閑話10 対面、そして協力
二代目勇者の残した本を読んだ次の日、俺はさっそく電気魔法を試してみた。
電気を外に向かって放つんじゃなくて、電気を鎧のように纏う意識……。
そんなことを頭の中で繰り返し唱え、魔法を発動させるイメージをすると、ビリビリっと電気が走る音がした。
自分の体を見渡すと、可視化した電気が鎧のように纏われていた。
「やった! 成功だ!! 見てエレーヌ! 成功したよ!!」
成功してすぐ、俺は振り返って見守っていてくれたエレーヌに成功した自分の姿を見せた。
「良かったわね。それで、速く動けそう?」
「うん……やってみる」
「どう?」
「……!! もう、驚かさないでよ!
俺が瞬間移動したみたいにエレーヌの目の前に移動すると、エレーヌは驚いた顔をして、すぐに怒った顔になった。
うん、可愛いな。
「ごめんごめん」
「まあ、いいわ。それより、良かったじゃない! これで、無属性魔法に対抗できるわね!」
「そうだね。でも、このスピードに慣れるには相当時間が必要な気がするよ」
単純な移動程度ならいいけど……剣を持って人と戦うとなると、相当な時間が必要な気がするね。
「それは練習あるのみね。頑張りなさい」
「うん。頑張るよ」
「失礼します! エレミナーヌ様はいらっしゃいますでしょうか?」
俺がエレーヌに力こぶを作って頑張るアピールをしていると、一人の騎士が大きな声で入ってきた。
「何? どうしたの?」
「エドモンド将軍がご帰還なされました」
エドモンド将軍? 誰だそれは?
「あら、思っていたよりも早かったわね。派手にやられちゃったのかしら?」
「いえ。何かしらの成果があって帰って来たようです」
「そう。わかったわ。謁見の間に私も向かえば良いんでしょ?」
「はい。よろしくお願いします」
はあ、もうバイバイか。
もう少し、一緒にいたかったんだけどな……エレーヌにも仕事があるし仕方ないか。
「と言うわけで行くわよ」
俺がガッカリしていると、エレーヌが当然かのように俺の腕を掴んで部屋の外に向かって歩き始めた。
「え? 俺も行くの?」
「そうよ。エドモンド将軍は戦争での指揮官を任されている人だから、会っておいた方が良いと思うわ」
へえ、てことは将来俺の上司になる人ってわけか。
確かに、それなら会っておいた方がいいかも。
「エドモンド将軍ね……どんな人なの?」
「とても優秀な人よ。まあ、会ってみればわかるわ」
「ふ~ん」
一体、どんな人なんだろうな?
頼むから、アーロンさんみたいな真面な人であってくれ!
無能な上司のせいで死ぬとか、そんな話になるのは嫌だからな!!
「あれ? もう謁見は終わっちゃったの?」
謁見の間までの廊下を歩いていると、エレーヌが急に立ち止まって一人の男の人に話しかけた。
見た感じ……剣を持っているから騎士? いや、服装が鎧じゃなくて高そうな服を着ているから貴族か?
「あ、姫様。はい。先ほど、終わったところです」
「てことは、本当に何かしらの成果を持って帰って来られたってことなの?」
「はい。戦争を仕掛ける絶好の機会を作ることに成功しました」
うん……何の話をしているのか良くわからないけど、とりあえずこの人がエドモンド将軍だってことはわかった。
「戦争を仕掛ける機会ね……それはどのくらい先になりそうなの?」
「そうですね……早くて四年後と言ったところでしょうか? レオンス・ミュルディーンが成人するタイミングを狙って帝国に攻め込みます」
レオンス? どこかで聞いた名前だな……。
あ、前勇者の子孫だ! 確か、俺が一番警戒しないといけない人だったよね?
「その理由を聞いても良い?」
「もちろん大丈夫ですよ。帝国は、レオンスを成人するタイミングで皇女と結婚させ、公爵にしてしまおうと考えているのですよ。いなくなってしまったフィリベール家の穴を早急に埋める為にですね」
「え? フィリベール家がいなくなった? あなた、フィリベール家と協力して帝国を攻め落とす計画だったんじゃないの?」
また知らない単語が出てきた……フィリベール家って何?
後でエレーヌに教えて貰わないといけないな。
「それが、フィリベール家が全く協力的じゃなかったんですよ。まあ、レオンスがあそこまで優秀じゃなければあと数ヶ月は待っていても良かったのですが」
「やっぱり、神童の噂は本当だったの?」
「もう、彼は神童ってレベルじゃないですよ。ほんの数日でダンジョンを二つも踏破してしまったんですからね? フィリベール家の税収を的確に減らす為とは言え、普通はあんな無茶をしてくるとは思いませんよ」
ダンジョンを二つも!? それがどんなに馬鹿げたことなのかは、俺でもわかるぞ。
本当、レオンスは何者なんだ?
下手したら、魔王の化身だったとかもあり得るよね?
