第十七話 魔物創造
あれから二週間が経ったが、ルーはそれまで通りの生活をしていた。
変に刺激をして、あの発作が起こったら大変なので、俺らはあの時のことを質問できずにいた。
たぶん、消された記憶に何か関係があるんだけど、思い出させる方法は知らないし、出来たとしても辛い記憶だった時は、逆に可哀想だしね。
ということで、特に俺たちは普段通りにルーと接している。
あ、いや、一つだけ変わったことがあったな。
夜な夜なルーが誰かのベッドに潜り込むようになった。
なんか、この前皆で一緒に寝た時に凄く安心感があって気に入ったらしい。
もしかすると、あの時の寂しさがまだルーの中で残っているのかもね。
ちなみに、俺の所に来ようとするとエルシーかシェリーに捕まって二人の寝室に連れて行かれるらしい。
だから、朝起きてルーが俺のベッドに潜り込んでいることはまだ無い。
まあ、ルーとの話はこの辺にして、この一週間に何をしたのかを説明していこうかな。
まず、地下市街の安全確認を行った。
違法な物が残っていないか、アンナと一緒に隈なく探した。
結果は、何も出て来なかったんだけどね。
全部、ルーに消されていた。逆に、どうしてあの魔法アイテムだけが無事だったのかが不思議なくらい何も無かった。
もしかすると、ルーが消したことによって誤作動が起きたのかも。
それから地下市街の安全確認が終わり、次の日から俺はエルシーさんと一緒に魔法具工場の準備を始めた。
工場の建設場所は、地下に入ってすぐの場所。
業者の手配などはフレアさんに頼み、エルシーさんには魔法具作りを教えられる人を本店から呼んでくれるように頼んだ。
工場建設はすぐに始まり、俺が造った地下市街の入り口からたくさんの資材が今も運び込まれている。
あとは、元奴隷屋だったクラークの店を改造して簡易的な魔法具工場を始めた。
十人くらいを雇って、今はエルシーさんが呼んだ職人に作り方を教わっている。
この人たちには全ての行程を覚えて貰って、工場が完成した時の教育係になって貰おうと思っている。
工場が完成するまでには、習得出来るかな。
ということで、工場が完成するまで何もすることがない。
地下市街の開発は街灯が設置されてからじゃないと出来ないし、街灯は工場で量産が始まらないと何も出来ないからね。
それで、今日からは少しゆったりと休みを満喫しようかなと思っている。
あと少しでまた学校が始まってしまうから、今のうちに遊んでおかないと。
まず今日は、例の魔物創造に挑戦してみようかな。
と思って、俺はシェリーたちを引き連れて地下市街に来ていた。
ここなら広いし、工場の予定地からも遠いから誰かに見られる心配も無いから大丈夫だろう。
そんなことを考えながら、俺は地面に今日使う素材たちを並べていく。
この前の魔界で五本の指に入るってアンナに言われていた魔物とドラゴンの素材は多めに入れておく。
あとは、使えそうな素材を適当に出しておいた。
「本当、いろんな素材を持っているわね」
「まあね。それが趣味みたいなところもあるし」
創造魔法に使えそうな素材があるとついつい取って置いちゃうんだよね。
俺は素材を出し終わり、最後に魔石を取り出した。
もう、何年も毎日寝る前に魔力をつぎ込んだ魔石だ。
この前、オークションで出されていた魔石なんて比べものにならないくらい魔力が入っている。
「いつ見ても、凄い魔力ですよね。しかも、このレベルの魔石がいくつもあるんですよね?」
「そうだね。ほら」
そう言って、バッグから魔石をいくつか掴み取ってリーナに見せてあげた。
「本当に凄いわね。ねえ、一つ貰っていい?」
「別にいいけど、何に使うの?」
まあ、綺麗だし、部屋にでも飾って置くのかな?
