第三話 入団試験②
「負けました」
首に剣を当てられたベルノルトは、そう言って剣を地面に置いた。
「うん。あなたが騎士団長で問題ないと思うよ。これから、新人の育成を頼んだよ。それと、これも渡しておくよ」
これだけ強ければ、心配ないね。
そう思いつつ、ベルノルトに忠誠の腕輪を渡した。
「ありがとうございます。これから、レオンス様の期待に応えられるよう、頑張らせて貰います」
ベルノルトはそう言って地面に膝をつき、頭を下げたまま腕輪を受け取った。
長年、冒険者をしていて、貴族の扱いとかを心得ているのかな?
大体の貴族は、持ち上げておけば気を良くしてくれるからね。
まあ、そんなことはいいか。
「うん、よろしく。それじゃあ、他に挑戦したい人?」
ベルノルトの挑戦が終わったので、次の挑戦者を求めた。
『……』
まあ、当然誰も申し出ないよな。
初っ端の吹っ飛ばされた人といい、アルマとヘルマンの戦いといい、俺とベルノルトの戦いといい。
一般人からしたら、ビビるよな。
まあ、それが作戦なんだけど。
「いないのか……。それじゃあ、全員不合格ということで。はい、今日は解散。来月の挑戦を楽しみにしているよ」
「そ、そんな! 待って下さい!」
「やります! やらせてください!」
俺の発言に、さっきまで静かだった挑戦者たちが口を開いて焦って俺に訴えてきた。
「もう、遅いよ。解散!」
暴動を起こされても面倒だから、俺はセレナの力を使ってゴーレムを大量に召喚した。
そういえば、まだ紹介していなかったけど、セレナのレベル4の力でゴーレム召喚が出来るんだ。
エレナの魔物召喚と被っていないか?
とか思ったんだけど、人工的に作ったゴーレムは魔物扱いはされないみたいだ。
魔法具、または魔法アイテム扱いみたい。
で、セレナの詳しいレベル4の力は、魔法具または魔法アイテムの召喚なんだ。
これが、凄く便利でね。
実は、セレナを召喚すると、エレナも召喚出来るんだ。
だから、俺は普段武器を持っていなくても安心ってわけ。
まあ、セレナの凄さは置いとくとして。
召喚されたゴーレムたちは、壁になって入団希望者たちを城の外に追い出した。
俺やヘルマンに挑もうとすらしなかった奴らは、ゴーレムたちと戦うことすらせず、怖じ気づいて帰って行った。
「よろしかったのですか?」
ゴーレムたちに押し出されていく人々を眺めながら、ベルノルトが尋ねてきた。
「うん。問題ないよ。やる気がある奴なら、きっと来月も挑戦するよ」
「でも、騎士団なのに二人しかいませんよ?」
「まあ、それは大丈夫だよ。うちにはゴーレムがいるし、急いで数を増やしてもいいことは無いからね。少しずつ、よく考えながら厳選して数を増やしていかないと」
急ぐ必要は無い。敵も、準備に時間がかかっているのは知っている。
「なるほど……」
「それに、これから学校が終わったらヘルマンも連れてくるから心配しなくていいよ」
「それでも、三人なんですけどね……」
ベルノルトは、アルマとヘルマンを見てから苦笑いをした。
「数なら、ゴーレム兵がたくさんいるから大丈夫だよ。それに、そこらの兵士よりも断然にここにいるゴーレムの方が強いからね」
というか次の戦争、ゴーレムを大量生産して戦った方が確実じゃないか?
