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第十五話 ご機嫌取り

 

 決勝が終わり、すぐに表彰式に取りかかった。

 トーナメント戦に残った総勢十四人が闘技場にずらーっと並んでいる。

「まず、決勝トーナメントに勝ち残った全員に、ヘルマンやアルマ、ベルノルトが着けている物と同じ腕輪を授与する。三人以外は順番にシェリーとリーナに着けて貰って」

 ヘルマンたちが着けている腕輪とは、もちろん忠誠の腕輪だ。

 少し豪華な気もするけど、騎士たちのやる気を引き出す為だと思えば安いだろう。

 今回貰えなかった人たちも、次こそはって思いが強くなるだろうしね。


「次、二回戦で敗退した人たち。無償で即時自分の剣を魔剣にして貰える券。帝都の店でこれを見せればすぐに魔剣を手に入れられるよ。あと、おまけで魔銃もつけておく」

 全員に腕輪が行き渡ったのを確認してから、二回戦で敗退したバン、ロブ、ケル、ニックの四人に魔銃と師匠の店で使える魔剣交換券を渡した。

 未だに魔剣は手に入りづらく、うちの騎士団でも魔剣を持っているのはベルノルトだけだ。

 なるべく師匠の仕事は増やしたくなかったけど、四本だけ頼ませて貰った。


「準決勝敗退のベルノルトとスタン。二人には俺が創造した剣を渡そう。明日にでも二人で俺の部屋に来てくれ」

 今ここでは創造することは出来ないから明日。

 二人はそこまで貰えると思ってなかったのか、「え?」と声に出して驚いていた。特にスタンは自分が? という顔をしていた。

 でも、アルマに剣を造っていて、団長として頑張ってもらっているベルノルトに剣を造っていないのは申し訳なかったんだよね。

 かと言って理由なく渡すのも違う気がしたから、ベスト4の景品にすることにした。


「で、準優勝、優勝の二人は……出来る範囲なら、なんでも要望に答えるよ?」


「え、えっと……既に、私達は色々と貰っていますので……」

 そうなんだよね。強い鎧も剣も渡しちゃったからな。


「うん……ベルノルト、何がいいと思う?」


「そうですね……勲章、ミュルディーン家騎士最強の証はいかがでしょうか?」

 おお。良いね。最強の証って、男心を燻られるよな。


「採用。じゃあ、胸に着けるバッチにしよう。二人もベルノルトたちと一緒に明日来てくれ」

 これも、せっかくの優勝景品なんだから何か能力をつけたいしね。


「それじゃあ、今日は解散にしよう。皆の成長を見ることが出来てとても有意義な一日だった。また、来年にでも開催したいと思っているから、鍛錬を怠らないように」

 次はもっと面白い戦いになるんだろうな。


 それから闘技場に魔力を補充してから、城に帰ってきた。

「さて。引き分けだったことだし、二人で残った問題を解決しない?」

 今日はこれから今日の戦いの感想でも言い合いながら、皆でだらだらしてようと思ってたけど、そうもいかないドラゴンが一体残っていた。


「いいわよ。でも、どうするの? 山に返す? 泣き虫お姫様が急にいなくなってドラゴンたちが山から下りてきても困るでしょ?」

 そうなんだよね……。そんなことになったら帝国は戦争どころじゃなくなってしまう。

 だから、早く解決しないといけない。


「とりあえず、本人のご機嫌を取ってからか」

 俺に対して怒ったまま返しても、結果は返さなかった時と同じだからな。


「どう? 少しは落ち着いた?」

 部屋の隅で未だベルに抱きついたままの少女に、刺激しないよう気をつけながら優しく話しかけた。


「うう……来るな。お前なんか嫌いだ」


「そう言わないでさ。うん……」

 耳を塞がれてしまったら、何も会話が出来ないじゃないか……。

 これはどうしたものか。


「ベルさんには懐きましたね」

 ベルは優しいからね。それに、柔らかいし。


「俺は完全に嫌われちゃったな……」

 どうしたものかな。このまま返しても、ドラゴンを引き連れて復讐されそうで怖いし。


「こういう時は美味しいご飯を食べさせて、お風呂に入れてあげれば良いと思うよ! 私の時もそうだったでしょ?」


「ルーほど簡単にいくかな……?」

 別に、このドラゴンは飯にも困ってないだろうし、ルーみたいに騙されやすい性格じゃないと思うし。


「とりあえず、今日レオ様は関わらない方が良いと思います。一旦、落ち着いて貰わないことには話が聞けませんから」


「……そうだね。今日は皆に任せるよ」

 ベルの言うとおり、急ぐのは良くないか。

 俺は皆が部屋から出ていくの見送った。



「あれ? レオくんだけですか?」

