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第二話 多忙な一日

 

「入学おめでとうございます。私は、レオンス・ミュルディーン。この学園の理事長をさせて貰っています。あなたたちは記念すべき一期生。これから十年、百年と続いていく学園の先陣をあなたたちが切るのです。誇って下さい。そして、後に続く後輩たちの良き模範となって下さい。よろしくお願いいたします」

 拍手が鳴り響く中、俺は降壇した。


「ふう。終わった」

 演説というのは、何度やっても慣れないものだな。


「お疲れ様です。良い挨拶でしたよ」

 俺が座ると、隣の席の女性が笑顔で労ってくれた。

 ここの学園長……カミラさんだ。


「ありがとうございます。それにしても、よく引き受けてくれましたね」

 まあ、俺がお願いしておいて言うことじゃないとも思うんだけど。

 こんな面倒な仕事より、孤児院の院長の方がよっぽど楽だ。

 いや、あの悪ガキたちを纏めているのも大変か?


 騎士科、魔法科、文官科の三つで450人。

 これは一学年だけで、今日入学した子たちが三年生になる頃にはこの三倍になっている。

 千人を超えた生徒を管理するなんて、やっぱり孤児院に比べたら大変だよな?


「何を言っているんですか? 私に断る理由なんてありませんよ」


「そうですか? 孤児院のことは心配じゃないんですか?」


「大丈夫です。アンヌさんがしっかりと子供たちの面倒をみてくれますから」

 アンヌさんか……あの人なら、大丈夫だろうけど。


「それより、奴隷の私なんかが学園長になっても大丈夫なんですか?」


「え? 俺、あなたを解放したいって言いましたよね? けど、嫌なんでしょ?」

 学園長になるのには流石に取った方が良いと思ったけど、断られたんだよね……。


「はい。これが無いと私の精神は保てませんから」

 そう言われると、俺が何も言えないのをわかってるでしょ?

 カミラさんの笑顔を見ながら、これは嘘だな……と思った。


「まあ、わかりました。この領にいる限り、不便をさせることはありませんよ。だから、安心して学園長になってください」

 カミラさん以上に適任者がいないし、人手不足なこの状況で奴隷だからどうこう言う奴は、俺から時間を奪おうとする敵と考えて追放することにしよう。


「了解しました。将来レオ様の下で働くとしても全く恥ずかしくない、立派な生徒を育ててみせますよ」


「それは楽しみですね。よろしくお願いします」

 三年後、どんな子たちが卒業するのか凄く楽しみだな。



 そして、入学式が終わると俺はすぐに次の仕事へと向かった。

 今日はやらないといけないことが盛りだくさんだから急がないと!

「お久しぶりで~~~す。元気にしておられましたか~~~?」


「うん。バルスも相変わらず元気そうだね。で、調査の結果を教えてよ」

 次の仕事は、バルスが王国で仕入れてきた情報を聞かせて貰う仕事。

 バルスには、半年くらい調査して貰っていたんだ。

 一昨日帰ってきて、昨日は疲れているだろうから休ませておいた。

 さて、王国の様子を聞かせて貰おうか。


「了解しました~~~。まず、ゲルト・フェルマーについてですが~~~。しっかりと王国に取り入っていましたよ~~~。魔剣、魔銃~~~、さらには大きな魔銃~~~魔砲と呼んでいましたけど~~~凄い威力でしたよ~~~。上級魔法一回分ってところでしょう~~~」

 相変わらず、バルスの喋り方がうるさい。

 まあ、一々注意していたら今日の仕事が終わらなくなるから我慢するしかない。

 それしても、魔剣に魔銃が作れるのは師匠の息子だから当然として、魔砲か……。

 どう考えても大砲の魔法版だよな? そんな物まで戦争に使われたら非常に面倒だな……。

 魔銃なら初級魔法、うちの騎士のレベルなら大したダメージにはならない。

 ただ、上級魔法となると話は変わってくるんだよな……。


「なるほどね。やっぱり、兵器と兵力の戦いになりそうだな……。俺も出し惜しみせずに準備しないといけないな」


「そうだと思いますよ~~~。そしてほんだ~~い! 勇者について~~~」


「どうだった? 強かった?」


「まだまだ~~~ですね。今の段階なら~~~うちのヘルマンの方が断然強いと思いま~~~す」


「そうか」

 ヘルマンより弱いか。それなら……とは、ならないのが勇者なんだけどな。


「ただ~~~」


「ただ?」

 ん? なんかあったのか?


