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第二十三話 戦争の兆し

 

 SIDE:レオンス

 姉ちゃんが来てから三ヶ月が経った。

 ドラゴン料理は……サムさんに待って欲しいと頼み込まれ、姉ちゃんが学校に戻る時にお披露目ってことになった。

 まあ、姉ちゃんがいつ帰るのかは知らないけどね。


 この三ヶ月姉ちゃんは、自由にしていた。

 自由にしていたと言っても、その日の気分で俺やエルシーの仕事を手伝ったり、シェリーたちと孤児院で子供たちに魔法を教えてあげたり……騎士団に混じって剣を握ったりしていた。

 いや……姉ちゃん、成績が良いのは知っていたけどあそこまで万能だったとは。

 書類仕事から剣術まで、完璧に熟しちゃうんだ。

 剣術は俺と同じで、帝都の家で暮らしている時にじいちゃんに教わったんだって。

 まさか、お転婆だとしても女の姉ちゃんにあの地獄の特訓をやらせたとは……。


 それにしても、姉ちゃん強かったな。

 筋力を魔法で上手くカバーする戦い方で、ヘルマンを含む騎士団のほとんどがやられてしまったのは驚いた。

 俺やシェリー、ルーみたいな大量の魔力、特別なスキルを使ったゴリ押しじゃなくて、技術を使った強さだ。

 剣を振るタイミング、魔法を使うタイミング、使い方、全てにおいて無駄が無く綺麗だった。


 とても、無属性魔法を持っていないとは思えない。

 そんな動きをしていた。

 本当、いつどうやって練習していたんだ?

 公爵令嬢は忙しいはずでしょ?


 そんな超人な姉さんの話はさておき俺は今、地下市街の入り口に立っていた。

 大勢の領民の前で。


 今日から地下市街の半分が一般公開される。

 入口側の商業区とオークション会場だ。

 オークション会場は、元々闇オークション会場だった場所を改装しただけだったからすぐに使えた。

 あとの俺が考えている施設は、どれも大きくて特殊だから作るのに時間がかかるだろうから、地下市街の完成はまだまだ先になりそうだ。

 それでも、商業区だけでも三ヶ月で一般公開出来たのは凄いよな。

 エルシーの頑張りには感謝だ。


 さて、演説を始めるとするか……。

 それにしても、父さん母さん……だけでなく皇帝まで来てしまうとは……。

 父さんと母さんは、息子の領地を一目みたいという気持ちで来たらしい。

 皇帝は、新しい街の始まりを見届ける公務らしい。


 父さんたちはわかるけど、皇帝の口実は無理矢理過ぎない?

 はあ、母さんたちに見られながら演説とか嫌だな……。


「この度、約一年前から開発を進めていた地下市街の一部が公開されることになりました。当初は、早くてもあと半年くらい公開に時間がかかる見込みでした。ここまで計画が前倒しに進んだのは、魔法具の革命的な生産速度を実現したエルシー会長を始めとするホラント商会の方々、そしてその工場造り、街灯設置に携わってくれた領民の方々、そして成功するのかわからないような地下市街計画に快く力を貸して下さった商人の皆様のおかげございます。本当にありがとうございました。そして、これからもよろしくお願いします。一緒にこの街を、地上のどの街にも負けない豊かな街にしてみせましょう!」


 パチパチパチ


 演説が終わり、頭を下げると盛大な拍手が鳴り響いた。

 拍手に安堵しながら、俺は壇上から降りた。

 今日一番の仕事は終わりだ。


 これが終わり、いよいよ地下市街が一般に開放された。

 そして、これから俺の今日二番目の仕事が始まる。

 皇帝たちをシェリーとエルシー、俺の三人で案内する仕事だ。


「ほうほう。帝国一の商会を束ねる噂の会長は、噂以上に可愛らしいな」

 初対面のエルシーに、皇帝がそんなことを言った。

 ちょっと威圧気味……エルシーを試しているのかな?


