第十六話 魔界の魔物たち③
キメラの群れとベヒモスの群れを倒した次の日。
地下市街のとある場所で大きな大きな魔物がゆっくりと魔方陣から召喚されていた。
眠った状態で召喚されるのか目はつぶっているが、それでも十分に凶悪な顔に思わずビビってしまった。
「うわ~。これ、絶対に呼び出したらダメな奴じゃん」
まだ肩までしか出ていないが、この調子だとあと一、二時間で完全に召喚され、活動を始めてしまうだろう。
それにしても、この魔物は何という魔物なんだ?
(この魔物は、魔界でも五本の指に入るくらいの魔物でして、見た人は死んでいるので、まだ名前はつけられていません。この魔物に暴れられますと、レオ様たちが負けることは無いと思うのですが……ここが確実に崩壊しますので、完全に召喚される前に倒すことをおすすめします)
マジ? それは、急がねばいけないな。
てか、見た人は全員殺されているって相当ヤバくない?
あの魔法アイテム、とんでもない性能だな。
「ねえ、約束通り私が消していいの?」
「うん、いいよ。いや、むしろ早くお願いします」
本当、何があるのかわからないので、早くやっちゃってください。
「わかった。えい!」
「本当、どんな相手でも関係ないな……」
そんなことを言いながら、ルーの腕の一振りによって頭を消されてしまった魔界で五本の指に入る魔物を哀れんだ。
「ふふん♪」
ルーは、大きなものが壊せてご機嫌のようだ。
「それじゃあ、昨日倒した魔物を含めて死体たちを回収しますか」
「手伝うよ」
「ありがとう」
それから、二人だけで魔物を集め……られず、ゴーレムを連れてきてようやく全ての死体を解体BOXに詰め込むことに成功した。
まあ、最初から二人だけでなんて無理なのはわかっていたんだけどね。
ベヒモスなんて、二人だけでどう持つんだよ。
今回手に入れた素材たちは今後、創造魔法の素材にしていきます。
とりあえず、後で新しくできるようになった魔物創造をやってみようかな。
魔界で五本の指に入ると言われている魔物の素材を使ってね。
「よし、帰るか」
死体の回収も終わり、俺とルーは城に転移した。
「ただいまー」
「おかえりなさい。凄く大きな魔物だったわね」
帰ると、さっそくシェリーたちが出迎えてくれた。
なんか、エルシーさんにピッタリとくっついているシェリーに何があったのかが知りたいけど、今はいいか。
「そうなんだよ。もし戦っていたらヤバかったと思う」
エルシーさんとの視察が一日でも後だったらと思うとゾッとするよ。
あのキメラの大群とベヒモスの群れ、あの馬鹿でかい魔物を同時に、しかもシェリーたちを守りながら相手するなんて、無理に決まっているからな。
「でも、無事に終わって良かったです。これで、地下市街は安全なのですよね?」
「それは、違法商品がまだ残されていないかを確認しないとわかりませんね。明日、探してみます」
たぶん、危ない薬とか魔法アイテムがまだまだ残っているかもしれないからね。
明日、よく探さないとだな。
「わかりました。もう何も無いといいんですけどね」
「そうですね」
「ねえ、今日はこれから何をするの? 少しは休んだら? 昨日から、ずっと戦ってばかりで疲れたでしょ?」
「うん。疲れたし、今日の仕事はこれで終わりにしようかな。それにしても、随分とエルシーさんと仲良くなったね」
さっきから、エルシーさんにくっついているのが気になって仕方ないんだけど。
昨日の夜から今の間に何があったんだ?
