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第六話 まさかの展開

 

 王国が到着した次の日、遂に午後から三国会議が始まった。

 それぞれの首脳は正三角形の机を間に挟み、無表情で目配せしていた。

 そして、その目配せの結果、国王から話を始めることになった。

 とりあえず、開催を呼びかけた国が他の国に適当な感謝の言葉を述べてから、というところかな。

 などと、丸々太った国王に目を向けたら……。

「我がアルバー王国は、ベクター帝国に対して宣戦布告をさせて貰う!」

 何の前触れもなく、あいつは帝国に喧嘩を売りやがった。


 いや、普通もうちょっと前置きを置かないか?

 エレーヌと宰相がやってしまった……って顔を見るに、国王の暴走みたいだな。

 あの国は、早いとこトップを変えないと滅びるぞ……。


「……期日は?」

 流石皇帝、急な不意打ちにも顔色一つ変えずに質問を返した。

 こうなってしまったら、戦争に向けて打ち合わせを進めるしかないからな。

 まったく……戦争を起こさない為にあれこれと準備してきたというのに、全て国王のせいでパアになってしまった。

 もしこれ、国王がわかっていて俺の準備した時間を無駄にするつもりだったなら、国王に対する評価を改めないといけない。

 まあ、あれを見る限りそんなつもりはなさそうだけど。


「私が王国に入ったと同時に開戦する」

 まあ、そう主張してくるよな……。


「自分が帝国にいる間は我々に攻撃するなと?」


「そうだ。今の私は客人だ。帝国は、客人を襲うのか?」

 なんか、今日の国王気持ち悪いな……。

 前会った時、ここまで頭が回るやつだったか? もっと、バカ丸出しだった気がするんだが。

 この流れはあの宰相の思惑通りで、事前に答える言葉を教えておいたのか?

 にしては、さっき国王の暴走に動揺していたんだよな。


「わかった。客人でいる間は、命を保証しよう」


「ふん。それで教皇殿は、この件に関して中立国の代表として何かあるか?」

 先ほどから一言も話していなかった教皇に、国王が話を振った。

 わざわざ中立国という言葉を出すところから、今回の戦争には手を出すなって言いたいんだろう。


「いいや。ただ、中立という点で一つだけ申しておこうかな」


「なんだ?」


「これから半年ほど、聖女がミュルディーン領で布教を行うことになった。もし、聖女に危害が及ぶようなことがあれば、教国は双方と争うことになるかもしれない」

 双方と言いながら、顔を国王に向けているところを見るに、これは王国に言っているんだろうな。

 もしかしたら、ガエルが何か教皇に働きかけたのかもしれない。


「なに!? そんな話は聞いていないぞ!」

 当然、国王は驚いた顔をしていた。

 教国が今回の戦争で自分の敵になるとは思ってもいなかったのだろう。

 まあ、これは帝国も狙ってやったわけじゃないからな。


「知らないのも当然だ。先週決まったんだからな」


「なんだと……」


「それで、聖女の安全は保証されるのかな?」


「ご心配なく、王国兵士には指一本聖女様に触れさせん」

 もちろん、皇帝は即答。


「……こちらも、ミュルディーン領を制圧する際には、聖女様には一切危害を加えないと約束しよう」

 国王は、随分と遅れて教皇の問いかけに答えた。


「くれぐれも頼むぞ」


「それじゃあ、私から一つ。王国は何の理由があって帝国に攻め込むのか聞かせて貰いたい。元々、この三国会議は平和を維持するため、先代たちが行っていたもの。それを私的な戦争の為に利用したとは言わせないぞ?」

 流れが来ている皇帝は、国王に畳みかけた。

 これには、国王も何を答えて良いのかわからないという表情になっていた。

 うん。やっぱり、あの国王だったな。


「そのことに関しまして、私が答えても?」


「エレメナーヌ王女か。まあ、いいだろう。答えてみろ」

 国王がだまり込んでしまい、代わりに後ろで控えていたエレーヌが答え始めた。


「はい。まず、事の発端は先代の勇者を帝国が王国から奪い取ったことです。魔王が討伐され、やっと人々に平和が訪れたあの時に行った帝国の愚行は、とても許されるものではありません」


「それなら、どうして今なのだ? もう、あの時から随分と時が経っているような気がするが?」

 エレーヌの答えに、教皇が更に質問を重ねた。

 エレーヌは、顔色一つ変えずにその質問にも答え始めた。


「はい。今までも、王国は帝国に対して勇者を返還するように求めてきました。ですが、帝国は一切応じず、そして遂に八年前それが永久に叶うことはなくなりました。やられたままでは、私たち王国の民の怒りは収まりません。ですから、帝国に自らの行いがどれほど愚かだったのかを知らしめる為、準備期間を経てこの戦争を行うことになりました」


「なるほど。帝国からは何か異議はあるかな?」


「一つ、我々が勇者を奪ったというのは王国の勘違いだ。勇者は自ら王国から逃げ、帝国に亡命してきただけのこと。我々が非難される筋合いはない」

 まあ、帝国としてはじいちゃんが勝手に逃げて来ただけだからな。

 と言っても、これだけ勇者の恩恵を得ていると、この言い訳は無理があるよな。


「……なるほど。勇者が自らの意思で帝国に渡ったのかは、本人が既に死んでしまっている以上知ることは出来ず、いくら議論をしたところで何一つ解決することはないだろう。ということで、議論はこの辺にしようじゃないか」

 はあ? もう終わりにするの!?


