第十五話 決死の穴
遂に、決戦当日。
俺は自分で創造した城壁の上から、王国軍が向かってきているのを確認していた。
周りを見渡すと、俺が設立した学校を卒業したばかりの魔法使いたちと魔銃を構えた冒険者たちが今か今かと開戦の合図を待っていた。
今日の戦いはお前達に掛かっているんだ、頼んだぞ。
「もうすぐだな」
「はい。もうすぐ始まりますので、レオ様は安全な場所まで下がっていてください」
「わかったよ。スタン! あとは頼んだ! 何かあったらすぐに念話してくれ!」
絶対に俺を危ないところにいさせないというベルの念押しに苦笑いしつつ、俺は隣に立っていたスタンの肩をポンポンと叩いた。
「了解しました! レオンス様、お城から安心して見ていてください。きっと、私たちだけで王国を倒して見せますから!」
「よろしく頼むよ」
スタンの熱い返事に頷きながら、俺は城に転移した。
「さて、王国はどう出てくるかな? うん……馬鹿正直に正面から来るとは思えないし」
スタンたちの前で自信満々を装ってきたが、実はそこまで絶対に勝てる状況ではなかった。
その理由は二つあって、思っていたよりも速い王国の進軍スピードに、ヘルマンやベルノルトたちをこちらに連れてくる時間がなかったこと。
本来なら、昨日にも傭兵を片付けて騎士たちをミュルディーンに運ぼうと思ったが、王国がそうさせてくれなかった。
これだけでも不安になってしまうけど、二つ目の方はもっとやばい。
二つ目、盗撮をしていたネズミたちから反応がなくなった。
とても不気味すぎる。どうやって王国がネズミを見つけることができたのか、それができたのにどうして今まで放置していたのか……。
どうも、俺の命を狙っている転生者が王国の影に潜んでいるような気がする。
「不安ですか?」
「そ、そんなことないさ。もしかしたら、ネズミもゲルトが何かしら魔法具を発明していたのかも」
まあ、それはそれで不安材料になってしまうんだけどな……。
おっと、もう始まるんだ。気持ちを切り替えないと。
「そんな不安な顔をするなよ。圧倒的に有利な状況だってことは変わらないんだから。むしろ、これまで相手の作戦を知られたのが異常だったんだよ」
「そう言うなら、レオ様も不安な顔をやめてください。今から、シェリーさんたちも戦うのですよ?」
「そうだな。ふう。大丈夫、俺たちなら勝てる」
そう自分に言い聞かせて、俺はモニターに目を移した。
SIDE:シェリー
王国兵たちがこちらに向かってくる中、私はルーとの適当な会話で緊張を和らげていた。
「あれ、何人くらいいると思う?」
「うん……両手で数えられないくらいはいると思うよ」
「そんなの、見ればわかるわよ。レオの言っていた通り、四千人ってところかな」
距離が遠くて人が小さく見えるからか、思っていたよりは多くは感じなかった。
あれなら、私の魔法でほとんど倒せてしまえそうね。
「いい? ルーは攻撃したらダメだからね?」
「もちろん。私はシェリーが危なくなった時にだけ手を出す!」
そう言って、ルーが破壊魔法を使うときによくやる手を振る動きをして見せた。
まあ、首輪の力でレオの不利益になるようなことはできないし、そこまで心配する必要はないかな。
「総員、攻撃の準備をしろ!」
「遂にきたわね……」
スタンさんの合図に、私は杖を王国の兵士たちに向けた。
目標は、兵たちの中心にあるあの魔砲……。
「撃て!」
スタンさんの合図と共に、私は自分の中で最大火力の雷魔法を飛ばした。
それと同時に次々と大小様々な魔法が王国兵に向かって飛んでいった。
そして……たくさんの魔法が直撃すると、王国兵たちの大きな悲鳴と大きな砂煙が発生した。
「うわ~。シェリー、流石の火力だね」
「ありがとう。でも、まだまだ敵が残っているわ」
ルーの賞賛に答えつつ、砂煙の中から飛び出してきた兵たちを見て、私はもう一度杖を構えた。
