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第九話 成長

 

 SIDE:カイト


 あの決闘から約一年。俺は十七になり、戦争まであと三年となった。

 エレーヌとは自分で言うのはちょっとおかしい気もするけど、毎日ちゃんとラブラブです。

 この国の貴族や王族は十代で結婚が当たり前らしいから、そろそろプロポーズしないと……。

 肝心な実力の方は、順調に強くなっている。

 電気魔法もレベルが5まで上がったし、この調子でいけば世界最速を名乗っても大丈夫な気がする。

 まあ、それを名乗るのはアーロンさんに勝ってからだけどね……。



「それじゃあ、最後のお手合わせといきましょうか」

 今日も一通りの稽古が終わり、最後の腕試しの時間だ。

 この二年間、俺が勝てたことは一度もない。

 今日こそ、そう毎日思って戦っている。


「お願いします。しゃあ!」

 開始と同時に全力の電気魔法でアーロンさんに攻撃をしかけた。

 もちろん、初手は避けられる。

 でも大丈夫。速度はそのまま、直角に方向転換する。

 流石に、この距離ではアーロンさんでも避けられまい。

 これ、出来るようになるまで随分と時間がかかったな。


「まだ甘い!」

 決まったと思ったが、真横から蹴り飛ばされた。


「くっ……まだまだ!」

 何回転か転がり、すぐに起き上がる。

 今度は当たるまで気を緩めてはいけない。

 そう自分に言い聞かせ、アーロンさんに攻撃をしかけた。

 避けられる度に方向転換を繰り返す。


 くそ……当たらない。

 全部、攻撃が読まれてる。

 このままだと……いつも通りだ。

 どうする? 静電気を飛ばす?

 どこに? それに当たったとして、アーロンさんは隙を見せてくれるか……?

 ……そうだ!



「ふう……」

 初めて、俺の剣はアーロンさんに触れていた。


 俺が思いついた作戦は、静電気をアーロンさんの目に向けて飛ばすこと。

 いくら静電気でも、目に当たるのは怖いでしょ?

 だから、アーロンさんはしっかりと避けてくれた。

 流石のアーロンさんも避ける動作をすれば剣の回避が間に合わなくなり、俺の勝ちとなる。


「いやはや。ついにこの日がやってきてしまいましたな。嬉しい反面少し寂しいですね」


「いえ、ここまで強くなれたのはアーロンさんのおかげですよ。今日までありがとうございました」

 二年間、本当に感謝しかない。

 まさか、勝てる日が来るとはな……。


「おっと。カイト殿にはもっと強くなって貰わないと困ります。これからは自分との戦いが続きます」


「そうだよな……ダンジョンにでも挑もうかな」

 そろそろ。レベル上げをしていかないと……。

 技術が上がっても、ステータスでごり押しをされたら敵わない。


「良い考えだと思います。ダンジョンを一つでもクリア出来たとすればスキルが手に入り、とても大きな力になります」

 スキルか……。一つあるだけで、戦況が変わるくらい凄いんだっけ?


「なら、一つくらいは狙っておいた方がいいよな」


「そうだと思うぞ。何せ、あっちはスキル保持者が複数人いる」


「え?」

 聞き慣れない低い声に驚いて振り返ると、一度も見たことないおじいさんが立っていた。


「はじめましてだね。いつも孫がお世話になっておるよ」


「孫……?」

 誰のお爺さんだ?


「前国王フィルス様ですよ」

 俺が対応に困っていると、アーロンさんが耳打ちしてくれた。

 前国王フィルス様……え!?


「あ、ああ! 申し訳ございません!」

 俺は慌てて頭を下げた。


「気にすることはない。普段は王宮にはいないからな。わからないのも無理ない。それにしても、アーロンに勝ったか。なかなか成長しているようだな」


「ありがとうございます」

 おお、褒められた。

 あの国王からは想像出来ないくらい威厳があるな……。

 どうして退位してしまったんだ? まだ、体力的にはいけそうだけどな?


「勘違いするな。褒めていないぞ。その程度では、戦争で敵将にたどり着く前に死んでしまうだろう。なにせ、レオンスの部下はアーロンと同等の強さの奴が三十はいる」


「え?」

 王国最強と名高いアーロンさんが三十人も?

