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第八話 付与士に勝つために


「俺、生きて帰れるかな……」

 現在、死の山脈、ある洞窟の中……レッドドラゴンの巣のど真ん中にいた。

 俺はドラゴンに囲まれ、お互い声も出さず、一歩も動けない静寂な緊張感の中で魔王のことを恨んでいた。



《数分前》

「何? 付与士に勝つ方法?」

 転生者たちの歴史を聞き終って、俺はすぐ魔王に付与士について教えてと泣きついた。

 だって、あんだけ転生者たちの凄さを聞かされた後に、それじゃあそいつらと頑張って勝ちに行くぞ! とはならないでしょ。


「付与士について知っているんでしょ? 何でもいいから教えてよ!」


「はあ? そんなの知ってしまったらつまらなくないか?」

 つまらない? 何を言っているんだこの人は!


「別に楽しもうなんて思ってないから! 簡単に勝てるのに越したことはないでしょ? 俺は、魔王と違って負けたら死ぬんだからね?」

 俺は魔王の肩を掴んで、必死に常識というものを訴えかけた。


「あ、ああ……そうだな。お前に死なれても困るし、アドバイスしてやるか」

 魔王は俺の剣幕に押され、仕方ないとばかりにアドバイスをする気になったようだ。

 しかし、これは間違いだった。


「やった~!!」


「とりあえず、ドラゴンを出来るだけ狩ってこい。話はそれからだ」


「え?」


「心配するな。ある程度倒したら俺が連れ戻してやるから」

 そんな声が聞こえた瞬間、俺はドラゴンの巣の中にいた。

 ドラゴンたちは急に現れた俺に驚きはするが、急いで俺を囲うように数十体はいるドラゴンが身構えていた。


 そして、お互いに様子を伺い、静寂な空気の中にいた。


 たぶん、俺が数ミリでも動いたらドラゴンは一斉に襲ってくるだろう。

 ドラゴンたちからは、そんな緊張感が感じられた。


 ドラゴンたちからしたら気配も感じられず、巣のど真ん中に入り込んできた危ないやつだと思われているのだろう。

 警戒心が強いのは知能が高い証拠だけど……俺にそこまで警戒するのは馬鹿だとしか言いようがないな。

 だってこの状況で俺、君たちにダメージを与えられる手段を持ってないんだもん。


 攻撃を完璧に無効化する鱗で覆われたレッドドラゴンたちと、弱点が見えない地上で戦うとか、無理ゲーでしょ。

 くそ……魔王、あなたのことを恨みます。


 俺は、付与士に勝つ方法を聞いたんだけどな……。

 ん? いや、魔王からしたら、付与士に勝ちたいならドラゴンの群れくらい余裕で倒せってことか?

 確かに、ルーは死の山脈を越えて来られたわけだし、転生者たちからしたらドラゴンの群れなんて簡単に倒せないといけないのかもな。


 なるほど……これは、魔王からの『人から助けを求める前に、自分の力をつけろ』というメッセージなんだ。

 よし、そうと決まったら自力でこのドラゴンの群れを撃破してやるぞ!

 ……とは意気込んでみたは良いけれど、この一歩も動けない状況からどうやって突破しよう?


 出来ることなら、ドラゴンたちには空高く飛んで貰いたいけど、それはこの洞窟だと難しいな。

 だとすると、この洞窟の中でもドラゴンたちに下から攻撃する手段を考えないと。


 ドラゴンの下からね……

「あ、わかっ……」

 打開策を見つけて、思わず声に出して喜んでしまった瞬間、ドラゴンたちからの集中攻撃が始まった。


「や、やっちまった……まあ、どうせもう動こうと思っていたし、いいか」

 俺はちょっと離れた所にいたドラゴンの頭に転移して、集中攻撃から避けることに成功した。


 カツン! カツン!

