第十二話 訓練場お披露目
ダンジョンを造った次の日、俺は騎士団を新しく造った騎士団と魔法騎士団の練習場に連れて来ていた。
それと、シェリー、リーナ、ベル、ルーたちは朝早くから先にダンジョンに挑戦して貰っている。
とにかく、ダンジョンでの魔力が枯渇しているから四人に頑張って貰わないといけないんだ。
アンナによると、魔力が足りなくてまだまだ使えていない機能があるらしくて、とりあえず魔力をいっぱい集めるしかないみたい。
てことで、シェリーたちが頑張っている間に、俺は騎士団に訓練場の説明をしていた。
「うわ~ここが新しい訓練場ですか? とても立派ですね」
訓練場の入り口、門の前でアルマが俺の建てた訓練場を眺めて盛大に驚いていた。
「まあね。でも、見た目なんて、中の施設に比べたら大したことないよ?」
「ほうほう。それは楽しみですね~~。ご当主様の自信作だからきっと凄いですぞ~~!」
俺が説明していると、一人の男が嫌みというか何というか独特な声が聞こえてきた。
「おい、バルス。その馬鹿にしたような話し方をレオンス様にするな」
バルス。見た目からして二十中盤くらいかな?
語尾を必ず伸ばす話し方が特徴で、いつもベルノルトに怒られている。
まあ、変わっている奴だけど斥候としては凄く優秀で、元は暗殺者だったらしい。
で、こいつの凄くて俺が恐れているところは鑑定が効かないこと。
鑑定が効かない理由が、魔法アイテムによるものだってことしかこいつの能力はわかっていないから怖いんだよね。
それでも選んだ理由は、単純に『こいつは大丈夫』という根拠の無い勘なんだけど。
まあ、こいつが敵にならなければいいかな。
もちろん、裏切る可能性も考えてはいるけどね。
とりあえず、自分の勘を信じることにした。
「隊長、仕方ないですよ~~~。もう、癖になって治りませんから~~~」
「たく……」
ベルノルトの呆れた声を聞きながら、俺たちは訓練場の敷地の中に入っていった。
「まず、外の運動場だね。走ったりとか体力作りにでも使って」
入ってすぐ、俺は一面に芝が敷かれた運動場に案内した。
天気が良い日とかは外で練習してもいいだろうってことで、造ってみた。
「おお、随分と広い運動場ですな。これなら、大人数での練習も出来そうだ」
「でしょ? それじゃあ、中に入るよ」
外に時間はかけてられないから、運動場の説明はすっ飛ばしてさっさと建物の中に入るよ!
「うわあ。師匠、ここ本当に訓練場ですか? 僕には貴族の豪邸にしか見えないんですけど?」
入ってすぐの光景を見て、ヘルマンが感嘆の声を上げた。
まあ、俺の暴走はここから始まったんだよね……。
玄関の段階で装飾をし始めたら、全部しっかりと造らないといけない気がして、結局貴族の豪邸みたいになってしまった。
「造っていたら楽しくなっちゃってね……。この玄関を左に行くと騎士団の訓練場。右に行くと魔法騎士団の訓練場があるよ。で、まっすぐ進んだ先にあるのはお楽しみってことで」
「え~。そんなケチケチしないで教えて下さいよ~~~」
「バルス!!」
「へいへい。すみませ~~~ん」
うん、ベルノルトさんも毎日こいつと一緒にいたら疲れるだろうな。
優秀なやつだから、我慢してくれ。
「じゃあ、騎士団の練習場に行くぞ」
ベルノルトとバルスのやりとりを横目で見ながら、俺は左側に進んだ。
「まず、筋トレ設備が揃ったトレーニングルームだ。これを使えば効率よく筋力を鍛えることが出来るよ。試しにヘルマン、やってみな」
最初の部屋は、前世の記憶を元に造ったトレーニングルームだ。
筋肉を鍛える機材がいっぱい置いてある。
これで、筋肉モリモリの男たちになってもらおう。
そんなことを考えていると、ヘルマンがダンベルを持ち上げられなくて困惑していた。
「う、うそ……重い……」
「驚いた? これはステータスを無効化する機能がついているんだ。だから、純粋な筋力だけが強化出来る。凄いでしょ?」
ステータスがあれば、こんな筋トレマシーンなんて意味が無いからね。
考えた結果、こうなった。
ちなみに、ステータス頼りで生きてきたから俺もヘルマンと同様にダンベルを持ち上げられなくて、一人でめっちゃ悔しがってしまった。
筋力つけないとな……。
「凄いです……よし、これを持ち上げられるように頑張るぞ」
「ステータス無効で純粋な筋力……面白いですな。私も後で挑戦してみます」
ベルノルトはよほど筋トレマシーンを使ってみたくて仕方なかったのか、俺とヘルマンの話を聞きながらうずうずしていた。
「うん。やってみな」
今は説明があるから、今はやらせてあげられないけど。
「じゃあ、次に行くよ。ここから先は個人練習室がズラ~っと並んでいるよ。一~三人くらいで練習したい時に使って」
うちの騎士団は個々の能力が高くて独特だから、自分の好きな練習が出来る場所も必要かな? と思って個人練習室を造った。
「おお、個人の練習スペースがこれだけ……」
「これなら、個人での練習も存分に出来るな」
どうやら騎士たちには好評みたいで良かった。
それから個人練習室を通り過ぎ、少し広い部屋に入った。
「ここは、人型ゴーレムと戦える戦闘訓練室。レベルが6~10まであるから後で挑戦してみて」
これも俺の自信作、剣術を極める為に造られたゴーレムたちだ。
「え? どうして6からなんですか?」