「あなたがそこまで言うなんて、本当に心配になってきたわ。カイトに頑張って貰わないと王国は負けてしまうわね」
「お、俺?」
急に話を振られても困るし、俺に頼られても困るんだけど?
「そうよ。王国の切り札であるあなたが勝てなかったら誰が勝てるのよ?」
そうかもしれないけど……話を聞く限り、俺に勝てる要素が全く見つからないんだけど?
「姫様……もしかして彼は……?」
俺が心の中で文句を言っていると、将軍が俺のことをジッと見つめてきた。
「ああ、紹介してなかったわね。私が召喚した勇者、カイトよ!」
「なるほど彼が勇者ですか……」
将軍が不自然に語尾を伸ばしたな……と思った瞬間、将軍から剣が飛んできた。
キン!
危なかった……アーロンさんに鍛えられてなかったら、今ので真っ二つだった。
「ちょ! 何をしているのよ!」
俺が剣を止めたのを見て、遅れてエレーヌの怒った声が聞こえてきた。
そりゃあ怒るよ。いや、俺も怒りたいんだけどさ。
何分、この国の文化をまだ完全には理解出来ていないから、こういう挨拶なのかな? なんて思ってしまったんだ。
「うん……正直、今のままだと彼には到底及びそうにありませんね」
将軍はエレーヌの声を聞き流しながら、そう言って剣をしまった。
うん……なんか、どうやらこの国には変人しかいないらしい。
「そりゃあそうよ。カイトはまだ強くなっている途中だもの。あと半年後、見ておきなさいよ? カイトは絶対に強くなれるから!」
エレーヌ……信じてくれてありがとう。
俺、絶対に強くなるから。
「まあ、そうですね。勇者は、私たちが思っている以上に成長速度が速いらしいですからね。それに、私としても勇者には強くなって貰わないと困ります。というわけで、私も少し手を貸しましょう」
「え? 何かしてくれるの?」
え? この人の力を借りるの? 急に斬りつけて来る人だよ?
逆に何か怖くない?
「はい。実はですね。今回の遠征で少なからず戦利品を得ることに成功しましてね」
戦利品? なんか、帝国から奪って来たってこと?
この世界に来てから何度も帝国が強い国だってことを聞かされたから……素直に凄いなと思ってしまう。
「それが今回の成果ってわけね。で、何を持って帰って来たの?」
「あのレオンスを瀕死に追いやった男ですよ」
レオンスが瀕死!?
「え? どうやって!?」
「それは本人に聞いてみて下さい。ゲルト・フェルマーというのですが、なかなか面白い男ですよ」
それだけ言うと、将軍は俺たちに背中を向けて歩き始めてしまった。
「フェルマーって有名な魔法具商人じゃない……」
将軍がいなくなってから、エレーヌがポツリと呟いた。
「魔法具? ああ、電灯とかに使われているやつか」
元の世界の電化製品みたいな道具のことだよね。
「そうよ。フェルマー商会は、その魔法具を売って一代だけで世界で一番大きな商会になってしまったのよ」
世界一の商会か……その一族の一人がこの国に来ていると。
「へえ……そのフェルマー商会の人がどうして王国に来たんだろうね?」
「さあ?」
しばらくして、俺たちのところに一人の男の人がやってきた。
「はじめまして。ゲルト・フェルマーと申します」
ゲルトさんは毛むくじゃらで、背は俺よりも低くて大体160cmくらいかな?
見た目からして、この人は職人だと俺は確信した。
「どうも。で、どうやってあの神童を瀕死に追いやったのか教えなさいよ」
「ああ、それは簡単ですよ。私だけが使える付加魔法で『即死』を付加した爆弾をレオンスのすぐ傍で爆発させただけですから」
付与魔法? また初めて聞く単語だな……今日はエレーヌに教えて貰わないといけないことがたくさんだ。
「付与魔法ね……でも、即死ならレオンスは死んでいておかしくないんじゃないの?」
「それが、何かレオンスには即死を防ぐ術があるらしく……殺すまでに至りませんでした」
「そう。まあ、あと一歩まで行っただけでも凄いんじゃない?」
そうだね。ダンジョンを二つも踏破できる人をそこまでの重傷に出来たのは、本当に凄いと思う。
「あ、ありがとうございます」
「それで、本題に移るわね」
「本題?」
「ええ、あなたがやらないといけない明日からの仕事についてよ」
「ああ、仕事の話ですか。わかりました」
「明日から、あなたにはカイトが強くなるのに協力して貰うわ」
「カイト? そちらの黒髪の男のことですか?」
俺に目配せしながら、ゲルトさんがエレーヌに聞き返した。
まあ、俺の見た目は決して強そうに見えないからな。
厄介ごとを押しつけられたなどと思っているんだろう。
「そうよ。王国の切り札。帝国の勇者の血を引いた一族を倒すには、同じ勇者じゃないと無理でしょ?」
「確かに……それで、私は具体的に何をすれば良いのでしょうか?」
「それはあなたに任せるわ。二人で話し合って決めなさい」
え? もうちょっと何か指示を出してあげなよ。
思い浮かばなかったとしても、一緒に考えるとかさ?
