第六話 世界の秘密②
「「え? 転生者!?」」
「ああ、そうだ。俺はお前やお前の奴隷と同じで転生者だ」
思わず俺とベルが目を見開いて驚くと、そんなに驚いてどうした? と言いたげな目を魔王が向けてきた。
イヤイヤ、普通驚くでしょ?
そりゃあ、転生者だと言われてみればあの強さは納得だけどさ……ねえ?
「そうなんだ……やっぱり、転生者っているんだね」
「ああ、いるぞ。この世界には十一人の転生者がいるな。その内、俺が把握出来ているのは九人だ」
「え? 十一!? そんなにいるの!?」
しかも、魔王にも把握出来ていない転生者が二人もいるのか……。
この世界、思っていたよりも広いな。
「これでも随分と減ったんだぞ」
「え? 減った?」
逆に、前はもっと多かったの?
そんなの、絶対カオスじゃん。
「転生者同士の殺し合いに敗れて死んでいった奴らがいるからな」
うわ……予想通りだけど、予想以上だった。
「え? 転生者って殺し合いをするんですか?」
俺が言葉を発するよりも早く、ベルが魔王に質問した。
凄く不安そうな表情から察するに、俺が殺し合わないといけなくなってしまうことを心配しているんだろう。
「ああ、そうだな。俺たちはそのために用意された……現に、お前は『付与士』に殺されかけただろ?」
その為に用意されたね……。
付与士? ああ、師匠の息子のゲルトのことか。
「……え? あの人、転生者だったの?」
確かにチートな能力を持っているから、言われてみればそんな気もするけど。
全く、思いつかなかったな。
いや、まさか自分以外に転生者がいるとも思っていなかったから仕方ないか。
「そうだ。物や道具に膨大な魔力を使って特別な機能を付与する魔法と、豪腕のスキルを持っている」
「なんか、強そうだな……。数年したら戦わないといけないのに、勝てるか心配になってきたぞ」
あの、即死爆弾だけでも凄く心配だったのに、豪腕のスキルと前世の記憶もあるとかマジで辛すぎだろ。
「いや、大丈夫だと思うぞ。付与士は、創造士の下位互換と言われているからな。お前が油断さえしなければやられるような相手ではない」
え? 本当に? でも、魔王が言うんだから、そうなのかな?
「下位互換か……でも、あの即死の爆弾とか強いよ?」
確かに、創造魔法を使えば同じことを……いや、もっと大規模なことが出来るけど、それだとオーバーキルだからな。
人一人を殺すなら付与魔法の威力で十分だよね?
「代々、付与士はドワーフの血を引く者がなるんだが、武器か魔法具を作るのが上手いんだ。だから、複雑なことも出来てしまう。常人では付与魔法だけであんな物は作れないだろうよ。今代の技量次第ではこれからも化けると思うぞ」
「うわ……怖いなあ」
師匠の息子だもん、絶対凄い魔法具を作ってくるはず……うん、もっと戦いの準備をしないといけないな。
今度の戦争、やり過ぎなくらいでも勝てない気がしてきたぞ。
「あ、あの……その付与士という方に勝ったとしたら……レオ様は他の転生者と争うことはないですか?」
俺がゲルトとの戦いについて悩んでいると、俺に抱きかかえられたままのベルが遠慮がちに質問した。
そうだ……ベルの言う通り転生者は十一人もいて、何故か殺し合いをしているんだった。
よく考えれば、ゲルトに勝ってば平和になって終わり! ということにはならないよな……。
「ない……と言ってやりたいが、それは無理だな。確実と言っていいほど、レオは他の転生者から狙われるだろう」
だよね……なんか、今日の夜は怖くて寝れなそうだな。
俺、ステータスの運は人よりも高いんだよね? いつの間にか下がっていたりしない?