「ありがとうございます。私も、皇帝陛下が絵画で拝見させて貰った時より凜々しく、とても驚かされました。流石、帝国を統べる御方ですね」

 エルシーは顔色一切変えず、スラスラと答えた。

 よくそんな言葉が思いつくよ。流石、毎日接客をしていただけあるな。


「そうかそうか。そんなに堅い話し方じゃなくて大丈夫だぞ。公務と言っても単なる口実だから、もう少し気楽に話して大丈夫だぞ」

 皇帝は嬉しそうだった。合格ってことでいいのかな?


「それじゃあレオ、案内を頼むぞ」


「は、はい」

 油断していた俺は、慌てて案内を始めた。


「まずは商業区からです。こちらは、地上では売らない訳ありの商品を店頭に並べることをルールにしております」


「ほう、訳あり商品とは何だ?」


「例えば、その商品自体は使えるけど、傷が出来てしまって使うことが出来ない魔法具とか、見た目が悪いけどまだ食べることが出来る野菜とかですね。それを、ここで定価よりも安く売って貰います」

 流石に、闇市街の時みたいに地上で法律上売ることが出来ない物を売ることが出来ないからね。


「なるほど。それは安い物が好きな冒険者たちが集まりそうだな。エルシーちゃんが考えたのか?」


「いえ、レオくんの案です」

 いやいや、一緒に考えたんだから俺の案ってわけじゃないよね?


「あら、レオくんって呼ばれているの?」

 俺がエルシーに突っ込みを入れようとすると、ニヤニヤと笑いながら母さんがこっちを見てきた。


「あ、ごめんなさい」


「あー違う違う。ごめんなさいね。そういう意味で言ったわけじゃないの。レオを茶化そうとしただけだから気にしないでじゃんじゃんレオくんって呼んでちょうだい」


「は、はい……」

 さっきまでキリッとしていたエルシーの顔が少し崩れて赤くなっていた。

 母さんたちの前で俺のことをレオくんって呼んじゃったのが、余っ程恥ずかしかったんだろうな。


「そうだな。皇帝としても、エルシーにはレオ君と結婚して貰わないと困るぞ」


「け、結婚……」

 やめてあげて! もう、エルシーの顔が真っ赤だから!

 てか、俺まで恥ずかしくなってきたし!


「もう。お父さんまで茶化さないの」


「すまんすまん。それじゃあ、未来の夫人に案内を頼むとするか」

 シェリーに怒られた皇帝はそう言ってシェリーの肩に手を回し、俺たちを置いて先に歩いて行ってしまった。


「ふ、夫人? し、仕方ないわね」

 おい待て! 気を良くして皇帝の案内を引き受けてくれるのはありがたいけど、周りを見るんだ!


「ちょっと!」


「いいの。ちょっと二人だけにしてあげなさい。普段、親子二人だけでいられることなんて少ないんだから」

 俺が止めようとすると、母さんに制された。


「それなら……でも、危なくない?」

 皇帝と皇女だと二人だけの時間が少ないのはわかるけど、絶対危ないって!


「大丈夫だ。ちゃんとダミアンたちが隠れて護衛している」


「そ、そうなんだ。それなら、大丈夫かな?」

 特殊部隊が護衛しているなら大丈夫か。


「と言うわけでエルシーちゃん、私と一緒に街を回りましょう?」


「え?」

 俺が皇帝とシェリーの二人だけで街を歩くことに納得していると、今度は母さんがエルシーの手を掴んで行ってしまった。



「で、俺と二人になって何がしたいの?」

 これって、父さんと俺を二人きりにするためってことでいいんだよね?


「別に何も無いさ。少し俺たちも親子の仲を深めようじゃないか。そうだ! 大きなオークション会場があるんだろ? そこに連れて行ってくれよ」


「本当? まあ、いいや。オークションね」

 うん……俺の考え過ぎだったかな?

