第十話 会議後の会議
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公爵会議翌日。
「それでは、これから昨日の公爵会議を踏まえて、戦争までのミュルディーン領の方針を決めていきたいと思います」
フレアさんの進行で、ミュルディーン幹部(俺が呼んだ人)会議を始めた。
呼んだメンバーは、フレア、エルシー、ベルノルト、バルス、ヘルマン、アルマとシェリー、リーナの八人だ。いや、俺の後ろで控えているベルも合わせて九人か。
「まず、昨日決まったことを私から簡単に説明させて貰います。昨日の主な議題でした各家に割り振られる仕事についてですが、ミュルディーン家は防衛と奇襲を任されました。防衛は、ミュルディーン領におびき寄せ、王国を準備の整った状態で待ち受けることになりました」
「奇襲についてですが、王国兵士がミュルディーン領まで移動する間に士気を削ぐ為に行います。これは、レオ様の転移が有効だとしてミュルディーン家に任されました」
「なるほど……。ここでの防衛戦は、逆にありがたいですね。慣れない土地よりも愛着のある街を背に戦った方が死に物狂いで戦える。それと、奇襲についてですが……転移で移動となるとそこまでの人数は使えませんよね?」
フレアさんの説明が終わると、ベルノルトが感想と俺に対して質問をした。
俺が直接触れる人数だから、転移で運べるのは頑張っても十人は無理だろう。
「まあ、そうだね。だから、少数精鋭五人くらいで相手の補給物資を狙って貰おうかな。相手と戦う必要はない。相手とは、俺が造った魔物かゴーレムでも戦わせればいいと思う」
魔物ならその場で大量に造れるし、ゴーレムは鞄に入れとけばどんな数でも運べる。
そう考えると、俺って敵からしたらとんでもなく理不尽な相手だよな。
音も立てずに近づくことも可能だし、無生物な兵士を大量に造り出せるし……我ながらズルすぎる。
まあ、負けたら死ぬ戦いだし、遠慮するつもりはないけどね。
「そうですか。では、その部隊は私が編制させて貰います。気配を消す訓練もしないと……」
「あとは……相手の使用回数が制限されている魔砲を西の国境で使い切らせるのを、俺一人でやることになった」
「え? 一人で!? 何を言っているの? 俺たちの間違いよね?」
案の定、シェリーが食いついてきた。
リーナとエルシーも信じられないと顔をしている。
そりゃあ何万の兵士を一人で相手にするとか、頭おかしいからね。
「実際に戦うのは俺が造ったゴーレムだから心配しないで」
「でも……相手が一番元気な時に、レオ一人だけで戦うってことでしょ?」
「それはそうなんだけど……まあ、そうだね。何か絶対に死なないように対策しておくよ」
なんなら、ゴーレムを大量に排出して俺は退散するとかでもいいかな。
魔砲を使って貰えさえすれば、その戦いは俺の勝ちだし。
「私たちが同行するわけにはいかないのですか?」
「俺が負ける前提の戦いだからね。人の犠牲は出せない。それに、転移で逃げる時に俺以外に人がいると逃げ遅れる可能性がある」
急いで逃げる時に、俺以外に人がいると触って転移を使うまでに時間がかかってしまう。
もしかしたら、その数秒が命取りになってしまうかもしれない。
「そうですか……わかりました」
「まあ、今は騎士団の強化だけを頼んだよ。結局、戦争で勝負の分かれ目になるのは兵士の数と質だから」
それと、俺とゲルトによる兵器の勝負になるかな。
「わかりました。お任せください。全員が最低でもAクラスの冒険者程度の強さにしてみせます」
「頼んだよ。それと、強化と言えばエルシー」
「はい?」
「鎧と盾の量産はどうなった?」
師匠が最近発明した魔法具をエルシーさんに量産出来ないか頼んでいた。
製造難易度的には、量産出来るギリギリのラインだったみたいだ。
「随分と進みました。照明ほどの生産速度はありませんが、戦争までには騎士たちに行き渡ると思います」
おお、流石エルシー!
