第十三話 騎士団最強決定戦②
「シクシクシク……」
後ろでベルに抱きつきながら泣いていたドラゴン少女も大分落ち着いてきた頃、トーナメント一回戦が終わろうとしていた。
トーナメントは、十二人に公平なくじで割り振られている。
だから、アルマ対副団長やベルノルトの奥さん対獣人のケルと言った一回戦にはもったいないような組み合わせとなってしまった。
と思ったのだが、アルマと副団長の戦いは終始副団長が防戦一方で終わってしまった。
動きが速くて一撃でも擦ったら死ぬ毒攻撃のアルマには、ゆっくりで防御主体の副団長には最悪の相手だったな。
それに比べて、ケルとベルノルトの奥さんによる一戦はとても白熱した戦いとなった。
前半は魔法でベルノルトの奥さんが優勢だったのだが、魔力が減って威力を抑え始めてからはケルのスピードが猛威を振るい、そのままベルノルトの奥さんを倒してしまった。
たらればになってしまうが、ベルノルトの奥さんが魔力切れ覚悟で全力の魔法を撃ち続けていれば、倒れていたのはケルだった気がする。
まあ、ケルが一切表情を変えないのを見て、このままやっても魔力切れで負けると判断したんだろう。
実際は、何回か当たっていて、ケルは相当ダメージを負っていたんだけどな。
そう考えると、ケルの駆け引きを褒めるべきか。
「あ、ニックが勝った。まさか、ニックがここまで強いとは……」
どうやら最後の古株のラザと新人ニックとの戦いが終わったようだ。
泥臭い駆け引きなど一切無い我慢比べの戦いだったが、手に汗握る良い戦いだった。
「これで、上位八人が決まったな。ベルノルトとヘルマンに、バン、アルマ、ロブ、ケル、スタン、ニック。準々決勝はどれも見応えがありそうだが、ケルとスタンの戦いがどうなるか楽しみだな」
それぞれの予選グループで活躍した人たちがしっかりと勝ち残ってきた。
ベルノルト、ヘルマン、アルマは勝ち残るとして……残り一枠がどうなるか楽しみだ。
「うん……ケルが勝つ気がする」
「果たしてどうかな?」
《三十分後》
思っていた通り、ベルノルトとアルマは危なげなく勝った。
アルマ、やっぱりシードにしておくべきだったな……。毒の剣と戦闘スタイルの相性が良すぎる。
次からは、今回ベスト4に残った人をシードにした方がいいな。
そして、準々決勝一番結果が気になる戦いが始まった。
「え? 魔法を使わないの?」
「練度の低い魔法だと勝てないと思ったんだと思うよ」
ベルノルトの奥さんが勝てなかったんだ。自分の魔法では勝てないことくらいわかるだろう。
それに、今は魔法を使っているけど、元は剣だけでこの騎士団に入った男だからな。剣も十分強いはずだ。
「うん……ケルが簡単に勝つと思ったんだけど予想が外れた」
「むしろ、スタンが勝ちそうだな」
ケルの攻撃を剣でしっかりと受けながら、ケルのスピードを殺すように魔法で牽制している。
これには、ケルも為す術がなさそうだ。
「お義姉さんの戦い方に似てる……。そういえば、お義姉さんが騎士団全員を叩きのめしたことがあったわね」
ああ、そんなこと言っていたな。
「姉ちゃんと比べるとまだまだだけど、その分スタンはこれからも強くなりそうだな」
そうこう言っているうちに、ケルの胸に剣が突き刺さった。
どうやら、対抗策が思い浮かぶ前にやられてしまったようだ。
「あ~予想が外れた~」
「まあ、それだけ全員の強さが拮抗しているってことだから」
組み合わせによっては、全く違う人が勝ち残っていただろうし。
「よし、次からは準決勝戦だ。何と言ってもベルノルト対アルマの師弟対決が見物だな」
「これは流石にどっちが勝つのか予想できないわね。普段の練習だと、ベルノルトさんが負けたところは見たことがないけど、アルマは実戦向きだから……」
普段の模擬戦では毒の剣は使えないだろうからな。
「勝負の鍵は、アルマのスキルってところかな」
SIDE:アルマ
うう……緊張する。
遂にここまで来ちゃった。今日のこの試合の為に準備してきたけど、それでも勝てる気がしないな……。
スキルを使っても、今のところベルノルトさんには勝てたことないし……隠していたあの技が上手くいけると思えないし……。
「大丈夫だよ。アルマならきっと勝てる。今日は師匠に貰った剣も使えるんだろ? もっと自信を持とうよ」
私が緊張していると、後ろから次に試合をするヘルマンが励ましてきた。
「自分の試合があるのに余裕ね……」
「まあ、どっちが強いのか決着をつけたいだろ? 負けられたら困るから」
励ましてきたと思ったら、むかつく言い方ね。
「何よ……見てなさい! ベルノルトさんもあなたも楽勝なんだから!」
「それは楽しみだ。頑張ってね」
「ありがとう」
