第十三話 姉ちゃん到来①
ダンジョン造りから一ヶ月くらいが経ち、学園を建てつつ学園区の整備を行っていた。
いや、まだ終わってはいないから行っているの方が正しいか。
そんな中、我が騎士団たちは頑張って毎日ダンジョンに挑戦してくれている。
色々と作戦を考え、二階層をクリアしようと頑張ってはいるけど、クリアにはあともう二週間はかかりそうだ。
ヘルマンたち、シェリーたちがもう三階層をクリアしていることを知ったらさぞショックだろうな。
まあ、シェリーたちにはルーがいるから簡単に進めているんだけど。
そんな感じで、皆に頑張って貰っているおかげで、ダンジョンがようやく完全体になってくれた。
〈訓練のダンジョン〉
精鋭部隊を訓練する為に造られたダンジョン
最低でも、並のダンジョンの三十階まではクリアできる実力を持っていないなら、挑戦をお勧めできない難易度となっている
あくまで訓練用の為、このダンジョンで死ぬことはない
死ぬ度に蘇生され、入り口に戻される
更にこのダンジョンの中では、時間の経過が半分になり、獲得経験値が五割増加する
これが完全体になったダンジョンの鑑定結果。
一ヶ月間ダンジョンが集めた魔力は、俺が何十人分にもなるとんでもない量だ。
と言ってもほとんどは維持に回されるから、なかなか貯まらなかっただけなんだけどね。
それでも、完全体になって手に入れた能力はどれもヤバいよな。
まず、時間の経過が半分になるという能力。
これはダンジョンの中での一時間が外だと三十分ってことだ。
単純に成長速度が二倍になるって考えれば凄いよね。
二つ目の獲得経験値五割増しと合わせて考えれば、外に比べて三倍速で成長出来るってことになる。
まあ、時間が二倍になったとしてもその分疲れる時間とかあるから、そこまで単純に効率が倍にまで上がるわけではないんだろうけど。
と言っても、断然ダンジョンの中での成長速度は速くなったんだから、ダンジョンを造って良かったね。
元々凄い能力を持っていた人たちが、このダンジョンでどこまで成長出来るのか楽しみだ。
そんな一ヶ月間を頭の中で振り返りながら、俺はエルシーと二人だけで昼食を食べていた。
今日は長めにダンジョンに挑戦したいとかで、シェリーたちは夕方までは帰って来ないらしい。
今頃、騎士団の訓練場で手短に食事を済ませているだろう。
昼飯くらいゆっくり食べればいいのにな……と思ってはみたけど、よく考えたら俺も寝る間を惜しんで攻略したことがあるから人のことは言えないね。
「学園区の開発は予定通りに進んでいますか?」
食事をしながら、俺たちはお互いの仕事の進捗状況を確認し合っていた。
たまに二人きりになる時は、決まって仕事の話題から会話が始まる。
「うん。順調だよ。学校の建設が拘りすぎて時間はかかってはいるけど、予定の範囲内かな。地下市街の方はどうなの?」
「もちろん順調ですよ。順調すぎて、公開する日程が予定よりもどんどん早まるせいで、公開式の準備が間に合わなくて困っているくらいです」
公開式の準備が間に合わない?
「え? あとどのくらいで公開出来そうなの?」
俺が関わっていない間に、凄い進んじゃったじゃん。
「そうですね……あと三ヶ月というところでしょうか? 建物の方はもうすぐ完成する予定です」
「三ヶ月!? 早くても半年って先月くらいに言ってなかった?」
だって、まだ一、二ヶ月前に魔法具工場が建て終わったばかりでしょ?
