第一話 魔法を使うために
俺が赤ん坊になってから、毎日のほとんどを寝ていたのでよくわからないが半年は経ったと思う。
ただ、起きている時間は集中して、世話してくれるメイドや、様子を見に来る母、姉の声を聞いていたので、舌をうまく動かせないので話すことは出来ないけど、言葉を理解して聞き取れるようにはなった。
手に入れることが出来た情報は……
「俺はレオと呼ばれている」
「姉の名前はヘレナらしい」
「両親の名前はわからない」
家族に関してはこの程度。
母は「お母さんよ」と言うだけで名前は知ることができなかった。
父の方は忙しいらしく転生初日以来会っていなかった。
そして新事実!!
この世界には魔法がある!
初めて見た時は、びっくりした。
メイドの手が光ったと思ったら、俺の体が光りだして、気がついたら体がキレイになってしまったんだから。
これで、この世界が異世界であることが確定した。
魔法の世界か……。
あ~。早く魔法が使えるようになりたいな……。
<それから2か月>
やっと俺はハイハイを習得した。
ということで家の中を冒険したいと思います!
……監視付きで。
自由に動くのは体力がつくのでOKらしいが、さすがに危ないから部屋の外ではメイドが同伴している。
本当にこの家は大きい
いったい、いくつの部屋がこの家に存在するのだろうか?
俺は目的の物を見つけられず力尽き、メイドに部屋まで運んで貰うのを毎日繰り返した。
この冒険で手に入れたい一番目的の物は、本だ。
特に、魔法の本を見つけることを最重要にしている。
テレビもゲーム、スマホもない娯楽が一切無いこの世界にある唯一の暇つぶしは……きっと、魔法のはずだ。
魔法が使えれば、俺は一生暇することはないだろう!
そんな考えの下、探し続けること一週間。
目的の物がある部屋を見つけた。<書斎>である
すぐに本に飛びつき俺は本を開いた。
うん……。うんん……。これは……。
まったく読めない。
俺、この世界の文字が読めないことを忘れていた。
どうするか……文字が読めるようになるまで我慢?
いや、そんなの待ってたら何歳になるのかわからないぞ。
あ、こういうときは大人に頼るんだ!
ヒラメキに従い、俺は近くにいるメイドに目を向けた。
お願いだ。俺に本を読み聞かせてくれ!
「レオ様、本が気になるのですか?」
おお! 俺の気持ちがわかるのか!
メイドの読心術に驚きつつ。俺はすぐに頷いた。
この機会を逃したら、もういつ魔法を習得できるかわからないぞ!
「うふふ、どれどれ、これは魔法についての本ですね」
それを聞き、俺は目を輝かせた。
なんと! たまたま手に取った一冊目が魔法の本だった!?
俺はなんと運の良い少年なんだ……。
「この本を読んで欲しいのですか? いいですよ。本は文字の勉強になりますからね。ただ……この本はレオ様には難しいので、こちらの絵本の方が面白いと思いますよ」
そう言って、メイドは同じ本棚に置かれていたもっと薄い本を見せてきた。
もちろん。俺は魔法の本を全力で抱きかかえ、全力で首を横に振った。
「そうですか……。まあ、どうせ実際に読んで見れば難しくてすぐに嫌になるでしょう。では、お部屋に戻ってから読みましょう」
メイドはそう言うと、魔法の本を持った俺と先ほど見せてきた絵本を抱え、俺の部屋に移動した。
ふふふ。残念だったな。その絵本に出番なんてないんだよ。
そんな俺の意気込みは裏切ることなく、文字はわからなくともメイドが読み上げた言葉を理解することはできた。
こうなったら、こっちのものだ。
それから、俺は暇そうなメイドを見つけては魔法の本を読み聞かせる毎日を送った。
そして、ぶ厚い本を一ヶ月かけて理解することに成功した。
この本には、基本的な魔法の使い方から魔法の応用についてまで幅広く書かれていた。
もちろん。魔法を使ったことがない俺には、応用の部分の内容はちんぷんかんぷんでとても何を言っているのかはわかりそうにもなかった。
ただ、俺が一番知りたかった魔法を使う為に必要な要素はしっかりと理解することができた。
メイドに三周はして貰ったから、俺の解釈は間違っていないと思う。
人は、体内にある魔力を使い、様々なことが出来る。この魔力を使った能力を魔法と言う。
魔力とは、誰もが持ち、自然界にも存在する。
しかし、魔法は誰もが使えるというわけではない。
これはなぜなのか?
1つ目、単純に魔力の量。
この世界のほとんどの人は魔法を使えるまでの魔力を持っていないそうだ。
2つ目、適性魔法。
適性魔法とは、火や水、風、土、光、闇の基本的な六属性と無属性があり、その他のユニーク属性などがある。
どうやら、これをもっていないとどんなに魔力があっても魔法を使うことはできないみたいだ。
そして悲しいことに、この適性魔法というのはほとんどの人が持っていないみたいだ。
六属性は、世界の半分の人が1つは持っている。
無属性は、ほとんどの人が持っている。
ユニーク属性は、ごく一部の人が持っている。
これを聞くと、ほとんどの人が無属性は使うことが出来るものだと思うかもしれない。
無属性は、自分に使うことで筋力や視力、聴力を上げることができるらしい。
しかし、これを自由に使いこなすにはたくさんの鍛錬が必要だから、ほとんどの人が生きている間に使い熟すことはできないとか。
これらの理由に加え、金銭的な事情から適性魔法に恵まれていても魔法を覚える機会が無い人がほとんどらしい。
以上、魔法を使う使う為に必要な要素についてでした。
この後のことは、わからないたくさん出てきたのでギブアップした。
この後に、魔法の習得方法が書いてあると考えるととても悔しいが、メイドにも難しい内容なので仕方ない。
これから本をたくさん読んで、国語力を上げて自力で読めるようになろう。
ということで、これからの方針について考えるか。
まず、俺の属性について。
これは……俺に知る手段がないのでパス!
