第十一話 朝から幸せです
SIDE:ベル
「おやすみ」
「おやすみなさい」
ふふ、可愛らしい寝顔。
よっぽど疲れていたのか、すぐに寝てしまったレオ様のお顔が可愛らしくて、私は一人でニヤニヤと笑ってしまった。
こんな顔、レオ様に見られたりしたら引かれちゃうだろうかも。
それにしても、今日のレオ様は珍しく甘えん坊さんだったな……。
まさか、レオ様から添い寝してなんて……。
きっと、ここのところずっと一人でダンジョンを攻略していて寂しくなっちゃったかな?
ちょっと恥ずかしいかなって思ったけど、レオ様がすぐに寝てしまったから案外恥ずかしくなかった。
むしろ、レオ様の寝顔を眺められて眼福というか……。
それに、レオ様の匂いをこんな近くで嗅いでいられるなんて。
欲望に駆られ、起きないでください! と願いつつレオ様の体に鼻をつけてクンクンしてしまった。
あ~落ち着く。レオ様の匂いを嗅いでいると、本当に落ち着きます。
レオ様……いつまでも嗅いでいたい……です。
《次の日》
「ん~。あれ?」
起きると、ニヤニヤと笑っているレオ様のお顔が目の前にいた。
夢かな? と思って、目を擦ってからもう一度目を開けるとやはりレオ様がいた。
「もしかして……私、あのまま寝ちゃった……?」
そういえば、ベッドから出た記憶が無い。
「みたいだね」
「あ~私の馬鹿!」
もう、こんなことがバレたら大変なのに!
「気にしなくていいと思うよ。朝からベルの寝顔を見られて幸せだし」
「レオ様はいいかもしれませんけど……というか、どうしてこういう時だけ早く起きるんですか! いつも、あんなに起きないくせに……」
いつもなら何度起こしても寝てしまうのに、どうして今日に限ってこんな朝早くから起きられるんですか……。
「ごめんって。寝顔、可愛かったよ」
「もう……」
そんなことを目の前で言われたら……。
私は、赤くなってしまった顔を隠すために布団の中に潜り込んだ。
SIDE:レオンス
朝からベルのおかげで幸せな気分になりつつ、朝の寝起きが久しぶりに良かったのもあって、今日は朝から元気だ。
「フランクおはよう!」
「お、おはよう……今日は、随分と元気だな」
そう言いながら、フランクが朝から元気いっぱいな俺を大丈夫か? という目で見てくる。
まあ、いつもはもっと大人しいから仕方ない。
「まあ、よく寝たからね」
「ああ、そういうことか。なら、今日は授業中に寝る心配はなさそうだな」
「うん。大丈夫だよ」
てか、今まで先週の一週間くらいしか授業中に寝たことは無いから!
そんなやりとりをしつつ、俺たちは教室に向かった。
「おはよう」
教室に入り、俺はいつも通りまずシェリーとリーナのところに朝の挨拶をしに行った。
「あ、レオ! ベルに聞いたわよ。ダンジョンに行っていたんだって? どうして教えてくれなかったのよ!」
「どうしてって。急に決まったことだし、ね?」
本当は、言ったら私も連れて行きなさいとか絶対言うと思ったからなんだけど、流石にそれは言えないから、フランクを使って誤魔化すことにした。
「ま、まあ、そうだな」
俺の振りに、フランクは俺の意図を理解して頷いてくれた。
やっぱり、持つべきは友達だな。
「茶番は時間の無駄よ。一週間前から準備してたことは知っているわ」
ま、マジか……。なんで知っているんだよ。
「ベルに聞きました。私たちが、授業中に寝ているレオくんのことを心配に思わないわけがないじゃないですか」
「た、確かに……」
よくよく考えたら、授業中に寝ている時点で問いただされてもおかしくなかったよな。
まあ、ベルが戦争のことまで説明したから納得してくれたのかな?
「それで、二つのダンジョンを踏破した話を聞かせなさいよ」
「いいけど、長くなるからまた後でにしない? それと、俺が踏破したのは山のダンジョンだけだからね」
ここで、クラスメイトたちが盗み聞きをしている中で、ダンジョンの話は出来ないよ。
「後で? それじゃあ、今日学校が終わってからよろしくね」
「きょ、今日は領地に行こうと思ってたんだけど……」
「いいわ。私たちも連れて行きなさい」
まあ、そうなりますよね……・
「そうですよ。私たちもエルシーさんやルーに会いたいですし」
「わ、わかったよ……」
「それで、三人はどんなスキルを手に入れたの?」
「そ、その話をここでする?」
まだ諦めてなかったのかよ。
「いいじゃない。今日は珍しくレオが教室に来るのが早かったから、まだ授業が始まるまでに時間があるわ。スキルの説明くらいなら出来るでしょ?」
早起きをして損をした気分だな。
「わ、わかったよ……」
くそ……どうやって俺の能力を誤魔化すんだ?
考えろ俺!
