第十四話 騎士団最強決定戦③
ついに決勝戦。
もちろん、残っていた準決勝の試合は順当にヘルマンが勝った。
アルマ対ヘルマン。
どっちが勝つのか予想するのは正直難しいな。
実際、二人のこれまで行ってきた模擬戦の累計勝利数はほとんど変わらなかったはずだ。
新しく得たスキルも全く同じ。
「この二人……難しいわね。うん……」
「この勝負は直感で決めた方が良いと思うよ。悩むだけ無駄」
この勝負、勝者は実力よりも運で左右される気がするよ。
「そうね。じゃあ、ヘルマンにするわ」
「そこはアルマじゃないんだね」
「うん。ヘルマンの方が持ってるスキル多いし、ヘルマンの方が有利な気がする」
「まあ、そうかもしれないね」
実にシンプルな予想だ。良いと思うよ。
「え~何それ。レオはどっちが勝つと思うの?」
「俺はどっちが勝ってもおかしくないと思ってるから」
「じゃあ、レオの予想はアルマってことで」
何故そうなる。
「別に賭けてるわけじゃないんだから、無理にどっちが勝つか予想する必要ある?」
俺はどっちも応援したいんだけど……。まあ、片方を応援した方が盛り上がれるか。
「じゃあ、何か賭ける? 予想が外れた方が泣き虫ドラゴンのお相手をするとか」
「それくらいなら別に良いけど……ん? あいつら、勝手に始まってるぞ」
気がついたら、二人は既に剣を抜いていた。
試合前に無駄話していた俺も悪いけどさ、合図くらい待っていてくれても……。
「良いんじゃない? 散々戦ってきたんだろうし、自分たちのタイミングがあるのよ」
SIDE:ヘルマン
いつもより観客が多いだけで、僕たちはいつもとやることは変わらない。
黙って剣を突き出し、お互いの剣が触れた瞬間に僕たちの勝負は始まる。
そして、普段ならここでお互いに距離を取って斬撃を飛ばし合うところだが……。
今回は始めから全力でいかせてもらおう。
僕は剣が触れた瞬間、僕はいつもとは逆にアルマと距離を縮めようと前進した。
すると、アルマも同じことを考えていたのか、お互いの剣と剣が顔の前で衝突した。
額がぶつかりそうなほど顔が近くに寄った僕たちは、思わずふっと吹き出してしまう。
「今日は負けないわよ?」
「こっちこそ負けるつもりはないさ」
お互い、それだけ言って距離を取る。
やっぱり、いつも通りになってしまうな。
斬撃を飛ばしては相手の斬撃を避ける、の繰り返しが始まった。
始まったはずなんだけど……アルマは僕の斬撃を避けなかった。
当たれば防御を無視してどんな物も真っ二つにしてしまう斬撃だぞ?
それを怖がらずにスキルで透過させながら前進してくるとは……。
「ここで下がるのはかっこ悪いな。よし、こうなったら前進あるのみ」
僕は斬撃を飛ばすのを止めると魔眼に魔力を送り、アルマの斬撃を最小の動作で避けながらアルマに向かって走り始めた。
透過のスキルにはいくつか弱点がある。
まず、認識できていなかった攻撃は透過出来ないこと。
例えば、背後から不意を突かれれば、相手の攻撃を透過することが出来ない。
次に、透過は連続で三秒までしか使えないのと、使ったら使った分だけ間を置かないといけないってこと。
最後に、透過を使った部位の感覚がなくなること。
目の部分で透過を使えばその間だけ視力を失い、耳を透過させれば聴力を失う。
逆に言えば、この弱点を突かない限り無敵なスキルってことだけどね。
本当、魔眼もそうだけど……スキルってズルだよね。
そんなことを考えているうちに、アルマがもう目の前に来ていた。
さて、ここからは我慢比べの近接勝負だ。
SIDE:レオンス
「これぞ決勝戦って感じだな」
勝手に始まってしまったが、戦いの内容は手に汗握る白熱した戦いとなっている。
距離を取ってからの駆け引きも凄まじいな。
「うん……アルマの方が優勢?」
「いや、アルマの方が手数多いからそう見えるだけだよ」
アルマはスピードで相手を圧倒するタイプだからね。
それに比べて、ヘルマンは一刀両断。魔眼で相手の動きを読んで一発で決めにいくタイプだ。
どうしてもヘルマンが防戦一方になってしまっているように見えるが、そんなことはない。
まあ、アルマが透過のスキルを使い熟し始めたことを考えると、アルマが優勢なのも間違いではないのかもしれないけど。
ヘルマンの会心の一撃を透過があれば簡単に避けられるからね。
それでも、ヘルマンならやってくれるだろう。あれ? 俺はどっちを応援していたんだっけ?
SIDE:アルマ
相変わらず当たらない。
魔眼で見切られても回避が追いつかないように攻撃しても透過で剣がすり抜けるし……。
このままだと、いつもの私が負けるパターンだわ。
何とかしないと。
この絶対防御にも穴はある。
目が届かない範囲は魔眼が使えないし、透過するにも反応が遅れる。
でも、そう簡単に上手くはいかない。
まず目を潰してからの方が確実。
よし。こうなったら、ここでスタミナを使い切るつもりでやるわよ。
どうせ、これを続けていたら泥試合になるだけだからね。
私はスピードを一段階上げ、頭への攻撃を繰り返した。
ヘルマンの反応が遅れて透過を使った瞬間に、私の勝ち。
私の魔力が無くなったらヘルマンの勝ち。
さあ、勝負よ。
と思っていたら、すぐにヘルマンが透過のスキルを使った。
え? 私の考えに気がついていないの?
まあいいわ。どっちにしても今日最大のチャンス!
私は剣を振り切らず、頭に刺さったままにしてヘルマンの背後に回ってもう片方の剣をヘルマンの足に向かって振り下ろした。
やった! 勝った。
手応えを感じ、私は勝利を確信した。
「え?」
ガッツポーズをしようとした瞬間、私は倒れていた。
いや、ヘルマンに倒されていた。覆い被さるように。
「まだ勝負は終わっていないよ」
「あ……」
倒れた私に剣が突き刺された。
SIDE:レオンス
「最後の、あえてヘルマンが誘ったんだろうな」
「でも、アルマの毒はどうしたの? あ、足を切り落としてる」
「足を切られた瞬間に元から切り落としたんだよ。ほら、右足が根元から切り落とされているだろ?」
この結果は、アルマが誘いに乗ってくる、胴体に攻撃されない、という二つの賭けに勝った結果だろう。
頭が悪かった面影は、もう見当たらないな。
「へえ……。それで、最後は自分の顔から抜いたアルマの剣で顔に突き刺し返したってわけね。目が見えない状態だと、透過で逃げることも出来ないだろうし……ヘルマンの技ありね。引き分けなのが悔しいけど」
「アルマが土壇場で、覆い被さっているヘルマンの背中から自分ごと剣を突き刺したのは上手かったな」
同時に毒で死ぬことで、ヘルマンの勝ちをなんとかなくした。
勝ちを確信して油断した瞬間によくあの判断が出来たよ。
「最強決定戦、やって良かったな」
自分の騎士たちを知ることが出来た良い機会だったし、何より王国で活躍して貰う予定のアルマとヘルマンが今日一日で強くなれたのはとても大きな収穫だろう。
回復が終わって、戦いの感想でも言い合っているのか、闘技場の中心で向き合って座っている二人を眺めながら、この大会の成功に自然と微笑んでしまった。
王国、そして勇者にゲルト。こっちはもう、準備万端だぞ?