第二話 領地拡張
十二歳になって数日、今後の大まかな方針を決めた俺は、さっそく思いついたことをフレアさんに提案してみた。
「学校ですか?」
「そう。身分を問わずに誰でも無料で三年間通うことが出来る学校を造りたいんだ」
俺の提案を聞いて、首を傾げながら聞き返してくるフレアさんに、もう一度同じことを説明した。
「どうしてか……聞いても構いませんか? 今は、なるべく資金を貯めておかないといけない時期なんですよね?」
確かに、成人してからのことを考えると、出来る限り金は貯めておいた方がいいだろう。
たくさん持っているとしても、荒れ果てた広大な土地の開発に使えば、すぐに無くなってしまうだろうからね。
「まあ、そうなんだけど。たぶん、資金は地下市街が出来れば人がもっと増えるから問題ないと思う。それよりも、これから四年後、資金よりも人材が圧倒的に不足するはずなんだ」
金は俺のアイディアでどうにか出来るけど、人材を創造するわけにはいかないからね。
「確かに……ただでさえ、この街を運営するのにも人手不足な状態ですからね」
「そうなんだよ。だから、その人材を育てる学校を造りたいんだ」
このまま張り紙でもして人が集まってくれるなら、別に学校なんて造らないんだよ。
読み書き程度なら庶民でも出来るけど、計算みたいなちゃんとした教養は貴族と一部の庶民だけだからな……。
どう考えても、領地を運営する文官として働ける教養のある人がこの世界には少なすぎる。
てことで、優秀な人を集めるのが難しいなら、自分たちで育ててしまおうということに考えが至った。
「なるほど……でも、三年間でそこまでの人材が育つと思いますか?」
「心配ないさ。三年間あれば、貴族学校を卒業した程度まで、いや……それ以上の学力を得ることが出来ると思う」
「え? 貴族学校って六年間ですよね? それを三年間って、流石に無理がありませんか?」
「いやいや、そんなことないよ。貴族学校みたいに礼儀作法や剣術、魔法は授業で教える必要が無いからね。あくまで、文官を育てる為の学校だよ」
専門家を育てることが目的の学校だからね。
貴族学校みたいに、オールマイティーな人を育てる必要は無い。
それに、読み書きくらいは出来る人じゃないと入学出来ないようにするつもりだからね。
だから、三年もあれば十分なはず。
「そういうことですか。それなら、騎士専攻、魔術師専攻、文官専攻の三つのクラスを作ってはいかがでしょうか? 騎士も、魔法使いもこの領地では不足していますから」
「おお、それはいいね! ……三つの専攻か」
確かに、騎士団の人不足もずっと問題になっているし、魔法使い……いや、魔法を使える人なんてほんの数人しか雇えていないからな。
その問題も、学校で解決できるとは。
「面白そうだね。それ、採用。よし、そうとなったら準備を進めるぞ! 目標は、俺の十三歳の誕生日に入学式だ」
三年間だからな。俺の成人までに、と考えると十三歳の誕生日がギリギリのラインだ。
「ら、来年ですか……。わかりました。それでは、教師の手配などは任せて下さい。レオ様には、学校の建設や授業のカリキュラムを考えて貰えればありがたいです」
フレアさんは、俺の提案に数秒だけ難しい顔をしたけど、了承してすぐに計画を立て始めてくれた。
元々忙しいのを知っているから申し訳ないな……。
「了解。あ、騎士専攻と魔法使い専攻の教師は、うちの騎士を使っちゃって構わないから」
魔法や剣術を教えられる人を探すのは大変だろうからね。
訓練の時間を削ってしまうのは申し訳ないが、今後の為だから我慢して貰うとしよう。
「了解しました」
「それじゃあ、不動産に行って良さげな建物がないか聞くか。無かったら、まだ城壁を造っていない東側を広げるしかないかな?」
そんなことを考えながら、俺は街に向かって転移した。
ちょうどいい屋敷があるといいな~。
《十分後》
「すみません! ここ最近、ミュルディーン領は人気がどんどん高くなっておりまして、大きな商会の会長方に良さげな屋敷は買い占められてしまいました」
「そ、そうなんだ。うん……わかった。はあ、仕方ない。東に広げるしかないな」
地下市街の方も、既に全ての土地が買い取られてしまっているから、今更学校なんて造れるスペースなんて無いもんな。
そこそこ大きな学校を造るつもりだから、領地を広げる以外には無理だろう。
「え!? 領地をお広げになるのですか?」
俺が、今後のことを考えていると、店主のおっちゃんが俺に食いついてきた。
「そうだけど……ああ、土地を買いたいんだね?」
流石この街の商人だな。儲け話にはすぐに食いついてくるよ。
「は、はい……ここのところ、ほとんどの屋敷が売れてしまって商売になっていないんですよ」
まあ、その分儲かったんだから良いじゃんないの?