 皆が晩飯に向かって、俺が書類に目を通していると、先にお風呂に入っていたリーナが部屋に入ってきた。


「うん。皆は竜王の接待中。俺は嫌われたから参加拒否された」


「あはは。確かに、レオくんに随分と泣かされてましたものね」


「あれだけ威張ってたのにな」

 ヘルマンたちに対してあんな大きな態度を取ってたんだから、最後までそれを続けろよな。


「まだ子供なんですよ。たぶん、明日には元気になっていると思います」

 子供で竜王か……あ、それは前竜王を拉致した俺が原因だった。

 あれ? 結論俺が悪くね?


「そ、それより、今日一日お疲れ様。本当、助かったよ。何か欲しいものはある?」

 別に、ちょっと罪悪感がしたから話を変えたわけじゃないからね?

 竜王のことよりもリーナに感謝を伝える方が大事だと思っただけだ。うん。


「いえ。あれぐらい大したことありませんよ。けど。貰える物は貰っておきましょう」


「何が欲しい?」


「二人きりで甘える時間をください」

 え? そんなこと?


「それくらいいつでも言ってくれれば良いのに」

 そんなことで遠慮しないでくれよ。いや、仕事に夢中になりすぎた俺が原因か。


「そんなわけにもいきませんよ。最近のレオくんは忙しいですし。あとは……シェリーやエルシーさんたちにも悪いじゃないですか?」


「うん……。もう少し皆と過ごす時間を増やすか」

 愛想を尽かされないためにも、こういうところはしっかりしないと。


「そうしてください。ということで、失礼しますね」


「え?」


「うふふ。ちょっとはしたないですね」

 ニヤリと笑ったリーナが近づいてきたと思ったら、椅子に座った俺と向き合うよう俺の膝の上に座った。


「二人きりで甘える時間って今なの?」

 てっきり、あとでデートでもするのかと思った。


「はい。今日くらいしかチャンスはありませんから」

 そんなことはないと思うけど……まあ、いいか。


「なんか、恥ずかしいな……」

 お風呂上がりのリーナが温かくていい匂いするのが、余計に変な気持ちにしてくるな。


「ふふ。こんなにくっつくのは久しぶりですからね」


「覚えてますか? 寮生活が始まったばかりで、シェリーがベルに怒った時のこと」


「ああ。リーナがキス出来なかった時のこと?」

 懐かしいな。あとちょっとのところでシェリーが入ってきたんだよね。


「え!? あの時、目を開けてたんですか!?」


「あれ? あ、そういえば」

 目を閉じててって言われてたのに、俺は開けてたんだった。


「もう……お仕置きです」


「いた! いたいって」

 ぷくーっと頬を膨らませたリーナが、俺のほっぺたを抓って引張りはじめた。


「あの時、ここしかないと思って恥ずかしいのを我慢してキスをしようとしたのに……シェリーに邪魔されて、凄く悲しかったんですからね」


「リーナの顔、真っ赤だったもんね」

 あの時のリーナ、可愛かったな。


「うぎぎぎ」


「もう、しかもそれが見られていたなんて……。そういえば、昔からレオくんは覗き見が好きでしたね」


「いや。そんなことは……いたたた。わかった。ごめん。認めるから許して」


「最近は透視の能力まで持って……いつ裸を見られているかわかりませんね」

 俺がいくら許しを乞いてもリーナはほっぺたを引っ張りながら、俺の痛いところを突いてくる。


「見てない……本当に見てないから許して……」


「わかりました。これくらいにしておきましょう。せっかくの甘えられる時間がもったいないですから」

 やっと終わった~。俺はまだヒリヒリしているほっぺたを擦った。

 まあ、これくらいで俺の悪行が許されるなら安いものか。


「そういえば、リーナはまだ教国の故郷に帰りたいと思ってる?」

 俺は話をさっさと切り替えるためにも、最近リーナに聞いておきたかったことを聞いてみた。


「正直……もう小さい時ほどその気持ちは強くありませんね。もう、私にとっての故郷はここか、帝都のお家です」


「そうだよね……」

 そうなる前に、一回は連れて行ってあげたかったな。


「でも、いつかお母さんたちのお墓参りはしたいと思っていますよ」


「うん。戦争が終わって、世界が平和になったら……リーナのお母さんとお父さんに結婚の報告をしに行かないと」


「ああ、その報告は絶対に必要です。お父さんとお母さんに素敵な旦那様の自慢をしないといけませんね」


「旦那様か……。そういえば、俺のことを旦那様って呼ばないの?」

 ジョゼとフランクが付き合い始めた日にリーナ、確か俺のこと旦那様呼びをするって言ってなかったっけ?