「彼は召喚されてまだ一年~~~。そして~~~勇者の強さは驚異的な成長速度~~~。四年もあればうちの団長でもキツいレベルになるでしょ~~~う」

 それは()()()()団長とだろ? うちの騎士たちもとんでもないスピードで成長している。

 まあ、それでも勇者の成長速度を侮るのは良くないか。


「能力はやっぱり無属性魔法?」

 じいちゃんが無属性だったし。


「それが~~~。今回は~~~非常にレアな勇者なんですよ~~~」


「レア?」

 勇者にレアとかあるの?


「はい~~~。勇者にしか使うことができな~~~い。電気魔法の~~~使い手で~~~す」


「電気魔法?」

 初めて聞く魔法だな。


「電気魔法の特徴は~~~スピードで~~~す。速さに特化した無属性魔法と思って頂いて結構で~~~す。あとは、剣に電気を流しま~~す」


「速さに特化した無属性魔法か……。強そうだな。速さへの対策をしておかないと。あと、剣に電気を流すってことは、勇者の剣に触ることは出来ないってことか」


「そうで~~~す。触ったら終わりで~~~す」

 はあ、厄介な相手が更に厄介になったな。

 あいつが俺の所に来たら負けだと思って間違いないだろう。

 勇者補正と一緒に使われたら、全く勝てる気がしない。


「なるほど、あとは何か情報はない?」


「王国の次期王は~~~第一王女エレメナーヌでほぼ確定しました~~~」


「第一王女って、あの宝石狂いで有名な?」

 確か、闇オークションで俺の魔石をとんでもない金額で買っていた奴だよな?

 あれが王になるなんて、王国は大丈夫なのか?


「そうですよ~~~。ただ、それも一年前までの話~~~。今は~~~勇者を支える良き妻というところでしょうか~~~? うちのヘルマンとアルマよりもアツアツですよ~~~。彼女が王になれば王国の悪政は改善されていくでしょ~~~う」

 ヘルマンとアルマよりもか……って! あの二人、いつの間にそんな仲に!? この前まで、ライバルだったんだよね?

 いや、そんなことより。


「王女がそんなに心変わりしちゃったの? それじゃあ、どうにか戦争させないで、王を変えた方が良くない?」

 今すぐ、王を暗殺しよう! そうすれば、この忙しい日々から俺は解放されるんだ!

 俺は全力で王女を応援するからぞ!


「そういうわけには~~~いきません~~~。王国は王族に~~~貴族~~~どちらも~~~腐っておりま~~~す。戦争でそいつらを~~~消さない限り~~~王国は~~~良くなりませ~~~ん。それを王女とその側近アーロンもわかっておりま~~~す。絶対に~~~戦争はするでしょう~~~」

