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第五話 話しておきたいこと

 

「やあ、呼び出して悪いね」

 カイトたちが到着した日の夜、俺はクリフさんに呼ばれていた。

 何か、俺に話したいことがあるみたいだ。

 明日から三国会議だし、そのことで何か確認しておきたいことでもあるのかな?


「いえ。遂に明日からですからね」


「そうだね。と言っても、始まってしまえば大変なのは父さんだけなんだけど」


「そんなことありませんよ。クリフさんだって、やることはいっぱいあります」


「ありがとう。で、本題に入るけど……レオくんは、一国の主に興味はない?」


「一国の主? 質問の意図がわかりません」

 いや、わかるよ。クリフさんは、俺が皇帝になりたいのか聞いたんだと思う。

 シェリーと結婚すればクリフさんにとって俺は、皇帝になるのに邪魔な存在になるわけだ。

 今、この国で一番の影響力を持っているのは俺だろうし、人気も高い。

 そんな俺が皇族になるのをクリフさんが危険視するのは当然だろう。


「いや、別にあってもなくても何かする気はないよ。ただ、聞いておきたかっただけ」

 うん……。まあ、素直に答えておくのが一番良いかな。


「そうですか。それでは、質問に答えさせて貰います。興味など一切ございません」


「そう。ここまで上り詰めてきたのに?」


「ここまで上り詰めたのは副産物に過ぎませんよ。全て、大切なものを守る為に行ったことのね」


「はは。本当、君は王に向いているよ」


「いえ、そんなことありませんよ。私は基本的に自由に生きたい人間ですから」

 領主をやっているだけでもとんでもなく大変なのに、皇帝なんて出来るかよ。

 俺はなるべく遊んで暮らしていたいの。


「王は自由じゃない? はは、そんなことが言えるんだったら、十分に素質はあると思うよ」


「……」

 もしかして、クリフさんは俺に皇帝の座を押しつけようとしている?

 元々クリフさんはそこまで皇帝になりたがっていたわけじゃないし、ありえるぞ……。


「ああ、そんなに警戒しないでくれ。君が義弟になる前に、言っておきたいことがあってね」


「はい」


「君がシェリーと結婚することで、君は皇位継承権を得ることができる」


「……はい」


「要するに、僕は君にいつでも皇帝の座は譲るってことさ」


「はい?」

 クリフさん、やっぱり俺に皇帝を押しつけるつもりだ。

 譲るとか言いながら、俺がシェリーと結婚した瞬間に姿をくらますとか平気でしそうだな……。

 後で、兄さんにしっかりクリフさんを見張っておくように言っておかないと。


「僕の母は、皇妃でありながら帝国を裏切った。そして、僕はそれに少なからず加担していた。ましてや、妹を見殺しにしようとしていたなんて……とても皇帝にふさわしくない」


「その話はもう終わったではありませんか。その分、帝国の為に働く。それで良いのではありませんか?」


「まあ、そのつもりでいるけど、君に一応確認しておきたかったんだよ。君なら、いつでも皇帝になれるけど、どうする? ということをね」


「もちろん。そのままクリフさんが皇帝になってください」


「わかったよ。僕は死ぬまで帝国の為に働くと君に誓う。ただ、僕は君ほどの力も頭も人望もない。これから何度も助けを求めるかもしれない」


「ええ。その時は喜んで相談に乗りますよ」

 なんとか押しつけられなくて済んだ~。

 でも、これから気をつけないといけないな。これから、俺を皇帝にしようってことを考える奴が出てくるかもしれない。


「良かった。それと、僕の跡には君の長男に継いで貰うつもりだから」

 はい?


「え? いや、クリフさんに男の子が生まれなかったらまだわかりますが……結婚する前からその発言はどうなのでしょうか?」


「どうと言われても、僕は結婚するつもりないし」


「はい!?」

 この人は何を言っているんだ?


「わあ。君のそんな驚いた顔を見られるなんて、一生の宝になりそうだ」

 いや、俺の驚いた顔を宝にされても困るって。

 それより、クリフさんは自分の言っていることの意味を理解しているのか?


「何を言っているんですか……。皇妃がいないなんて……」


「あれ? もしかして本気で気がついていなかったの? だって、二十を過ぎても結婚してないんだよ?」

 言われてみれば、皇帝になる男が二十四歳になっても結婚していないのはおかしいな。


「遅い気はしていました。ただ、ふさわしい相手が見つかっていないだけかと……」


「正解は、僕が父さんに結婚しないと宣言していたからだね」


「皇帝が許してくれたのですか?」

 いや、だとしたら皇帝は何を考えているんだ?