「それは良かった。あと、闘技場の方はどう? 来月の最強決定戦には間に合いそう?」
闘技場とは、地下市街に新しく造っていた新施設。
本当は、魔法具を使った映画館とか造りたかったんだけど……師匠があの状態では頼みづらくなっちゃってね。
結局、俺の魔法アイテムを使った特別な闘技場にすることにした。
「はい。ほとんどの設備は整いました。今は、細かい点検をしている状態です。問題無く間に合うと思います」
「それは良かった。一ヶ月後が楽しみだな」
ちょっと前に、どうせ一般公開前のテストを行うなら豪華賞品を賭けて騎士団の最強決定戦を行おうという話になった。
まあ、半分は祭りだ。負けた奴からたくさん飲んで食って貰う。
少しでも普段のストレスを解消して貰えたら嬉しいな。
「楽しみにしていてくださ~~~い。騎士たちも仕上がっていますから~~~」
「出場しないお前が言うセリフじゃないだろ。それと、その口調を直せと何度言ったら……」
ハハ。バルスは来月からまた王国に偵察だからな。
王国が結婚式で何を企んでいるのか、是非とも探ってきて貰いたい。
「まあまあ、俺は気にしていないから良いよ。それより来月、皆がどれくらい強くなったか楽しみにしておくさ」
「はい。是非!」
「あとは……あ、そうだ。シェリー、あと八ヶ月後に王国に行かないといけなくなったから」
「え? どうして」
「第一王女の結婚式だって。噂の勇者と結婚だ。それに、皇族のシェリーが参加することになった。もちろん、俺がついて行くから心配しなくて大丈夫だけどね」
何をされても大丈夫なように、今からがっちり対策を練っていくらからね。
手始めに、即死爆弾の対策からだな……。
「な、何それ……王国、絶対何か企んでるでしょ」
「そうだろうね。だから、俺もやりたい放題やらせて貰う」
とりあえず、勇者の強さは知っておきたいな。
「そう……もちろん、リーナも一緒よね?」
「それは構わないんじゃない? 一応皇帝に聞いておくよ」
「わかった」
「ということで……昨日話し合った内容はこんなところかな。これを踏まえて、今後の予定を立てるとなると、これまで通り騎士の強化と鎧、盾の量産。それと平行して……奇襲の準備と王国に行く準備かな」
「そうですね。防衛拠点がここなら、特段変える必要はないと思います」
逆に、元フィリベール領に急いで手を加える必要が無くなったから、仕事は減ったと見ていいかもな。
「そうか。それじゃあ、解散! あ、ヘルマンとアルマには頼みたいことがあるから昼食を済ませたら俺のところに来てくれ」
「え? あ、はい。了解しました」
アルマがキョトンとし、遅れて返事をしたのを見て、俺は会議室を出た。
溜まった書類仕事を午前中に終わらせないと……。
そして午後になり
「「失礼します!」」
ヘルマンとアルマが元気よく入ってきた。
「お、来たか」
「師匠、頼み事って何ですか?」
「二人に一ヶ月でダンジョンを踏破して貰いたい」
ヘルマンの質問に、俺は単刀直入に答えた。
「「え?」」
もちろん二人は、何を言っているんだ? という顔になった。
「一ヶ月で……ダンジョンを?」
「そう。移動を含めると攻略にかけられる時間はもっと少ないと思うぞ」
場所は、そこそこ近いダンジョンだけど、それでも往復で一週間はかかるな。
「ど、どうしてそんな急に……」
「簡単。アルマにスキルを一つくらい持っていて貰いたいから」
「スキルを一つくらいって……複数スキルを持っている人なんてレオ様くらいですよ? まあ、それは置いといてどうして私がスキルを持つ必要に?」
「さっき、説明したでしょ? シェリーが王国に行かないといけないのを」
「はい」
「それで、アルマには俺が近くにいられない時の護衛を頼みたいんだ」
どうしても、女性だけになる場面が出てくるはず。
その時、アルマに頑張って貰わないといけないんだ。
「なるほど……。それで、スキルを得て強くなれと?」
「そう。もし、勇者と戦うとしたら、スキルを一つくらい持っておいた方が良い」
他の人は大したことないだろうけど、スキル持ち相手にスキルを一つも持たないで勝つのは厳しいだろう。
「勇者と……そうですね。わかりました。きっと、お役に立てるスキルを得て来ます」
「うん。期待しているよ。で、流石に一ヶ月でダンジョンを挑むなんて無理を言っているのは自覚しているんだ。だから、そのお詫びとしてアルマの装備を新調したいと思うんだ。ヘルマンは三日でダンジョンを踏破したことがあるから心配ないよな?」
「はい。僕はこれ以上貰えません!」
そう言って、俺が造ってやった剣を掲げてみせた。
まあ、あれ以上の物を造るのは無理だな。
「よし……まず防具は、ヘルマンと同じ物を着ておけ。これ、俺が造れる中でたぶん一番の性能だから」
ヘルマン、フランク、俺が持っている魔王の鎧を女性用に変えて造った物を渡した。
これ以上の防具は、まだ素材的に造れない。
いつか、暇になったらダンジョンにでも潜ってみるか。
「わかりました。ありがとうございます」
「それと、アルマの剣だな。これは、もう俺の中でレシピがある」
そう言って、俺は魔石にミスリル、ヒュドラの牙を出して、創造魔法を使った。
出来たものは、紫色の光沢を放つ綺麗な双剣だ。
〈邪双剣エメリ・エミリ〉
認めた主と念話が出来る
主に毒への絶対耐性を与える
刃に触れた者に主の望む毒を与える
毒の斬撃を飛ばせる
修復、召喚能力あり
今回も中々の剣が創造出来た。
掠りでもすれば致死の攻撃になる剣。
軽い攻撃のアルマにはピッタリの剣だ。
これはまた強くなりそうだな。
「……これでよし。持ってみろ」
「ありがとうございます……あ、嘘……手に馴染む」
それはそうだろう。ヘルマンの時同様に今アルマが使っている剣をイメージして造った。
「それ、ヒュドラの牙で造られた猛毒の剣だから扱いに気をつけろよ? ちょっとの切り傷で相手は毒で動けなくなる」
まあ、持ち主には耐性がつくみたいだから大丈夫だと思うけど。
「……え!?」
「ということで、扱いに気をつけろよ。それと、斬撃機能もつけておいたから遠距離でも心配しなくて大丈夫だ」
「あ、ありがとうございます……」
「それと、ダンジョンセット。これは帰って来たら返せ」
ダンジョンに入る前にいつも持って行っている便利グッズが入った魔法の袋を渡した。
これがなければダンジョンにタイムアタックを挑むなんて無理だ。
「も、もちろんです! ありがとうございます!」
「まあ、最強決定戦に間に合うように頑張るんだな。間に合わなかったら、不戦敗だぞ」
「そ、そんな……わかりました。ヘルマン、行くわよ!」
「う、うん」
さて、二人はどんなスキルを手に入れてくるかな?
実に楽しみだ。
ダンジョンでの話は閑話になる予定です。