第九話 戦争の前に③
お待たせしてすみません。
これからの流れが大体決まったので、これから投稿頻度を上げていきます。
SIDE:カイト
「これからレオと戦争しないといけないのか……」
帰りの馬車の中で、俺はうなだれていた。
この二年間、戦争をしない為に頑張ってきたと言うのに、全てが無駄になってしまった。
それに、あのレオと戦って勝てる気なんて全く湧いてこない。
はあ、俺は終わったな……。
「もう! 諦めて、気持ちを切り替えなさい。この戦争、あなた次第で戦況が大きく変わるんだから」
「それはもちろんわかっているさ。でも、まさかあそこまで国王が予定にないことをするとは思わなかったから」
エレーヌの言う通り、俺が頑張らないと王国に勝利はない。
だから、俺は頑張らないといけない。
でも、すぐ気持ちを切り替えるなんて無理だよ。
「それはそうね……。お父様、私たちがやろうとしていたことに気がついていた?」
「そんなはずはないと思うんだけど……。あの国王があんな悪知恵を働かすことが出来るのか?」
「どうせ、ラムロスの指示でしょ。昔から、お父様の悪知恵担当だから」
「そうなのかな……」
なんか、ラムロスでもない気がするんだけどな……。
ラムロス、最近妙に怯えている。
何に怯えているのかはわからないけど、あいつの裏に絶対何かがいるのは間違いない。
一体、誰なんだ? 考えられるのは前国王か?
あの人、国が乱れているのが好きって言っていたからな。
無理矢理にでも、戦争を起こさせるかもしれない。
「誰の指示だったとしても今更よ。それより、戦争よ。作戦はもうちゃんと頭に入ってるの?」
「もちろん。ただ……勝つためとは言え、あそこまでのことをするなんて……」
昨日、王国の将軍から送られてきた使者に、作戦の説明を受けた。
盗賊を使った非人道的な作戦に思わず怒ってしまったが、あれは使者に悪いことをしたな。
別に、使者が考えたわけじゃないんだから。
「戦力が劣っている私たちが出来ることはあれしかないのよ。仕方ないわ」
確かに、真っ向から勝負していたら俺たちはどんなに頑張っても勝つことはできないだろう。
あのレオも、真っ向から戦うつもりなんてないだろうし。
「それでも……いや、もうこれ以上言っても仕方ないか」
これは戦争。割り切るしかないか。
「ねえ、カイト……」
「何?」
「絶対、生きて帰ってきてよ」
そう言って俺の手を握るエレーヌの手は、小刻みに揺れていた。
そうだよな。エレーヌも怖くないわけがないんだ。
それなのに、俺を励ましてくれて……。
はあ、しっかりしろ。俺!
「もちろん。絶対生きて帰ってくる。絶対にね。だから、安心して」
力強く答えながら、エレーヌの手を優しく握り返した。
もうすぐ、俺は父親になるんだ。その自覚を持たないと。
ふう、子供を見るまで絶対に死ねないな。
「あ、そうだ。これ、返しておくよ。あっちに着いたら、渡している時間もなさそうだし」
そう言って、首にかけていた首飾りをエレーヌに見せた。
エレーヌのお母さんが大切な人から貰った首飾り。約束通り、戦争前に返さないと。
「遂にこの時が来てしまったのね……」
エレーヌは首飾りを見ながら、何とも言えない表情をしていた。
自分がお母さんの無念を晴らすために考えたこととは言え、やっぱり自分も最愛の人を失うかもしれないという恐怖があるのだろう。
「大丈夫。エレーヌが心配しているようなことには絶対ならない。いや、させない」
俺も怖い。けど、不思議とエレーヌの為だと思えば力が湧いてくる。
「それに、負けるつもりもないさ。俺だってあの時よりもっと強くなったんだ。レオに一泡ぐらい吹かせてみせるさ」
「うん。カイトなら出来ると思う。王都で、あなたが活躍した話を楽しみに待っているわ」
「楽しみにしてて。きっと、エレーヌに満足して貰えるような活躍をしてくるよ」
楽しみにされたら、頑張るしかないな。
何としても、俺が何かしらの戦果をあげてみせようじゃないか!
