第十二話 昼の催し
予選が終わり、一旦昼休憩の時間となり皆がワイワイやっているなか俺たちは魔力を注いでいた。
やっぱり、魔力が多いシェリーとルーがいると一瞬で終わっていいな。
「やっぱり、皆でやると早くて助かるよ」
「それは良かったわ。それにしても、この施設本当に燃費が悪いわね。私たちがここまで魔力を注がないといけないとか、普段は使えないじゃない」
「まあね。大人数の殺し合いを想定して造っていないからね。週に一回くらい、一対一の殺し合いが出来る程度にしかこのダンジョンは想定されていないから」
そもそも、自立したダンジョンを想定して造ってない。
「よし、魔力も満タンになったことだし、昼の特別マッチの準備をするか」
そう言いながら、俺はダンジョンコアを操作していく。
特別マッチとは、魔物生成のテストを兼ねたお昼の余興だ。
「フランク、ヘルマン、ベルノルトさんの三人でしょ? ドラゴンくらいの魔物を出さないと見世物としてつまらなくない?」
「そうだね……。じゃあ、あの三人が相手でも大丈夫な闘技場に入りそうなドラゴンでよろしく!」
大きいと困るから、少し小さめで強いドラゴンが生成されるようダンジョンコアを操作した。
『うわあ~~』
「あ、もう出たみたいだね。それじゃあ、観戦しようか」
皆の驚いた声が聞こえたってことは、成功したってことだろう。
一応、ダンジョンコアでドラゴンが生成されたのを確認してから、俺たちは観客席に転移した。
「お、ちゃんとドラゴンがいる」
戻って来ると、闘技場のど真ん中に紫色の綺麗なドラゴンが陣取っていた。
「でも、どうして動かないの?」
「ダンジョンのボスと同じだよ。ボスの部屋に人が入らないと戦闘が始まらないんだ。この場合だと、闘技場にフランクたちが入った瞬間に始まる」
この闘技場は、外から見えるボス部屋って感じなんだよ。
「へえ。それより、早く皆に説明してあげないと可哀そうだわ」
シェリーに言われて観客席を見渡してみると、さっきまでワイワイ騒いでいた騎士たちが剣に手をかけて固まっていた。
確かに、あれは可哀そうだな。
「午後の試合もあるし、さっそく始めるか」
『はーい。皆聞こえてるかな? これから、皆が昼飯を食べている間に、特別マッチを行います! 参加者は、今回のシード権を獲得していたヘルマンとベルノルト! それと、スペシャルゲストとして、魔法が得意な俺の友人フランクにもゲストとして参加して貰います! それでは、三人は中に入って戦闘を始めてくれ!』
魔法で声を闘技場に響かせながら、手短に説明した。
皆、昼に何かやることは知っていたはずだから、このくらいの説明で大丈夫だろ。
「お、始まった」
三人が闘技場内に三人が入ってくると、騎士たちの歓声と共に、ドラゴンが動き始めた。
うお。思っていたよりも速いな。ヘルマンの斬撃を軽々避けてる。
フランクの魔法は当たってはいるけど……速度重視だからそこまでダメージは与えられていないな。
ベルノルトも飛んでる敵に攻撃するのは難しそうだな。
うん……上手く連携してドラゴンの羽を切り落とそうとしているが、三人の方が劣勢だな。
「なにこれ……あのドラゴン強すぎじゃない? 速くて頑丈で、知能もあるなんて……」
「ドラゴンだからね。まあ、三人ともまだ本気を出してないだろうから大丈夫だよ」
まだ、ヘルマンがスキルを使ってない。
魔眼を使い始めただけでも、少しは形勢が三人に傾いていくだろう。
SIDE:ベルノルト
「くそ……こういう時、本当に騎士は無力だな。せめて、あの翼をどうにかなれば……。だが、あの速さで翼を斬るのは面倒だ」
「スキルを使えば、僕があの速さについていけると思います!」
魔眼か……。あれなら、先回りして攻撃出来るか。
「そうだな。頼んだ。あいつの注意は俺が引き受ける」
ヘルマンはまだ魔眼を完全に使いこなせていない。
魔眼を使うと、必ず隙が生まれてしまう。
それをカバーするのが、俺の役目だろう。
「フランク様! あなたは魔法をなるべく顔に狙って撃ってください! 目隠しになるので」
ダメージにならなくとも、目に攻撃がくればあいつも避けるだろう。
そうなれば、ヘルマンへの注意も薄まる。
そして、作戦を開始した。
ヘルマンが魔眼を解放する。それと同時に、フランク様が的をドラゴンの顔に絞っていく。
もちろん、魔法が当たることは無いが、それでいい。
ん? こっちに……いや、フランク様狙いか。
「ふん! おら、こっちだ!」
フランク様にしかけられたドラゴンの爪での攻撃を剣で受け止めた。
くっ……耐えるので精一杯だ。
「だが、問題無い」
「せい!」
ドラゴンが危険を察知して飛ぼうとするが、それを先読みしていたヘルマンがしっかりと斬撃を当てた。
「ギャア~~~」
羽を無くし、ドラゴンは地面と強く衝突した。
「よくやった。これで、あいつは大きなトカゲ同然だ」
飛べないドラゴンなら、俺でも攻撃出来る。
ここから、俺たちのターンだ。
「あ、避けてください!」
油断したつもりは無かっただが……気がついたらドラゴンから大量の氷が飛んできていた。
ドラゴンが氷だと?
