりゃあそうだな。安心してくれ、俺は猫じゃないからな』
そんな冗談を言っている暇があるのか?
『おっと。そうだったな。それじゃあ、一つアドバイス……限界の限界を越えろ』
「ぐううう……」
俺は目を覚ますとすぐに限界突破をし、その更に限界を突破しようとした。
「げ……んかいを……ごえる!」
くっ。力はいつもの数倍にも増して手に入れることはできたけど……これは一発が限界だな。
「グルルル」
俺が剣を再び構えたのを見て、ベルさんが牙を剥いた。
次は容赦しないってことだろう。
「この一撃に俺の全てを」
この体で剣を振ることはできない……なら、剣を固定して、突きによる一撃に賭けるしかない。
そう考えた俺は剣先をベルさんに向け、全力で電気魔法を体に纏った。
うう……耐えろ。まだ気を失ってはダメだ。
あと少し……あと少しだけ……。
そして、俺はベルさんに突撃した。
「がは」
一瞬だった。一瞬で視界は変わり、俺とベルさんの間にはレオが立っていた。
そして……俺の剣は深々とレオの腹に突き刺さっていた。
「レ、レオ……?」
「ゴホゴホ。うう……まんまとお前の思惑に乗ってしまったな」
そう言うレオは何故か笑顔だった……。
SIDE:ベル
私は……目の前の事実に言葉も……鳴き声も出せなかった。
カイトさんが……最後に切り札を使ったのはわかっていた。
その結果、私が相打ちになることも……想像出来ていた。
でも、レオ様が死ぬくらいなら良いと私は……。
ああ……私はなんて馬鹿なんだ。
少し考えれば、優しいレオ様が私の怪我するところを見逃すはずがなかったのに……。
確実に殺すことにしか頭が回っていなかったけど、回避に専念していれば……あの体のカイトさんだったら勝手に死んでいた……。
「ベルさん! レオくんはどうしましたか!? あ……」
私が人の姿に戻り、お腹に穴が空いてしまったレオ様を抱えていると背後からリーナさんの声が聞こえてきた。
「大丈夫。俺のことは良いから……。カイトの治療をしてあげて……。俺はもう、治療不可能だ」
そう。カイトさんの剣は、スキル無効と致命傷を与えた際に必ず殺すことができる確死の効果が付与されている。
だから……もう助けられない。
「そ、そんな……」
「急いでカイトを……まだ今なら」
「……わかりました」
「ぐう……」
「レオ様……」
痛そうに呻き声をあげるレオ様に、私はなんて声をかければ良いのかわかりませんでした。
「ベル……無事で本当に良かった。怪我はしてない?」
「大丈夫です。それより、どうして……」
「こんなことになっても、カイトは大切な親友だと思っているからな。助けられるなら……助けてあげたい」
「そ、そんな……」
どうして、そこまでレオ様は人に優しくなれるのですか?
私はカイトさんと……不甲斐ない自分が憎くてたまりません。
「レオ様……死なないでください。どうか……どうか……」
「本当、ベルは可愛いな……」
「やだ……死んだら嫌です……。もう、レオ様が死んだら……私は生きていけません」
「それは困るな……」
「はい。凄く困ります! だから、だから……生きてください」
泣きじゃくっていて、もう自分でも何を言っているのか訳がわからなくなっていた。
ただ、ただ、もう死んでしまいそうなレオ様を見ているのが辛くて……。
「ははは……そこまでベルにお願いされたら仕方ない。一か八かに俺の命を賭けてみるか」
え?
「な、何をするつもりですか……?」
「ベル、悪いけど……俺のポケットからあの魔石を出してくれない?」
「魔石……ですか? は、はい」
レオ様が何を考えているのかわからず、私はとりあえず私たちがレオ様の成人祝いプレゼントした……レオ様がずっと肌身離さず持っていた魔石をポケットから取り出して手渡した。
「ありがとう……。ふう。最後に、ベルのおまじないをお願い」
そう言って、魔石を私に渡してきた。
魔力を注いで欲しいということでしょうか?
「おまじないですか……。わかりました」
そう言って、私は魔石に全力で魔力を注ぎながら……レオ様にキスをした。
「おまけまで付けてくれてありがとう。おかげで、賭けに勝てる気がしてきたよ。それじゃあ、人として最後の魔法だ」
「レ、レオさま……もしかして」
私はレオ様の人として『最後』という言葉に、全てを理解してしまった。
レオ様、自分を自分で創造し直すつもりなんだ。
「ベルは……俺がもし醜い姿になったとしても、愛してくれるかい?」
醜い姿……そうですね。本来は魔物を造る魔法……魔物になってもおかしくない。
それでも、
「……もちろんです。私は、どんな姿であろうとレオ様を愛し続けます」
そもそも、私だって魔物みたいなものですから。
こんな私でも愛してくれるレオ様のことを姿が変わっただけで、嫌いになるわけがないじゃないですか。
「それは安心した……。それじゃあ、見ていてね」
レオ様はにっこりと笑うと胸の上に魔石を置いて、自分に創造魔法をかけました……。
お願い神様……どうか、どんな姿であっても良いので……レオ様を助けてください……。
光輝くレオ様の傍で、私は神様に祈り続けた。
今週の土曜日に六巻が発売されます!
表紙は下の様な感じです!