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第十八話 策を潰す

 

「失礼します」

 ネズミモニターでのスパイ活動を終え、大砲にこっそり小細工を入れ、リーナとじゃれ合っていると、一人の執事が部屋に入ってきた。

 あ、宰相に命令されていた執事だ。

 俺は気を引き締めて、辺りを警戒した。

 うん。大丈夫。周りに怪しい人はいない。


「どうかしましたか?」


「何かご不便が生じていないかお伺いに参りました」

 んなわけあるか。絶対、何かしに来ただろ。


「そうですか。特に問題はございません」


「それは良かったです。この後、夕食の際にはお呼びしますので、それまでおくつろぎください」


「あ、それと……あくまで噂なのですが、エレメナーヌ殿下が帝国の使者の暗殺を企てているみたいです。あくまで噂ですので、頭の片隅に残しておく程度で構いませんが……どうかお気をつけてください」

 いかにも部屋を出る間際に思い出しました。かのように、執事はドアを開けてから振り返って、宰相に命令された通りのことを俺たちに伝えてきた。


「エレメナーヌ殿下がどうして暗殺を企てているのですか?」


「あくまで予測になってしまいますが……帝国と戦争を起こそうと考えているのではないでしょうか? あ、もちろん王国全てがそんなことを望んでいるわけではありません。私欲にまみれた宝石狂いの姫……エレメナーヌ殿下の一派が望んでいるのです」

 私欲にまみれた、ね……それはお前たち貴族の方だろ。


「そうですか……わかりました。気をつけておきます」


「はい。是非そうして貰えるとありがたいです」



「もちろん、エレメナーヌが企んでいるわけないでしょ?」

 執事が出て行っていからしばらくして、シェリーがそんなことを聞いてきた。


「うん。暗殺が行われることすら知らないんじゃないかな?」


「とすると、王国は全ての責任をエレメナーヌに押しつけるつもり?」


「そうなんだろうね。彼女は貴族の間で嫌われているみたいだから」

 頭が良い王は、彼らにとっては邪魔なんだよ。


「なんか可愛そうね」


「まあ、大丈夫だよ。暗殺は一つも成功させないから」

 現に、一つの仕掛けはもう潰したしね。



 その日の夜。

 俺はモニターを見ながら、ヘルマンとアルマに念話で指示を飛ばしていた。

(アルマ、正面の部屋と上の階に隠れている人がいるから、毒で眠らせておいて)


(了解しました)


(ヘルマンは部屋の前で待機。ヘルマンがいるだけで相手は部屋に侵入しづらいから)


(はい!)

 さっそく、初日の夜から動きがあった。

 俺たちが寝静まったところを狙っていたみたいだけど、近づかせすらしてやらない。

 ある程度の距離まで来た怪しい奴は、全てアルマが眠らせている。


(言われたとおり、隠れていた男たちを毒で無力化しました)


(ありがとう。アルマが近づいたのに気がついていなかったよね?)


(はい。大丈夫だったと思います)

 透過のスキルは優秀だな。壁だろうと天井だろうと、思い通りにすり抜けられる。

 二人をダンジョンに行かせておいて本当に良かった。


(了解。今のところ、他には見当たらないかな……)


(師匠、もう寝てください。あとは僕たちでどうにかしますから)


(そうは言っても……)


(大丈夫ですよ。周りの部屋の見回りも私が定期的に行いますから)


(それでも、俺だけ寝るのは……)


(いや、騎士として主人にいつまでも起きられている方が困ります。明日も忙しいので早く寝てください。それに明日の昼間はギーレたちに任せていますから、私たちの心配も無用です)

 まあ、そうだね。ここは素直に従っておくか。


(わかったよ……。けど、新たに怪しい人を見つけたら随時報告ね)


(もちろんです。お休みなさい)


(うん。二人とも頑張って)