「大丈夫ですか!?」
ドラゴンの魔法を正面から受けた俺に、ヘルマンが急いで駆け寄ってきた。
それに、俺は大丈夫だと落ち着かせる。
「ああ、問題ない。これくらいの怪我なら、リアーナ様が治してくれる。それにしても……あいつ」
防御に使った左腕が無くなったことより衝撃的なことが、目の前のドラゴンに起きていた。
「え?」
「う、うそ……」
「誰がトカゲだと? この身体なら、この狭い空間でも戦えるぞ?」
そう。ドラゴンが人に変わっていた。
SIDE:レオンス
ヘルマンがドラゴンの羽を切ったと思ったら、人になったドラゴンがベルノルトの腕を千切っていた。
「ね、ねえ……ドラゴンが人になったんだけど……あれって、レオの想定通りなの?」
「い、いや……」
俺もどうなっているのか全く把握出来ていない。
どういうことだ? あのドラゴン、人になれたのか?
鑑定した時には、そんな情報無かったし……。
「じゃ、じゃあ……危なくない?」
「ま、まあ……もしものことがあっても三人が死ぬことはないし……」
そう。幸い、このダンジョンで死ぬことはないから大丈夫だよ。うん。
「午後の魔力足りる?」
「うん……三人を信じよう」
もう信じるしかない。
SIDE:フランク
ドラゴンが人になり、ベルノルトさんの左腕がやられてから、俺たちはお互いに様子を見合っていた。
先に動いたら死ぬ。そんな空気が漂っていた。
「二人とも気をつけろ……。あれ、小さくなったがヤバい匂いがプンプンする」
「そうですね……凄い魔力です」
人になったことで魔力が凝縮され、魔眼で目の前の女性を見ると、とても色濃く見える。
シェリーに負けない魔力なのは間違い無い。
「うん? さっきまでの勢いはどうした?」
そう聞かれても、誰も動かない。
いや、動けない。
「……仕方ない。では、私から行くとしよう」
俺の目では追えなかった。
ドラゴン人間が動いたと思ったら、キン! と音を鳴らしてヘルマンと衝突していた。
「ほう……時の魔眼の使い手か。とすると、魔の魔眼と遠の魔眼、念の魔眼、知の魔眼を警戒しておくべきだな」
このドラゴン、本当に底が知れない。
喋り始めたと思ったら、経験が豊富な年長の戦士であるかのような知識や言葉使い。
レオのやつ……とんでもない魔物を創造しやがったな。
「まあ良い。お前が一番の脅威だ。だから、最初に殺すとしよう」
あれは……
「ヘルマン逃げて!」
魔眼で魔力が急速に動き始めたのを見て、ヘルマンに逃げるように叫び、全力の魔力で攻撃した。
危なかった。少しでも判断が遅れていたら、さっきのベルノルトさんのようになっていただろう。
「あいつ……魔の魔眼を持っているな。それに、魔法の威力もドラゴン並……。警戒すべきはこの二人か」
当然のように無傷の女は、砕けた岩を払いながら俺を睨んだ。
足がすくむ……けど、なんとか平常心を保たないと。
「二人だけ? 果たしてそうか?」
俺たちに気を取られている隙に、ベルノルトさんが背後から剣を振り下ろした。
もちろん、女は手をドラゴンの時のように変え、剣を受け止めてしまった。
だが……受け止めるだけで精一杯だったようだ。
「ぐ……なるほど、確かに侮るのは良くないな。三人とも良き戦士だ」
ベルノルトさんの間合いから離脱したと思ったら、まだ余裕だと言いたげな笑顔を見せ、上から目線の褒め言葉を送ってきた。
「ふん。手加減している奴に言われても嬉しくないな」
「それもそうか。なら、私も本気で戦わせて貰おう」
「な、なんだこれ……」
「か、身体が、重い……」
ドラゴン女が本気宣言を出すと、急に身体が重くなって動けなくなってしまった。
な、何をされたんだ?