「それが思ったよりも魔法具工場の生産スピードが速くてですね……街灯の設置がすぐに終わってしまったんです。街が夜でも明るくなってからは夜間工事が出来るようになりまして……」
それで、思っていたよりも早くなったと。
金に余りがあるからって、夜間も工事する必要なんて無かったのに。
「それにしても、それは嬉しい誤算だな。魔法具工場を造って良かったね。これからは、簡単な魔法具は工場で作るようにしよう」
その分、職人たちには手間暇がかかる魔法具だけを集中して作って貰おう。
どんどん効率が良くなっていくな。
「そうですね。今、新しい魔法具の教育を始めています」
「おお、流石エルシー」
俺が思い浮かぶ前に実行していたとは。
「いえ、レオくんには敵いませんよ。ここの数ヶ月間、働いてばかりじゃないですか。たまには休んでください」
「え? そんなに働いているかな?」
働いていると言っても、好きなことをしているだけだよ?
「そんなに働いています。一人で城壁を造ってしまうだけでも大変じゃないですか。それなのに、領地の拡張から学生寮建設の手配、訓練場の建設、学園造り……どう考えても働き過ぎだと思います」
そうやって並べられたらそりゃあ多く感じるさ。
「それは、創造魔法があるから……」
大した労働じゃないと言おうとしたら、執事長のエドワンが部屋に入ってきた。
「失礼。レオンス様、お客様がいらしております」
お客様?
「ん? 今日はそんな予定はあったかな? 相手は誰?」
エドワンが追い返さなかったってことは、門前払いすることが躊躇われるような名の知れた人なんだろうけど……誰だろう?
「ヘレナ・フォースター様でございます」
「姉ちゃん!?」
俺は姉ちゃんの名前を聞いて、反射的に立ち上がってしまった。
どうしてここに来たんだ?
それから急いで玄関に向かうと、笑顔の姉ちゃんが待っていた。
「ふふふ。レオ、大きくなったわね」
「久しぶり。姉ちゃんも、立派な淑女になったね」
昔は、お転婆娘だったのに……今は、随分と大人びちゃって。
「あら、そんなことを言えるようになっちゃったの? 嫁が五人もいるだけあるわね」
俺の言葉に機嫌が良くなったのか、悪くなったのか、姉ちゃんは笑顔でヘッドロックを仕掛けてきた。
うん、前言撤回。姉ちゃんはお転婆娘のままだ。
「な、なんで姉ちゃんがここにいるの? 学校は?」
ヘッドロックされながら、俺は姉ちゃんとの会話を続けた。
ヘッドロックされていることよりも、どうして姉ちゃんが俺のところに来たのかの方が重要だからね。
もし、俺が約束を破って魔の森に行ったことを知った母さんから派遣された刺客だったら、俺は早急に逃げないといけない。
「長期休暇中よ。本当は、私の成人パーティーがあるから帝都で過ごす予定だったけど、とても今はお祝いムードじゃないでしょ?」
ああ、そういえば姉ちゃん、もうすぐ成人か。
すっかり忘れてた……とは、口が滑っても言ってはいけないな。
でも、そうか……たくさんの人が死んでしまったわけだし……パーティーはできないね。
「まあ、確かにね……。てことは、姉ちゃんの成人パーティーは中止になったってこと?」
「中止じゃなくて延期よ。来年の結婚式と一緒にやるって」
「そうなんだ……。ん? 結婚式!?」
姉ちゃん、結婚するの?
「あなた、お姉ちゃんのこと何にも聞いていないんだね。私なんて、レオのことを逐一お母さんに手紙で聞いていたのに。どうせ、お姉ちゃんよりも可愛いお嫁さんたちの方が大事よね……」
俺の言葉に機嫌を悪くした姉ちゃんが、ヘッドロックの力を更に強めた。
「ごめん。ごめんってば!」
「うふふ。冗談よ。ちなみに、結婚相手はバート。えっと……ルフェーブル家の長男で、貴族学校で会長をしていた人なんだけど覚えてるかな?」
ああ、あのザ、真面目って感じの人ね。
俺が創造魔法のことで馬鹿にされていた時に庇ってくれたから覚えているよ。
「うん。覚えているよ。良かった~。会長の恋、ちゃんと叶ったんだね」
「え? いつから会長が私のことを好きだったのを知っていたの?」
「え? 逆に姉ちゃんはいつ気がついたの? 俺は、入学して数日くらいから知っていたんだけど?」
新入生歓迎会でね。
「はあ? そんなに前から!?」
「何その反応? もしかして、あの時はまだ気がついていなかったの?」
嘘でしょ? 会長にあからさまな態度をされていて、気がついていなかったの?