「お前たちにとってレベル1~5が物足りない強さだからだよ。このゴーレム自体の強さはレベル1~5なんだけどちょっと改造してね……。こいつと戦っている間、ステータスは無効化されて、スキルも使えなくなるんだ。どう? 純粋な剣術だけでこのゴーレムを倒せるかな?」
「それなら納得で、楽しみですね~~~」
バルスの声を筆頭に、騎士たちは試したくて仕方ないって顔をしていた。
うん、皆やる気があってよろしい。
「それと、このゴーレムたちは一応殺してしまうような攻撃はしないようにしているけど、もしものことがあるかもしれないから必ず二人以上で使うこと」
まあ、皆強いからそこまでの事故は無いと思うけどね。
「はい。了解しました。それと、もしゴーレムを壊してしまった場合は?」
「ああ、それなら大丈夫だよ。その場合は、自動で直るから」
そんなの対策するに決まっているじゃん。
壊れた瞬間、自動修復が発動するようになっているよ。
「そうなんですか。それなら安心ですな」
そして、ラストの大訓練場に来た。
「これからメインで使う大訓練場。ここなら、どんなに大人数でも訓練がやりやすいでしょ?」
「確かに凄く広いですな……確かに、これならもっと人が増えたとしても余裕で練習が出来ますな」
まあ、ここは普通に広い体育館って感じだから、特に何か仕掛けがあるとかは無いんだけどね。
「訓練場はこんな感じかな。あとは、二階に風呂と泊まれるスペースがあるから好きに使って」
ちゃんと効能付きの風呂だから、しっかり体を癒やすんだぞ。
「了解しました。いやはや、想像を遙かに越えてきましたな」
「まだその感想を述べるのは早いよ。メインはこれからだからね」
「メイン~~? ああ、さっきのまっすぐ進んだ先ですね~~?」
「そうそう。凄いよ」
そう言って、俺は皆と玄関に戻った。
「まっすぐ進んだ先には、まず大中小の会議室があるよ。作戦会議とかする時に使って」
会議室は城にもあるけど、ここでも必要だろうから小が四つ、中が二つ、大を一つ造っておいた。
「あ、ここは食堂ですね?」
先に進むと、ヘルマンが次の部屋を見て答えを確認してきた。
「そうだよ。コックとかも手配しておいたから、ここでいっぱい食べてくれ。ちなみに、ここならタダでいくらでも食べられるぞ」
『おお~~』
俺の飯タダ宣言を聞いて、男たちが雄叫びを上げた。
そんなに嬉しいのか?
「で、この先にあるのが……」
「階段ですな?」
「そう。地下に繋がる階段。これを下りると」
「大きな扉ですね」
「これって……もしかして?」
他の騎士たちが地下に似つかわしくない大きな扉を『何だろう?』と考えている中、ヘルマンは何かわかったみたいだ。
「ヘルマン正解。ダンジョンだよ。この中で死んでも、蘇生されてここに戻ってくる仕組みになっているから、死ぬ心配はしなくて大丈夫だよ。思う存分レベル上げをしてくれ」
「え? レオンス様、もしかして……ダンジョンまで造れるのですか? それに、死なないって……」
俺の言葉に、アルマがすぐに聞き返してきた。
「そうだよ。訓練の為だからね。死なれたら困るからそういう設定にしておいた」
「そうなんですか……そんなことまで出来るなんて本当に凄いですね」
「ありがとう。渾身の一作だから是非挑戦してみてくれ。まあ、難し過ぎて一階層も突破できないかもしれないけど」
「ん? 一階層すら私たちには攻略できないと?」
「ぐふふ。隊長の闘争心に火がつきましたね~~~。これは大変ですぞ~~」
俺の煽りに、ベルノルトはあからさまにイラッとした顔になり、それを見てバルスは嬉しそうに笑った。
何がそんなに面白いんだ?
「まあ、それなら午後から挑戦してみたら? このダンジョンの難しさを知るためにも。あ、そうだな……一階層ごとに最速で行けた人には特別な褒美をあげることにしよう。さて、十階まで行くのに何年かかるかな?」
「くそ……お前たち! ここまで言われたんだ! 絶対に攻略してやるぞ!!」
『おお!!』
うんうん。煽ったかいがあったな。存分に頑張って欲しい。
そして、ダンジョンに魔力をたくさん供給してくれ。
「あ~やっと出られた!」
騎士たちが決起していると、ダンジョンからシェリーたちが出てきた。
「あ、四人とも、もう出てきたの?」
「うん。一階層のボスを倒してからお昼を食べるのに戻ってきたのよ。もう、難しくし過ぎよ! ルーがいなかったら危なかったわよ!?」
そう言うシェリーは、本気で怒っているようにも見えた。
あ、やっぱり難しかったか……。
無限にゴブリンを生成するボスゴブリンは流石に鬼畜だったな。
「ごめんって。とりあえず、一階層をクリアしたご褒美」
とりあえずシェリーの機嫌を直して貰うのに、俺は一階層を突破した報酬を渡した。
「これ、何? ああ、たくさん物を入れられる袋ね。やったー。ありがとう」
俺からのプレゼント貰って、シェリーはすぐに笑顔になった。
まあ、もちろんわざわざ騎士たちの前でこれを渡したのには意味があるよ。
「というわけで、姫様たちに先を越されてしまったけど……騎士諸君、このままでいいのかな?」
更に、騎士たちを煽るためだったりする。
「お前たち! 騎士の誇りにかけてダンジョンを攻略するぞ! とりあえず作戦会議だ! 急いで会議室に向かえ!!」
おお、さっそく会議室が役に立って良かった。
俺は思惑通りに動いてくれている自分の騎士たちの後ろ姿を眺めながらニヤニヤと笑ってしまった。
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