とか、思ったのだが、戦争が出来るほどの数をそろえるのは無理だな……という考えに至ったので、ぼちぼち騎士団の募集を始めることにしたのだ。
「なるほど、それなら騎士はゆっくり選んでもいいかもしれませんね」
「でしょ? 裏切り者を出さないためにも真剣に見極めないと」
「了解しました」
「それじゃあ、二人とも明日からよろしく。と言っても、やることは無いだろうから、とりあえず来月までにアルマが無属性魔法を使えるようにしておいてくれ。たぶん、魔力操作ができるからすぐに習得できるだろうから」
「了解しました」
「あ、そういえばアルマ。ベルに会っておくか? すぐそこにいるぞ」
せっかくだからね。
ベルも、同郷の後輩に会えて喜ぶだろうし。
「え? あ、はい!」
アルマは、一瞬俺の質問が頭に入ってこなかったのか、首を傾げてから元気よく頷いた。
そんなわけでアルマたちを連れて、俺はフランクたちのところに戻ってきた。
「ふう、一仕事終わったぞ」
「全く……お前のやりたいことは俺にはよくわからん」
俺が戻って来ると、フランクが呆れた顔をしながら今も押し出されている挑戦者たちに目を向けた。
「そうか? 優秀な人を見つけることが今回の目的だからな。それに、今回はスパイがたくさん混じっていたから、どっちにしてもそんなに多く採用することは出来なかったし」
それを一人一人見分けるのも面倒だから、今回はこの方式を採用したんだ。
スパイなら、絶対はじめの頃は目立たない為に様子を見てから試験を挑んでくるはず。
そう考えた俺は、難解な試験を見せてから自ら名乗り出て貰う方式にした。
この方式なら、本当に熱意がある奴か、実力者しか名乗り出てこない。
スパイは挑戦したくても、目立つし俺に顔を覚えられてしまうから参加できないんだ。
まあ、もしもそれを気にしないスパイが来た時の為に、フレアさんに面接を頼んでおいたんだけどね。
そんなことを思いつつ、隣で盛り上がっていた二人に目を向けた。
「ベル! 元気だった?」
アルマがベルの手を握りながら嬉しそうに話しかけていた。
「ええ、アルマも元気そうね」
一方のベルも、嬉しそうにアルマに答えていた。
それにしても、ベルが敬語を使っていないなんてめっちゃ珍しいな。
まあ、アルマは家族みたいなものだから、敬語を使うのもおかしいか。
「うん。ベルは本当にメイドになれたんだ。しかも、レオンス様に連れ歩いて貰っているなんて、随分と気に入って貰えているのね」
もちろん! 俺はベルのことをもの凄く気に入っているよ。
「ま、まあ、一応専属メイドだから」
「うわ~凄い。そんなに出世したんだね」
「アルマこそ、明日からは騎士様よ」
「えへへ」
「アハハ」
二人は、お互いを褒め合って嬉しそうに笑い合っていた。
なんか、二人を見ていると、こっちまで幸せな気分になってきそうだ。
「それにしてもあの時、勇気を振り絞って挑戦して良かったわ。夢だった騎士になれたし、ベルにもまた会えたし」
俺もそう思うよ。
もし、あそこでそこまで実力を発揮できなくても、俺はアルマのことを採用しようと思っていたんだ。
あの誰も手を挙げないなか、まだ若い少女があそこで挑戦できるなんて、普通は出来ないからな。
それに、弱くても俺が鍛えて無理矢理強くすることも出来たし。
「そうね。それにアルマ、また強くなったよね?」
「うん。二年間頑張って冒険者をやってたからね。今なら、ベルにも負けないわよ?」
いやいやそんなことは……
「そんなこと無いわ。私、毎日レオ様に格闘術を教わっているのよ?」
「あ、それは無理な気がしてきた……」
アルマは、俺の顔を見てうんうんと頷きながら一人で納得していた。
「まあ、ベルはヘルマンよりも強いからね」
たぶん、普段俺の周りにいる人たちの中で一番強いからな。
「し、師匠……?」
「あ、心の声が漏れてた。じゃなくて」
背後からヘルマンの悲しい声が聞こえてきて、慌てて誤魔化そうとしたら更に失言をしてしまった。
「そうなのか。僕、師匠の一番弟子だと思っていたけど、違ったんだ……。そうだよな。きっと、この慢心がいけなかったんだ。これから、初心に戻って毎日死ぬ気で練習しないと……」
そんな声が聞こえ、顔をゆっく~りと後ろに向けると……負のドス黒いオーラが見えそうなほど落ち込んだヘルマンがブツブツと独り言を言っていた。
「ちょ、ちょっと落ち着こうか? これには、訳があってだな……」
「師匠に初めて教わった時を思い出せ。あの頃の僕は、あんなにも死に物狂いで特訓をしていたじゃないか。そうだ、」
「おい! 聞けって!」
まだまだブツブツと独り言を放ち続けそうだったので、俺はそう言ってヘルマンの両肩を掴んだ。
すると、やっとヘルマンの独り言が終わった。
「は、はい」
「お前、まだレベル1だろ?」
「はい。学校で、レベルを上げることは禁止されていますから」
レベル上げが禁止されている?
