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第二十一話 新たな勇者と宝石姫⑥


 カンカン!

 乾いた木同士がぶつかり合う音が静かな訓練場に響く。


「いいですよ。その調子です! あと十回です」

 アーロンさんの喜んでいる声が聞こえるが、俺は反応せずアーロンさんの攻撃を冷静に対処していく。

 ここで気を抜くな。そう自分に言い聞かせ、俺はアーロンさんの攻撃を必死に防いでいった。


「お見事。私の攻撃百回を、危なげなく凌ぎ切ることが出来ましたね」

 気がついたら終わっていた。

 アーロンさんが剣を下ろしたのを見て、俺も遅れて構えを解いた。


「いえ、途中何度か危ないところがありました」

 中盤、一回タイミングをミスった時は本当に焦った。

 よくあそこから体勢を持ち直せたよ。


「そんなことはないと思いますが……その向上心は良いですね」


「いえ、自分が弱いことを理解しているだけですよ。現に、まだ無属性魔法を使われたら、俺は手も足も出ないんですから」

 一度、アーロンさんに本気で動いて貰った時は、本当にビックリしたな。

 気がついたら、首に剣が当てられていたんだもん。


「それは仕方ないです。カイト殿も魔法を使えるようになれば変わってくると思うのですが……」


「それが、全くと言って良いほど使えないんですよね。雷魔法使いの人に教わったりしたんですが根本的な使い方が違うみたいで、小さな静電気を飛ばすことくらいしか出来ないんです」

 今のところ、静電気魔法なんだよね……。

 何かやり方が間違っているのかな? それとも、俺の魔力が少ないとか?

 魔力はアーロンさんに鍛えてもらっているから、少ないってことはないと思うんだけどな……。


「そうですか……色々と試していくしかありませんね」


「はい。あと半年……なんとか間に合わせてみせます」

 と言いつつも、不安だな~~。

 あと半年で、魔法を使えるようになる気がしないんだけど?


「期待していますよ。私に似て、傲慢に育ってしまった孫をカイト殿に打ちのめして貰えることを願っています」


「はい。任せて下さい」

 前代の勇者の様に、剣聖の卵の心を入れ替えてみせるさ。

 そして、どうにか戦争の時までには仲良くなっておきたいな。


「カイト! 見て見て!」

 俺が勝った後のことを考えていると、一冊の古びた本を持ったエレーヌが入ってきた。


「あ、まだ稽古中だった?」


「いえ、ちょうど終わったところです」


「そう。それは良かったわ。カイト! これ読める?」

 何故か上機嫌なエレーヌは、そう言って俺に持っていた本を差し出した。


「これからの君へ……桐島 祐介」

 受け取った本の表紙を読むと、そう書かれていた。


「良かった~~。これ、あなたと同じ魔法が使えた二代目勇者ユウスケ・キリシマが書いた本よ」


「二代目って凄い前じゃん。よく見つけたね」

 俺が十八代目だから、十六代も前だよ?