とか思いつつ、おっちゃんに土地を売っても大丈夫かを考える。
いや、売るとしてどんな条件をつけるか考える。
「うん……あ、いいことを思いついた」
そうだ。うん。これで、学生を集めよう。
「え?」
「ちょっと頼みたいことがあるんだけど……」
それから、俺の計画を説明すると、おっちゃんはちょっと悩んではいたけど、なんとか協力してくれることになった。
《一週間後》
「よっしゃあ! 東への拡張終了だ!」
完成した城壁から、これから学校とその他諸々を造る予定の土地を眺めながら、万歳をした。
本当は、拡張工事にはこんな時間をかけるつもりは無かったんだけどな~。
東側に土地を広げても大丈夫かどうか国に確認しに行ったり、北と南の城壁も一緒に建てていたら一週間もかかってしまった。
まあ、一年後に出来れば良いんだからこれくらいは誤差の範囲だな。
そんなことより、早く街を形にしていかないと。
「とりあえず、建物を建てる前に場所がわかりやすいよう先に、地図を見ながら道を敷いてしまうか」
地図というのは、不動産のおっちゃんとエルシーと一緒に作った街の設計図のことだ。
上手くいけば、このまま我が領地の学園区の地図になる。
今回広げた領地はミュルディーン領の四分の一、これを全て学園区と騎士団と魔法騎士団の訓練場にする予定だ。
学園区には、中心に図書館と大きく学校を建て、その周りに学生用の格安アパートを建てるつもりだ。
図書館を建てるのは、普段本を読む機会が無い街の庶民や学生の為だ。
この世界の本はめっちゃ高いから正直造るか悩んだけど、学校を造るなら図書館もセットだよね? ということで造ることを決断した。
学校は、これまた人の手だけではどう考えても期限内に完成するはずはないから、俺が創造魔法で造ってしまうが、学生用のアパートは不動産のおっちゃんに任せることにした。
一年以内に一学年程度の学生が住めれば良いのだから、そこまで急ぐ必要は無いからね。
あと、もちろん安く土地を売ってあげる代わりに、学生に対しては安い家賃設定にして貰う約束をしておいた。
これで、他の領地に住む若い人たちを呼び込むことが出来るよね?
それと、騎士団と魔法騎士団の訓練場についてだが……これから入団者が順調に増えていって、城の訓練場だけでは収まらなくなることを願って造ることにした。
訓練場は、面白い仕掛けを色々と造るつもりだから、学校と同様に俺が創造魔法で造るつもりだ。
学校の方が訓練場よりも優先だから、訓練場を建てるのは大分後になってしまうけど、今から面白い訓練器具が色々と思いついちゃって、早く訓練場を造りたくて仕方ない。
ということで、急いで学校を造るか。
あ、でも、学校でも色々と試してみたいことがあるな~。
うん~あれもやってみたいし、これも、あ、でもこれをやるのは流石に……。
それから、どんな学校を造ろうか考えていたら道路を敷き終わってしまった。
よし、明日からは学校造りだ!