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閑話11 罪に気がつけ

 

 SIDE:ゲルト

「……ここは? そうだ。俺はあいつに捕まって……」

 目が覚めて、すぐに俺はレオンスの部下に眠らされたことを思い出した。

 自分の手を確認すると、今もしっかりと手錠が着けられている。

 すると……ここは牢屋か? いや、ここは……俺の部屋だ。

 嘘だ。どうして俺がこんなところにいるんだよ!

 俺は急いで部屋の外を確認しようと立ち上がった。

 すると、それを待っていたかのようにドアが開いた。


「よお。ゲルト、元気にしてたか?」


「叔父さん……」

 ドアの向こうにいたのは、随分と痩せてしまった叔父さんだった。

 フェルマーが親父に乗っ取られたのは知っていたが……叔父さん、そんな貧しい生活をしているのか?


「随分と変わってしまったみたいだな」


「……」

 変わったというのは……叔父さんみたいな見た目の話じゃないだろう……。

 俺は叔父さんに返す言葉が見つからなかった。

 昔から、叔父さんは俺のことをよくしてくれた。そんな人に今の俺が言えることは何もなかった。


「まあ、俺も人のことは言えないんだがな。俺が今どんなポジションにいるのか知っているか?」


「父さんの店で接客」


「知っているんだな。じゃあ、どうしてそうなったのかは知っているか?」


「それは……レオンスが……」


「いや。レオは関係無いぞ。これは、全て俺だけの問題だ」

 俺がレオンスによってフェルマーが壊されたことを言おうとしたら、言い切る前に否定されてしまった。


「……どういうこと?」


「お前と同じだよ。俺は罪を犯した」


「叔父さんが?」

 そんな。親父と違って優しかった叔父さんが?


「ゲルトが魔法学校で働くようになってからかな。俺は酒に溺れてしまった」


「ああ……」

 叔父さん、昔から酒癖が悪かったからな。


「自分の店を駄目にするだけならまだしも……昔から良くして貰っていたあの酒屋の夫婦を俺は間接的だが殺してしまった」


「え? 叔父さんがあの二人を?」

 叔父さんの影響であそこの店で俺もよく酒を買っていた。

 魔法学校で働くようになってからは行っていなかったが……まさか死んでしまっていたとは……。


「ああ……本当に馬鹿だったよ」


「お前は、人を殺して何も感じなかったのか? たくさんの子供たちを殺したんだろ?」


「……子供たち?」

 俺が殺した? 子供を?


「そうだ。お前は学校を爆破して、何の罪もないたくさんの子供たちを殺したんだ」


「……」

 叔父さんの言葉に、俺は頭の中で何かがはじけたような感覚がした。

 自分に都合の良いように記憶を変えていたフィルターのようなものが、壊された。


「自分のことを棚に上げるわけじゃないが……罪悪感はなかったのか? あんな人を殺して……更に、人を殺す武器を作り続けるなんて、とても正気とは思えない」


「……」

 叔父さんの重い言葉に、俺は汗をかき始め……一言も言葉を発せられなくなってしまった。

 凄い罪悪感が俺の肩にのしかかり、立っているだけでも辛い。


「なあ。聞かせてくれよ……。どうして、俺に頼らなかったんだ? 研究費が足りなくて、フィリベール家に頼ったんだろ? 資金力だったら、フェルマーの方が上なはずだ」


「……叔父さんに頼らないで……自分の力だけで、親父を超えたかったんだ」

 俺がやっと振り絞って出した答えはこれだった。


「はあ……なるほどな。昔から、お前は兄貴に憧れていたからな……それが空回りしちまったか」


「別に……憧れてなんて……」

 俺が親父に憧れているだと? そんなわけない。断じてない。

 逆だ。俺はあいつみたいになりたくなりたかったんだ。あいつに負けたくなかった……。


「そうか? お前、小さい頃から家で兄貴の技を盗んできては、店の職人たちに自慢していたじゃないか。なんだかんだ言って、お前が一番教わったのはお前の親父なんだよ」


「そんなはずは……」

 過去の自分が職人たちに自慢している姿が思い浮かんで、俺は否定出来なかった。


「まったく……親が不器用なら、子も不器用だな」

 やめろ。俺を親父と一緒にするな。


「親父は今……何をしているんだ?」


「必死に魔法具を作っているぞ。お前の罪滅ぼしの為にな」

 親父が罪滅ぼし? そんなまさか。


「どうして親父が……?」

 あいつが他人を気にすることなんて一度もなかったんだ。

 だから、そんなことはあり得ない。そんな理由で魔法具を作っているなんてあり得ないんだ。


「お前が学校を爆破したのを知ってから、兄貴は一週間魔法具を作らなかったよ。あの魔法具馬鹿が作業部屋に入りすらしないなんて、本当に驚いたよ。お前が人を殺したのがよっぽどショックだったんだろうな」