 父さんの豪快な笑顔にそんなことを思ってしまった。



「おお! たくさんの人がいるな。今日は初日だから何か凄い物が出てくるのか?」

 VIP席である最上階にある個室から下を眺めながら、父さんが子供みたいにはしゃいでいた。


「今日の目玉はドラゴン丸々一体だよ」


「は?」


「だから、レッドドラゴン丸々一体だって」


「ほ、本気か? まさかお前、また……」


「母さんには内緒ね?」

 男同士のお約束だぞ?


「たく、仕方ないな。まあ、これも父親と息子の会話みたいでいいか」

 父親と息子か。確かに、母さんへの秘密ごとの共有は親子みたいだね。

 まあ、親子なんですけども。


「にしても、レオにこうして父親らしいことが出来るのは初めてかもな」


「そう?」

 赤ん坊の時に抱っこして貰ったりしていたけどな?


「ああ。レオが生まれた時に本格的に俺だけで領地経営することになって忙しかった俺は、お前と遊んでやることも出来なかったからな。気がついたらここまで立派になってしまった」


「まあ、忙しかったんだから仕方ないよ」

 自分で領主になってみてわかったけど、領主はやることが多くて大変だからな。

 子供に構えなくなるのも仕方ないさ。


「そうか? でも、俺としては何か寂しくてな。俺の知らない間にレオはどんどん一人で強くなって、俺が父親らしいことをする間もなく自立してしまったからさ」


「そんなことないよ。決して俺は一人だけで強くなったわけじゃない。じいちゃんに鍛えて貰ったからこそドラゴンが相手でも臆すること無く挑めるし、エルシーやホラントさんがいたからこそ街をこんなにも大きくすることが出来た。そして、何よりシェリー、リーナ、ベルがずっと傍で支えていてくれたからこそ、俺はここまでやって来られた」

 もちろん、ヘルマンやフランクとか他にも名前を挙げ切れないくらいたくさんいるよ。


「そうか。父さんが知らない所で、息子はたくさんの人に支えられていたみたいだな」


「どうしたの? いつもの父さんはもっと明るかったはずなんだけど?」

 俺の知らない内に息子が成長しちゃったって話をしているとは言え、さっきからしんみりとし過ぎじゃない?


「はあ……本当はもっと後に話そうと思っていたんだけどな……。カーラによく言われるが、やっぱり俺に隠し事は向いていないみたいだ」


「隠し事? やっぱり、俺に何か話したくて俺と二人きりになったの?」


「ああ……そうだ。お前に話さないといけないことがある」


「何?」

 父さんがこんな真面目な顔をして言わないといけないってことって何だ?

 実は、もうすぐフィオナさんとアレックス兄さんの間に初孫が出来るんだ。とかじゃないよね?

 もうそろそろ、デキていてもいい頃だと思うんだよな~。


「まだ確定では無いが……あと三年から四年後、お前が成人するかしないかの頃に、四十年ぶりの三国会議が行われる」

 あ、ちゃんと真面目な話だった。

 俺は慌てて気持ちを切り替えた。


「三国会議?」


「そうだ。皇帝、国王、教皇が一つの場所に集まって行う会議だ。魔王が倒される前までは二年おきに行われていたらしいんだ。ただ、魔王がいなくなってからは王国と帝国の仲が悪くなっていき……四十年前にやらなくなってしまったんだ」

 そんな会議があったんだ。

 四十年前ね……その会議がまだちゃんと続いていたら戦争は起きなくて済んだんじゃない?


「そうなんだ……。で、どうしてこのタイミングでやることになったの?」


「いや、まだやると決まったわけじゃない。王国が四十年ぶりに三国会議をやらないか? と言い始めたんだ」


「王国が……もしかして?」

 王国が四年後……俺が成人するタイミングに開催を呼びかけるとしたら、理由は一つしか無いだろう。


「ああ。お前の想像通り、宣戦布告がしたいんだろうよ。教皇の前でな」

 教皇に対しての牽制と、お互い引くに引けなくすることが目的かな?

 でも、今代の教皇も強欲だったはずだよね? 戦争でお互いが疲弊したところを攻め込まれるとか考えないのかな?


