第十二話 爆発・・・
いつもの二話分くらいの長さです。
今回の内容は、二つに分けて中途半端な場所で終わらせたら気持ち悪くなりそうなのでm(_ _)m
SIDE:リーナ
ああ、耳がキーンとする。煙で、周りの状況もわからない。
瓦礫に挟まれて、身動きも取れないです。
皆は無事なのですか? 私は、どうすれば……?
待って。とりあえず落ち着かないと。
まずは状況整理。
確か……レオくんたちとダンジョンの話からスキルの話になって、ヘルマンくんとフランクくんが魔眼を試したら、二人とも様子がおかしくなったんだったんですよね。
それから、レオくんが何かを見たような素振りをしたと思ったら、私とシェリーが押し倒され、何かに囲まれて……何がなんだかわからないうちに、爆発が起きたんだった。
ということは、レオくんはもろに爆発を受けてしまったってことですか?
ま、まさか、レオくんがやられてしまうってことは無いと思うのですが……。
とにかく、周りの人と意思疎通を取る為にこの何も聞こえない耳をどうにかしないといけませんね。
そう考えた私は、耳に手を当てて聖魔法を使う……すると、少しずつキーンとする音が鳴り止んでいった。
「ああ、ああ。うん、大丈夫。誰か! 聞こえたら返事をしてください!」
声が聞こえるか、確認してから私は誰でもいいから返事して! と願いつつ私は叫んだ。
すると、一人の少女の声が聞こえた。
「はい! 生きてます!」
「その声は、ジョゼさん?」
四大公爵家のジョゼッティアさん。確か……風魔法と聖魔法が得意だったはず。
ジョゼさんとは、新しいクラスになってから同じ属性の聖魔法について話すようになってから仲良くなりました。
優しくて、話していて楽しいんです。
「そうよ」
「ジョゼさん、風魔法を使えますよね? この煙をどうにかして貰えないですか?」
とりあえず、この視界が悪い中だと状況が把握出来ないので早くどうにかしたいんです。
「わかった。やってみる」
その声が聞こえてから少し間があってから瓦礫の間を強めの風が通りに抜けて行きました。
すると、瓦礫を挟んですぐ隣にシェリーを見つけることが出来ました。
「リーナ!」
「シェリー! 大丈夫ですか?」
「ごめん。耳が何も聞こえないの」
「わかりました。今、耳を治します」
そうですよね。私が聞こえなかったんですから、シェリーも聞こえなくなりますよね。
私は、手を伸ばしてシェリーの耳に聖魔法をかけました。
それからしばらくして「ああ、ああ」と耳の確認をして頷くと、シェリーが話し始めた。
「やっと聞こえるようになった。リーナ、これ、何があったの?」
「私もわかりません。ただ、爆発が起こってレオくんが私たちを守ってくれたのは確かです」
そう言いながら、ジョゼッティアさんの声が聞こえた方の壁に目を向けた。
きっと、レオくんが作ってくれた壁なのでしょう。
ただ、この壁には不自然な点があって……
「そうみたいね。所々穴は開いているけど、これはレオが造った壁ね。あれ? でも、爆発があったのってこっち側じゃあ……」
そう、爆発した方向とは逆の方向に壁が出来ていたんです。
「でも、確かに私たちを囲う壁が創造されていたのは間違いありません」
あの、爆発が起こる前に見たレオくんと私たちの間に壁が出来ていった記憶は、きっと間違っていないはずです。
「そうよね……あの壁、どうなったんだろう……。それより、レオは?」
「わかりません。でも、私たちの盾になってくれたことは確かです」
だって、わざわざ私たちの前に飛び出して来たんですから。
もしかすると、自分は何も防御をしていなかったのかもしれません。
「もしかして、レオが爆発に巻き込まれちゃった? もしかしたらレオが……」
「その考えはやめませんか? ここで不安になっても仕方がありません。とにかく、ここから脱出することを考えましょう」
シェリーが良からぬことを言い始めたので、すぐに遮りました。
今、ネガティブなことを言っていてもしかたがありません。
「そうね……。この瓦礫、無理矢理動かしたらダメよね?」
「そうですね。もしかすると、学校が崩れてしまうかもしれません」
この瓦礫に囲われた状況では、学校がどれくらい崩壊しているかわかりませんからね……。
たぶん、私たちなら無属性魔法を使えば簡単にこの瓦礫を壊して逃げ出すことも出来ます。
でも、それをやってしまうと学校がくずれてしまうかもしれないので……。
「どうすればいいのよ……」
バキン!