「そうだろう。これが歴代の竜王だけが使えるスキルだ。もう、動けまい?」
「「いや、まだだ!」」
俺が完全に地面で這いつくばっている状況の中、ベルノルトさんとヘルマンの二人が地下強く立ち上がった。
「やはり、前衛二人は動けるか。だが、その状態で私の動きについてこられるかな?」
「ヘルマン……あれを使え。一発で終わらせるぞ」
あれってことは……ヘルマンが彼女と最近手に入れたスキルか?
上手くいけるか? いや、意表は突けるかもしれない。
「わかりました」
「まだ何か隠しているのか。なら、それを使わせないようさっさと殺す」
「させない」
動き出したのを見て、ヘルマンが先読みして攻撃を受け止めた。
そして、ベルノルトさんと俺がすぐに攻撃を加える。
「連携として申し分ないが、私を倒すまでに至らないな」
ドラゴンだった女は、軽々と全ての攻撃を避けた。
やればやるほど、こいつに勝てる未来が見えなくなってくる。
レオは、俺たちにこの絶望を体験させたかったのか?
「だが、お前もまだ俺たちを倒せていないだろう?」
俺が半分……いや、ほとんど諦めていると、ニヤリと笑って挑発した。
う、嘘だろ……あの人、まだやる気だ。
「そうだな……良いだろう」
また、挑発に乗ったドラゴン女はまた俺には目で追えない速さで動いた。
「まず、お前からだ」
ヘルマンの背後にいたドラゴン女は、そう言うとヘルマンの心臓目掛けて腕を突き出した。
当然……ドラゴン女の手は、ヘルマンの心臓を綺麗に貫通した。
貫通したんだが……何の抵抗も無かったかのように、ドラゴン女は前のめりになり、ヘルマンをすり抜けるように倒れた。
「なに!?」
「これでどうだ!」
倒れて混乱しているドラゴン女に目掛けて、ヘルマンが剣を振り下ろした。
「……避けきれなかったか。だが、お前たちのやりたかったことはわかった。片腕でもどうにかなるだろう」
片腕……ここまで隙を突いても片腕が限界だった。
あいつは片腕になったけど、これ以上策が無い俺たちに勝ち目は無いだろう。
「よし。全員まとめて楽に殺してやる」
「くそ……」
「はい! 終わり!」
三人とも全員が諦めた瞬間、全ての現況……レオが現れた。
SIDE:レオンス
「な、何なんだ……お前は? その魔力……」
俺が突然現れたことよりも、目の前の女性は俺の魔力の方が驚きのようだ。
なんとか間に合った。正直、ここまで強いドラゴンを呼び出したつもりは無かった。
もしかしたら、ダンジョンコアに魔力が有り余っていたのかもしれないな。
俺より魔力が多いルーがいたわけだし。
「俺が誰か? お前の主だよ」
このダンジョンを造った人なんだから、こいつは俺に逆らうことは無いはず……。
正直、戦えば絶対に俺が勝てるが、面倒な展開にはなるかもしれない。
どうにか、これで収まってくれると助かるんだけどな……。
「主? ふざけるな。いや、ここはダンジョンか。なるほど……先代もお前が原因か?」
「先代? どういうこと?」
てか、創造主と認識されても反抗的じゃないか?
もしかして、この展開は……。
「とぼけても無駄だ。最近、お前が造ったダンジョンにブルードラゴンがいるはずだ」
ブルードラゴン? どこかで……あ、騎士団の訓練場だ!
