第十五話 魔界の魔物たち②
地下市街に転移してすぐ、俺は模擬太陽を起動させた。
模擬太陽は光り始めると自動で天井まで上っていき、地下市街全体を照らした。
「わあ~。明るくなったね。本当に昼みたい」
「そうだね。これで、ルーも全力で戦えるな」
「うん! あ、そうだ。私、新しいことが出来るようになったから、楽しみにしててね!」
「新しいこと? うん、楽しみにしておくよ。それじゃあ、魔物たちのところに行くか」
破壊魔法のレベルが上がったのか?
だとすると、何か制限が解放されたとかかな?
ルーが出来るようになった新しいことが何なのかを考えながら、俺は転移を使った。
転移したのは、魔物たちをギリギリ目視できるくらいの場所にした。
ただ……
「うわ~。あれ、大きいね」
そう、魔物が思っていたよりも大きかった為、簡単に目視できてしまう距離だった。
「そうだね。通りでこっちに向かってくるスピードが遅かったわけだよ。それにしても、大きさも凄いけど数もヤバいな」
アンナが数体って言っていたけど、数十体はいるな。
強さはどのくらいなんだろうか……。
<ベヒモスLv.289>
体力:500000/500000
魔力:200000/200000
力:30000
速さ:5
運:20
スキル
炎魔法Lv.MAX
土魔法Lv.MAX
魔力感知Lv.MAX
ダメージ半減
「なるほど、動かないでとにかく魔法を撃ち続けるタイプか。それにしても、見るからに魔法の威力がヤバいよな」
レベルがマックスって、相当ヤバいだろ。
これは、十分に警戒しながら戦った方がいいな。
「ねえねえ。もう、攻撃していい?」
「まあ、いいけど……。魔法の反撃に気をつけろよ」
何かあってもすぐに転移できるよう、ルーに触れておく。
「了解。ちゃんと見てて。えい!」
えい! という言葉と共に、一番近くにいたベヒモスが頭からチリチリと光の粒子になって消えていった。
ルーの手は、全く動いていなかった。
「もしかして……手を動かさなくても破壊できるようになった?」
「そうだよ。でも、制限があって、手の時と違って一回に一体しか消せないんだ~」
まあ、見える範囲全ての魔物が消せるとか、普通に反則だからな。
けど……レベルが上がれば、それもあり得るということか。
破壊魔法ってチートじゃね?
「なるほど。一対一ならほぼ無敵だな」
本当、ルーのレベルが上がる前にルーと戦うことが出来て良かった。
もし今やったら、簡単に消されていただろう。
俺も、何か新しい魔法が欲しいな……。
(レオ様、気がついていないだけで、既に創造魔法のレベルが上がっていますよ)
俺がぽつりと心の中で呟くと、アンナがとんでもない情報を教えてくれた。
「え? そうなの!? 何が出来るの?」
めっちゃ嬉しいんだけど! てか、気づけよ俺!
たまには、ステータスカードを見るようにしないとだな。
(魔物を創造出来ます。先ほどのゾンビゴーレムは魔物の扱いです。レオ様がゴーレムをイメージしたためにゴーレムのような形になってしまいましたが)
お~。魔物を創造出来るのか。それにさっきのゴーレムは魔物扱いなのか。びっくりだな。
ただ、俺が魔物を作れるなんて広まったら、魔王とか言われて面倒なことになりそうだから、バレないようにしないといけないな。
(はい、そうですね。それと、エレナ様のレベルも上がっていますので、確認してみてください)
「そうなの? 了解」
<魔剣エレナLv.4>
持ち主と念話が出来る
持ち主の魔力を大量に吸収して、切れ味と耐久力を強化していく
レベルが上がると出来る能力が増える
自己修復能力有り
Lv.4…配下の魔物を召喚することが出来る
創造者:レオンス・フォースター
(うお! エレナ凄いじゃん!)