これは帰ってから確認しないといけないな。
「そ、そんな……どうして、どうして転生者たちは殺し合っているのですか?」
ベルは俺の膝の上でぷるぷると震えていた。たぶん、俺以上に転生者との戦いを恐れているんだろう。
余りにも膨大な魔力を持った魔王を前に、立つことすら出来ないベルからしたら、転生者は俺よりも強い存在で、とても恐ろしい存在なんだと認識してしまっているんだろうからね。
一般人のベルからしたら、本当に怖くて仕方ないもん。
まあ、俺も表面的に平常心は保ててるけど、今日の夜は一人になりたくないくらいには不安なんだけど。
「どうしてか……何も、俺たちは好きで殺し合っているわけでは無い」
「それじゃあ、どうして?」
「その説明をするには……千年にも及ぶ俺の長い人生を振り返りながら説明しないといけないな」
「千年ね……そういえば、魔族ってそんなに長生き出来るの?」
そうなると……ルーも千年も生きてしまうってことだよね……。
寂しがりのルーには、とても耐えられそうにないよな。
「そうだ。魔族とエルフは魔力が大きければ大きいほど長生き出来るんだよ。俺の魔力は魔界一だ」
魔力に応じてか……やっぱり、ルーは長生きしそうだな。
可愛そうだけど、何もしてあげられないしな……せめて、俺たちが長生き出来るように頑張るか。
「ありがとう……話の腰を折ってごめん。話を続けて」
「ああ。今から千年前。俺はとある魔族の村で産まれた。お前と同じようにな。いや、お前たちと少し違かったな。第一世代の俺は、前世の自分が誰だったのかを知っていた」
第一世代とかわけのわからないことを言っているけど、確かに俺は前世が誰だったか知らないな。
前世が誰だったか……まあ、今更知りたいとも思わないけど。
「この世界に来る前、俺は普通の学生だった。何不自由なく、三人の友と毎日楽しい日々を過ごしていたんだ……が、気がついたら俺はこっちの世界に来ていた。ある使命を与えられてな」
「使命?」
「ああ、この千年でたくさんのことを忘れてきたが、あの言葉だけは忘れられない。もしかすると、そういう風になっているのかもな。『我が僕よ。これは命令だ。お前は、自分以外の使者を全員殺せ』この世界に転生する直前、俺はそんなことを言われた」
「そういえば、俺も転生する直前に神みたいな存在から声が聞こえたな。ただ、そんな殺伐とした言葉じゃなかったけど……」
俺が特別な能力を使ってどう生きるか楽しみにしているよ程度だったぞ?
「そうだろう。お前たちには何も使命を与えられていないからな」
「え? どういうこと?」
「それは後で説明する。それより、話を戻すぞ」
あ、また話を脱線させてしまったな。
けど、気になる情報が多すぎるよ……。
「生まれてから数年は苦労した……あっちの世界の記憶を持っている俺には、あの村での生活は地獄でしかなかった」
「地獄ね……どんな村だったの?」
魔王が地獄だったと言うんだから、相当大変な場所だったんだろうな。
「弱肉強食。力の弱い奴は強い奴に従わないといけない。力こそが全て。俺は常に、村の住人と戦わないといけなかった。もちろん、俺には特別な記憶と能力があったから負けたことは一度も無かったがな」
うわ……どんな戦闘民族に転生しちまったんだよ。
それは大変だったろうな……俺、恵まれた家に転生できて良かった~。
それにしてもよく考えたら、貴族……しかもその中でも最高位の公爵家に生まれたって、俺は当たりの中の当たりだったんだな。
もう少し、自分の運の良さを自覚しておくべきだな。
「そして、そんな生活に疲れていたあの頃、ある男が俺の村までやって来た。あいつは、俺に自己紹介をすると、何も言わず村を巻き込んで俺を襲ってきた」
襲ってきた? それってもしかして転生者?
「名前は……もう忘れてしまったが、前世ではクラスメイトだった男ということだけは覚えている」
やっぱり転生者だっただね。しかも、クラスメイト……知り合いを襲えるとか凄いな。
いや、もしかしたら神に操作されているってこともありえるか?
なんか、さっきから予想だにしない情報が飛んでくるから、何でもあり得る気がしてきた。
「あの時、俺は初めて死んだ。もう……死ぬのには慣れてしまったが……あの、初めて死んだ時の感覚は今でも忘れられないな」
ん? 死んだ?
「え? どういうこと?」
死んだなら、どうしてあんたはここにいるんだ?
「ああ、まだその説明はしてなかったな。転生者には特殊魔法と、特殊スキルの二つを授けられる。それで、俺は空間魔法の他に、超再生というスキルを持っているんだ」
空間魔法を使っているのは知っていたけど……超再生ね。
「超再生? 普通の再生よりも早く再生するとか?」
俺もダンジョンで貰った再生のスキルで死なずに済んだ経験があるけど、魔王もそうなのかな?
「まあ、それもあるが。メインは、絶対に死なないってことだな。いや、このスキルの強みはそれでもないな……」
ん? つまり、どういう能力なの?
