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第二十話 結婚前夜②

 

 SIDE:カイト


「一体、何が起こっているんだ?」

 目の前に広がる、魔物による襲撃と逃げ惑う貴族たちを見て、唖然としてしまった。


「わからない。でも、レオンス侯爵は知っているみたい」

 そういえば、大量に魔物が出てくるのを見て、あいつ何か言っていたな。


「だとすると、帝国が仕掛けてきた?」


「いえ。帝国がわざわざこんなことをしないわ。だって、ドラゴン二体もいれば、王都を一瞬で更地に出来るのよ?」

 確かに、その気になれば帝国は王国を潰すことは出来たんだ。

 なら、こんな自分を危険にするようなことはしないだろう。


「だとすると……王国の誰かが裏切った?」


「ありえるわね。帝国に勝てないと思って、反乱を始めたのかも」


「それじゃあ、あいつらの狙いはエレーヌってこと?」


「かもしれないわね……」


「くそ。こんな時に剣を持っていないとは」

 エレーヌを守りたいけど、剣がなければ魔物を倒すことが出来ない。

 エレーヌを抱えて逃げるか? いや、それだと後々エレーヌのせいにされてしまうかもしれない。

 どうする……。


「勇者様、私の剣をお使い下さい。今、部下が勇者様の剣を持って参りますので、それまでどうかこれで……」

 俺が悩んでいると、一人の騎士が俺に自分の剣を差し出してきた。


「わかった。ありがとう」

 ありがたい。これで、一先ず戦える。


「カイト、頼んだわ。ここで戦えるのはあなただけ。あなたが頼りなの」

 そうだな……。ここに王国の騎士はいたが、ほとんど逃げてしまっている。

 本当、普段は偉そうにしているくせに……。


「もちろん。俺がどうにか……ん? オルゴール?」


「な、なにこれ……魔物の攻撃……?」

 この悲鳴が飛び交うパーティー会場に聞こえるはずがないオルゴールの音が響き渡ると、エレーヌを含め、会場内にいた人たちがバタバタと倒れ始めた。


「エレーヌ! ……これは寝ているだけ?」

 倒れるエレーヌを急いで抱きしめて確認すると、スヤスヤと寝息を立てていた。

 良かった。死んでない。

 このオルゴールの音は、人を眠らせる能力があるんだ。

 俺は、ゲルトさんに貰った状態異常を無効化する魔法具で助かったのか。


「くそ! 今度は昏睡のオルゴールまで。あいつら、地下市街から持ち出していたのか!?」

 さっきまでの悲鳴が無くなり急に静かになったパーティー会場に、レオンスの声が響き渡った。

 あいつ、やっぱり何か知ってる。


「おい! レオンス! この状況について説明しろ」

 俺は敬語など忘れて、強い口調でレオンスに迫った。


「そんなの俺もわかってないよ。わかっていることと言えば、お前のところのトップが馬鹿な魔法アイテムをこんな場所で使いやがったってところだよ。お前らは貴族が何人死んでも構わないのか?」

 俺のところのトップ? あの馬鹿王とハゲ宰相のことか?

