第二十四話 結婚前夜⑥
いつも通り、章のタイトルを変えさえて貰いました。
戦争までやるつもりだったんですけどね……。
「……ん? 小さいな?」
前回みたいに馬鹿でかい怪物が穴から出てくると思ったら、俺より小さい男……の子が出てきた。
「小さい言うな! お前らだって、ジャイアントに比べたらチビだろ!」
あ、やっぱり子供みたいだな。
高い声に、俺はちょっと安心した。
話が通じない化け物よりはマシだからね。
「喋った……ひょっとして魔族なのか?」
「ん? よく見たら人間じゃないか! この世界に来て初めて見たぞ!」
「この世界……?」
ん? 聞き捨てならないことを言ったな。
「あっ……今の、忘れてくれ!」
「いや、忘れるのは無理だけど……てか、子供の魔族で異世界人というと……もしかして魔王だったりしない?」
なんか、よく見たら俺の知っている魔王と似ている気もする。
子供の頃の魔王ってこんな感じなのかな。
「おお! よくわかったな。もしかしてお前も魔王なのか!?」
「いや、そこは異世界人なのか? でしょ。どう見たって、俺たち人族だよね?」
もしかして、こいつ馬鹿なの? 頭の中は俺の知っている魔王と大違いだ。
いや、あの人も冗談を言うのが好きだったな。
「こっちで普通の人と会うのは初めてだって言っただろ? もしかしたら、人の魔王がいてもおかしくない」
「そうだけど……。で、どうして魔王がここに?」
「お前たちが呼んだんだろ?」
「あ、そうだった……」
魔王の答えにカイトが困ったように頭を掻いていた。
まあ、こんな見た目でも魔王を呼んじゃったわけだしな。
「いや、実際に呼ばれたのは俺の部下なんだがな。部下が何人もいなくなるのは困ったから、空間魔法で干渉したわけだ」
「なるほど……。悪いんだけど、帰って貰える?」
空間魔法があるなら、帰られるでしょ?
「何を言っている。そこに転がっているのは、俺の部下だろ? これは戦う理由には十分じゃないか?」
「あ、ああ……」
そういえばそうだったな。くそ……死体、片付けておくんだった。
「えっと、ちょっとだけ言い訳させて貰ってもいい?」
なるべく、戦いたくないんだけどな……。
「まあ、いいだろう。俺を納得させることが出来たら許してやらないこともない」
やっぱり、話が通じる人で良かった。
これが言葉が話せない魔物だったら大変なことになっていたな。
「実はここ、人間の王国にある城の中なんだ」
「ほう。言われてみれば俺の城と変わらないくらい立派だな」
「で、明日、この国のお姫様とこの勇者が結婚することになっているんだ」
「それはめでたいな。で、どうしてこうなった?」
「よくあることだよ。姫様と勇者の結婚をよく思わなかった誰かが、パーティー中に魔界から魔物を呼び寄せる魔法アイテムを使ったんだ」
「なるほど……それはけしからん奴らだな。ふむ。確かにそれならお前たちは悪くないかも知れないな」
「そうでしょ?」
やった! 何事も無く終わるぞ!
「だが、そこの男……勇者と言ったか?」
「う、うん」
魔王に指さされ、カイトがちょっと緊張しながら頷いた。
カイト……頼むから怒らすなよ……。
「魔王と勇者が出会ったら戦わないといけない。それはこの世界の決まりだろ?」
ん? なんかさっそくおかしなことになってきたぞ……。
「そんなことは……」
「前代の魔王は、勇者に殺されたと聞いたぞ?」
ああ、それで勘違いしているのか。
「いや、元気に魔の森で生活しているよ。俺たちが嘘だと思うなら、探してみるといいよ」
一応殺されてはいるけど、生き返っているからノーカウントだよね。
「なに!? じゃあ、悪が正義に敗れるというお決まりがこの世界で通用することはないのか?」
やっぱり、こいつ馬鹿なのかな?
「それは知らないけど……って、何の話をしていたんだっけ?」
随分と話が変わってない? 部下のことは良いの?