「超再生の一番の強みであり、俺の地獄が終わらない要因でもある能力は、死ぬ度に全盛期の体に戻ることなんだ」
死んで全盛期に戻る?
「どういうこと? 死んでも生き返ることは凄いけど、魔王は元々衰えることなんてないんだから、それがあっても無くても変わらないんじゃないの?」
魔王は膨大な魔力の力で歳を取らないんでしょ?
「いや、いくら魔族とは言え、千年も生きていていれば魔力も衰える。そして、魔族は魔力が衰えれば他のステータスも落ちていくんだよ」
なるほど……死ぬと魔力が全盛期に戻っちゃうから、若返ったということか。
で、千年も生きているのに全然老けてないわけだ。
「へえ、そうなんだ……って、ことは最近死んだってこと? あ、じいちゃんか」
あ、身内に魔王を倒した人がいたよ。
じいちゃんがね……あ、そうか!
今、ずっと疑問に思っていたことが解消できたよ。
どうやってじいちゃんが魔王を倒せたのか、という疑問だ。
八歳の時に魔王の異次元な強さを知ってからずっとじいちゃんの功績を疑ってきた。
でも、今日でそれも解消されたな。
じいちゃんたちが魔王を倒せたのは、千歳を超えた魔王が弱っていたからだ!
じいちゃん、疑ってごめん。
「いや、先代の勇者の時にも一度死んだが、俺が超再生の強みを初めて知ったのはその少し前だな」
俺は魔王の言葉を聞いてずっこけそうになってしまった。
え? てことはじいちゃん、全盛期の力を持った魔王に勝ったてこと?
もう、わけがわからないな……。
「あ、そういえば、初めて魔王に会った時、魔石が壊されない限り死なないとか言っていたけど、あれは嘘だったの?」
「魔石? ああ、そんなことを言って誤魔化したな。確か、魔族の中でそんな特性を持っている奴らがいるからバレないだろうと思って、言った嘘だ。あの時はまだお前に教えるわけにもいかなかったから、誤魔化すのに大変だったんだぞ」
「そうだったんだ……魔王の反応はその後の修行の印象が強すぎて忘れてたよ」
まさか、そこまで考えられた嘘だったとは。
当時の俺は魔王だからそんなこともあり得るかな? 程度だったからな。
「ああ、あの戦いは楽しかったな。約四十年もこの家に籠もっていたから久しぶりにいい運動になった」
「いい運動か……」
俺は死ぬ気で戦ったつもりなんだけどな。
「そりゃあ、百年も生きていないような若造に負けるほど弱くない」
「まあ、そうだよね」
百歳で若造と言うことからして俺は生きている間には敵わないよな。
「おっと、また話が脱線してしまったな。俺の若い頃の話に戻るぞ」
「あ、ごめん」
「俺が他の転生者に村の住人と一緒に殺され、初めて生き返りを経験した時、俺は神からもう一度使命を言い渡された。他の転生者を殺せってな。生き返っても、特にやりたいことも無かったし、普段攻撃し合っていた間柄だったが……家族同然だった村の奴らの敵は取ってやらないといけないと思った。それで俺は、神に言われた通り転生者を探す旅に出たんだ」
なるほどね……それから、魔王も殺し合いに参加し始めたわけか。
「その間、何人もの転生者を殺したが、探していた転生者は見つからなかった。たぶん、寿命で次の代に能力が渡ってしまったんだろうな」
「次の代?」
そういえば、さっき付与士がドワーフの血で受け継がれる的なことを言っていたけど、転生者って死んでも次に継承されるの?
それって泥沼な戦いにならないか?
「ああ。俺たち転生者は種族もバラバラで、寿命も様々だろ?」
「うん」
まあ、俺と魔王でも種族と寿命は全く違うからね。
「そこで、神の間で決められたルールの一つに、使者が寿命を迎えて死んだ場合は次の転生者を用意していいというルールがあるんだ。これのせいで、俺たちの戦いは泥沼みたいな戦いになってしまった」
寿命を迎えた場合か……だとすると、殺せばその能力は次に継承されないってわけだな。
でも、やっぱり泥沼化したんだね……。
それにしても、神の間で決められたルールか。
もしかたら、これは神の代理戦争ってことなのかな? それとも、神の間での人を使った遊び?
まあ、どっちにしても神がめちゃくちゃなのはわかった。