 しかも、レオンスって侯爵家だよな? 帝国全体で考えたら……。

 あまりの事実に俺は思わず身震いしてしまった。


「まあ、仕組んだ私が言うのも何だが……相変わらず王国は能天気だな。本気で王国が帝国に勝てると思うか? カイト君と言ったかな? 君は、帝国の勢力をどのように理解している?」


「前勇者の家系が勢力を伸ばしていて……」

 そういえば、帝国のことはほとんど知らないな……。

 自分が強くなることしか頭になかったから、と言い訳しても仕方ないか。

 確かに、俺は能天気だったな。


「その程度の情報ではダメだな。君には、我が馬鹿息子の跡を継いでもらう。剣だけ握っていてはいけない。馬鹿息子と違って、君は国を統治する役目があるのだから」


「す、すみません……」

 そうだ……俺はエレーヌと結婚して国王になるんだ。

 その自覚が足りなかった。

 あの国王を馬鹿にしている場合ではなかったんだ。


「いいさ。私は、荒れた世界を眺めているのが好きだなのだよ。君が更に荒らすならそれでも構わない」


「……」

 これは皮肉だろう……くそ、何も言い返せない。

 もっと勉強しておけば良かった。


「ご心配なく。私がいますから。頭を使うことは私の役目。そうでしょう? 大丈夫です。お爺さまはどうか国のことなど気にせず余生を楽しんでください」


「……エレーヌか。お前は……何とも言い難いくらい変わってしまったな。賢さは備わったようだが……。まあいい。結婚式、次のお前の誕生日に決めておいたぞ」

 エレーヌが登場すると、フィルス様の顔が少し曇った。

 まあ、すぐに元の意地悪な顔に戻ってしまったんだけど。


「え?」


「それと、私はこの国の行く末を見るまで死なんぞ。じゃあな」

 エレーヌがキョトンとしている間に、フィルス様は部屋から出て行ってしまった。


「言いたいことだけ言って行っちゃった……」

 俺、一言も言い返せなかったな。

 本当、自分の馬鹿さ具合を痛感した。


「いつものことよ。何考えているかわからないから、私も苦手」


「フィルス様はとても聡明な方でして……魔王討伐は、フィルス様が働きかけて世界を纏めていたからこそ成功したようなものです」

 そんな凄い人だったんだ……。

 あの息子とは正反対だな。


「ただ、波乱を求める性格でして……」


「波乱を求める?」

 とても魔王討伐に貢献した人には思えないモノを求めているな。


「はい。平和を平凡と考え、荒れた世界や争いを見て喜ぶ御方です。現在の帝国と王国の関係がここまで拗れているのも、全てフィルス様が発端です」


「なるほど……」

 とんでもない爺さんだ。

 知能が高い分、同じ悪党でも現国王よりたちが悪い。


「ねえ、そんなことより、二人ともお爺さまが最後に言っていた言葉を覚えてる?」


「この行く末を見るまで死なないってやつ?」

 あの爺さんなら、あと十年二十年は生きそうだよ。下手したら百歳を超えそう。


「その一つ前よ。結婚式、私の誕生日にやるって言ってなかった?」

 あ、そんなこと言っていたな。


「確かに……。その相手って、俺で良いんだよね?」

 俺、まだプロポーズしてないぞ。


「それ以外に誰がいるのよ。バカ」

 ですよね~。ちょっと安心。


「ご、ごめん」

 うん……これはプロポーズを早急にしなくては。

 でも、この世界ではどうプロポーズしたらいいのか。

 あとでこっそりアーロンさんに相談だな。


「なるほど……お嬢様も、もう十八ですからな。結婚して、跡継ぎを産んでいてもおかしくない歳ですね」


「あ、跡継ぎなんて……」

 やめろ! そんな顔を赤くするな!

 こっちまで赤くなっちまうじゃないか……。


「いえ。それも姫様の重要な役目ですぞ」


「わ、わかっているわよ……」


「姫様の誕生日となると……約十ヶ月後ですかな?」


「そうだわ」


「ふむ……」

 アーロンさんが何か考える仕草をした。

 十ヶ月後が何か引っかかるのか?


「どうしたの?」


「いえ、フィルス様がわざわざ決めたと言っていたことが引っかかりまして……」

 十ヶ月後じゃなくて、フィルス様が決めたこと自体か。

 確かに、引退したのにわざわざ口出ししたわけだからな……。


「え?! お爺さま、私の結婚式で何か企んでいるの?」


「……基本、フィルス様は興味がないことは放置ですから」


「私の結婚式に興味があるってこと?」

 俺とエレーヌが幸せになって欲しいってことか?