「これで終わりにしてしまうのですか? 教国は、何か伝えたいことはないのでしょうか?」


「そうだね……。どちらが勝ったとしても、教国とこれまで通り交易してくれることを約束して貰いたい。出来ないのであれば、我々も動かざるを得なくなってくるがな」


「もちろん約束する」

「王国も変えるつもりはない」


「では、私からは何も言うことはない。ということで、さっさと誓約書にサインしてお開きにしようじゃないか。私まで戦争に巻き込まれたら敵わんからな」

 この言葉で、数十年ぶりに開催された三国会議は終わってしまった。

 一時間も話し合っていないんだぞ……。

 教皇、何を考えているんだ? 教国から長い時間をかけてここまで来たんだろ?



「あれだけ準備したのにな……」

 エレーヌとの裏合わせをしたり、皇帝に話して貰う言葉を考えたりと……随分と時間を使ったのに、それが全て無駄になってしまったのだ。

 本当、あの時間を返せよ……。


「人生、そんなものだよ。それより、次に気持ちを切り替えないと」


「クリフさん……。はい。そうですね」

 俺が一人会議室に残って愚痴っていると、クリフさんが部屋に入ってきた。

 はあ、クリフさんの言うとおり来週から戦争なんだから、さっさと準備を進めないと。


「まあ、と言いながら僕も切り替えられていないんだけどね……。普通、一言目で宣戦布告をするとは思わないでしょ……」


「あれはやられましたね」


「不幸中の幸いだったのは、中立だった教皇が帝国の味方になってくれたことかな」


「そうですね。あれも意外でした」

 中立派の教皇は、今回の戦争を静観していると思ったんだけどな。

 まさか、帝国よりの発言をするとは。


「たぶん、聖女がフォンテーヌ家の娘で確定しそうだからなんだろうね」

 ああ、そういうことか。


「帝国派が強くなるから、それに合わせたと?」

 レリアが聖女確定したことでグレゴワールが次期教皇確実となり、必然的に教皇も帝国派を無視できなくなってきたってことかな?


「それもあるし、自分の最大の敵が教国に戻って来ないことがわかったのが嬉しいんじゃない?」


「なるほど……」

 教皇は、国外に追放するくらい前聖女とリーナが恐ろしくて仕方なかったんだもんな。

 それが完全に自分の敵ではなくなったんだから、その確認をしてくれたグレゴワールの要望にも応じてくれるか。


「お、二人とも、ここにいたのか」


「あ、兄さん」

 今度は、イヴァン兄さんがやってきた。


「二人とも、陛下がお呼びだ」

 お、やっと誓約書のサインが終わったのかな。


「了解」



「三国会議が無事終わったことに喜びたいところだが……。戦争が近い、すぐにでも準備に取りかかるぞ」


「「はい」」


「私とクリフは、戦争が始まったら帝都に戻るしかない。レオ、後は頼んだぞ」


「はい。任せてください」

 戦争が始まれば、流石に皇帝とクリフさんは安全な帝都に帰って貰わないと。

 負けるつもりはないけど、戦争では何があるかわからないからな。

 ということで、これからは俺一人で全てをどうにかしないといけない。

 ふう、すぐに気持ちを切り替えないと。


「それと、クリフは帝都に戻る前に各貴族に戦争が来週から始まることを通達しなさい」


「了解しました」


「レオは、これからすぐに西に向かうのか?」


「はい。そうですね。騎士団と最後の打ち合わせが終わり次第、王国との戦争を始めたいと思います」

 奴隷落ちしてからゲルトがどんな物を発明したのか、あまり情報を掴めていないのが怖いけど、西端で相手の兵器を破壊する作戦はそのまま進めるつもりだ。


「そうか。お前だけが頼りだ。無理して死ぬようなことはするなよ?」


「わかっています」

 俺は今回の総責任者、俺が死んだ瞬間に帝国の負けが確定する。

 皇帝の言う通り、今までみたいに一人で無理しすぎて死ぬようなことは絶対にあってはならない。

 一人での戦いじゃないことを忘れないようにしないと……。



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― 新着の感想 ―
[一言] 帰国に伴い、国境まで護衛。 国境一歩手前で、そこを越えた時が開戦と警告。 1.越えたら、即座に首を落として終戦。 2.国王、越えられずに開戦ならず。 国王の提示条件があまりにも杜撰だなぁ。…
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