「勇者と魔王は戦わないといけないのか、という話だ。どうする、戦うのか?」
「あれ? 俺たちがその選択をする側だったっけ?」
なんか、話がぐちゃぐちゃだな。
「えっと、戦いたくないです」
カイトがすぐに不戦を宣言した。
よし、これで今度こそ終わりだ。
「何を言っている! それでもお前は勇者か! ここは、ビシッと剣を抜かないでどうする!」
「面倒な奴だな……」
まるで、結局『戦う』しか選択肢が無いゲームのボスじゃないか。
「お前もだ! さっきからごちゃごちゃと俺たちのやる気を削ぎやがって! 一般人なら、端の方で勝負の行方を見守っていろ!」
いや、元々やる気に満ちあふれているのはお前だけだから。
カイトも戦いたがっているみたいに言うなよ。
「わかったよ。戦うのは良いんだけどさ。城が壊れたら困るから、ここ以外でやってくれない? なんなら、俺が場所を用意するよ?」
地下闘技場に連れて行こう。あそこなら、死ぬことはないから。
「いや、それなら俺の城で戦うぞ! やっぱり、勇者と魔王の決戦の場と言ったら魔王城での戦いだろ」
こいつ、本当に魔王の記憶がコピーされているのか?
見ていて、なんかイタいぞ。
「わかったわかった。どこでもいいから。ほら、やるならさっさとやらない? 明日、結婚式があるって言ったでしょ?」
結局、何を言っても選択肢は無さそうだし、魔王の言う通りにしてやろう。
「そうだったな。それじゃあ、ほら」
魔王が俺とカイトに手を向けると、一瞬で場所が移動した。
「ここでやるぞ」
同じ城なのに、城主の違いでここまで差が出て来るとはな……。
よくわからない魔物の頭蓋骨が壁に飾られているのを見ながら、俺は思わず苦笑いしてしまった。
「お、おい……本気で俺と魔王を戦わせるつもりなのか?」
「まあ、大丈夫だって。ほら、戦ってきなよ。俺は、他が乱入しないか見張っているから」
「何かあったら助けてくれよ……」
凄く不安そうな顔を俺に向けながら、カイトが玉座に座る魔王の方に向かって行った。
「はいはい。頑張れよ!」
「勇者よ。よくここまで来た!」
「いや、連れて来られただけなんだけど」
「一々うるさいぞ。少しは真面目に勇者をやったらどうだ!」
俺は学園祭の劇でも見せられているのか?
てか、魔王の方もよく懲りずに魔王キャラを演じ続けられるよな。
「お前こそうるさいよ。もういい! 勝手に始めるからね!」
さっきまでの不安な顔はどこに行ったのか、相手するのが面倒になったカイトが剣を抜いて魔王に襲いかかった。
「ちょっと待て! まだ用意しておいた言葉を話し終えてないんだ!」
「問答無用。さっさと倒して、さっさと帰るまで!」
腕を前に出して止めようとする魔王を無視して、カイトが片腕を切り落とした。
「くっ。なんと野蛮な勇者……だが、俺には……ん? おかしいぞ! どうして発動しない!? どうして傷が治らないんだ!?」
自分の傷が治らないことに動揺して、魔王が大きい声で腕に語りかけていた。
「やっぱりね……そんな気はした」
ゲルトなら、俺の再生スキルを無効化していると思っていたんだよね。
魔王の超再生にも効くのかはわからなかったけど、やっぱり効いたな。
「くそ……どうせ治ると思って避けずに受けたが……まさか、もう勇者が聖剣を手に入れているとは思わなかった。これは大きな誤算だ」
いつまで演劇を続けるつもりなんだ? 腕を斬られたんだから、もう少し戦いに集中すればいいのに。
「だが、俺は諦めないぞ! これから魔王の恐ろしさを教えてやる!」
「空間魔法の真骨頂、支配した空間を好きなように操れるというものだ。ここは俺の城。どんなことも出来るぞ!」
ああ、だから自分の城で戦いたかったのか。
案外、ちゃんと考えがあってあんなことを言っていたんだな。
城の柱が壊され、カイトに向かって飛んでいった。
城が崩れないのは、空間魔法で天井をおさえているのか?