「終わりましたか?」

 念話を止めると、俺に抱きつかれているベルが心配そうに聞いてきた。

 本当はシェリーたちと一緒に寝るように言っていたんだけど、俺が寝ないと寝ませんとか言い出すから、二人でモニターを眺めていることにした。

 ベルに抱きついていると落ち着けて、冷静な判断が出来るから意外と良かった。


「とりあえず周りの部屋にいた人たちには眠って貰ったよ。追加で人が来たとしても、仲間が揃って寝ているところを見たら、流石に何か仕掛けてくることはないかな」


「そうですか。それじゃあ、一先ず今日は安全ですね」


「たぶんね。ふああ。アルマたちに寝ろって言われちゃったし、寝るか」

 一安心したら、急に眠気が襲ってきた。

 これは、アルマたちの言葉に甘えて良かったかも。


「はい。もう寝た方が良いと思います」


「それにしても、こうしてベルと二人きりになるのも久しぶりだね。昔は、よく二人で夜ふかししていたんだけど」

 帝都の屋敷にいた頃なんて、二人で寝落ちするまで魔法具を作ったりしたっけ。


「最近はシェリーさんやリーナさんがいますからね」


「ベルはシェリーたちに遠慮し過ぎだと思うよ。別に、もうメイドじゃないんだから普段は仕方ないとしても、こういうプライベートな時間くらい好きにしたら?」

 いつも、シェリーたちがいると一歩引いて会話にも参加しようとしないし、見ていてなんか寂しいんだよね。


「そういうわけにも……」


「ほら、何か要望は? 今なら、何でも良いよ。ちなみに、俺はベルに久しぶりの添い寝をして貰いたいな~」


「そ、それじゃあ、添い寝でお願いします」


「ふふ。了解」

 顔を赤くして了承してくれたベルが可愛くて、思わず笑ってしまった。

 いや、本当にベルは可愛い。



 それから、モニターをしまって俺たちはベッドに潜り込んだ。

「昔から、どんなに気持ちが落ち着かないときも、ベルが隣にいるとすぐに眠れちゃうんだよね」


「そうですね……あと、なぜか早起きです」


「ハハハ。もしかしたら、ベルの寝顔を見たくて体が勝手に起きちゃってるのかも。てか、俺が寝るまでとか言って、いつも何だかんだ朝まで一緒に寝ちゃっているよね」

 いつも凄い早起きなのに、俺と寝ると絶対寝坊するよね。


「それは……私も心地よくて眠ってしまうのと……朝起きると大体寝ているレオ様が私をがっちり捕まえて逃してくれないからです。それで諦めて二度寝して、レオ様に寝顔を見られるわけです」

 あ、それ、前も言われたことがあったな。


「うん……仕方ない。ベルは柔らかいし、触り心地が良いから」

 抱き枕として最高なんだよ。うん。


「うう……なんか恥ずかしくなってきました。もう、寝ません?」


「そうだね。おやすみ」


「おやすみなさい」



 《次の日》

 SIDE:ゲルト


「魔砲が動かなかった?」

 朝起きて仕事場に向かうと、騎士に連行され、宰相に昨日の夜に魔砲を使ったが、作動しなかったことを知らされた。


「ああ、どういうことか聞かせてもらっても構わないかね? それと、私の兵が眠らされていたが、それも君の仕業か?」

 兵士が眠らされていた? どういうことだ?


「そ、そんなまさか、魔砲は見てみないことにはわかりませんが、私がどうやって兵士を眠らせたというのですか?」


「そんなの簡単だ。君が魔砲に小細工をして、兵士を眠らせるようにしかけたんだろう? 君ならそれが出来る」

 出来る……出来てしまうが……。


「……そんなことをして私にどんな意味が?」


「さあな。お前は所詮裏切り者だ。いつ俺たちを裏切るとも限らん」


「裏切るなんて、そんなことしませんよ!」

 王国を裏切って、俺はどこに逃げるんだ?


「さてな。それで、絶対にレオンスを殺せると豪語していた魔砲が駄目になったが、お前はどうする? これが失敗すれば、そうだな……殺すのは惜しいから犯罪奴隷に留めておいてやろう。まあ、奴隷になりたいというなら、今すぐしてやってもいいのだが」

 犯罪奴隷だと? ふざけるな。そんな物になるなら、死んだ方がマシだ。


「ま、まさか、今すぐに原因を調べて、明日までに次の策を用意しておきます」


「ああ、任せたよ。彼らをここに留めておける時間は精々一週間と言ったところか。それまでに殺せなければ、お前の人生は終わったと思え?」


「は、はい」

 くそ……なんとしても原因を突き止めなければ。

 俺は急いで魔砲のある部屋に向かった。



「……どういうことだ? 外面に傷はなし……魔法石も問題なし、付与も問題ない」

 この魔砲は、俺が限界まで付与をつけた特注品だ。

 全てはレオンスを殺すため、『即死』『追加攻撃』『広範囲爆発』『威力増強』『必要魔力低下』の五個も能力をつけたというのに……故障したというのは信じられなかった。

 そもそも。そんな簡単に壊れるような物を作った覚えはないんだ。

 先週、最後に行った試運転でもしっかりと作動した。

 それなのに、どうして壊れた?


「魔法陣は……ん? これは、発射の部分だけ消されている」

 これは人為的だな。てか、そもそも自然に魔方陣が消えることはない。


「なるほど……あいつ、気がついて事前に壊しておいたのか」

 親父に魔法具を習っていたレオンスなら、この複雑な魔方陣の中で、どこが発射の部分なのかわかるだろう。


「くそ……考えが甘かったな」

 それにしても、誰にも気がつかれずに内部の魔方陣だけを壊すとは、本当にチート野郎だな。


「……こうなったら、前みたいな確実性の高い方法で殺すか」

 流石に城の中で前みたいな爆弾は使えないと思っていたが、この際手段は選んでいられないだろう。


「そんなことはさせない」


「ん?」

 急に女の声が聞こえて振り返る……間も無く、俺の手に手錠が嵌められてしまった。

 こんな物、俺の豪腕があれば楽勝に……なに?


「ぐ、俺の力でも壊れないだと!?」


「レオンス様が造った手錠ですからね。スキルも魔法も使えませんよ」


「レオンス……そういうことか」

 あいつが造ったチートアイテム。それなら納得だ。

 くそ。詰んだな。


「そういうことです。とりあえず、眠っておいてください」


「ふん。もう、どうにでもな……れ……」

 俺は諦めて意識を手放した。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] >透過のスキルは優秀だな。壁だろうと天井だろうと、思い通りにすり抜けられる。 透過スキルのデメリットはどこにいったの?壁を全身すり抜けたら五感全てを失うでしょ? これまでの戦いの内…
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