俺、昨日は疲れて早く寝ちゃったし、今日の朝も魔物の召喚を警戒するために朝早くから地下市街にいたからわかんないんだよな……。
「そう? フフ♪」
うん、明らかに仲良くなったな。
「聞いてくださいよ。シェリーったら、初対面の時あれほどあからさまに嫌がっていたのに、昨日怒られて仲良くなった途端こんなに甘えているんですよ」
「まあ、それはいつものことだし……。それにしても、本当にべったりだな」
ルーの時は置いといて、リーナの時もベルの時も最初だけは怒るんだけど、結局仲良くなっちゃっているよね。
でも、今回は異常に早いし、距離も近すぎるだろ。
「そうなんですよ。シェリーがエルシーさんのことを何て呼ぶようになったと思います?」
「え? 何だろう……? 思いつかないや」
わざわざ聞くってことは、普通にエルシーとかではないだろうし……。
「答えは、エル姉さんです」
エル姉さん? エル姉さんか……。
「へ~そうなんだ~」
思わず、ニヤニヤしながらシェリーを見てしまう。
エルシーさんは、凄くしっかりしているからね。
お姉ちゃんと呼ぶのもわからないでもない。
「な、何? べ、別に仲良くしているんだからいいでしょ?」
「うん。仲良くなってくれて凄く嬉しいよ」
きっと、昨日の怒られた後に、お風呂でも入って優しくされたら懐いちゃったんだろう。
何だかんだ、シェリーは人懐っこい性格だからな。
「でしょ? あ、そうだ。昨日の約束覚えてる?」
「うん。シェリーたちのステータスを見せて貰う約束でしょ?」
昨日、ベヒモスを倒しに行く前にした約束だよな。
「そうよ。ということで、はい」
「あ、私たちのも!」
「おお、ありがとう。それじゃあ、見させて貰うよ」
シェリーのカードを受け取りながら、リーナ、エルシーさん、ベルの順番に見ていく。
シェリア・ベクター Lv.26
年齢:11
種族:人族
職業:魔導姫
体力:1140/1140
魔力:****/****
力:220
速さ:380
運:500
属性:無、水、雷、氷、魅了
スキル
<見ることはできません>
称号
<見ることはできません>
リアーナ・アベラール Lv.26
年齢:11
種族:人族
職業:聖女
体力:1160/1160
魔力:****/****
力:250
速さ:360
運:500
属性:無、聖
スキル
<見ることはできません>
称号
<見ることはできません>
エルシー Lv.26
年齢:16
種族:人族
職業:大商人
体力:1120/1120
魔力:18900/18900
力:250
速さ:380
運:300
属性:創造
スキル
<見ることはできません>
称号
<見ることはできません>
ベル Lv.38
年齢:13
種族:獣人族
職業:メイド
体力:1350/1350
魔力:****/****
力:710
速さ:580
運:500
属性:無、獣
スキル
<見ることはできません>
称号
<見ることはできません>
おいおい、魔力の表記がおかしいんじゃないのか? と思われるかもしれないが、これはステータスカードの性能がシェリーたちの魔力に追いついていない為にこんな表記になってしまっている。
もちろん、鑑定を使えば詳しい情報を見ることが出来るよ。
まあ、どうせ十の何乗表記で、見ても凄さが伝わりづらいから鑑定は使わない。
それにしても、皆成長したな。
「皆、凄い成長したな。リーナなんて聖女見習いだったのが聖女になってしまったんだね」
遂に、リーナは聖女様の孫から聖女様と呼ばれるようになるわけだ。
「あ、気がついてくれたんですか? そうなんですよ。私も知らないうちになっていました」
「へえ~。何が条件だったんだろうな?」
「さあ? 思い当たることとすれば、アンナさんたちを助けたことぐらいなんですけどね……」
「たぶんそれだよ。あの時のリーナは、本当にかっこよかったもん」
あの、無償の気持ちで助けている姿は、聖女様そのものだった。
「本当ですか? それは嬉しいです」
リーナのことを褒めていると、エルシーさんに抱きついているシェリーの頬が膨れ始めたので、そろそろシェリーの時間に移行しよう。
「シェリーの魔導姫も凄いよね。こんな職業、見たことないよ」
たぶん、文字通りの意味で、魔法が凄いお姫様ってことなんだろうね。
けど、この職業は世界でシェリーだけだろう。
王国の姫様は、宝石類に夢中らしいからね。
「そ、そう? 私、魔法だけは得意だから」
「うん。シェリーの魔法は凄いよ。エルシーさんも、魔力が凄く増えましたね。これなら、創造魔法で魔法アイテムも造れると思いますよ」
俺が初めて成長のミサンガを造った時は、今のエルシーさんよりも魔力が少なかったからな。
「本当ですか? 後で試してみます! こ、これでレオくんの記録がもっと詳しく……」
「エル姉さん。その話、後で詳しく聞かせて。たぶん、私の魔石を使えばいいのが出来るわ……」
なんか、シェリーとエルシーさんがコソコソと何かを話し始めた。
もしかしてこの二人、一緒になると危ない存在になったりしないよね?
