閑話7 エルシーの半日
私の朝はレオくんから始まります。
と言っても、レオくんは傍にいませんので私が創造した魔法アイテム越しなのですが……。
私が造ったアイテムは、レオくんのようにたくさんの人や場所を観察することは出来なく、一つの場所だけなんです。
だから、私はレオくんの寝室に場所を設定して、レオくんが寝ている朝と夜だけ見ることにさせて貰いました。
大体、私の寝る時間と起きる時間にはもうレオくんは寝ていますので、ちょうどレオくんの寝顔を見ることが出来るのです!
さて、今日も……
ああ、可愛い寝顔……じゃないですね。
あれ? 珍しい、レオくんが起きてます。
どうしたんでしょう……あれ? ベルさんがどうしてレオくんのベッドに?
あ、そういえば昨日、ダンジョンを踏破して疲れたレオくんに頼まれて、添い寝をしてあげていたんでしたね。
レオくんも今回は精神的に消耗していましたし、可愛いベルさんの寝顔を眺めてニヤニヤしているレオくんを見ることが出来たので、シェリーさんには黙っておいてあげましょう。
さて、これは永久保存と……。
またベルさんを揺するネタが出来ましたね。
黙っておく代わりに今度、レオくんに甘える機会があったら譲って貰いましょう。
とか言いながら私、可愛らしいベルさんがレオくんの次に好きで、昔からベルさんの恥ずかしい写真を集めるのが趣味になってしまったんですよね。
最初は、嫉妬から始めたのですが……いつの間にか好きになってました。
あ、そういえば、写真というのは、魔法具が描いた現実に凄く近い絵のことです。
レオくんが呼び方を教えてくれました。
「ん……あ、また見てるの? あ、今日はベルもいるね」
私がレオくんとベルさんの寝顔を眺めていると、ルーが起きてきました。
もう、二人で寝るのは当たり前になってしまいましたね。
いつの間にか、ルーには敬語を使わなくなっていましたし、本当の妹みたいな存在になってしまいました。
「そうみたい。あ、ベルさんが起きた」
「アハハ。顔を真っ赤にして恥ずかしがってる」
起きてすぐ、レオくんに寝顔を見られていたことに気がついたベルが慌ててベッドに顔を隠したのを見て、ルーが声を出して笑い始めました。
そこまで笑うのは可愛そうですけど、確かに可愛いですね。
今のシーンも保存しとかないと……
「それじゃあ、私たちも起きましょう」
しばらく、二人のイチャイチャを観察し終わった私たちは、そう言ってモニターを消して起き上がりました。
「うん、朝ご飯♪」
それから色々と支度を終え、朝ご飯を二人で食べ始めました。
レオくんたちが帰ってからすぐは、この広い部屋で二人だけで食事をするのも寂しかったのですが、今はもう慣れました。
「ルーは朝からよくそんなに食べることが出来るわね。私なんて、パン一つで十分なのに」
朝から凄い勢いで口に食べ物を運ぶルーを見て、もう見慣れたはずなのに毎朝同じことを思ってしまうんです。
だって、朝からお肉を食べるなんて凄くないですか?
「私の特技は物を壊すことと食べることだからね~。いつでも食べられるよ!」
「そうね。でも、食べ過ぎは体に毒だから気をつけてよ?」
そういえば、あれだけ食べて寝ているだけなのに、ルーは全く太りませんよね……。
毎日、お風呂で確認していますが初めて会った時と変わらず、お腹がくびれているんです。
食べたエネルギーがどこに行っているのか、凄く不思議です。
「うん、わかった」
「それじゃあ、私はお仕事の方に向かうわ。ルーもいつも通り一緒に行く?」
「うん! あ、ちゃんとエル姉さんに造って貰った帽子を被らないと!」
最近、ルーも私と一緒に外に出るようになりました。
私が外に出てしまうと、ルーが城に一人だけになってしまって、それは可愛そうだったので連れて歩くことにしたのです。
で、その時に、ルーが魔族であることを周りには隠さないといけないので、角を隠す帽子を造ってあげました。
もちろん、ただの帽子ではありませんよ?