ヘルマンに勇気づけられた私は、胸を張って入場した。
「「……」」
闘技場に入場して、お互い向かい合っても一言も話さず、剣を抜く。
「それじゃあ、始め!」
レオンス様の声が聞こえると共に、ベルノルトさんが突っ込んできた。
私の剣の飛ぶ斬撃を使わせない為に、張り付いて戦うつもりね……。
力が弱い私は、受けに回ったらすぐに負けちゃう。
速さを活かして私から攻めないと。
ベルノルトさんの突撃を回避しつつ、私はベルノルトさんの真横から攻撃を加える。
簡単に防御されたけど、足を止めずにどんどん攻撃していく。
焦りは禁物だけど……このままだといつも通りだわ。
ベルノルトさんは淡々と防御を続けて、いつか見せる私の隙を狙っている。
この距離での戦いだと、いつか私がやられる。
でも、距離を取ろうとすると隙になる……。
まあ、こうなることはわかっていたんだけどね。
対策は考えてきた。完成度が低くて成功するかは微妙だけど。
と言っても、どうせこのまま負けを待つくらいなら、一か八かの賭けに出るしかない……か。
私は、背中に回り込むと見せかけて背後に向かって思いっきりジャンプした。
一瞬反応に遅れたベルノルトさんに向けて毒の斬撃を飛ばす。
これが少しでも擦れば、私の勝ちになる。
でも、そんなことになるはずがなく、ベルノルトさんは斬撃を避けながらこっちに向かって来た。
さあ、ここからが勝負だ。
私はベルノルトさんに向けて斬撃を出来る限りたくさん飛ばし続ける。
それでも、ベルノルトさんはジグザグに走りながら全て避けてしまう。
私の飛ぶ斬撃は、ヘルマンに比べたら特殊効果がある分、飛ぶ範囲も距離も短い。
だから、不意を突かない限り、ベルノルトさんレベル相手には絶対に当たらない。
そう……そんなことはわかっている。
ふう。後は、成功することだけを祈るだけ。
私は斬撃を止めて、こっちに向かってくるベルノルトさんに自分から突撃しにいった。
SIDE:レオンス
透過のスキルは……簡単そうに見えるが、実際は違う。
体内に異物が侵入するのを拒否しないことが必要で、これは凄く難しい。
例えば、普通剣が胸に突き刺さろうとすると人は避けようとしてしまうし、抗おうとして身体が自然と強張ってしまう。
それがこのスキルには許されない。少しでも、異物が体内に入るのを拒否すれば、スキルは失敗する。
斬られる時に、少しでも身構えるだけで失敗してしまうスキルだ。
本来なら長い年月をかけて、じっくりと身体を慣らしていかないといけない。
だが、アルマやヘルマンはまだ2、3日前に習得したばかり。
成功率はまだまだ低いはずだ。
今からアルマがやろうとしていることを思い浮かべながら、その大変さを思わず考えてしまった。
さて、アルマはどこまで頑張れるかな?
SIDE:アルマ
このスキルは無心になるのが一番効果的。
剣が飛んできても、無心でそれが自分の中を通過していくことを考えているだけ。
突撃した私は、待ち構えるように剣を振り下ろすベルノルトさんをすり抜け、身体をひねりながらベルノルトさんの背中目掛けて斬撃を飛ばす。
これには、ベルノルトさんもさっきまでの余裕は無くなり、転がるように斬撃を避けた。
チャンス!
そんなことを思っていると、ベルノルトさんが私の目を狙って剣を投げ飛ばしてきた。
迷ったらいけない。瞬きしただけでも、たぶんダメ。
大丈夫。わたしならいける。
私は怖がらず、剣に向かって突撃した。
ベルノルトさんは私が避けると思っていたのか、珍しく驚きの表情をしていた。
が、そんなことは気にせず、剣が頭をすり抜けていくのを感じながらベルノルトさんを斬りつけた。
ベルノルトさんは避けるが、若干間に合わず右腕に少しだけ剣先が触れてしまった。
普通なら、何ともない切り傷で済むけど……この剣はそれが命取り。
ベルノルトさんは毒にやられて倒れた。
「ふう……やっぱり、まだまだね。いつもの模擬戦だったら負けていたのは私の方ね」
完全に剣の性能に助けられた勝利だった。
やっぱり、私はまだまだだわ。
「そうかもな。でも、勝ちは勝ちだ。命のやり取りでズルなんて関係無い。使える技は全て使って勝つんだよ」
倒れたはずのベルノルトさんが起き上がっていた。
どうやら、もう回復されたみたいだ。
「ベルノルトさん……」
「最後の頭に飛ばした剣、あれのすり抜けに成功されるとは思わなかった。普通にお前は強くなったと思うぞ」
「あ、ありがとうございます」
「よし。俺に勝ったんだから優勝しろよ? 優勝したアルマに負けたなら、俺も言い訳出来るからよ」
「わかりました。絶対、勝ってみせます」
「おう。頑張れよ!」
ベルノルトさんの背中を見ながら、私は絶対優勝すると心に誓った。
ヘルマン、絶対負けないからね!