「し、仕方ないでしょ? あの時はまだレオのことを可愛がっていたんだから」
ブラコンだったことを堂々と宣言されても……。
「で、いつ会長に告白されたの?」
「え、えっと……去年くらい」
きょ、去年?
「それじゃあ、そこで姉さんは会長の気持ちを知ったって感じ?」
「は、はい……」
おいおい。マジかよ……。
「それだけ長い時間一緒にいて、最近まで告白しなかった会長もどうかと思うけど……姉ちゃんも酷いな」
気がついてやってくれよ。
一体、何年間一緒にいたんだ?
「し、仕方ないでしょ! バートは身近な存在だったから、好きとかそういう気持ちで見てなかったのよ! 何か悪い?」
「い、いえ……」
何も言い返せなくなるから、逆ギレしないでくれよ。
まあ、言っていることはわからないでもないけどさ。
幼なじみでよくありそうなパターンだよね。
「それよりも、あなたのお嫁さんたちを紹介しなさい! ここに全員いることは知っているのよ!」
「ちょ、ちょっと! あ~行っちゃった」
ヘッドロックを解除すると、姉さんは俺の制止も聞かずにエルシーのいる方に行ってしまった。
仕方ない、追いかけるか。
「あ、初めまして。エルシーと申します……」
「そんなに畏まらなくていいわよ。エルシー、私よりも年上なんでしょ? 気軽に話しましょうよ」
俺が姉ちゃんに追いついた時には、エルシーが自己紹介を始めていた。
てか、エルシーの方が姉ちゃんよりも年上だったんだな。エルシーは今年で十七歳だから一歳差だね。
「は、はい……」
「ふふふ。可愛い」
そう言いながら、むぎゅうっとエルシーのことを姉ちゃんが抱きしめた。
ん? エルシーの方が年上なんだよね? 姉ちゃん、気軽に話して欲しいんだよね?
俺は思わず、姉ちゃんの上からな行動にツッコミを入れたくなってしまった。
「あれ? 他の子たちは? シェリーちゃんにリーナちゃん、ベルちゃん、ルーちゃんは?」
「えっと……今はダン…じゃなくて、騎士団の訓練場に行っているよ」
思わず正直にダンジョンと答えそうになってしまったが、なんとか誤魔化した。
ダンジョンを造った話をしたら、魔の森に行った話にまで行ってしまう可能性が高くなるからね。
「あら、未来の夫の為に働いているなんて、立派なお嫁さんじゃない。大切にするのよ?」
「う、うん……」
まあ、姉さんは魔の森なんて気にしないかもしれないけど。
「それじゃあ、四人と会うのは帰ってくるまでのお楽しみだね」
「そうだね。それより姉ちゃん。一応聞いておくけど、どのくらいまでここにいるの?」
わざわざ遠くから来たわけだし、泊まっては行くだろうけど……何日くらい泊まっていくつもりなんだろうか?
一週間くらいかな?
「さあ? 気が済むまでかな? 私、成績優秀だから、単位の心配も無いし、学校が再開していてもしばらくはいられるよ?」
「そ、そうなんだ……。ゆっくりしていって」
気が済むまで……下手したら一ヶ月以上いや、もっとここにいそうだな。
「うん! それじゃあ、私が泊まる部屋を案内してくれない?」
「は、はい……」
俺は黙って姉ちゃんを来客用の部屋に案内した。
昔から、姉ちゃんと母さんには逆らえないんだよね……。