 側近のアーロンね……。

 もしかしたら、その人が和平交渉の鍵になってくるかもな。


「なるほど……了解。今日は良い情報を聞けた。またよろしくな。次は、一ヶ月後か?」


「は~~~い。一ヶ月休んだら~~~また潜入しま~~~す」


「頼んだよ。それと、しっかり休んでくれ」

 情報戦が今後の戦況を左右するからね。

 バルスには頑張って貰わないと。


「それでは~~~また~~~」


「ふう。疲れた~。優秀なんだけどな~~」

 あ、しゃべり方がバルスみたいになっちゃってる。



 そして、今日の仕事はまだまだ終わらない。

 バルスの報告が終わった俺は、すぐに帝都に転移した。

「師匠。来ましたよ!」


「あ、レオ。兄貴なら作業部屋で籠もっているぞ」

 師匠の店に転移すると、コルトさんがそう言って作業部屋を指さして教えてくれた。


「あ、コルトさん。お久しぶりです。やっぱり師匠、息子さんのことをまだ引きずっている感じですか?」

 俺が師匠の息子さんの爆弾で死にかけたことを話したあの日から、何度も来ているけど悪魔に取り付かれたかのように魔法具の開発を進めているんだよね……。

 今日は、その開発が一段落したから、来て欲しいって言われて来た。


「そうみたいだな……。まあ、でも兄貴なりにケジメはつけようと考えているみたいだよ。直接聞いてみな」


「わかりました」


「師匠! 来ましたよ~」

 作業部屋に入ると、相変わらず師匠は魔法具を作っていた。

 いつ来ても魔法具を作っているよな。


「あ、レオ。久しぶりだな。元気にしていたか?」


「はい。師匠は……少し痩せました?」

 なんか、健康的な痩せ方をしてなさそうだけど……?


「まあな」

 まあなじゃないんだよな……。


「ちゃんと飯を食べないとダメですよ?」


「いいんだ。あいつが帝国そして、レオに危害を加えた分、俺は次の戦争で貢献して償いたい。あいつがやってしまったことは、もう取り返しのつかないこと。もちろん、戦争が終わった後も俺は帝国に貢献していく。それが父親としてあいつにしてやれる最初で最後のことだろう」

 そう言う師匠の目は、覚悟の籠もった力強い目だった。

 仕方ない。何を言っても止まらなさそうだから、ちょくちょく来て様子を見ることにしよう。


「そうですか……息子さん。無事王国に逃げることが出来たみたいですよ」


「やっぱり……兵器を開発しているのか?」

 師匠は、自分の息子が作った魔法具を魔法具とは呼ばない。

 人を殺すための()()と呼んでいた。

 魔法具は人が豊かになるためにあるもので、人を殺すために作ってはならない。

 そう言っていた。


「はい。この半年で、王国に随分と力を貸しているみたいですよ。魔剣に魔銃。それに新兵器である魔砲を開発したそうです」


「魔砲? なんだそれは?」


「魔銃を大きくした物らしいです。上級魔法レベルの威力が出せるらしいですよ」


「ああ、なんだ。単に大きくしただけか。なら、そこまで怖くないぞ」


「え? どういうことですか?」

 俺の説明を聞いて、興味を無くした師匠を見て、俺は思わず驚いてしまった。

 上級魔法だよ?


「簡単だ。燃費が悪いんだよ。とんでもなく大量の魔力が必要になる。それこそ、レオが持っている魔石レベルのな」

 なるほど、そういうことか。燃費が悪いのか。


「じゃあ、王国は使うこともできないと?」


「ああ、一発撃てるかどうかだと思う」


「なるほど……いいことを聞きました」

 これはいいことを聞いた。まあ、魔砲への警戒は怠らないけどね。


「んなことより、俺の発明品を見てくれ! どうだ?」

 ああそうだった。今日は師匠の発明を見に来たんだった。

 そう思い、師匠に指さされた方向を見ると……立派な盾と鎧が並べてあった。


「これは盾と鎧?」


「ああ。やっぱり、戦争となったら騎士が主体だろ? 高性能な盾と鎧を作った」


「それぞれどんな能力が?」

 師匠が作ったんだ。絶対、何か能力があるはず。


「そうだな。まず、盾だ。こいつは、無属性魔法で硬くすることが出来る。それこそ、中級魔法程度なら何度当たっても大丈夫だろう。たぶんだが、上級魔法も一発は当たっても大丈夫だ」

 流石師匠! 何て物を作ってくれたんだ!