「将軍、お久しぶりです!」
王国最東端の街に到着すると、俺はすぐに将軍のところに向かった。
後から来ている国王が到着したら、すぐに軍を率いて出発しないといけないからだ。
「ミュルディーン領はどうだった?」
「とても栄えていました。やはり、世界の中心と呼ばれているだけあって、人の数が桁違いですね」
「そうか。噂の城壁はどうだった?」
「信じられないほど強固な造りとなっています。もしかすると……一発では穴を開けられないかもしれません」
「そこまでか……。やはり、城壁を突破できるのかが最後の鬼門になりそうだな」
「はい。それで、ここに向かう途中に聞いたのですが、あの作戦は本気なのですか?」
あの非人道的な作戦を本気でやるのかが知りたかった。
覚悟は決めたけど、もしかしたらはったりで終わらすかもしれない。という淡い希望があったりする。
「まあな。負けても、王国内の治安維持になる」
「負けてもですか……」
やっぱり、この人は本気なんだ。
それに、本当の目的が戦争の為じゃないのが尚更達が悪い。
「正直、俺たちが勝てる確率なんて一割にも満たないと思うぞ。帝国が本気になれば、俺たちは簡単に数の差でひねり潰される」
「本気にさせたら……」
確かに、財力で負けている王国は、帝国との総力戦になったら負けてしまうだろう。
今は、ミュルディーン対王国という形になっているから数の有利はこちらにあるが……。
「そう。流石のお前も、一人で一万人を相手にするなんて無理だろ?」
「はい……」
無理と断言できる。
「今回、帝国は必要最低限で王国に勝つつもりなんだろう。レオンスも、なるべく損害を最小限にしようとしている。今回、俺たちに勝機があるとしたらそういう帝国やレオンスの甘さだろう」
「なるほど……」
確かに、年相応の甘さはあるかもしれない。けど、レオの抜け目を探すのは随分と大変だと思うぞ。
そのことは、王国に招待したときにわかったじゃないか。
「俺は、レオンス対策にこの数年を費やしてきたんだ。この戦争、絶対負けないぞ」
「……そうですね。俺たちの成果を見せてやりましょう」
後ろ向きのことを言っていても仕方ない。俺だって、あの時よりも強くなったんだ。
覚悟を決めないと。
「将軍! 国王がもうすぐ到着します!」
「そうか。それじゃあ、いつでも出られるようにしておかないとな」
「はい」
俺が覚悟を決めていると、国王の帰還の知らせが飛んできた。
はあ、遂に始まるんだな。
そして、国王が到着してすぐ、国王による決起演説が始まった。
ぶくぶくと太った腹は、下から見上げるとよく目立つ。
「諸君、ご苦労。これから、是非とも王国繁栄のために勝利を勝ち取ってきてくれたまえ。いいか? くれぐれも負けるんじゃないぞ? お前たちは、勝つまで帰ってくる資格はない! 死ぬまで帝国で戦ってこい!」
『……』
わかってはいたことだけど、本当に最悪な演説だ。
この人は、兵の士気を下げるつもりで演説をした方が、まだマシな演説ができると思うぞ。
「なんだ? あまりにも私に威厳があり過ぎて手を動かすことも出来ないのか? 拍手はどうした?」
そんな言葉に、ぽつぽつと何人かが拍手をしていた。
そんな状況に、国王が顔を真っ赤にして怒っていたが、皆に無視された。
「はあ、戦争が終わったら見てろ? 地獄に突き落としてやるからな」
「その時は僕もお手伝いしますよ」
将軍の言葉に、俺も賛同した。
あれが国王ではいつまでも王国は良くならない。誰が見てもそう思うだろう。
「おっと。声が大きかったか。今のは忘れてくれ」
「はい。そうします」
そんなやり取りをしていると、城壁の門が開いた。
そして、少しずつ兵達が進み始めた。
ああ、遂に始まるんだな。