「え? そうなの? まあ、いいや。ヘルマンはレベル1だけど、ベルはレベルが30を超えているんだ。普通なら、三十倍以上の差があるんだ。流石に、この差は、どんなに頑張っても勝つことは出来ないだろ?」
「た、確かに……」
「納得できたか? お前は、十分強いんだ」
「はい……わかりました」
返事はするが、ヘルマンはどこか納得していないようで、声の大きさは凄く小さかった。
たく……仕方ないな。
「まあ、今度の休みにでもレベル上げに付き合ってやるから、そんな落ち込むなって」
ダンジョンに二日間くらい籠もれば十分強くなるよね。
「ほ、本当ですか!?」
お、ヘルマンの顔が急に明るくなった。
全く、現金な奴め。
「ああ。それで、機嫌を直してくれよな?」
「もちろんです!」
さっきまでの負のオーラはどこに行ってしまったことか……。
「フランクも来るか?」
「いや、いい……。どう考えても、お前らの戦いに俺がついて行けるはずが無いから」
「そんなこと無いと思うぞ。フランクには、強力な魔法があるんだし。装備類は、後で俺が造ってやるから」
遊び半分みたいな感じだしな。
いつもの三人で行く方が絶対楽しいだろう。
「そ、そうか? それじゃあ……」
「オッケイ。ということで、アルマとベルノルトは明日からよろしく。俺は、これから仕事があるから今日はお別れになるけど。ベルにこの城を案内して貰って。フランクとヘルマンも、もし良かったらこの城の中を一緒に回って来なよ」
「わかった」
「はい! 回って来ます」
「了解しました」
「よし。ということで、また後でね」
皆の返事を聞いてから、俺はそう言って自分の部屋に向かった。
「エルシーさん、待たせちゃってごめん」
俺が部屋に戻ってくると、エルシーさんが部屋にあるソファーに座って何かの書類を読んでいた。
「いえ、待っていませんよ。むしろ、早すぎませんか? 騎士団の試験はどうしたんですか?」
「もう終わったよ」
「え? 終わった!? どんな決め方をしたんですか?」
「試験を受けたい人いますか? て聞いたら、名乗り出た人たちが三人しかいなくてね。思ったよりも早く終わっちゃったんだ」
「そ、そうなんですか……」
エルシーさんは、俺の言っていることがわかっているのか、わかっていないのか、難しい顔をしながら頷いた。
「まあ、そんなことより、俺がいなかった間の進行具合を聞かせてよ」
「わかりました。と言っても、まだ十日くらいしか経ってないので、そこまで進んでいませんけどね」
「まあ、そうだろうけど。よろしく」
特に何も無かったらいいんだけどね。
「わかりました。レオくんが帰ってから、順調に職人の育成、魔法具工場の建設も進んでいます。それと、レオくんに頼まれていた一般の商業スペースの募集も始めました。こちらは、すぐにたくさんの商会が申し込んで貰えましたので、問題なく定員を超えそうです」
「それは良かった。半年後からは、予定通り本格的に開発を始めることが出来そうだな」
「そうですね」
「あ、それと、仕事とは関係ないけどルーの様子はどうなの?」
仕事とは関係ないけど、仕事以上に大切なことだからね。
ルーにストレスは非常に危険だ。
「ルーさんですか? ルーさんなら、レオくんたちがいないのがよほど寂しいのか、私が仕事の時以外はずっと私にくっついていますよ」
「そうなのか……」
やっぱりこの前の発狂事件以来、ルーは随分と寂しがり屋になってしまったな。
これは、頻繁にシェリーを連れてきてやらないとダメだな。
「おかげで、私の寂しさも和らげて貰っていますけどね」
そうなんだ。やっぱり、エルシーさんも寂しいよね。
「すみません。これから、なるべくこっちにいられるようにしますから」
「無理しなくて大丈夫ですよ。あ、でも、たまに程度には顔を出して貰えると……」
大丈夫ですと言ってしまったけど、本当に来なくなってしまうと困ってしまう。エルシーさんのそんな考えが、エルシーさんの声と表情から伝わってきた。
「うん、なるべく来られるようにしますよ」
とりあえず、明日は来られるはず。