 くそ……あいつら、元々エレーヌを殺す気だったんだ。


「くそ! こうなったら俺が!」


「あ、その剣……」

 俺はレオンスが止めようとするより速く、騎士に渡された剣を抜いた。



 SIDE:レオンス


 狂化の剣……地下市街で見たヤバい魔法具三つが揃ったな。

 それにしても、勇者に狂化の剣を持たせたらダメだろ。王国、俺たちがいなかったら誰が止めるつもりだったんだ? 本当、馬鹿だろ。

 凶暴になった勇者を遠くに蹴り飛ばしながら、俺は王国に悪態をついた。

 それにしても、感電は状態異常無効化でも無効出来ないのか。

 俺は、蹴り飛ばした右足を曲げたり伸ばしたりして、麻痺が治るのを待った。


「勇者を殺すわけにもいかないし……これ、とんでもなく面倒な状況だな。まあ、全員が寝ているから、俺が好きに暴れても大丈夫なのは幸いだな」

 魔の召喚石を攻略するには、王国に見せるわけにもいかない技をいっぱい使わないといけなかったからな。

 オルゴールは逆にありがたい。


「師匠。遅れてすみません!」


「いや、いいさ。とりあえず、二人にはあっちにいる勇者の相手を頼むよ。気をつけろよ? あいつ、今はステータスが十倍だから」

 たぶん今の勇者を倒すのは無理だから、初陣の魔物を倒しきるまでの時間稼ぎをしてくれ。

 勇者は、その後俺がどうにかする。


「わかりました」


「よし。とりあえず、ゴーレムに貴族たちの避難を任せて……。シェリー、魔法で数を減らして。城の損傷は気にしなくて良いよ」

 そう言いながら、俺は聖剣の力でシェリーの杖を呼び出してシェリーに渡した。

 数のゴリ押しには、魔法が一番効果的だ。

 地下市街で襲われた時からシェリーはずっと成長しているから、あの時とは比べものにならないくらい戦力になってくれる。


「リーナは、これで王女の安全を確保しながらヘルマンたちの援護をよろしく。たぶん、感電を無効化するにはリーナの聖魔法が必要だと思うんだ」

 今度はリーナの杖を召喚し、状態異常無効の能力がついた魔法アイテムを創造して両方渡した。

 状態異常無効は、王女を起こすため。

 たぶん、彼女がいないと勇者の暴走は止まらない気がするんだよね。


「はい。こっちは任せてください」


「うん。任せた」



 SIDE:ヘルマン


「よし。負けることは許されない。絶対に倒すよ」

 師匠に任されたんだ。僕たちで勇者をどうにかするぞ。


「うん」


「グルアアア!」

 師匠に蹴られ、壁にめり込んでいた勇者が壁から脱出すると、大きな雄叫びをあげた。

 まるで魔物だな……そんなことを思っていると、勇者が突如消えた。


「アルマ!」

 勇者は、思わぬ速さでアルマの背後に回っていた。

 そ、そうだ。勇者は元々、スピードが売りだったんだ。


「大丈夫! 自分の心配をして!」

 透過で勇者の攻撃を避けると、アルマは急いで距離を取った。


「くそ……この狭くて人が多い場所では斬撃を飛ばすことが出来ない」

 距離を取って戦いたいのに……。

 それに、僕の斬撃は勇者を殺してしまう。

 こうなったら、感電覚悟でアルマの毒で眠らせるしかないか。


「アルマ! 僕が囮をやる! 隙を見て、毒で眠らせてくれ」


「了解!」


「さあ、勝負だ!」

 俺は無属性魔法を全開にして、勇者と対峙した。


 動きが速いと言っても、魔眼があれば難なく避けられる。

 面倒なのは、剣や服に纏っている電気魔法。触れば、一瞬行動不能になる。

 勇者のスピードなら、その一瞬で僕の首を飛ばすことが出来るだろう。

 遠距離からの斬撃が使えない以上、本当に戦いづらい相手だ。


「でも、意識はないから、作戦に嵌めるのは簡単そうだね」

 そう。ステータスは高くなったみたいだけど、その分思考力が低下したみたい。

 これなら、簡単な囮作戦でも、成功するだろう。


 そして、思っていた通り簡単に勇者は俺に釣られ、背後からアルマの攻撃を受けた……はずだった。

「え?」

 なんと、アルマの攻撃が光の壁によって遮られてしまった。


 俺たちは、慌てて距離を取った。

「なるほど。新しいスキルはそういうスキルだったのか」

 くそ。今のがダメなら、どう倒せば良いんだ?


「ヘルマン!」

 打開策を考えていると、アルマが俺の名前を叫んだ。

 どうした? あ。

 魔眼で見てないのに、勇者が目の前にいた。

 間一髪。なんとか透過で勇者の攻撃を避けることが出来た。


 これは、

「限界突破……十倍の十倍、今の勇者は百倍か……」


「う、くっ」


「くそ……反撃する隙が無い」

 速すぎる。透過まで使ってようやく避けてるこの状況だと、先にやられるのは僕たちだ。


「時間切れまで耐えるしかないわ」

 限界突破……確か、今は五分程度まで使えるって言っていたな。

 五分なら、ギリギリ耐えられるか……。


 それから勇者の攻撃を耐え続け……

「も、もしかして、時間切れが無い?」

 五分、十分と待っても、一向に勇者のスピードが落ちる気配がなかった。


「いや、制限時間も十倍になったんだ」


「う、嘘……それじゃあ、あと四十分も攻撃を避け続けるの? 無理よ。その前に魔力が尽きるわ!」

 そうだね。僕たちは元々魔力が少ない。

 精々あと十分が限界だろう。


「くそ……」

 師匠に頼まれたのに、何も出来ずに終わっちゃうのか?


(遅れてすみません。二人とも、戦いながら聞いてください)


(リーナ様!?)

 俺たちが打つ手なしで困っていると、リーナ様からの念話が飛んできた。


(今から、勇者を倒す打開策を説明します)


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― 新着の感想 ―
[気になる点] レオ一行、帝国に移転して勇者の難を逃れればいいのに、と思ってしまう。 王国が滅亡していろいろすっきりするだろうに。
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