「いえ、結婚式に絡んだ何か波乱に興味があるのかと……」

 ですよね~。


「何よそれ。お爺さま、本当に勝手なんだから」

 まあ、そうだよね。

 あの人は興味があることしか動かなくて……その興味は波乱を巻き起こすもの。


「とすると……俺の所に来たのにも何か考えがありそうだな。策略か……勉強した方がいいよな……」

 もしかしたら、あの爺さんは俺を試そうとしているんじゃないか?

 だから、俺の無知をあそこまで煽ったんだ。


「何を言っているのよ。あなたの役目は強くなること。お爺さまの言葉に惑わされたらダメ。王国の戦力はあなた頼りなのよ? あなたが弱かったら、その時点で戦争は負け」


「そういうことか……」

 逆だ。爺さんは俺を惑わせることが目的だったんだ。

 よくよく考えれば、波乱を求めている爺さんがわざわざアドバイスなんてするはずがない。

 俺は強くなることが正解なんだ。


「頭を使うことは私に任せなさい。きっと、私がお爺さまの思惑は阻止してみる」


「……わかった。何か、俺の力が必要になったらすぐに言って」


「もちろんよ。いつも通りじゃない」

 そうだ。今まで通り助け合っていけば良いんだ。

 俺たち二人なら問題無い。



 SIDE:アーロン


「久しぶりだな」

 カイト殿と別れ、自室に戻るとフィルス様が椅子に座っていた。


「久しぶりだな、ではありませんよ。何ですか? 先ほどのは」

 二年ぶりの再会を喜べないではありませんか。

 まったく……。


「お前は相変わらず堅いな。別に良いではないか」


「そんなわけ……まあいいです。それで、今日はどうしてここに?」

 フィルス様の言葉に一々反応していたら話が進みません。

 ここは、怒らずに次に進めた方が賢明でしょう。


「お前を孫に取られたから仕返しに」


「……」


「冗談だ。ちょっとした布石だよ。まあ、半分は孫に潰されてしまったが」

 無言の睨みが効いたのか、やっとフィルス様は真面目に回答してくださいました。

 やはり、何か企んでいましたか。

 半分となると、残りは姫様とカイト殿の結婚式ですな。

 一体、何をしでかそうと……。


「エレーヌ、馬鹿息子同様に愚王になると思ったんだけどな。それが、私の野望を邪魔できるようになるとは」

 愚王とおっしゃいますが……あなたがわざと教育を怠り、早々王にしてしまった結果ではないですか。

 姫様までこの人の思い通りになられなくて本当に良かった。


「嬉しいことに、姫様は変わられましたから」

 私は思わず笑ってしまった。

 この人が嫌がることは平穏、即ち平和だから。


「それは良かったな」

 私の笑顔に、フィルス様はムッとしてしまった。

 それを見て、私はちょっと驚いた。

 私がフィルス様を悔しがらせられたのは、人生で今日が初めてかもしれませんね。

 口では、絶対に勝てない相手ですから。


「はあ、あと三年でこれ以上私に出来ることはもうなくなった。あとは世界の行く末……孫の頑張りを見るのも、まあまた一つの楽しみかな」

 おお、今日のフィルス様は本当に珍しい。

 フィルス様が負けを認めるとは、わかってはいましたがカイト殿だけでなく姫様まで大きく成長なされたようですな。


「そうですよ。一緒に孫たちの頑張りを見守ろうではありませんか」

 表舞台から去った私たちがすることはもうありません。

 若い者たちの頑張りを見るのも楽しいものですよ。

 少なくとも、私はこの二年間とても楽しかったですから。



二巻が重版されました!!

購入してくださった方々ありがとうございましたm(_ _)m

五巻もよろしくお願いします。

今日出てきたフィルス様の若い頃が書籍版(初版限定の短編)で登場するので是非。

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― 新着の感想 ―
[一言] ん…?そういえば電気魔法もレベル5まではコピーできる…?
[一言] おかしい… 何もかもが死亡フラグにしか見えないw
[気になる点] この調子でいけば世界最速を名乗っても大丈夫泣きがする ← 嬉し泣きみたいな感じですか? な気がする 
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