なんと無駄が多い魔法の使い方。
「いくら動きが速かろうと、私の前では無意味だよ! ほら! もう動けまい!」
魔王の間近にまで迫った瞬間、カイトが空中に貼り付けられたかのように固定された。
「ククク。勇者よ。無様だな~って、イタ!」
魔王が馬鹿にしたような笑い声を上げていると、カイトのポケットから高速のナイフが魔王の腹に向かって飛んでいった。
馬鹿笑いしていた魔王は回避が間に合わず、ナイフが脇腹を大きく抉った。
うお。電気魔法で操ったのか。
どこかの魔王と違って無駄の無い魔法の使い方だな。
「てか魔王、もう少し戦いに集中すれば良いのに……」
あいつ、凄い魔法が使えるのにもったいないよな。
「うるさい!」
怒った魔王が俺に柱を投げつけたが、俺は転移を使って避けた。
「よそ見している暇があるのか?」
「ある! これでチェックメイトだ。ほら、降参しろ」
近づいてきたカイトの首に、さっき魔王の腹を抉ったナイフを向けた。
「いいや。そんなことはない」
「強がりやがって。死んでも知らないからな!」
カイトがナイフを無視して動こうとしたのを見て、魔王がナイフをカイトの首に向かって飛ばした。
あの距離なら、絶対よけられないだろう……普通ならね。
「光の盾? くそ。そんなスキルを隠し持っていたとは。なら、これでどうだ!」
守護の光にナイフを弾き飛ばされ、焦った魔王は次々と先の尖った物をカイトに向かって飛ばした。
「更に速くなっただと!?」
限界突破を使ったんだな。
十倍の速さなら、流石に魔王の空間魔法でもカイトを止めるのは難しいだろう。
「ふん!」
カイトは剣を突き出して、正面から一直線に魔王まで突き進んだ。
「くっ……止まれ!」
それを魔王がなんとか空間魔法を使って止めようとしている、という構図になっていた。
「ぐう……」
そして、カイトの剣先が魔王まで本の数センチとなったところで、待っていたかのようにカイトの首の周りをナイフや柱の欠片が囲った。
だが、その分カイトを抑える力も弱まって、数ミリまで剣が近づいてしまった。
「はい。おしまい」
俺はカイトの剣を持ち、カイトの周りの尖った物を回収した。
あと、魔王の治療もしておいた。
治療と言っても俺が斬って、再生無効化を無効化してあげるだけだけど。
「何をする。あと少しで!」
「いや、相打ちになって引き分けになっていたと思うよ? それとも、死にたい? あの剣が突き刺さったら、お前は復活出来ないんだよ?」
そう言って剣先を見せてあげると、魔王は大人しくなった。
まあ、魔王に死なれたら色々と困るから、本当に殺すようなことはしないんだけどね。
「わかった……引き分けで許してやろう」
「じゃあ、許してくれたお礼」
「これは……剣?」
「そう。かっこいいでしょ? 魔剣と言って、魔法を剣に纏わせることが出来るんだ」
師匠に作って貰っておいた物が残ってて良かった。
魔王、絶対こういうの好きでしょ。
「魔剣!? なんと俺にぴったりな剣なんだ。よし、勇者よ! 次会うまで、俺はこの剣を使い熟せるようになっているから、お前ももっと強くなっているんだぞ!」
「……わかったよ」
勇者と魔王のライバルか。これまた面白いな。
「じゃあ、結婚式もあるからさっさと帰るぞ。てことで、またね」
「いや待て!」
はあ、勢いで帰ろうと思ったんだけどな……今度は何?
「折角親交を深められたんだ。お互いに名乗っておかないか? 次会った時に、名前で呼び合いたい」
なんだ。そんなことか。
「わかったよ。俺はレオ」
「俺はカイト」
「レオにカイトだな。俺はグルだ。覚えやすい名前だろ?」
グルか。ルーといい、魔族の名前は短いのが当たり前なのかな?
「うん。じゃあグル、そろそろ行かせて貰うよ」
今度こそ帰らせてくれよ……。
「ああ……じゃあな。お前も、いつでも挑みに来ていいからな」
嫌だよ。てか、お前と戦うくらいなら、魔の森にいる魔王に挑む。
「気が向いたらね。じゃあ」
俺は軽く手を振って、転移を使った。
とりあえず、無事に終わって良かったな。