魔物を召喚か……。俺の魔物創造と合わせたらかなり凄いことになるんじゃないか?
てか、魔物召喚もまた魔王が使いそうな能力じゃん!
ん? よく考えたら魔剣は元々魔王の剣だから当たり前か。
(何を今更……。まあ、いいわ。今日は、存分に使って貰えているからね)
気がついていなかったのは、普段ほったらかしにしている証拠だから、いつものエレナなら怒ってしまいそうだが、今日は機嫌がいいみたいで助かった。
(レオ様! もっと私を使ってください! たぶん、私もあと少しでレベルが上がりますから! だから使って!)
エレナに許して貰えてホッとしていると、セレナがめっちゃ主張してきた。
(わ、わかったよ)
まあ、セレナのレベルアップももうすぐだろうからね。
今から、たくさん倒せばいけるかな?
「ねえ、レオ。さっきから何しているの?」
おっと、ルーがいたんだった。
「あ、ごめん。剣と話していたんだ」
「え? その剣、話すの?」
「そうだよ。持ち主だけしか話せないんだけどね」
「そうなんだ。それで、私がどんどん倒しちゃっていい?」
「うん。いいよ」
セレナには悪いけど、こっちの方が安全だからね。
「やった-」
そう言って、もう一度ルーが破壊魔法を使った。
すると、また一体のベヒモスが消えていった……と、同時に他のベヒモスたちが一斉に俺たちに向かって顔を向け、口を大きく開けた!
「あ、気づかれた!」
危険を察知した俺は、急いで転移した。
「危なかった……。集中砲火されているぞ」
そう言いながら、俺たちがいた場所に魔法を放ち続けているベヒモスを観察する。
どれも、巨体から想像出来た通り、魔法の威力も凄まじく大きかった。
俺の体力なら耐えられるかもしれないけど……ルーならあの集中砲火で死んでいたな。
「うん、凄いね。こっち見た瞬間、口から一斉に魔法が飛んできた!」
死にそうになったというのに、ルーは何故か嬉しそうにしている。
流石、戦闘狂だな。
「よし。それじゃあ、作戦を変えよう。ルーはさっきみたいに、ここから一体ずつ魔物を消してくれ。その間、俺はあの大群の中に潜り込んで、ターゲットを取りつつ斬り倒していくから」
「え? それだと、レオが危なくない? 私の破壊魔法で手を使って一気に消しちゃった方が早くない?」
「いや、そんなことはないぞ。もし、それをやるとなると、広範囲で攻撃するために近づくしかなくなるよな?」
「うん」
「そうすると、必然的にあいつらに気づかれるのもその分早くなるだろ?」
「うん」
「で、さっきみたいに魔法に囲まれたら、視界が遮られて、破壊魔法が使えなくなるだろ?」
「あ、確かに! でも、今みたいにレオの転移を使いながら攻撃してもいいんじゃないの?」
「いや、たぶんすぐに気がつかれるからずっと当たらないと思う。それに、俺は魔法を避けるのが得意なのは知っているだろう?」
「うん……そうだね。わかった」
わかったと言いながらも、ルーはいかにも不満という顔をした。
「よしよし。今回は、新しい能力の練習だと思ってくれ。それと、くれぐれも俺のことは消さないようにしてくれよ?」
ルーをなだめながら、頭を撫でてあげる。
また、暴れさせてあげる機会をあげるから許して?