「エル姉さんの創造魔法に使うんだ」
そういえば、ここ最近二人で創造魔法の練習をしているって言っていたな。
「ああ、なるほど。それなら別に、なくならない程度だったら俺のバッグから勝手に素材も含めて持って行っていいよ。どうせ、使い切れない物ばかりだし」
エルシーさんの創造魔法のレベルが上がるなら、お安いもんだよな。
あとで、何が造れるようになったのか聞いてみよう。
「え、いいの? レオ大好き!」
こちらこそ、喜んで貰えて何よりだ。
「ありがとう。それじゃあ、魔物創造を始めるよ」
「どんな魔物を造る予定なんですか?」
さあ、始めるぞって感じで素材たちに向けて手を向けたところで、エルシーさんから質問が飛んできた。
「そういえば、特に何も考えてなかった。そうだな……もし誰かに見つかってもペットって誤魔化せる犬とかいいかな?」
もし、見た目が凶悪な魔物ができてしまったら、人に見られないようにしないといけなくなりそうだもんね。
「犬ですか……いいと思いますけど、この量の素材を使ったら、誤魔化せない大きさにならない?」
あ、確かに。
「それじゃあ、魔石を追加して何体か同時に造るか」
あとは、一体だけ少し強くなるようにイメージしておこう。
リーダー的なのを一体ね。
そんなことを意識しながら、俺は創造魔法を使った。
いつも通り光って素材たちがくっつき変形して出来たのは、真っ黒な犬だった。
それと、一体だけ体から炎が出ていた。
どうやら、イメージ通りに出来たみたいだ。
さて、お楽しみの鑑定の時間だ。
〈ヘルハウンドLv.50〉
主人を守ることを生き甲斐としている
影魔法で主人の影に隠れて生活する
体力:4000/4000
魔力:6000/6000
力:3000
速さ:8000
スキル
影魔法Lv.8
察知
連携
で、一体だけ強そうなのが
〈ヘルハウンド(炎)Lv.50〉
主人を守ることを生き甲斐にしている。
影魔法で主人の影に隠れて生活する
炎魔法も得意
体力:5000/8000
魔力:8000/8000
力:3000
速さ:8000
スキル
炎の体
炎魔法Lv.8
影魔法Lv.8
察知
統率
うん、強いね。
レッドゴーレムより弱いかな? とか思ったけど、レベル表記があるからこれからもっと強くなりそうだよね。
それに、影魔法とか初めて聞いたかも。
あ、おじさんも一応持っていたな。
使っているところは見たことがないけど。
「わ~。かっこいいですね。触って大丈夫ですか?」
「どうなんだろう? 大丈夫か?」
噛まれても困るから、一応犬たちに聞いてみた。
「ワフ!」
ヘルハウンドたちは、吠えながら縦に首を振った。
うん、どうやらそこそこ知能はありそうだな。
「いいみたいだよ」
「やったー」
許可が出ると、シェリーたちは嬉しそうにヘルハウンドたちを撫で始めた。
「モフモフしていて気持ちいい。ねえ、餌とかどうするの?」
そうだ。こいつら、ゴーレムと違って飯が必要だったな。
「さあ? アンナに聞いてみる」
困った時は、アンナだよな。
(普通の犬と同じで大丈夫ですよ)
「普通の犬と同じで大丈夫だって」
肉とかでいいのかな? まあ、後でいろいろと並べてどれを食べるのかを確認すれば大丈夫だろう。
「わかりました」
「よし。それじゃあ、それぞれの住処を決めるか。まず、普通のヘルハウンドは二匹ずつシェリーたちの影だな。で、残った一匹は孤児院で育てて貰うか。お前は俺の影だな。」
俺がそう言うと、ヘルハウンドたちは『ワフ』と返事をして、それぞれ俺たちの影に潜っていった。
「え? 影に入ることが出来るの?」
「影魔法を使って、影の中で生活するんだって」
「へ~凄いわね。それより、名前を考えてあげないと」
そう言うと、シェリーは『うん……』と考え始めた。
「確かに、名前が必要だな。よし、お前の名前は……。そういえば、お前はオスなのか?」
炎を身にまとったヘルハウンドに質問すると、首を横に振って答えてくれた。
「メスなのか。そうか……うん……ミーナだな」
「ワフ」
「気に入ってくれたか? それは良かった。それじゃあ、上手くいったことだし帰るか」