メイドたちに聞いても「レオ様にまだ早いですよ」の一点張りでとても教えてくれるとは思えないし。
ということで、今の俺に出来ることと言ったら魔力を鍛えることだろう。
ただ、どうすればいいのかはわからないんだよな……。
もしかすると、本のわからなかった部分に書いてあったのかもしれない。
しかし、わからないことは仕方が無いので自力で考えだすとしよう!
それに必要な時間は間違いなくある!
そこで、まずは魔力が体のどこにあるのか探してみようと思う。
どうやって探すのかだって?
……それは、前世の体と今の体で何か違和感がある場所がないか探すんだよ!
もしダメだったら?
ダメだったら……今は諦めて、国語力の向上に全力を出す!
こうして、俺の魔力探しは始まった
俺は目を瞑って体中に意識を向ける。
手、腕、爪先、足、頭、首、胸、腹……。
これと言って変わったことは……ん?
腹に少しだが違和感がある気がする。特に、ヘソの下!
ヘソの辺りに何か、小さな塊がある気がする! これはビンゴなのでは?!
これが魔力なのか?
こんな簡単に見つけられてしまったものを魔力とするのは無理がある気もするけど……他にはそれらしき物はない!
違っても死ぬわけではない! なら、これを魔力と仮定して話を進めようじゃないか。
それじゃあ、魔力を見つけることが出来たので、本題である魔力を鍛える方法を考えたいと思う。
うん……。うんん……。ああ……。
ダメだ。全く思いつかない!
どうしよう……。
いや、こういう時は発想の転換だ!
どうしたらいいかじゃなくて、今、俺に、この塊を使って何が出来るかで考えよう。
もし、それが全く魔力に効果の無いハズレであったとしても仕方がないとしようじゃないか。
どうせ、大きくなったら正解を大人が教えてくれるんだからな。
まずは……この魔力を動かすとするか。
理由は単純。動かす以外にできることが思いつかない!
というわけで、とりあえず魔力を動かす方法を考えてみよう。
……と言っても、思いつくのは気合でどうにかするぐらいだ。
はあ、仕方ない。とりあえず、塊を気合で動かしてみるか。
目を閉じて、意識をヘソの塊に集中する。
そして、ギュウウと歯を食いしばって『魔力よ動くのだ』と念じ続けた……。
すると、信じられないことに……ほんの少しだけ塊が動いてしまった。
う、動くぞ……!
本当に、気合だけで動いたので驚いてしまった。
どうやら、魔力は気合いでどうにかなるらしい。
こうして、俺はあっさりと目的であった、もしかしたら魔力を鍛えることが出来るかもしれない方法を見つけることに成功した。
これがダメだったら……いや、自分を信じようじゃないか。
それに、今の俺にできることはハイハイとこれだけだ。
他に何もすることがないなら、別にいいじゃないか。
というわけで、当分は魔力を動かすことに集中することにしようと思う。
継続は力なりって言うしね。継続が魔力になることだってきっとあるさ!
それから毎日、俺は起きていられる少ない時間はずっと魔力を動かし続けた。
動かすと言っても、塊の可動範囲がほんのわずかだから、達成感なんてものはほとんど無かった。
そんな成果の出ない日々に、本当にこの特訓は意味があるのかと疑ってしまった。
それでも、「もう少し、もう少しだけ」と自分に言い聞かせて諦めずにしばらく続けていた。
そして、何週間が過ぎた頃。
俺はあることに気が付いた。
魔力が大きくなってる!!
そして、可動範囲が広くなってる!!
魔力の大きさはへそよりも確実に大きくなっていた。
可動範囲もヘソ周辺なら動かせる程度には成長していた。
やっぱり、この魔力の鍛錬で魔力を増やすことが出来るんだ!
これがわかったことで、疑いなくこの練習を続けることが出来るようになった。
そして、疑うことをやめたおかげで特訓の効率が大幅に良くなった。
よおし! これから本気を出すぞ!
―――さらに3か月。
なんと、全身に魔力を動かすことが出来るようになってしまった。
そして、魔力の大きさはへそ4つ分くらいまでに成長した。
しかも魔力の形を変えることだってできる。
これ、この世界でどのくらいの人ができるんだろう? もしかして、俺だけ?
いや……たぶん、魔法を使える人なら誰でもできるんだろうな。
変な勘違いはやめて、平凡な俺はこつこつ努力するんだ。
そう言い聞かせなら、それからも魔力の鍛錬は続けた。
ただ、ある程度の大きさになった途端、魔力は大きくなることがなくなった。
それでも、このまま続けていればきっと何かが起きるかもしれない。
そう思い、全力で動かし続けた。
すると……
感じることの出来る魔力の色というか濃度? が濃くなった気がした。
そして、動かす方も、今度は徐々に魔力を動かす速さが上がっていることに気がついた。
これは……魔法を高速で出すために必要技術なのでは?
よし! このまま努力を続けるんだ!
きっと、この世界で生まれたばかりの赤ん坊から努力なんてものをしている奴はいない。
この勢いで魔力を鍛えていけば、絶対に俺は世界一の魔法使いになれるはず!
こうして、俺の魔力成長劇は始まったのだった……。