「さ、流石に……まだ早いかな……って。それに、いざ呼ぼうとすると恥ずかしくて」


「え~。それくらい恥ずかしくないって」

 こんなくっついてキスするくらい平気なのに?


「そ、それじゃあ、二人きりの時だけ呼ばせて貰いますね?」


「どうぞ」


「だ、旦那様……愛してますわ」

 おお。なんかこっちまで恥ずかしくなってくるな。

 顔を赤くして、キスまでしてきたもんだから、こっちまで顔が真っ赤になってしまったじゃないか。


「あら、アツアツだこと」


「え? あ、シェ、シェリー」


「い、いつからいたの?」

 気がついたら、シェリーが部屋の中にいた。


「ちょうど今よ。リーナがレオのことを旦那様って呼んでたくらい」


「そ、そうですか……」

 今のを聞かれていたのを意識したのか、リーナの顔がさらに赤くなった。


「まあいいわ。どうせ、今日一日働いていたリーナへのご褒美なんでしょ?」


「は、はい」


「まあ、今のことを皆に広められたくなかったら、私も少しくらいレオと二人きりになる時間を貰っても文句は言わないでね?」


「も、もちろんです……」

 流石シェリー、そういうところは抜け目ないな。


「ふふ。ギーレの報告をしに来たら思わぬ収穫」


「ギーレ?」


「あの泣き虫ドラゴンの名前よ。案外、単純だったわよ? 美味しいご飯と温かいお風呂を体験したら、ここに住む気満々よ」

 へえ。ギーレって名前なのか。

 それに、思っていたよりも単純。ルー並みだったか。


 けど……

「返さないと、危なくない?」

 山に残ったドラゴンたちは大丈夫なのか?


「それが、王が数年いなくても山のドラゴンは気にしないって。基本、ドラゴンは怠け者らしくて、自分の縄張りを荒らされない限りずっと寝てるらしいわ。その証拠に、ルーが山で暴れた後、一体もルーを追ってドラゴンが山から下りて暴れるなんてことはなかったでしょ?」

 あ、よく考えたらルーがドラゴンをたくさん殺していたことを忘れていたな。

 ドラゴンが怠け者で助かった……。


「確かに。言われてみれば。じゃあ、本当にここで暮らすつもりなのか」


「その……またレオくんのお嫁さんが増えてしまうんですか?」

 え? 俺、めっちゃ嫌われてるんだよ? その心配は大丈夫だろ。


「あ、それはないわ。私がそこら辺、確認しないと思う?」

 まあね。嫉妬深いシェリーだもん。

 俺たちは黙って首を横に振った。


「あの子にレオのことが好きになる可能性があるか色々と探ってみたの」


「で、どうしてないと思ったのですか?」


「あの子……ドラゴンはそもそも人との間に子供は出来ないらしいって。だから、人と番いになることは絶対にないらしいわ」

 へえ。ドラゴンは見た目的にトカゲで、爬虫類だもんな。


「ということは、ペット?」


「せめて、番犬って言ってあげなよ」


「でも、もう犬はいますよ?」

 そう言って、リーナが影からヘルハウンドを出した。

 そうだね……。まだ活躍してないけど、番犬はいたな。


「ま、まあ、空を飛べるのは今後役に立つと思うから。ドラゴンはいるだけでも威圧になるし」

 果たして俺を乗せてくれるのかは置いといて、空の移動はドラゴンがいれば楽だろうからね。


「そうね。戦争でも使えるんじゃない?」


「それなら、王国の遠征もドラゴンで移動するのも面白そうじゃないですか? 王国への威圧にもなりますし」


「いいね。それ採用」


「やった~」

 そうとなったら、どうにか仲良くならないといけないか。

 ドラゴンが喜ぶ物ってなんだろう?



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