「え?」
シェリーの途方に暮れた声が聞こえたと思ったら、目の前の瓦礫が取り払われ、強い光が差し込んできました。
目が慣れてくると、フランクさんが立っていました。
それと、どうやら爆発で天井が全て吹っ飛んでしまったらしく、上を見上げると青い空が広がっていました。
私たちの上に乗っていたのは、レオくんが造った壁だったみたいです。
「ヘルマン?」
隣に目を向けると、シェリーのことはヘルマンくんが助けたみたいです。
「お二人とも、ありがとうございます。レオくんがどうなったのかわかりますか?」
私は、立ち上がる前にフランクくんに今すぐに知りたかったことを質問した。
レオくんなら、フランクくんたちが助けてくれる前に助けてくれるはず。
それなのに、何故か来なかった……。これはもしかして……。
私とシェリーの中で、不安がどんどん膨れ上がっていく。
「ごめん。耳が壊れちゃって何も聞こえないんだ」
「あ、わかりました」
私はすぐに治そうと立ち上がって、二人の耳を治そうとしました。
が、すぐにヘルマンくんに止められました。
「待って下さい。僕たちはいいので、師匠のところに行ってください!」
「え? レオくんがどうしたんですか?」
私は、体の中で破裂しそうなほど膨れ上がった不安を抑え、二人に何があったのかを聞くために急いで耳を治しました。
「……ありがとうございます。急いで下さい! 爆発で師匠が大怪我を負ってしまったんです。早く、早く聖魔法で治してあげて下さい!」
そう言いながら、ヘルマンくんが壁の方を指さしました。
「わ、わかりました……」
私は返事をしつつ、指された方向に目を向けた。
そして、目にした光景に足の力が抜け、ぺたんと地面に尻餅をついてしまいました。
「そ、そんな……」
まさか、レオくんが……
「レ、レオ……? いや! 死なないで!」
壁に寄りかかり、全身が血だらけの火傷だらけで、腕が無い……そんなレオくんを見て、シェリーが慌ててレオくんにしがみつこうとした。
それを、慌ててフランクくんが止めた。
「姫様、落ち着いてください! まだレオは死んでません」
「え? それじゃあまだ助かるの!? リーナ! リーナ、早くレオの傷を治してあげて!」
シェリーが叫ぶ中、私は余りのショックに手も足も動かず、声も出ませんでした……。
まさか、レオくんがこんな状態に……。
「リーナ!」
「……無理です! こんな大怪我、今の私にはまだ無理なんです!」
自分でも情けないとは思いながらも、やっと出てきた言葉はそれだけでした。
レオくんの怪我は私では治せない……ああ、レオくんはもう助からないんだ……。
レオくんの怪我の状態を見た私は、すぐに頭の中でレオくんが死んでしまったと処理され、そのショックで周りの声など聞こえていなかった。
すると、シェリーが私の襟首を掴んで思いっきり持ち上げた。
バチン!
思いっきりビンタをされた私は叩かれた頬を抑えもせず、シェリーを力無く見た。
「何を言っているのよ! 何が無理よ! あなたが助けないで、誰がレオを助けられるのよ。早く、早くレオを助けて。お願い、あなたしかいないの……」
私に怒り始めたシェリーは、少しずつ声が弱々しくなっていき、最後はお願いする形となっていた。
「わ、わかりました……お願い神様、私に力を……」
シェリーの言葉に目が覚めた私は、倒れ込むようにレオくんの傍に膝をつき、祈るようにレオくんの全身に聖魔法をかけた。
ひたすら、祈った。
「す、凄い、傷が治ってきた。流石リーナだ」
「え?」
フランクくんの言葉に、私が顔を上げると、そこには……あり得ない現象を目の当たりにしました。
「ほら、レオの傷が塞がって、腕が生えてきているわ」
そんなはずが……もう、あの傷の多さではどう頑張っても私には無理なはず……。
そこで、私は治療を止めてみました。
すると……それでも、レオくんの腕は再生していくのです。
これは、違います!
「違います! これは、私の力じゃありません。勝手に……勝手に治ってるんです」
「どういうこと? こんなスピードで、自然に治っていると言うのか?」
「わかりません。でも、もしかすると、何かレオくんの魔法アイテム、またはスキルが関わっているのだと思います……」
きっとそうだと思います。
レオくんなら、このことを見越して何かしら対策をしているはずですから。
「だとすると、レオは助かるのか?」
「助かります……と言いたいですが、まだわかりません。レオくんが何の力で回復しているのかわからないので……」
もし、体力や魔力を消費しているとしたら、この傷が修復するまで持つとは思えません。
「……ベルに聞いてみればいいんじゃないの? ベルなら、私たちの知らないレオのことを知っているわ」
「確かに……そうですね。今、聞いてみます」
シェリーの提案に頷き、すぐにベルさんに念話をした。
(ベルさん!)