「そんなはず……。だって、親父は母さんが死んだって……」

 あの時だって、親父は俺が怒るまで魔法具を作っていたんだぞ。

 あの人はそういう人なんだ。


「その時のことは、本人が一番後悔しているよ。ショックだったのも、全ての原因は自分が家族をないがしろにしてきたことだって気づいたからだろうな」


「今更……」

 今更何を言っているんだ。そう言おうとしたら、叔父さんがそれに被せてきた。


「そう。今更なんだよ……。侵した罪は、どんなに頑張っても無くならない。酒屋の夫婦や小さな子供たちは、いくら後悔しても帰ってこないんだよ」


「……」

 今度こそ。俺は何も言い返せなかった。

 俺はベッドに座り込んで、うつむいてしまった。


「今日はこのくらいにしておいてやる。一週間あるからな。説教する時間はまだまだある。とりあえず、今日は自分の罪について一人で考えてみるんだな。トイレの場所は……心配ないな」

 そりゃあな。ここは、俺の家だった場所だ。


「あ、トイレに行くなら、なるべく昼にしとけよ。じゃないと、兄貴と鉢合わせになるぞ」


「わかったよ……」

 今、この状況で親父と会うメンタルは持ち合わせてない。

 絶対に会わないよう、注意しなくては。


「そうか。じゃあ、またな」


 叔父さんがいなくなったのを確認して、俺はポツリと呟いた。

「子供たちを殺していたんだな……」

 忘れていた……いや、ずっと考えないようにしていただけか。

 レオを殺したい……その考えだけでも異常だが、俺はその為に何の関係もない子供をたくさん殺していたんだ。

 あの爆弾には即死を付与していた。死んだ子供の数は知らないが、絶対に多いことは確かだろう。


「後悔先に立たず……か。こればかりは、いつもみたいにはいかないよな」

 俺はずっと自分を無理矢理正当化して生きてきた。

 俺は悪くない。悪いのは全て親父のせい。そう考えていた。

 だが……もうその言い訳では苦しくなってきた。


 母さんが死んだのは親父が駄目だったから?

 いや、家から出て母さんを一人にさせてしまった俺も同罪だ。


 俺が家を出たのは親父のせい?

 いや、親父の技術力に勝てないと思って逃げただけだ。


 逃げ続けている人生は親父のせい?

 いや、全て俺が悪い。親父は関係ない。

 今まで、親父を理由に逃げていただけだ。


「かっこ悪いな……俺。特別な魔法にスキルを貰って、自分は特別だと勘違いして、結局俺の成果は無力な子供たちを大量に殺しただけ……本当に、俺は何をしていたんだか……」