「それは凄い……近接の魔法攻撃に対する耐性の弱さを補ったってわけか……これは戦争で使える」

 もし俺が魔法使いを揃えられなかったとしても、これがあれば魔法使いの差を埋められる。

 これは大きいぞ。


「だろ? 次に鎧についてだが……これは凄いぞ。無属性魔法を習得していない戦士でも、一分程度だけなら無属性魔法を使って戦うことが出来るんだ。一分だからあくまで緊急用だが、身体能力が倍以上に向上する。俺も使ってみたが、鎧を着たまま鎧を着ていない時よりも速く走れた」


「それは凄い。他にも使い方がありそうだし、さっそく量産してもらえるとありがたいです」

 これが、無属性魔法を使えないたくさんの騎士たちを助けてくれるだろう。


「ああ、これも工場で作れば量産出来るだろうよ。教育に時間がかかっちまうだろうが、工場で働いている奴らなら、半年もあれば担当の行程くらい覚えることが出来るだろう。まあ、その為になるべく簡単に作られるよう改良を重ねたしな」


「これが簡単?」

 だって、自分の力を上昇させる鎧だよ?


「ああ。見た目は大きくて難しそうだが、そこまでじゃない。盾なんて、硬化の魔方陣が描ければ誰でも作れる。鎧に関しては、初号機に比べたら随分と簡略化できた。本店の奴らも簡単だって言っていたから大丈夫だろう」

 まあ、師匠がそこまで言うなら大丈夫かな?

 まあ、工場で量産されるならたくさん手に入るし、こっちとしてもありがたいんだけど。


「わかりました……無理しすぎないで下さいよ?」


「俺は頑丈だからこれくらい大丈夫だ。お前こそ無茶するなよ? まだ若いんだから」

 普通逆じゃない? 若くない方が無茶しちゃダメでしょ。


「まあ、お互いにってことにしましょう。師匠もちゃんと休んで下さいよ?」

 師匠に倒れられたら困っちゃうから。


「ああ、わかったよ。あ、それと少し頼みたいことがある……」


「頼みたいこと……?」


「ああ、レオの魔石をいくつか分けてくれないか? 何を作るかはまだ決めてないが、一級品を作りたいんだ」

 確かに、師匠が俺の魔石を使って魔法具を作ったらどうなるのか気になるな。


「……なるほど。わかりました。いいですよ」

 魔石なんて、空き時間でいくらでも作れるし。


「本当か!?」


「はい。魔石は明日にでも持ってきますね。だから、今日はもう休んで下さい」


「う、嘘だろ? お前ならすぐ……」

 うん。転移ですぐに持って来られる。


「休んで貰う為ですよ。休まなかったら用意しません」

 一週間は休ませたいけど、それをしたら今度は禁断症状が出てきそうだからな。

 とりあえず一日で我慢してやろう。


「そこをなんとか!」

 この人、全く休む気無いじゃん。

 普通、用意しないって言われたら我慢して休まない?


「コルトさん! 師匠が休んでいたか明日教えて下さい!」


「あいよ!」

 師匠だけだと絶対休みそうに無かったから、コルトさんに監視して貰うことにした。

 まあ、これで師匠も休まざるを得ないだろう。


「じゃあ、師匠また明日!」


「おい! 待ってくれ!」

 師匠に捕まる前に俺は転移した。


 そして次の日、師匠は魔方陣を描くペンを持って俺が来るのを待っていた。

 俺がコルトさんに休んでいたことを確認してから魔石を渡すと、すぐ作業部屋に入って行ってしまった。

 うん。やっぱり一週間も休ませるなんて無理だね。


昨日、漫画版が久しぶりに更新されたみたいなので是非ご確認を!

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[一言] いっそ王国は帝国が併合すればいいんじゃないかな… 駄目なの全部粛清して、勇者夫妻はまあ侯爵くらいで王国跡地半分くらいを納めさせれば
[一言] いっその事、一服盛ってでも休ませねば!!。
[良い点] 絶縁体や、アース的なものをつくったり、海水ぶっかければ勇者に勝てそう。
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