被った本人じゃないと、帽子を外すことが出来ないんです。
強い風で飛んで行ってしまったり、もしものことがあったらいないので、勝手に取れない帽子を造ってみました。
それから、外に出る準備を終え、私とルーは馬車に乗って城を出発しました。
「それじゃあ、いつも通り午前中は現場を見に行くわよ」
「うん!」
「この前工場の方に行ったから、今日は魔法具職人の育成場ね」
ここのところ行けてなかったから、どこまで職人が成長したのか楽しみですね。
「あ、会長! それと、ルーさんおはようございます!」
私が到着すると、育成担当の職人さんが出迎えてくれました。
「おはようございます」
「おはようショウン!」
「新人育成は問題無いですか?」
応接室に案内され、私はすぐに仕事の話を始めました。
午前中で終わらせたいので、無駄話は禁物です。
「はい。むしろ、やる気がある奴らが多くて予定より早く目標に達成しそうです」
「それは、嬉しいですね。ちなみに、早くなるとしたらどれくらいですか?」
この前来た時は、もしかしたら一ヶ月くらい早くなるかもしれないと言っていましたが、今はどうなんでしょうか?
「そうですね……。この調子でいきますと、たぶん二ヶ月くらい早く一人で街灯の魔法具を造ることが出来ると思います」
「それは随分と早いですね! 実は、工場の方もあと七、八ヶ月で完成するそうなので、ちょうどいいです」
「そうなんですか。それは良かったです。それじゃあ、それまでには人に作り方を教えられるくらいにまでのレベルにしておきます」
「ええ、頼んだわ。それじゃあ、少しだけ見て回ってもいい?」
やっぱり、言葉だけではわからないですからね。
来たからには、しっかりと新人の雰囲気を確かめてから帰ります。
「もちろん。こちらです」
それから案内され、私たちは魔法具作りを学んでいる人たちを見て回り、時には最近の様子などを聞いて回った。
「ふふん♪ 皆、頑張っていたね」
見回りも終わり、帰りの馬車の中でルーが笑顔でそんな感想を私に言ってきました。
「そうね。あの人たちはいつ見ても真剣だわ。あれなら、予定より早く覚えることが出来るのも納得だわ」
ルーの感想に、私も見て回った感想を述べました。
新人の皆さん、本当に頑張っていました。
この前まで、何もやり甲斐が無かったから今は目標があって楽しいと多くの人が言っていました。
新人の皆さんの目が凄くキラキラしていて、こちらまでやる気を貰っちゃいました。
「今日は、このまま帰るの?」
「そうよ。お腹減ったの?」
「うん!」
私の質問に、ルーはお腹を擦りながら元気よく返事してきました。
朝、あんなに食べたのに……。
思わず、私はあの量の食べ物はもう消化されてしまったのか? などと、思いつつルーのお腹を見てしまいます。
いつもながら、ルーのお腹は凄いですね。
「それじゃあ、帰ったらすぐにお昼ご飯ね」
「やったー!」
「ふんふんふふん♪ 午後からは、部屋で仕事?」
お昼ご飯を食べ終わり、上機嫌なルーは私に午後の予定を聞いてきました。
「今日は誰かと会う約束はしていないから、そうね。ルーもいつも通りお昼寝?」
大体、午前中私と外に出て、お昼を食べたルーはお昼寝の時間になります。
「うん! エルシーのベッドで寝ていい?」
ここ最近、ルーは自分のベッドで寝ません。
シェリーやリーナ、たまにレオくんのベッドでもお昼寝をしている時があります。
私もレオくんのベッドでお昼寝したくなってしまうのですが……レオくんが帰ってきた時に、私の匂いが残っていたら恥ずかしいので我慢しています。
「いいわよ。仕事が終わったら起こしに行くわ」
「うん、お願い! それじゃあ、お仕事頑張って~」
「ありがとう。頑張るわ」
さて、頑張るぞ!