「……確かにいた。もしかして、あれも人になるの?」
「あたりまえだ。あの御方は五代目竜王セグル。歴代最強と名高いドラゴンだ」
そんな強いドラゴンが三十階のボス!? 確かに、最高難易度のダンジョンかもしれないけど……やり過ぎだろ。
「へ、へえ……。まさか、ダンジョンの魔物が現実世界から連れて来られているとは知らなかった」
てっきり、創造魔法の力で造られた魔物かと思っていたけど。
「いや、それは創造者による。前代の魔王はお前と同じ手法だった。過去にいたとされる創造士は一体一体創造していたらしい」
なるほど……ダンジョンコアで魔物を生成するんじゃなくて、自分で魔物を生成しないといけなかったのか。
それならなっとくだ。
「そうなんだ……ありがとう。参考になったよ」
この人、見た目はベルと同じくらいだけど、知っている知識からして、とんでもなく長生きしてそうだよな。
これから、凄く役立ってくれそうだ。
「礼は要らない。お前は今から私に殺されるからな」
「俺を殺す?」
あ、やっぱりそうなるのか……。
「ああ、お前を殺せば私も先代も解放される」
「勝手に呼び出したのは謝るけど……他に方法無い?」
この争い、意味が無いと思うんだけどな……。
「無い! お前が生きている限り、私はお前の下僕だ!」
「じゃあ、どうして俺に反抗出来るのさ」
「ここが私の自由を許されたフィールドだからだ」
フィールド? ボス部屋のことか? だとすると、自分が任された範囲では、魔物は自由に出来るってこと?
「よくわからないけど……つまり、俺を殺さないと許さないってことか?」
「ああ、ドラゴンの世界は弱肉強食だ。弱い人間に私が従うつもりは無い」
ふむ……とういうことは、俺が強ければ問題無い?
「それなら、こうしよう」
俺はベルノルトたちと一緒に竜女の腕も治してやった。
「どういうつもりだ?」
竜女は治った自分の腕に驚きながら、警戒するように俺と距離を取った。
「これで全力を出せるでしょ?」
「そうだが……いや、何でも無い」
「了解。悪いけど三人とも、端に寄っていてくれる?」
「はい」
「わかりました」
「気をつけろよ」
「よし。好きにかかってこい」
三人が離れていったのを確認した俺は、その場で手を広げながら挑発した。
大丈夫。こいつの速さなら対応できる。
「何のつもりかはわからないが、全力でいかせて貰うぞ」
「グルアアア!」
どうやら、ドラゴンになって俺と戦うつもりのようだ。
こっちの方が、攻撃力があるからか?
「でも、俺相手だと人型の方が戦いやすいと思うよ?」
こんなでっかい身体で、転移を使える俺と戦うのは大変なはずだ。
俺はドラゴンの頭の上に転移すると、思いっきり殴った。
「くそ……。なら、これはどうだ!」
頭を手で押さえながら、今度はフランクたちの動きを封じた不思議な技を繰り出してきた。
「うん……多少重くなるけど、誤差の範囲だね」
俺は平気な顔でゆっくりと人間になったドラゴンのところに向かって行く。
「く、くそ……来るな! こっちに来るな!」
「え?」
いきなり、俺に怯え始めた少女に、俺は思わず足を止めてしまった。
「怖いなら、早く負けを認めろよ」
そう言いながら、俺は怯える少女に向かってまた歩き始めた。
「わかったから……ま、負けでいいから……ゆるじで……ゆるじでよ……うわあ~~~ん」
「は?」
あと一歩のところまで俺が近づいた途端、ドラゴンの少女が大泣きし始めてしまった。
これには観客も、シーンと静まり返ってしまった。
とても、俺が強者に勝ったような雰囲気ではない。
どちらかというと……俺が泣いて許しを請いている少女をいじめているみたいだ。
これ、俺が悪いのか?
「え、えっと……とりあえず午後の決勝を始めるぞ!」
どう収拾したらいいのかわからなくなった俺は、少女を抱きかかえて観客席に転移した。
俺に抱えられた瞬間、更に泣き始めてしまった少女を後ろで控えていたベルに任せ、午後のトーナメントを始めることにした。
うん。これは仕方なかったんだ。
最近、更新出来ていなくてすみませんm(_ _)m
これから更新頻度上げていきます!
もし良かったら新作の方も読んでやってください。