(は、はい! リーナさん、大丈夫ですか!? 凄い爆発音が聞こえましたけど)
やっぱり、寮の方にまで音が届く爆発だったんですね。
それをレオくんは直接……。いえ、今はそんなことを考えている暇などありません。
(いいですか? 落ちつていて聞いて下さい。実は、その爆発に巻き込まれてしまいました……)
(だ、大丈夫なんですか!?)
(それが……レオくんが大怪我を負ってしまいまして)
(え!? レオ様が大怪我!? レオ様が……)
念話越しでもわかるくらい、ベルさんは動揺していました。
(落ち着いてください。ベルさんに一つお聞きしたいことがあるんです。レオくんの傷が勝手に治っていくんです。これって、レオくんの能力ですか?)
(レオ様の怪我が勝手に……あ! 再生です! 再生のスキルです! 良かった。レオ様はきっと助かります。再生のスキルが発動したということは、傷が全て再生するはずです)
(再生のスキルですね。わかりました。ありがとうございます)
「よ、良かった……」
念話が終わり、レオくんが助けると聞いた私は、思わずそう言ってその場に倒れ込んだ。
「良かったってどういうこと? 説明しなさいよ!」
私とベルの念話を聞いていなかった三人が早く教えろと言った目で見てきたので、私はすぐに説明を始めました。
「レオくんは助かるみたいです」
「本当なの!? 良かった……」
シェリーも安心したのか、そのまま座り込んでしまいました。
「再生というスキルがあったおかげみたいです」
「いつの間にそんなスキルを……」
「今はそんなことよりもレオが治る見込みがついたので、身の回りの安全を確保しましょう。今度は、俺たちが皆を守る番です」
「そうね。でも、何をするの?」
「レオを学校の外に運びます。ここはいつ崩れるかわからないので、危険です。そうだな……それじゃあ、二人にレオを運ぶのを頼みます。姫様の水魔法ならレオを優しく運べますよね?」
大丈夫です。シェリーの魔法の精密さなら出来ると思います。
「うん。出来るわ」
「リーナは、少しでもレオが再生に使う体力を温存できるように聖魔法で体力を回復してあげてくれ」
「わかりました」
先ほどまでの失態を挽回するためにも、これくらいの役に立たないと……。
「俺たちは、学校に閉じ込められた人たちを助けます。よし。ヘルマン、あの壁に人がギリギリ通れるくらいの穴を開けてくれ。クラスメイトを助けるぞ」
「わかりました。セイ!」
フランクくんの指示に、ヘルマンくんが素早く剣で壁を斬って穴を開けました。
「それじゃあ、私たちも行きましょう」
クラスメイトのことはフランクくんたちに任せて、私たちはレオくんを安全な場所に移しましょう。
「道の確保と運ぶのは私に任せなさい。その代わり、レオの回復を頼んだわ」
そう言って、シェリーは私ごと水魔法で持ち上げました。
さ、流石、シェリーです。
「わかりました」
私も、自分の出来ることくらいやらないと。
それから、二十分くらいかけて、学校の外に脱出することに成功しました。
「なんとか、外に出られたわね。どこに連れて行くべき?」
「レオくんの部屋じゃないでしょうか? ベッドがあって、ベルさんもいますから」
レオくんの身の回りの世話は、ベルさんじゃないと無理ですからね。
「そうね。それじゃあ、中から行っていたら時間がかかっちゃうから、窓から行くわよ」
そう言ってシェリーは私たちを乗せた水に飛び乗り、水をレオくんの部屋のベランダまで上昇させていきました。
「ベル! 開けて!」
水から降りると、シェリーはベルを呼びながら窓をドンドンと叩いた。
すると、すぐにベルさんが出てきました。
「あ、お二人でしたか……そちらがレオ様ですか?」
「はい。ほとんど傷は治っていますが、まだ完全には治っていません」
「そうですか……。わかりました。レオ様のベッドはこちらです」
それから、レオくんをベッドに寝かせて、私たちは今も気を失っているレオくんを横から見守っていた。
そして、やることが無くなった私たちは、もう我慢できず、泣き始めた。
「レオ様……」
「レオ……」
「レオくん……」
「あ、ここにいたのか」
私たちがレオくんの傍で泣いていると、後ろから男の人の声が聞こえた。
慌てて振り返ると、そこにはダミアンさんがいました。
「ダミアンさん。レオが……」
「爆発に巻き込まれて怪我を負ったんですよね。再生のスキルで怪我が治り始めていたとは聞いたのですが、どのくらいの怪我をしているのか見せて貰えますか? 場合によっては、急いで聖女様のところに連れて行きます」
「怪我はもう治ったわ。でも、まだ目を覚まさないの……」
そう言いながら、シェリーは布団を持ち上げて完全に治ったレオくんの体をダミアンさんに見せた。