でも、その前に……ベルさんの様子を見に行きましょうか。
ベルさん、この時間は大体の家事が終わって休憩時間に入るんです。
で、休憩時間のベルさんがすることと言えば、レオくんのベッドに寝っ転がって匂いを嗅ぐことなんです。
真面目なベルさんがあんなことをしているって知った時は、とてもびっくりしましたね。
でも、今では微笑ましくてそれを観察するのが日課になってしまいました。
そんなことを思って自分の寝室に向かうと、ルーが先にモニターをつけて見ていました。
ただ、何か様子がおかしいです。
「ねえ、見て! 大変! シェリーたちが泣いてる!」
「え? どういうこと?」
ルーが言っている意味がわからず、私は慌ててモニターに駆け寄りました。
「ほら、見て!」
モニター写っていたのは……この時間ではまず見ることが出来ないレオくんの寝顔と、その左右で普段絶対にこのモニターに写ることが無いシェリーさんとリーナさんが泣いている映像だった。
あ、ベルさんもレオくんの足下で泣いてました。
「な、何があったの!?」
「私にもわからない。今さっき見てみたら寝てるレオの傍で、三人が泣いてたの」
「と、とりあえず、ベルさんに念話してみるわ」
ここでいろいろと考察していても仕方がありません。
そう思った私はとりあえず、三人の中でまだしっかりと話せそうなベルさんに念話をしました。
(ベルさん!)
(は、はい! その声は……エルシーさんですか?)
(そうです。一体、レオくんに何があったのか教えて貰っても大丈夫ですか?)
私は前置きも入れず、すぐに聞きたいことを質問しました。
(実は……レオ様が学校で爆発に巻き込まれてしまいましい、大怪我を負ってしまいました)
爆発!? 大怪我!?
ベルさんの説明で、余計に私の頭の中は混乱してしまいます。
(え!? 大丈夫なんですか? 気を失っているみたいですが……)
(えっと……確証はありませんがたぶん大丈夫です。一度、瀕死になってしまうほどの大怪我を負ってしまいましたが、レオ様の新しい再生というスキルで全回復しました。ただ、目を覚ましてくれませんので……)
目を覚ましてくれないからまだ助かったかどうかはわからない、と……。
(わかりました。私も見守っていますので、何かあった時は報告して貰えるとありがたいです)
(はい。何かあった時はすぐにお伝えします)
(ありがとうございます)
「ふう……」
手短に念話を終わらせた私は、混乱した頭を落ち着けるために大きな深呼吸をしました。
ここで、ルーを不安にしてしまうようなことをしてはいけません。
「レオ、どうしたんだって?」
「学校で爆発に巻き込まれてしまったみたい」
「え? それって大丈夫なの?」
「大丈夫。スキルのおかげで、怪我は全部治ったって言っていたわ」
ルーをなるべく不安にさせないよう、慎重に言葉を選んで答えます。
「本当? でも、それならなんで起きないの?」
「私もわからないわ。単純に体力を消耗して寝ているだけならいいんだけど」
「そんな……レオ……」
あ、私が弱音を吐いたらいけませんね。
「とにかく、見守ってあげるしかないわ。私も、午後の仕事は中止にして一緒に見守ることにする」
「え? 仕事しなくて大丈夫なの?」
「大丈夫、どっちにしても集中出来ないわ」
今だって、不安すぎておかしくなりそうなのに、仕事なんて出来るはずがないです!
「確かに……。それじゃあ、一緒にレオが起きるのを待とうか?」
「そうね」
私はルーを膝の上に乗せ、ルーを抱きしめながらレオくんを眺め続けた。
それが、まさか三日も起きないとは思いもしませんでしたが……。