「ふふん。国中を探したら、王国で一番古い教会にあったの。けど、何て書いてあるかわかんなくて。で、もしかしたら同じ勇者のカイトなら読めるかな? と思ってね」

 ああ、言われてみたらこの文字日本語だな。


「それは正解だったね。これは俺の故郷の文字だから、世界で読めるのは俺だけだよ」


「ふ~ん。これが異世界の文字ね。複雑で、何だか記号みたいだわ」


「それは、俺が見たこっちの文字も同じだよ」

 魔方陣に書かれている言葉とか、未だに理解出来ないんだよね。


「そういうものなのかな? まあいいわ。早く読んで内容を教えなさいよ」


「はいはい」

 エレーヌに急かされ、俺は本を開いて1ページ目を読んだ。


 これを読む前に……

 この本は、余程信用出来る人なら良いが、そうじゃない人と読むのはお勧めしない。なるべく一人で読むことをお勧めする。

 この本は勇者の強みと同時に、勇者の弱みも書いてある。そのことを念頭に、信用出来るかを考えろ。

 それと、この情報は私が生きている時代の物だ。何年経っているのかしらないが、古い情報だということは忘れてはいけない。

 それでは、読み始めるがいい



「えっと……この本には勇者の強みと同時に弱みも書いてあるから、信用出来る人以外とは読むなって書いてあるよ」


「そう……。自分の部屋で読む?」


「いや、いいよ。エレーヌもアーロンさんも信用出来るからね」

 むしろ、信用出来る人はこの世界でエレーヌとアーロンさんの二人しかいないんだから、一緒にいてくれよ。

 わかんないことがあった時、誰に質問すればいいんだよ。


「姫様はわかりますが……私もご一緒して大丈夫なのですか?」


「はい。アーロンさんにはこの半年間本当にお世話になりましたから。一緒に、勇者の秘密を暴きましょうよ」

 この半年、まだ攻撃を避けることくらいしか出来ないけど、アーロンさんのおかげでまともに剣を握れるようになったんだから。


「それは同時に、カイト殿の弱点にもなってしまうと思うのですが?」


「何を今更、この世界で俺の弱点というか、戦い方を一番知っているのはアーロンさんじゃないですか」


「ハハハ。確かにそうですな。これは失礼しました。いやはや、長生きしてみるものですね。勇者の謎を知ることが出来るとは」

 俺の言葉に、アーロンさんは嬉しそうに笑った。

 やっぱり、アーロンさンも勇者について知りたいよね。


「それにしても、私が半年も探して見つからなかったってことは、もう何代も勇者はこの本を読んでいなかったってことよね」


「そうですな。逆に姫様、よく見つけられましたな」


「ふふん。優秀な部下がいるからね」

 うん。エレーヌの下で働いている騎士の方々、本当に申し訳ございません。

 今はゆっくりとお休み下さい。


「それじゃあ、読むよ」

 そう言って、俺は音読を始めた。


 まず始めに、私の体験談を書いておこう。

 私は二代目勇者として、魔族に滅ぼされた国に召喚された。


「え? 魔族に滅ぼされた!?」


「まあまあ、続きを読んでからにしようよ」

 さっそく反応したエレーヌを手で制した。

 二行ごとに考察していたら、この分厚い本は読み終わんないぞ。



 私を召喚したのは創造士と名乗る男と、召喚士と名乗る少女だった。

 男は、名前を絶対に教えてくれなかった。あとは歳も、見た目がどう見ても三十代半なのに、百歳を超えているとはぐらかされた。言動に貫禄があったから、もしかしたら本当に百歳を超えていたのかもしれないな。


 で、少女の方はしばらくしてから俺に名前を教えてくれた。名前は、エマ。なんと、創造士の娘だった。全然似てないんだけどな……。

 それはさて置き、エマは俺の一つ歳上で、見た目はとても可愛い。めっちゃくちゃ私のタイプな顔と言い、容姿だった。まあ、私の妻なんだがな。


「なんだ。のろけかよ」

 さっきエレーヌを注意したのに、妻と聞いて思わず突っ込んでしまった。


「ねえ、エマって。確か、王国の初代女王よ。城に肖像が飾られているけど、凄く綺麗な人よ」

 それなら、エマさんが綺麗なのも納得かな。

 だって、エレーヌの先祖が美人じゃないはずがないもん。


 おっと、また話が脱線した。

 このペースだといつになっても読み終わらないぞ。


 私が召喚された目的は、人間界の復興の為だと言われた。

 魔族が我が物顔で支配する現状に終止符を打ち、人同士が争わない世界を作ることを目指すのが創造士の目標らしい。


 まあ、あのおっさんは有言実行してしまったんだけどな。

 今後何年あの山が保たれるかはわからないが、魔界と人間界を隔てる山脈がまだ残っていることを願っている。それと、森の魔物や山のドラゴンがたまに暴走することがあるから、その時は頼んだぞ。


「え? ドラゴンって、誰にも倒せないんじゃないの? てか、暴走するの?」


「ほんの数十年前までは、酷かったですよ。前代の勇者が防衛拠点を建てるまで、帝国の東側は荒れ果てていましたからね」


「前代、人類に貢献し過ぎだろ……」

 魔王を倒しただけで十分じゃない?

