第十話 あちら側の対応
ご飯を食べ、風呂も入って後は寝るだけになり、敵の動向を知るために寝室でベルと一緒にネズミモニターを眺めていた。
《昨日》
「おい! 俺の領地にあるダンジョンが潰されたぞ!」
どうやら、俺が霧のダンジョンを踏破したことが伝わった時のことを見せてくれるみたいだ。
フィリベール家の当主が焦って、将軍(仮)のところに来ていた。
自分から動くなんて、相当焦っているんだろうな。
将軍も驚いた顔をしていた。
「ダンジョン? ダンジョンがどうしたんですか?」
「だから、昨日の夜に潰されたんだよ!」
「誰にですか?」
「それは、まだわかってない……だが、絶対あいつに違いない!」
まあ、そうなるよな。
「はあ。で、なんだと言うんですか? もし、奴が踏破したなら新たなスキルを手に入れられて面倒ですが……奴は昨日、学校に行っていたんですよ? 流石の奴でも、ダンジョンを数時間で踏破するなんて無理だと思いますよ。もしそれが出来るのなら、これから戦うのを諦めた方がいいです」
おお、めっちゃまともなことを言っているけど全然当たってないぞ。
転移の存在を忘れているじゃないか。
あ、でも、流石にダンジョンの中にまで転移が出来るとは思わないか。
「そ、そうだよな。よし、誰がダンジョンを踏破したのかを見つけ出してくれ」
「それは私たちの仕事ではありません。探したいなら、ご自身の兵を使って探して下さい」
「な、何故だ!」
「私たちが探す理由が無いからですよ。私たちは王国の騎士であって、あなたの騎士じゃない。そして、このダンジョンの件はあなたの領地での問題ですから」
まあ、そうだよね。
「そんなことを言っていいのか? 金を出すのは俺だぞ」
「だから何度も言いますが、それを言うなら早く金を出して下さいよ。このままだと、国王陛下にフィリベール家に戦う意思が無いと報告するしかありませんよ?」
そうなったとしたら、どうなるんだろう?
まず、フィリベール家は帝国、王国の両方を敵に回すことになってしまうだろな。
それから、帝国にお取り潰しにされるか王国に攻め込まれるかのどちらかになる。
どっちの未来でもフィリベール家は終わりだけどね。
「く、くそ! わかった。半年だけ待て! 税をもっと増やして半年後までに戦争を始められるまでにする。今は、罰金を払ったせいで戦争に使う金が無い」
うわ……こいつ、もう既に疲弊している領民から金を巻き上げるつもりだ。
戦争を始める前に破綻しそうだな。
「半年ですか……わかりました。半年を期限とさせて貰います。半年を過ぎても金を出さなかった場合は国王陛下に報告させて貰いますね」
それじゃあ、俺はもっとフィリベール家の財政難を悪化させて半年で間に合わないようにすればいいんだな。
これは、戦わずして戦争を終わらせられる気がしてきた。
《二時間前》
今度は、俺たちが山のダンジョンを踏破したことが伝わった時の場面かな?