「ま、まず、俺たちが手に入れた能力は魔眼というスキルなんだ」
「魔眼ってなんだか凄そうな能力ですね。それで、どんなことが出来るんですか?」
「えっと……。フランクとヘルマン、目に魔力を集中させてみて」
「魔力を目にですか? わかりました」
二人は、俺に言われた通りに、魔力操作を使って魔力を目に集中させていった。
「どう? 何か変わったか?」
「変わってる……ただ、なんだろうこれ……ああ、そういうことか。わかった。魔力が目に見える能力だ」
どうやら、フランクは周りを見渡しながら自分の魔眼の正体を掴むことが出来たようだ。
「おお、凄いじゃないか。何かに使えそうだな。ヘルマンは何か見えたか? って、どうした!? 大丈夫か?」
フランクの能力に喜びつつヘルマンの方に目を向けると……ヘルマンは机に手をついて、顔色が悪くなっており、いかにも具合悪そうだった。
「師匠……早く、そこから離れて下さい。ば、爆発します……」
俺が近づくと、ヘルマンは焦点が合ってない目で俺を見てそんなことを言ってきた。
おい、マジでヤバいだろこれ。
「おい、しっかりしろ。一回、魔眼を使うのを止めるんだ」
俺は慌ててフランクに魔眼を使わせるのを止めさせた。
間違い無く、この原因は魔眼が原因なんだろう。
「はあ、はあ、はあ」
魔眼の使用を止めたヘルマンは、苦しそうに呼吸をしていた。
「どうしたんだ? 何が見えたんだ?」
原因がわからないことには対処出来ないから、話すのが辛いことを理解しつつも、ヘルマンに質問した。
「よくわかりません……。急に……視界がもの凄い速さで動き始めました。でも……そこから教室が大爆発する瞬間だけはわかりました。それを見ていたら……急に気持ち悪くなってきました」
「わかった……少し休んでな」
うん、大体わかった。
「どういうことですか?」
「たぶん、ヘルマンの能力は未来を見ることが出来る能力なんだと思う。で、ヘルマンはその急激な視界の変化に酔ったんだろうね」
あとは、急激に魔力が減ったのも原因かな。
どうやら、予知眼は魔力をたくさん使うみたいだ。
「そういうこと……って! それだと、そのうち教室が爆発するってこと?」
「たぶん。でも、どのくらいの未来かはわからないけど」
まあ、もしかすると何かの勘違いなのかもしれないしね。
「へ~。それで、レオはどんな物が見えるの?」
え? ここで俺の能力の話になる?
もう少し、未来の心配をしないの?
「え、えっと……凄い遠くの物でも見える能力かな。ここから、城の中まで見えるよ」
これなら誤魔化せるかな……?
「なるほど。後でベルに詳しい話は聞いておきます」
「そうね」
「ちょっと待って!」
ベルに聞くのだけはやめてくれ!
昨日、俺がやってしまったことが……。
「え? 何か聞かれたら嫌な能力なんですか?」
「べ、別に? ま、まさかそんなわけないじゃん! ハハハ」
いえ、十分聞かれたら困る能力です。
「それじゃあ、問題無いですね」
「それとこれは……って、どうしたフランク?」
俺が何とかベルに聞かれるのを止めようとしていると、フランクがある一点を見たままになっていることに気がついた。
「いや、なんか……あそこだけ魔力が溜まっているように見えるんだ。しかも、四角に固まっていて、明らかに人工的に見えるんだ」
そう言いながら、フランクが俺の椅子の下あたりを指さした。
「どういうことだ? それじゃあ、床の下に何かあるのか?」
俺は、なんか不気味だったから魔眼を発動させて床の向こう側を覗いてみた。
すると……そこには大きな爆弾が隠されていた。
しかも、どうやら時限式の爆弾みたいで、タイマーがあと五秒になっていた。
「うお! 皆、危ない!」
ドッカン!
SIDE:フィリベール
「おい、そろそろだろ? どうなった?」
俺は、今回の計画の責任者である男に結果を催促する。
これが失敗したら、俺が地獄行きなのは間違い無いだろう……そうなったらと思うと凄く不安で仕方ない。
そのせいで、俺は昨日からまだ一睡もしていないんだ。
早く、成功の知らせを聞いて、安心した状態で眠りたかった。
「まだ、成功の報告は来ておりません。ただ、時限爆弾の設置は終わったと報告がありました。それと、レオンスも予定通りに登校したという知らせも」
俺の不安を余所に、責任者は淡々と先ほど聞いた説明を繰り返した。
「本当に大丈夫なんだな? あいつでも、死ぬ爆弾を用意したんだな?」
俺も、思わずさっきと同じ質問をしてしまう。
あいつ、今まで何をしても死ななかったんだぞ?
爆弾なんかで死ぬのか?
「はい。心配ございません。何しろ、古代魔法具を大量に使った魔法爆弾ですよ? あの爆弾に巻き込まれれば、魔王でも一溜まりありません」
「そうか、それなら心配ないな。なんだ、あんな男に頼らなくてもあいつを殺せるじゃないか」
ハハハ。今まで、嫌な思いをしてまであの男と手を組む必要なんて無かったじゃないか。
そうだ。俺は一人でも十分強いじゃないか。
「はい。ご当主様の力を持ってさえすれば、何も怖くありません」
「よし、これが上手くいったら城に同じ、いや、もっと強力な爆弾を仕掛けろ」
ククク。これで、この国は私の物だ。
「わかりました」
「それにしても、お前を引き抜いておいて正解だったよ。お前の父親と叔父には裏切られたがな」
魔法学校で研究する金が無いと困っていた男がここまで有能だったとは。
「いえ、これもご当主様に助けて貰ったからこその力です。それと、ご当主様に貰った魔力供給源がいい働きをしてくれました」
ああ、あの死刑寸前だった男か。
それは、忍び屋の貸しを使ってまで連れてきた甲斐があったな。
「そうかそうか。それじゃあ、結果がわかり次第報告を頼むぞ」
「わかりました」
「ククク。焦って一晩で計画してみたが、案外上手くいくもんだな」