うん、気にしないことにしよう。うん、今のは気のせいだ。
「ベルは、もう十分強いな。無属性魔法と獣魔法を組み合わせたら、A級の冒険者にでも圧勝出来るんじゃないか?」
「そうですか? そこまで強くなった気がしないんですけど……」
「まあ、まだレベルが上がったばかりだしな。それじゃあ、見させて貰ったから返すよ」
そう言いながら、皆にカードを返す。
「じゃあ、今度はレオの番ね」
「え? 俺のも見るの?」
てか、俺も自分のステータスがどうなっているのかを把握してないんだけど。
「もちろんでしょ。それに、ルーも見せなさいよ」
「いいよ~」
若干見せることを渋った俺に比べて、ルーは何も気にせずシェリーにステータスカードを差し出した。
ルー Lv.38
年齢:11
種族:魔族
職業:破壊士
状態:記憶喪失
体力:11000/11000
魔力:****/****
力:6000
速さ:8200
運:10
属性:無、破壊
スキル
<見ることはできません>
称号
<見ることはできません>
「あれ? ルーのステータスって思っていたほど凄くないのね。というより、あんなに強くてどうしてレベルがベルと一緒なのよ」
カードを見て、最初にシェリーがルーのレベルに文句を言った。
「私もわかんな~い」
当の本人は、そんなことはどうでもいいじゃんという態度だった。
「アンナ情報なんだけど、魔族の特性みたいだよ。魔族は長く生きられる分、人や獣人族よりレベルが上がるのが遅いんだって」
俺は、前にアンナから聞いた情報を皆に伝えた。
俺も同じことを気になってアンナに聞いたんだよね。
そんなことを思っていると、急にルーの顔が青くなったような気がした。
「え? 私、レオやシェリーよりも長生きなの? それじゃあ、レオたちが死んだらまた私は一人になってしまうの? 一人……ウゥゥ……」
それだけ言うと、ルーは頭を抱えてその場で蹲ってしまった。
「ルー!? どうした? 大丈夫か?」
急なことに驚きながら、俺は慌ててしゃがみ込んでルーの背中を擦る。
「一人、嫌だよ……。寂しいよ……。皆、私を置いていかないで……」
大体わかってきた。たぶん、一人にされてしまうことに何かしらのトラウマがあるのだろう……。
たぶん、奴隷だった時のトラウマなんだろうな。
「ルー、落ち着けって。まだまだ何十年も先の話だろう?」
どうやって慰めたらいいんだ? たぶん、こんな言葉じゃあダメだ。
もっとルーが安心する言葉ってなんだ?
そんな風に、ルーの背中を擦りながら悩んでいると、またルーの様子が変になった。
今度は、体も震え始めた。
「嫌だよ! 置いてかないで! お姉ちゃん! お姉ちゃん置いてかないで!」
「お姉ちゃん?」
ルーにお姉ちゃんと呼ばれている人はいない。
ということは……
「もしかして、消えていた昔の記憶か?」
「お姉ちゃん! どうして! どうして置いていくの! お願いだから帰って来て!」
「ルー、落ち着け! こっちを見るんだ。一人じゃないだろ!」
どんどんおかしくなっていくルーの肩を掴んで、無理矢理目を合わせた。
目を合わせたが……
「お姉ちゃん。おねえちゃん……」
ルーの目は虚ろで俺の目を見てくれることは無かった。
そして、何故かそのまま目をつぶり、眠ってしまった。
「すみません。あまりにもお話が出来そうになかったので、聖魔法で眠らせてしまいました。たぶん、起きた時には落ち着いていると思いますので、それからじっくりとお話をしましょう」
どうやら、リーナの聖魔法によって眠ってしまったみたいだ。
聖魔法には、気持ちを落ち着かせる魔法があったはず。
だから、起きた時にはきっとさっきよりも落ち着いている状態になっているだろう。
「うん、そうだね。それじゃあ、ルーが起きるまで側にいてやるか」
「そうね。そうしましょうか」
ルーをベッドに運び、いつ起きてもいいようにルーの側に皆でいてあげることにした。
《四時間後》
SIDE:ルー
「ん……あれ? 私、いつの間に寝てた? うん……覚えてないや。それより、もうご飯の時間よね。急いで起きないと……あれ?」
私の上に、誰かの腕がある?
え? レオ? それに、シェリーも?
どうして? ここ、私のベッドよね?
慌てて起き上がると、レオとシェリーだけじゃなく、皆が私のベッドでスヤスヤと眠っていた。
「皆も寝ちゃったんだ~。ふふふ、皆で寝るのもいいね」
それに、なんだろう……この感じ。
凄く落ち着く……。
「ふあ~。なんだか、眠くなってきた。皆、お休み」
そう言いながら、もう一度枕に頭を乗せた私は、レオとシェリーの手を握りながら目をつぶった。
三巻の表紙が発表されましたので、下に貼っておきます。
ルーのイラスト、可愛いですよね。