「そうなんだ……やっぱり、戦争は避けられないんだね」


「まだわからない。ただ……覚悟はしておいた方がいいだろうな」


「はあ……覚悟は出来ているつもりなんだけどね。それで、三国会議の開催地とかは決まっているの?」

 その会議に向けて偵察したり、俺も何か出来ることはやっておかないといけないからね。


「ああ……それについてなんだが……」


「え? 何? 何か問題があるの?」


「三国会議の開催地は、毎回ここでやっていたらしい」

 そう言って、父さんが指を下に向けた。


「ここ!? ミュルディーン領でやるの?」

 おいおい。マジかよ!

 ああ、そうか。だから、父さんは申し訳なさそうにしていたのか。


「ちょうど三国の中間に位置しているってことで毎回ミュルディーン領で開催していたらしいんだ」


「なるほどね……」

 確かに、集まりやすいのはここだな。

 寧ろ、皇帝が他の国に行く方が危なかっしいから、俺の領地で良かったって考えるべきかな?


「本当にすまない!」


「え? どうして父さんが謝るの?」


「お前ばかりに大変な役目を押しつけてしまっているのを、帝国の貴族を代表して謝りたい。父親なのに、お前を何も助けてあげられていなかったことに謝りたい」


「……」

 え? 何て返せばいいの?

 そんな、父さんが謝らないといけないといけなかった?


「これを伝えたくて、オルトンの代わりに俺がレオに三国会議のことを伝えることにしたんだ。半年とちょっと前……お前、王国の攻撃で死にそうになったんだってな? それを辺境にいる俺が知ったのはそれから二週間も後だったが……本当にあの時は心配した」

 ああ、父さんがこんなに落ち込んでいるのは、爆発事件が原因か。

 確かに、あれは悲惨だったからな……。

 これからの帝国を支える貴族子女がたくさん殺されてしまった。


「それと同時に、自分の愚かさに気がついた」

 父さんが愚か? 寧ろ、優しくてしっかりした父親って感じがしたんだけど?


「レオは昔から、一人で上級貴族に上り詰めてしまうくらい優秀で、ドラゴンを倒しても誇らないくらい強かった。だから、俺はレオなら大丈夫。あいつならやってくれる。俺もオルトンもそう思っていた。でも、実際は違った。強いから、優秀だからという言葉を盾に、大変な仕事をレオ一人に押しつけていただけなんだ」


「……そうかな? その分、良い暮らしはさせて貰っている訳だし、父さんはもちろん、俺は皇帝も悪いとは思わないよ?」

 確かに、仕事が増えて面倒と感じることはたくさんあったよ。

 でも、面倒な仕事を工夫しながら熟していくのは楽しかったし、その分たくさんの出会いや経験があったから……感謝はしているけど、他に何か恨みとかは全く無い。


「お前は本当……俺の子供だとは思えないくらいしっかりしていて優しいな。だがな、これに関してはしっかりと反省しないといけないんだ。これからは、レオだけには押しつけない。王国との戦争に向けて、俺もオルトンも出来る限りのことをするつもりだ」


「あ、ありがとう……」

 これに関してはこれ以上否定していても仕方ないし、ありがたく支援して貰うとしよう。

 正直、俺だけの力だけではどうにも出来そうにないことがあったから良かった。


「よし、言いたいことは言い終わったぞ。細かい話はまた後だ! とりあえず、オークションを楽しもうぜ!」

 ちょっと待って。やっとしんみりした雰囲気に俺の心が慣れてきたのに、急にテンションを上げないでくれよ。


「お、あの宝石いいと思わないか? よし、来月にあるカーラの誕生日プレゼントはあれにするぞ! とりあえず十万だ!」

 まあ、こっちの父さんの方が好きだけどね。

 子供みたいにはしゃぐ父さんを見ながら、そんなことを思った。


九章はこれで終わりです。

はい。九章の題名を変えさせて貰いました。

本当は三国会議まで九章でやるつもりだったんですけど、文字数的にダメでした。

今回、九章は二つの章分の文字数があるので、次回から登場人物紹介と閑話二つを入れさせてもらいます。


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