 勇者のハードルを上げすぎだよ。

 まあ、いいや。続きを読まないと。



 私が創造士に任された仕事は、魔族を魔界まで追い返すこと、エマと一緒に滅んだ国の再建だった。

 思い返すと、本当に大変だった。

 本気で死んだと思ったことは一度や二度じゃ無い。


 特に魔王と名乗る男と破壊士と名乗る女は、もう二度と顔を合わせたくない。

 あの二人には、何年修行を積んでも勝てないだろう。


 まあ、それでも俺は世界で五本の指には入れるくらい強かったと思うぞ。

 俺だけが使える電気魔法。これが、強かった。

 創造士に教わらなかったら、一生使えないで終わっていた気もするくらい扱いが難しいが、使えたらとんでもなく強い。


 創造士が言うには、電気魔法は最速の魔法らしい。

 神速や転移のスキルを持っていない限り、そのスピードを上回ることは出来ないんだって。

 ちなみに、神速のスキルを持っていた男は、焼却士に燃やされてしまった。

 半径十メートル以内に入ると燃えてしまう攻撃には、どんなに速くても意味が無かったみたいだ。

 俺はどっちにも勝てる気がしなかったからすぐに逃げたんだけど。


 おっと、話が脱線してしまったな。

 電気魔法に話を戻すぞ。


 電気魔法は雷魔法と似ているようで、全く違う物だ。

 雷魔法は、高威力の電気を飛ばして相手を感電させる魔法だな

 それに対して電気魔法は、威力が低い分汎用性が高いことが特徴だ。


 基本的な使い方は、体全体に纏わせるのをお勧めする。

 これをすると、無属性魔法と同じ要領で体にスピードのバフがかかる。

 それと、威力の低い魔法だったり、矢とかは鎧の代わりに弾いてくれるから防御としても使えるぞ。

 あとは……剣に纏わせて、剣を触った相手を感電させる技とかを使うといいぞ。

 まあ、魔法はそれぞれの感覚だから、自分なりの使い方を見つけてみろ。


 それでも、俺の技を知りたい奴は、百ページから最後のページまで書いた技一覧を見るといい。

 別に読むことは強制しないからな?

 ただ、見ないのはもったいないと思ってしまう……俺のずば抜けたネーミングセンスと完璧な技……見ないのはもったいない。

 何度も言うが、別に強制しているわけではないからな?


「つまり、後半もちゃんと読めよってことだな?」

 ちょろっと見てみたらスペシャルローリングサンダーとか、書いてあってとても読むのが辛い気がするんだが?

 しかもこの本、三百ページあるんだが……。

 二百ページもこの恥ずかしい技名たちを読まないといけないの?

 でも、強くなるためだ。仕方ない。毎日少しずつ読んでいくとするか。


「まあ、良かったじゃない。これで、ずっと探していた電気魔法の使い方が知ることが出来るんだから」


「そうですな。これで、一年後の決闘までには間に合いそうですな」

 間に合うかな? これ、半年で読み切れるかな?

 めっちゃ不安なんだけど。


「本当、あなたが勝手に約束して、私がここまでしてあげたんだから勝ってよね?」


「勝手に約束しちゃった件についてはもう何度も謝ったんだから許してよ。もちろん、勝つから心配しないで大丈夫だよ」


「勝つまでは許さないわよ。まあ、あなたが勝つってことは信じているけどね」


「ほう。姫様が人を信じるですか。どうやら成長しているのは、カイト殿だけではない様ですな」

 エレーヌの言葉を聞いて、アーロンさんが驚いた顔をした。


「それってどういう意味?」


「いえいえ、年老いた老人の独り言です」

 確かに、エレーヌもこの半年で変わったな。

 前よりも優しくなったよね。それに、俺に対しては心を開いてくれたみたいだし。

 俺以外と仲良く話している人を見たことも無いし、エレーヌは人に気持ちを伝えるのが下手なだけだったのかな?

 はぐらかすアーロンさんと怒っているエレーヌを見ながら、そんなことを思った。



本日、四巻の発売日です!!

いつも通り番外編が収録されているだけでなく、漫画も収録されていますので、本屋に立ち寄った際には是非探してみて下さいm(_ _)m

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