「は、はあ……。わかりました」
「というわけでカイト、頑張りなさいよ」
「う、うん」
マジか。一緒に考えようよ!
そう目で訴えかけてみるがエレーヌには伝わらず、エレーヌは部屋から出て行ってしまった。
はあ、仕方ない。
「はじめまして。改めて自己紹介させて貰います。この国に勇者として召喚されたカイトです」
「俺はゲルトだ。帝国では魔法具の研究をしていた」
あら、職人だと思ったんだけどな~。研究者だったか。
「研究者だったんですか。聞きましたよ。フェルマー商会は魔法具で有名だって」
「まあ、そうだな。魔法具の質も生産量も他のどの商会よりも優れているからな」
「そんな凄いんだ~。ちなみに、ゲルトさんはどんな魔法具を作るんですか? 俺、まだこの世界に来てから半年くらいしか経ってなくて、魔法具について日常で使っている物以外はあまり知らないんですよね」
「おお、そうか。なら仕方ない。俺の作品たちを見せてあげるしかないな。よし、俺について来い」
なんか、ゲルトさんの目が急にキラキラし始めたんだが……。
こう……自分の作品を見て貰いたくて仕方ないって感じだな。
うん。この人も変人だけど、仲良くなれそうな気がする。
それからゲルトさんの部屋に案内された。
「ここがゲルトさんの部屋ですか?」
「そうだな。研究室も兼ねているから少しは広いぞ」
「お邪魔しまーす。あ、はじめまして」
中に入ると男の人が一人、魔石の山に魔力を注いでいた。
スゲー。こんな数の魔石に魔力を注いでいても、顔色一つ変えていないとかこの人、どんな魔力しているんだ?
「ああ、そいつのことは気にしなくて大丈夫だぞ」
「え?」
「そいつは奴隷だからな。俺の魔力供給源の道具でしかない」
え? 奴隷? あ、言われてみれば、首に首輪が巻かれている。
奴隷がいることは聞いていたけど、本当にこの世界にはいたんだ……。
「おい! まだ俺を奴隷扱いするのか!? ここまで来る道中にどれだけ俺が魔物を倒してやったのか忘れたのかよ!?」
「はて? 何のことやら?」
「何だと!?」
いや、なんか奴隷と主人の関係より……仲の良い友達の方が二人のやりとりを見ていて似合う気がするんだけどな?
「まあいい。うるさいのはほっといて、俺の作品たちを見て貰おうじゃないか! と言っても、逃げるのに必死で、そこまで持ってくることは出来なかったんだけどな」
そう言って、ゲルトさんがバッグから色々と取り出し始めた。
その中から、俺は二つ気になった者を取ってゲルトさんに質問した。
「これは?」
「それか? それは魔銃と魔剣だよ。どっちも一年以上使って完成させたんだ」
「へえ……これ、引き金を引けば使えるんですか?」
「そうだ。ほら」
俺が魔銃の使い方を質問すると、ゲルトさんが俺から魔銃を取り上げて奴隷の男の人に向けて撃った。
え!?
「おい! 俺じゃなかったら死んでいたぞ!」
俺が何か反応するよりも早く、そんな怒鳴り声が部屋に響いた。
「お前だから撃ったんだよ。みたいな感じで、引き金を引くと魔法が飛び出す」
「凄い! 全く仕組みとかはわからないけど、凄いのはわかりますよ!」
どっちかというと、奴隷の男が凄いと思うけど。
どうやって銃を避けたんだ? てか、銃を撃っても大丈夫と思える二人の信頼関係も凄いな。
「そうだろ?」
「何を照れているんだが、それは元々お前の親父が発明した物だろう? 親父に負けたくないとか言いながら、必死こいて魔方陣を描いていた頃が懐かしいな」
なるほど、ゲルトさんのお父さんが発明した物を、負けたくなくて自分も一人で発明したってことか。
「うるさい!」
「うおい! だから、人に向けて撃つなよ!」
「という感じだ」
「へえ、ゲルトさんの親父さんも魔法具職人なんですか?」
「あ、ああ……」
「ククク、魔法具職人ってもんじゃないさ。魔法具作りで世界中の誰にも負けないと言われている人なんだからな」
「へえ……そんな凄い人なんですか……」
だから、ゲルトさんは親父さんに勝ちたくて仕方ないと。
「こいつ、親父と上手くいっていなかったみたいでな。親父の話をすると不機嫌になるんだわ」
「それはお前もだろ? 昔から親父に褒めて貰うことしか考えてなかったくせに」
「う、うるさい!」
「二人は仲が良いんですね」
話を聞く限り、色んなところが似ていて、もう親友なんじゃないか? と疑うレベルだ。
「「どこが(だ)!?」
いや、もう仲が良すぎるでしょ。
息がピッタリな二人に俺は思わず笑ってしまった。
今年も一年間ありがとうございました。
今年は漫画化から始まり、年の最後には7万ポイントを超え、とても良い一年だったと思います。
来年も頑張って続けていきますので、応援よろしくお願いいたします!