「そうですか……治ったのなら大丈夫でしょう。レオくんなら、きっと起きますよ」
ダミアンさんはそう言って、慰めるようにシェリーの肩をぽんぽんと叩いた。
「ほ、本当に大丈夫なの?」
「ええ、大丈夫です。レオくんはこれくらいじゃ死にませんよ。心配なら、姫様たちが傍にいてあげてください」
「わ、わかったわ……」
「それにしても、ここまでどうやってレオくんを運んできたんですか?」
「私の魔法よ。水で包んで運んできたの」
「なるほど。流石姫様ですね」
本当、そうですよね。シェリーは本当に凄いと思います。
それに比べて、私は……。
「リーナちゃんも十分頑張った。レオくんを綺麗にしたのはリーナちゃんでしょ?」
「は、はい」
「正しい判断だよ。それをしてなかったら、バイ菌がレオくんの体の中にいっぱい入ってしまったかもしれないんだ。そしたら、レオくんが助かったとしても今度は病気と戦うことになっていただろうからね」
「はい。おばあちゃんに習いました。傷を治す前は必ず傷を綺麗にしろと何回も言われていましたから……」
何度も聞かされていたのでいつも何も考えずに自然とやっていましたけど、よく考えると本当に大切なことでした。
ああ、本当に私はダメですね……。
「そうか、ちゃんと言われた通りに出来て偉いじゃないか。ちゃんとレオくんの命を守れたんだから、そんな悲しい顔をしないで」
「私……レオくんの命を守れたんですか……?」
私は、涙を流しながらダミアンさんに聞き返してしまいました。
私が守ったと言っていいのか、凄く不安なんです。
だって、私はほとんど何も出来なかったのですから。
「大丈夫、守れたよ。姫様もリーナちゃんもちゃんとレオくんを守ることが出来たんだ。だから、二人ともそんなに自分を責めないこと。その分、今はレオくんが目を覚ますまで近くにいてあげて」
「……わかりました」
「わかったわ」
「それじゃあ、またすぐ来るよ」
私とシェリーが頷いたのを見て、ダミアンさんはそう言って消えてしまいました。
「レオくん……早く起きてください」
私は一旦自分の失態を忘れ、それから再生したレオくんの手を握って目が覚めることを祈ることだけに集中することにしました。
SIDE:???
「くそ! どういうことだ? どうして死なないんだよ! 本当、チート過ぎるだろあいつ。どうやったら《即死》を付加した爆弾を耐えられるんだよ……」
フィリベール家の屋敷で、一人の男が頭を抱えていた。
「くそ……どうする? このままだと、確実にあのデブは捕まるよな? すると、俺があの爆弾を作ったことがバレる。そしたら、今度は俺が指名手配だ。となると、国外逃亡しかないか……」
男は、これからのことを考えながら冷や汗をダラダラとかいていた。
「くそ……どうして転生者で俺の方が年上なのに、あいつの方が恵まれていてあんなに強いんだ? もしかして、あいつも転生者なのか? それなら、これまでのチートも納得出来る。ああ、きっとそうだ。ああ、変な固定概念にとらわれていたな。俺だけが特別ってわけじゃないんだ。俺は、転生したとしても物語の主人公にはなれない。きっと、あいつが主人公なんだろうな……」
男は自分で言ったレオの正体の考察に一人でうんうんと頷き、一人で悲しくなった。
「それにしても、世の中は理不尽過ぎる……。どうして、神は俺をここまで不幸にしようとするんだ」
「だが、それもこれまでだ。俺には質の良い魔力供給源を手に入れたからな」
男は、まるで自分に言い聞かせるようにそう言って、無理矢理笑顔を作った。
「黙れ! 誰が魔力供給源だ。人を物みたいに扱いやがって!」
男の言葉に、部屋の壁に拘束されていた別の男……ヘロンダスが怒鳴って怒った。
「いや、お前は物だから。いくら俺が大切に扱ってあげているとは言え、そこは弁えろよ?」
男の言葉に、ヘロンダスは睨むことしか出来なかった。
「くそ……どうして俺の同期には頭がおかしい奴しかいないんだよ……」
「それをお前が言うか? お前こそ、問題を起こして死刑寸前にまでになったじゃないか」
「ふん! あれは、私は悪くない。あいつが悪いんだ」
男の言葉に、今度は拘束された鎖をガチャガチャ鳴らしながら本気で怒った。
しかし、そんなヘロンダスのことを気にせず、男は話を続けた。
「あ、そう。その話はうんざりするほど聞いた。それより、さっさと逃げるぞ。あのデブを囮にして逃げるんだ。今なら、あいつは俺の嘘の報告を聞いて、安心して馬鹿みたいに寝ているからよ」
そう言いながら、男はヘロンダスの鎖を外した。
「逃げるって、どこに逃げるんだよ」
ヘロンダスの質問に、男はニヤリと笑った。
「もちろん帝国の敵、アルバー王国だよ」