 俺は自己嫌悪を今更しながら……ベッドに伏せ、そのまま眠った。

 これ以上、何も考えたくなかった。


 そして次の日。

「これから、俺はどうなるんだ? ここが家なら、帝都だろ?」

 俺はこれから自分がどうなるのか、漠然と考えていた。

 このまま死刑か? いや、叔父さんは一週間って言っていた。

 つまり、レオンスたちが王都にいる間だ。


 ああ、わかった。

 レオンスが王国にいる間、俺の身柄は帝国側が管理することになったんだ。

 一週間後、俺は王都に返されるんだ。

 そして、王国に何かしらの処分を下される。

 はあ、きっと奴隷にされるだろうな。


「ゲルト、起きてるか~?」


「起きてるよ」


「おお、そうか。ほら、昼飯だ」

 叔父さんが机に二枚の皿を置いて、俺と向かい側の椅子に腰掛けた。


「……」

 叔父さんが何も言わずに食べ始めたのを見て、俺も黙って食べ始めた。


「「……」」

 お互い一言も喋らず、俺は手錠で動かしづらい手を上手く使いながら飯を食った。


「ふう。最近飯を食うのは一人だったから、楽しかったよ。じゃあ、また明日な」

 それだけ? と思っていたら、叔父さんは本当にサラを持って部屋から出て行ってしまった。



 そして次の日。

「ほれ、飯だぞ!」

 また叔父さんが昼に飯を持ってきた。

 今日も、またお互い何も話さず食べるのか? などと思っていると、叔父さんが俺に話しかけてきた。


「……そういえば、最近の王国ってどんな感じなんだ?」

 何事もなかったように、普通に話しかけられて、俺はすぐに反応出来なかった。

 すると、叔父さんはまた独り言のように話し始めた。


「昔王都に行った時は、帝都に負けないくらい活気に満ちていたんだけどな」


「王都が活気に満ちていた?」

 叔父さんの意外な一言に、俺は思わずポロッと言葉が口から出てしまった。

 あの活気とは無縁な王都がそんな過去があったことに驚いてしまった。


「なんだ。今は違うのか?」


「ああ。今は、活気なんて感じられないよ。それこそ、末期のフィリベール領と大差ないくらいだ」

 皆、重すぎる税に苦しんでいるし、選民思想の貴族たちは平民たちを奴隷のように扱う。

 あそこは平民にとって地獄みたいな場所だ。


「それは……随分と変わっちまったな。荒くれ者は多かったが、酒を飲んでいて飽きない面白い街だったんだけどな……残念だ」

 叔父さんは本気で残念そうな顔をしていた。

 それほど、昔の王都は良かったのか……。


「あれが王なら仕方ない」


「お前、国王と会ったのか?」


「一回だけ。豚みたいに太っていて、絵に描いたような愚王だった」


「そうか。次の王はどうなんだ? 確か、第一王女が有力なんだろう?」


「宝石狂いの姫なんて呼ばれていて……宝石を集める為に平気で国の金を使うような奴だったよ」


「それは……随分と、王国の人間が可哀相だな」

 まあ、そうだな。


 だが……

「それは昔のままだったら。王女が宝石に執着していたのは過去の話で、今は……そうだな。勇者に執着しているよ」

 この数年、彼女をそこそこ近くで見てきたつもりだが……随分と変わってしまった。

 恋はあそこまで人を変えてしまうもんなんだな。


「勇者に? それは良いのか?」


「まあ、勇者がイイ奴だから大丈夫だと思うよ」

 カイトは、初めて会った時からずっと正義の塊だ。

 自分の信念をしっかりと持っていて、その信念の為ならどんな困難にも立ち向かっていく……俺と真逆だな。


「そうか。なら、王国にもまだ希望はあるな」


「まあ……そうだな……」

 カイトなら、きっと王国をよくしてくれるだろう。


「コルトさん!」


「あ、レオだ。ちょっと待ってろ」

 レオンス……ということは、迎えに来たのか?

 王国との話し合いはどうしたんだ?


「どうしたんだ? 一週間って言っていただろ?」


「それが、思ったよりも王女との話し合いが早く済んでしまって」

 そういうことか……今の姫様なら、確かに上手くやってしまいそうだ。


「そうか。ゲルトはこっちだよ」


「結局、師匠とは会わせたんですか?」

 師匠? ああ、親父のことか。

 レオンスは俺と親父を会わせたかったのか? ああ、だから親父の家に俺を……。


「いや、最終日に会わせるつもりだった。兄貴、家にいるのを知っていたら何をしでかすかわからないだろ?」


「ああ……。それは仕方ないですね。どうします? 今から会わせてあげますか?」


「そうだな……。おいゲルト。親父と会いたいか?」

 叔父さんがドアを開けて聞いてきた。

 叔父さんの向こうには、レオンスがいる。


「……」

 どうする? 今、親父と話して何になる?


「今日しか会えるチャンスはないかもしれないぞ?」


「一言だけ話させてくれ」

 どうせ最後なら、何を言われようと構わないか。


「だとさ」


「わかりました」


 それから連れて行かれたのは、昔から変わらない……親父の作業場だった。

「兄貴。客だぞ」


「客? レオが来たのか?」

 親父の声……。


「ああ。レオもいるが、今日はもっと珍しい客だ」


「はあ? 一体、だれ……おま、ゲルトか?」

 俺が作業部屋に入ると、親父は俺を見て固まっていた。

 俺は表情を変えず、ただ黙ってそれを眺めていた。


「どうして……お前が……ここに?」


「王国で捕まえました。と言っても、これから王国に返さないといけないんですけどね」

 親父の質問に、レオンスが軽い口調で答えた。

 やはり、俺は王国に返されるのか。


「そうか……」


「ゲルト、俺にお前を叱る資格は無いのはわかっている。だが、これ以上罪を重ねるようなら、俺はお前を殺してでも止めるつもりだ」


「……わかったよ」

 親父の言葉に俺は一言だけ言い残して、親父に背を向けて作業部屋を後にした……。


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