「うん。ちゃんと訳を話したら。了承してくれたよ」


「訳って何ですか?」


「流石に、大罪人の僕が普通に皇帝をしているのはおかしいでしょ?」


「いや……」


「で、その罰として、僕は一代限り皇帝として生きることに決めたんだ。どう? 納得でしょ?」

 いや、納得できないけど……。

 皇帝がそれでよしとしちゃったなら、断れるはずがないじゃん。


「だとしても……もし私とシェリーの間の子供が皇帝になりたくないと言ったら?」

 俺は、自分の子供には自由に生きて欲しいと思っているんだけどな。


「ああ。別にシェリーの子供だけじゃないよ。君の子供なら誰でも良い。君が王にふさわしいと思った子を皇帝に指名してくれ」


「え? それはおかしくないですか……?」

 流石に、皇族の血が流れていない人を皇帝にするのは違うでしょ。

 絶対、貴族から反対の声が出るぞ。


「大丈夫だよ。皇帝になった僕がそうすると言ったら、誰も邪魔はできないから」


「確かにそうですけど……」


「まあ、君も一応何代も前の皇帝の血が混じっているから心配しなくて大丈夫だと思うよ」


「どういうことですか?」


「確かに、君は勇者の孫で異質な血が大きく占めている気もするけど、祖母の魔導師様は公爵家。確実に皇族の血は持っているはずさ」


「なるほど……」

 一応、血筋の問題もなんとかなってしまうのか。

 うん……どう頑張っても断れそうにないな。


「まあ、文句を言う人はいないと思うよ。どの公爵家も、次期当主たちは君の味方になってくれるはずだからね」

 ボードレル家はフランク、ルフェーブル家は姉ちゃんと結婚したバートさん、フォースター家はアレックス兄さん……確かに、文句を言う人はいなそうだな。


「……わかりました。でも、次期皇帝を選ぶのはクリフさんにしてください」


「いや、僕が選ぶよりもレオくんの方が良いと思うよ?」


「いいえ。皇帝の指名権は皇帝にしかありません。このルールはしっかりと守った方が良いと思います。それに、私は忘れていませんよ? クリフさんの得意魔法を」

 人を見抜くことに特化した鑑識魔法。それがあれば、間違った人を皇帝に選ぶことはないでしょ。


「ははは。確かに、人を見極める能力だけは僕が唯一誇れる力だったね。うん。そうだね。それくらいは僕がやっても良いか」


「そうですよ」


「ふう。なんとか三国会議前に言えた……」


「何か、三国会議と今回の話が関係しているのですか?」


「いいや。ただ、明日からの戦いに向けて、自分の進むべき道をしっかりとしておきたかったんだよ。単なる自己満足、本当は君が成人した日にお酒を飲みながら話そうと考えていたんだけど……思っていたより、君が忙しそうにしていたからさ」

 確かに、フォンテーヌの対応で大忙しだったな。


「そうでしたか……。それじゃあ、全てが終わったら二人でお酒を飲みましょう」

 お酒か……。そういえば、この世界に来てからまだ飲んだことなかったな。

 俺には酒の種類とかわからないし、酒に詳しいコルトさんにおすすめでも聞いてみるか。


「良いね。それじゃあそれが楽しい酒になるよう、明日から頑張らないと」


「はい。頑張りましょう」



「ねえ、どんな話だったの?」

 クリフさんが部屋から出た後、すぐにシェリーがやって来た。


「うん……明日から頑張ろうって話だよ。あと、全てが片付いたら一緒にお酒を飲もうって」

 俺たちの子供が皇帝になるなんて話はできないから、適当に誤魔化しておいた。

 嘘は言ってない。


「そう。明日の話なら、私が聞いても仕方ないわね」


「そんな大したことは話してないよ」


「ふ~ん」


「そういえば、こうしてシェリーと二人になるのは久しぶりだね」


「いっつも、あなたの傍にはベルがいるからね! あと、最近はリーナも私に遠慮しなくなったし!」

 話題を逸らそうと、思いついたことを口に出したら、どうやら虎の尻尾を踏んでしまったようだ。


「ご、ごめん。今度、シェリーとの時間をちゃんと用意するから許して」


「別にいいわ。レオが暇になったころを見計らって、一週間くらい私がレオを独り占めする気でいるから」


「ハハハ。一週間は長いな」

 シェリーらしい解決策だけどね。


「そう? エルシーには二日くらい譲ってもいいけど」

 確かに、エルシーとの時間も作れてないな。

 ルーは……俺と一緒にいる時間よりも、美味しいご飯をごちそうした方が喜びそうだな。


「まあ、仲良く頼むよ」


「そこは心配する必要ないわ」


「うん。俺もそこまで心配してないよ。ふぁ~。明日も早いし、もうそろそろ寝るか」


「そうね。じゃあ、今日は私が一緒に寝てあげる」


「お、それは嬉しいね」



「じゃあ、おやすみ」


「おやすみ」

 寝間着に着替え、先にベッドに潜り混んでいたシェリーにおやすみのキスをしてから俺は目を閉じた。


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