「待って! まだ考え終わってない!」
シェリーの言葉で、リーナやベルたちを見ると、まだ二頭のヘルハウンドと睨めっこしながら、名前を考えていた。
あ、ルーだけは考え終わったのか、嬉しそうにじゃれ合っていた。
「わかったよ。まだ時間がかかりそうだね。それじゃあ、その間俺は孤児院に犬を届けてくるから、帰ってくるまでに考えておくんだよ」
「はーい」
「よっと。お前は、今日からここで暮らして貰う。子供たちの遊び相手になってあげてくれ。あとは、危ないことがあったら助けてあげて」
孤児院に転移した俺は、ヘルハウンドに説明する。
たぶん、頭がいいから俺の言葉を理解してくれているだろう。
「ワフ」
うん、大丈夫のようだ。
「あ、レオにいだ!」
庭を歩いていると、すぐに外で遊んでいたキャシーたちとアンヌさんを見つけることが出来た。
「よお。久しぶり。皆、元気にしていたか?」
「うん! それより、その犬はどうしたの?」
「お、気になるか? ここで飼って貰おうと思って連れてきたんだ。アンヌさん、ここで犬を飼っても大丈夫?」
「え? ここで、犬を飼うんですか? たぶん、大丈夫だと思いますが……一応、カミラさんに聞いて来ます」
そう言うと、アンヌさんが中に入っていきそうなったので、慌てて止めた。
「いや、俺が聞きに行ってくるからいいよ。カミラさんは、どこにいるの?」
俺が連れて来たんだから、自分で許可を取らないと。
「たぶん、院長室にいると思います」
院長室は確か、メイドたちの部屋の端にあったはず。
「了解。それじゃあ、俺が戻って来るまでの間、皆でこいつを可愛がってやっていてくれ」
「いいの? やったー」
「嬉しそうだな」
子供たちにこねくり回されながらも、嬉しそうにしているヘルハウンドを見てから、俺はカミラさんのところに向かった。
「すみません」
「あ、レオンス様! どうしたのですか急に?」
俺が院長室に入ると、お金の勘定をしていたカルラさんが慌てて立ち上がった。
「あ、ごめんなさい。一つだけ聞きたいことがあって来ました」
「聞きたいことですか?」
「はい。ここで犬を飼っても大丈夫ですか? 一頭だけなのですが、孤児院の皆に飼って貰いたくて」
「犬ですか? 大丈夫だと思いますよ。子供たちに面倒をみさせれば、いい教育にもなりそうですし」
「ありがとうございます。凄くお利口な犬なので、子供たちを噛むとかはないと思うので、そこは心配しなくても大丈夫です」
主人を守ることが生き甲斐らしいから、たぶん大丈夫だろう。
普通の犬を飼うよりは安全なはず。
「わかりました。私も、後で可愛がりに行きたいと思います」
「是非可愛がってあげてください。黒くてかっこいいですよ。それじゃあ、また」
「はい。また、いつでも来て下さいね!」
了解しましたと伝えつつ、俺は院長室を後にした
「あ、レオにい! 大丈夫だって?」
俺が戻って来るとすぐに、犬を可愛がっていたキャシーたちが聞いてきた。
「うん。大丈夫だって。その代わり、お前たちがちゃんと世話をしなさいって言っていたよ」
「わかった! ちゃんとお世話する!」
「よしよし。それじゃあ、俺は帰るぞ」
そう言って、キャシーの頭を撫でてあげる。
「え~もう帰っちゃうの?」
「シェリーたちを待たせちゃっているんだ。どうせ、明日から暇だからまたすぐに来られるさ」
当分、やることは無いからね。
学校が始まるまではゆっくりするんだ。
「わかった。明日、絶対来てね。約束だからね?」
明日? まあ、暇だからいいけど。
エルシーさんも連れて来るか。
「わかったよ。それじゃあ、また明日。お前たち、犬の世話をちゃんとやるんだぞ!」
『は~い』
キャシーたちの元気な返事を聞きながら、俺は地下市街に向かって転移した。
それから、まだ名前が決められていなかったベルとエルシーに家に帰ってから考えるように言って、城に帰った。
三巻の情報を活動報告を書きましたので、是非読んでみて下さい。
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