「大変です!」
「どうした?」
「霧のダンジョンに続き、山のダンジョンを踏破されました」
やっぱりそうだったか。
一人の兵士が将軍とフィリベール家の当主に報告しているところから映像が始まった。
「はあ? 誰だ!」
ぽっちゃりの父親は報告を聞いて、兵士に向かって怒鳴った。
兵士は別に悪くないんだから怒鳴ることはないじゃんね。
「霧のダンジョンはまだ調査中ですが、山のダンジョンはレオンス・ミュルディーン、フランク・ボードレール、ヘルマン・カルーンの三名が踏破したことが判明しました」
「はあ? あいつ、一昨日まで学校にいたんだろ? どういうことだ! 説明しろ!」
兵士の説明を聞いて、今度は将軍の方に向かって怒鳴った。
本当、忙しい奴だな。
「さあ? 調べないと私にもわかりません。でも、霧のダンジョンも奴が踏破したと考えて問題無いでしょう。だとすると、奴はスキルを更に二つも手に入れたことになります。こうなると、もう一分一秒たりとも猶予がありません。今すぐ戦争を仕掛けるしかありません」
流石だな……焦ること無く冷静に分析している。
でも、もう一方が無能だからな……。
「それは無理だ」
「どうしてですか? もう、これからは時間が経てば経つほど厳しくなるんですよ?」
「ダンジョンを二つも潰されたんだぞ! どうやって金を集めるんだ!」
うんうん、計画通りの展開だ。
「ああ、そういうことか……奴のやりたかったことがわかった」
あ、気がついた? でも、もう手遅れだね。
「ど、どういうことだ」
「奴は、時間稼ぎを狙っているんですよ。奴は私たちが今悩まされている資金源を的確に突いてきた。くそ、やられたな。あいつの弱点を探ろうとしているうちに、こっちの弱点をやられてしまうとは……」
「そ、それでどうするんだ?」
「どうもこうも、撤退するしかありませんよ。はあ、公爵だから資金だけは大丈夫だろうと思っていたが、ここまで金が無かったとはな……」
将軍はため息をつくと、立ち上がった。
「ま、待て! 逃げるのか?」
将軍が外に向かって歩き出したのを、ぽっちゃりの父親が慌てて止めようとした。
「そうですね。無駄に戦って兵がたくさん殺されるよりも、国王にあなたのせいで戦うことが出来ませんでしたと報告すれば被害が少なく済みそうですから」
「ほ、本気なのか!? 俺はどうなるんだ!」
「精々、耐えて下さい。あ、もしかすると、帝都を落とせば王国が援助してくれるかもしれませんね。それじゃあ」
将軍はそれだけ言って、部下を連れて部屋から出て行ってしまった。
「くそ!」
ぽっちゃりの父親が誰もいなくなった部屋で、机を蹴っ飛ばしたところで映像が終わった。
「お~。こんな簡単に諦めてくれるとは」
「でも、正しい判断だと思います」
「そうだね。あの将軍が有能で良かった」
無能だったら、変に攻め込まれてお互いたくさんの人が死んでいただろうからね。
まあ、将軍もフィリベール家に敗因を全てなすりつけることが出来るのが大きいよな。
フィリベール家が中途半端に金を出していたら、泥沼の戦争になっていたかもしれないな。
「はい。レオ様の努力が報われましたね」
「うん。これで、当分は領地開発に力を入れられるよ」
明日は、久しぶりに領地で仕事だな。
「はい。エルシーさんとルーさんが寂しがっているでしょうから、行ってあげてください」
「確かに、一週間くらい行けてなかったからな……」
そういえば、いろいろとほっといたままだったな。
エルシーさんとルーもそうだし、アルマの訓練もベルノルトに任せたままだったからな。
「ふああ~」
ダメだ。もう頭が回らん。
これからの予定はまた明日から考えるか。
「あ、もう寝てください。ここのところ、ずっと寝てなかったのですから」
そう言いながら、ベルが俺のことをベッドに誘導する。
「うん……昨日は早く寝たんだけどね」
フランクにたたき起こされて寝覚めは悪かったけど。
「それでも、疲れているんですから寝てください」
「わかったよ……。でも、なんか寂しいから俺が寝るまで添い寝してくれない?」
「もう、何を寝ぼけたことを言っているんですか?」
確かに寝ぼけてるかも。
普段は、こんなことを言わないよな……。
でも、なんだか人肌恋しいんだよね……。
ダンジョンで生活していて、精神的に疲弊してたのかな……。
安全ってわかっていても、じいちゃんのことがあるから心のどこかでトラウマを感じていたのかも。
「いいじゃないか。二日くらいベルがいなくて寂しかったんだもん」
「もう……仕方ないですね。寝るまでですよ?」
ベルは照れながらも、俺の隣に寝転がってくれた。
「ありがとう。おやすみ」
「おやすみなさい」
それからすぐに寝てしまったのだが、次の日珍しく朝早くに目が覚めたらベルの顔が目の前にあったから、ベルが起きるまで寝顔を眺めさせて貰ったのだった。