まだ、魔砲は壊れてない……。
SIDE:カイト
「死んでも魔砲を守れ! 壁に穴を開けないことには、始まらないぞ!」
魔砲攻撃を掻い潜りながら、俺は魔砲を運んでいる兵士たちを鼓舞し続けていた。
この人たちに頑張って貰わないと、俺の戦いは始まりすらしないんだ。
「くそ! どうして魔法使いがあんなにいるんだよ!」
「あの雷魔法、一回で数百人は死んでるぞ!」
「誰か助けてくれ!」
周りからそんな痛々しい報告が聞こえてくるが、俺たちは構わず進み続けた。
「くそ! まだ射程に入ってないのか?!」
飛んでくる魔法を斬撃で消しつつ、魔砲技師に声を飛ばした。
この無理矢理な進軍は、あまりにも無理がある。そう長くはもたないぞ……。
「は、はい! あと少し近づかないと、狙った場所に当たりません!」
「あとどのくらいだ?」
「あ、あと二百メートルは近づかないと……」
「わかった」
二百メートル……いつもならすぐの距離でも、今日は随分と遠く感じるな。
そうこうしているうちに、またあの特大雷魔法が飛んできた。
あの魔法……一体誰が撃っているんだ? 帝国は魔法国家だが……あそこまで大きな魔法を使えるとしたら、魔導師様?
それか、シェリーさん? いや、流石にあのレオが自分の大切な人を戦場に置いたりはしないだろう。
そう思いつつ、俺は空中で電気の塊を受け止めた。
相手の最大火力が雷魔法で本当に助かった。もし違っていたら、今みたいな電気魔法での無効化ができなくて、もう既にやられていただろう。
「ここからならいけます!」
「よし。すぐに発射準備に移るんだ!」
「は、はい! あ、こ、こ、こっちに飛んできたぞ!」
「うわあ~~~」
「ちっ。慌てるな!」
相手も俺たちが射程範囲内に入ったことに気がついたみたいだ。
さっきまで以上にたくさんの魔法が飛んできた。
くそ……これ、いけるのか?
不安になりながらも、光の盾と斬撃でどうにか初撃を防ぎきった。
「た、助かりました……」
「良いから早く撃つ準備をしろ!」
そう何回も同じ事をできる気はしない。だから、早く壁に穴を開けてくれ。
「は、はい! 発射!!」
ドン! と大きな音を立てて発射された特大魔法は、綺麗に壁と衝突した。
「やっぱり、一発で穴を開けるのは無理か……。すぐにもう一発撃て!」
少し抉れた程度の壁を見て、すぐに俺は次の指示を出した。
「は、はい! あ、ああ……」
「相手からの攻撃は気にするな! 俺が全て切る!」
とは言ったもののもの凄くキツいな……。この後の戦いを考えなければ、すぐにでも限界突破を使いたい。
そんなことを思いつつ、俺はなんとか二撃目を防いでみせた。
「あ、ありがとうございます! 次、発射!!」
「あと一発では無理そうだな……。おい! あと何発撃てる?」
二回目の攻撃で確実に穴は深くなったが、あと一回で穴を貫通させるのは難しそうだ。
「あ、あと一発です。た、ただ……魔石を交換すればもう三発は撃てます!」
あと四回か……。
「魔石を交換するにはどのくらいの時間がかかる?」
「ご、五分はかかります」
「ちっ。それじゃあ、もう一発撃ったらすぐにお前らは大砲を捨てて逃げろ」
五分も魔砲を守るのは無理だと判断した俺は、技師たちにそんな指示を出した。
失敗したら終わりだが、ここはもう博打を打つしかないだろう。
「壁はどうするのですか?」
「そんなのは良いから早く撃て!」
そう言って、俺は壁に向かって全速力で走った。
「は、はい! すぐに発射しろ!」
背後から頭上を魔法が通り超し、城壁を更に削った。
やっぱり、貫通できなかったな。
「だが、博打には勝てた! このくらいの厚さなら……俺の剣でも穴は開けられる!」
俺は薄くなった壁を斬撃で切り込みを入れ、勢いに任せて蹴り破った。
そして、俺は城壁の内側に踏み入れることに成功した。
レオ、待っていろ……今から俺が行くからな!