「うん、やっぱり刃は通らないよね」

 ドラゴンたちが俺のことを探している間、ドラゴンの頭に剣を突き立てて再度鱗が絶対防御であることを確認した。


 そして……

「こうなったら魔法だな!」

 頭を叩かれたドラゴンが首を曲げて振り返ろうとした瞬間、俺は地面からドラゴンの首を貫通するように岩のトゲを生やした。


「よし、成功だな。これならいける」

 岩のトゲが、ドラゴンの首から突き抜けているのを確認した俺は、ドラゴンの上を走り回りながら更に岩のトゲを生やし続けた。


「よしよし、ドラゴンたちは混乱しているし、数も着々と減ってきているな。このままいけば、らくしょ……」

 楽勝だなと言おうと瞬間、背後から『バキン!』という何かが折れる音がした。

 振り返ると、そこには他のドラゴンよりも一回り大きく、傷が多いドラゴンが岩のトゲを前足で折っていた。


「いかにも群れのボスぽい奴が出てきたな……」

 うん、とりあえずあいつはほっといて、周りにいる普通のドラゴンたちから片付けよう。

 俺はボスを無視することにした。

 ボスと戦うにしても、周りが邪魔だからね。


 しかし、人生そう簡単にはいかないもので……

「うおっと!」

 俺がボスのことを無視してドラゴン狩りを続けていると、ボスが俺に向かって飛んできた。

 何とか避けることは出来たが、あと少しでも反応が遅れたらボスの頭突きで全身の骨が粉々になっていただろう……。

 俺は、ボスが頭突きしてぽっかりと穴が開いた洞窟の壁を眺めながら、当たった時のことを考えて身震いしてしまった。


「うん、さっさと他のドラゴンたちを倒しちゃおう」

 俺はボスが巣に戻って来る前にあと二十体はいるドラゴンを倒してしまおうと、土魔法を連発した。


 そして、ボスが帰って来るまでの二、三分でボス以外のドラゴンを殲滅することに成功した。


『グルアアア!!』

 ボスドラゴンは倒れた仲間たちを見て、大きな雄叫びを上げた。

 うん、自分がやってしまったことに凄く胸が痛くなってきたけど、今は考えないようにしておこう。


「許してくれとは言わない。でも、お前の素材は無駄にしないよ」

 俺はそう言って、ボスドラゴンの真下に転移し、首に剣を二本突き刺した。

 他のドラゴンでは難しかったけど大きいドラゴンなら立った時、下にある隙間が大きいからこれが出来る。

 意外に、ボスドラゴンの方が簡単だったな。


 などと思っていたら……

「グハ!」


 俺は気がついたら壁にめり込んでいた。

 たぶん、少しの間だけだろうけど気を失っていた。


「ック……体が動かない。ボスドラゴンはどこだ?」

 無理矢理首を動かしてボスを探すと、俺の前方かなり先に、首に二本の剣が刺さった大きなドラゴンが力尽きて倒れていた。

 どうやら……死ぬ直前に、最後の力を振り絞って俺に攻撃したんだろうな。

 剣を首に突き刺しただけで安心しちゃった。

 危なかった……再生のスキルが無かったらマジで危なかったぞ。

 本当、油断する癖を直さないといけないな。


「ふう、よいしょ」

 怪我が完全に治り、俺はめり込んだ壁から脱出した。

 ジャンプして、屈伸をして、体が元に戻ったことを確認した俺は、ドラゴンの回収を始めるべく、動き始めた。


「それにしても、魔王はいつまで俺をここにいさせるつもりなんだ?」


「いや、もういいぞ」


「うお!」

 気がついたら、一時間くらい前までいた魔王の家の中に戻ってきていた。

 魔王の空間魔法だ。


「お疲れ。まさか、主までも倒してしまうとはな。お前の成長が見られて良かったぞ」

 主って何? え? もしかして、あの大きなドラゴンが出てきたのは、魔王にとって想定外だったの!?


「何が良かったですか! あと一歩間違えれば死んでいたかもしれないんですからね!?」

 俺がふざけるな! と言うよりも早く、魔王と一緒にダンジョンコアを使って俺の戦いを見ていたベルが本気で怒っていた。


「だからすまんって。最近、間引く奴がいなくてドラゴンが増えてきたから、素材集めのついでに、レオに数を減らして貰おうと思っていたんだ」

 え? そんな害獣駆除みたいな理由で俺はドラゴンの巣に飛ばされたの?

 俺に力をつけさせる為とかじゃなかったの?


「それがまさか、千年級の主が目を覚ましているとは思わなかったんだよ。それに、死ななかったんだからいいだろ?」

 え? 千年級って何? てか、やっぱり想定外だったのかよ!


「ふざ「全くよくありません!」」

 俺が『ふざけるな!』と魔王に文句を言おうとしたら、またベルがそれに被せるように怒った。

 数時間前まで、魔王のことを怖がっていたとは全く思えないな。

 どちらかというと、魔王の方がベルに気押されているし。


「レオ様……無事で良かったです」

 魔王が「すまん」と謝るのを無視して、ベルは涙目になりながら抱きついてきた。

 まあ、それだけ心配だったんだろうけど……

 魔王を怒らせたら守ってあげられる自信は無いから、それ以上失礼な態度を取るのはやめておこうか?


「ドラゴンの死骸はお前の鞄の中に詰め込んでおいたぞ。それを使って、ダンジョンを造るなり、強力な武器を造るなりするんだな」

 俺がベルの頭を撫でていると、魔王がそんなことを言ってきた。

 慌てて鞄の中を確認すると魔王が言っていた通り、ドラゴンの死体がいくつも入っていた。


「あ、ありがとう……ダンジョンを造って何をするの? てか、そもそも俺はダンジョンを造れないよ?」

 まだ、レベルが足りないはずだぞ?


「ん? 気がついていなかったのか? もう、お前は造れる筈だぞ。それと、ダンジョンを造れば何でも出来るぞ。言わば、自分だけの世界だ。魔力はたくさん使うし、普通のダンジョンならやる意味も無いからしないが、ダンジョンの中でモンスターに殺されても人が生き返るようにしたりすることも出来るぞ」

 それは死ぬ心配なく、戦闘訓練が出来るってわけか。


「確かに、それは凄そうだね。帰ったらすぐに造ってみるよ」


「そうするといい。あと……最後に付与士との戦いにおいてアドバイスだが、勝負は兵たちの強さと武器の質が勝負の分かれ目になってくるだろう」

 おお、そういうアドバイスを待っていたんだよ!

 そうか、やっぱり直接対決より武器とか、兵をどれだけ強化出来たか対決になるんだな。


「ありがとう! そのアドバイス、無駄にしないよ」


「おう、頑張れ。また遊びに来いよ」


「わかった。またね!」

 俺は魔王に手を振り、家に向かって転移した。

 今日の収穫は想定以上だったな。

 予想外のことが多かったけど、概ね満足かな?


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