「わかった。レオも、気をつけてね」
「おう。それじゃあ、俺があいつらのターゲットになった瞬間にスタートだからね!」
そう言って、俺は転移を使った。
転移した場所は、ちょうど群れの真ん中にいるベヒモスの頭の上だ。
「ほら、俺はここにいるぞ~」
それだけ言ってすぐに別のベヒモスの頭に転移する。
すると、さっきまで俺が頭の上に乗っていたベヒモスの頭が魔法で消し飛んでいるのが見えた。
それだけじゃなく、その射線の先にいる仲間にも致命傷になるくらいのダメージを与えていた。
つまり、俺が一回挑発しただけで、真ん中にいたベヒモスの頭が飛び、その周りにいたベヒモスも大怪我を負ってしまったというわけだ。
「ヤバ。こいつら、もしかして頭悪い?」
と、言いつつもまたベヒモスがこっちに顔を向けたのですぐに転移した。
「ハハハ。同じことを繰り返しているよ。いい加減、気がつけばいいのにね」
また、俺がいた場所一帯のベヒモスが戦闘不能になっているのを眺めながら、思わず笑ってしまった。
「よし、これは効率よく倒せそうだな」
そう言いながら、また転移する。
ただし、今度は転移してすぐに斬撃を飛ばす。
これによって、何体かの魔物が倒れたのを確認する前に転移をする。
そして、また斬撃を飛ばす。
これを繰り返すことによって、ガツガツベヒモスの数が減っていった。
そして、俺に気を取られている間に、一体。また一体とルーによって着実に数が減らされていった。
《十分後》
「セイ!」
ようやく、ラストの一体を倒し、全滅させることに成功した。
「ふう、終わった……。アンナ、他にもう魔物はいない?」
(はい、いません。ただ、時間が経てばまた召喚されるかもしれません)
マジ!? まだ終わりじゃないの?
「え? それじゃあ、発生源を探さないと!」
(それが、あの魔法アイテム……召喚の開始と同時に壊れてしまう仕様なので、既に壊れているのです)
「え? 一度使ったら壊れてしまうって、そういう意味だったの? それじゃあ、どうやって止めればいいの?」
もう壊れているなら、壊して止めるとかも出来ないんだよね?
(あの魔法アイテムは、三段階に分けて魔物を召喚します。今、レオ様が倒したベヒモスは二段階目の魔物ですね。ですので、あと一回魔物が召喚されれば、終わります)
「そうなのか……。あとどのくらいで召喚が始まるのかわかる?」
(申し訳ございません。いつから召喚が始まったのかがわからないので、お答えすることが出来ません。ただ、ベヒモスの召喚が終わって間もないはずなので、すぐに召喚されるということはないでしょう)
わかんないか……。
「そうか……。それじゃあ、ネズミたちに監視させて、始まった瞬間に全部倒しちゃうか」
(はい。それがいいと思います)
「了解。それじゃあ、ルーのところに戻るか」
ベヒモスの死骸たちは後で回収するとして、とりあえず帰るか。
「ルー、お疲れ」
「レオもお疲れ。見ていて楽しそうだったよ」
楽しそうだった?
「うん……まあ、楽しかったのかな?」
ベヒモスのことを笑っていたし。
「私も、あんな風に戦ってみたいな~。ねえ、どうやったらレオみたいにあんな速く移動できるの?」
いやいや。ルーが転移出来るようになったら、大変だよ。
それこそ無敵だろ。
「あれは、転移のスキルを使っているんだよ」
「その、転移のスキルはどうやって手に入れたの?」
「ダンジョンを攻略した時に手に入れたんだ」
初級ダンジョンでね。
「ダンジョン? 私もそれを攻略すれば貰えるの?」
あ、ヤバい。余計なことを教えたか?
ダンジョンと聞いた瞬間、ルーの目が輝いた気がした。
「どうだろう? わかんない。てか、勝手にダンジョンに挑戦しに行くとかやめてくれよ?」
これは、念を押しておかないと。
「え~。行きたい!」
やっぱり、そうなっちゃうよね~。
「わかったよ。また、いつか暇な時にでも連れて行ってあげるよ」
これは、いつか戦法と呼ばれる先延ばしにすることによって、子供のねだりを回避する方法だ。
「やったー! 約束だからね? ちゃんと連れて行ってくれるよね?」
あ、これ、いつかは絶対に行かないといけなくなるやつだ。
ルーの目が『約束破ったら承知しねえからな!』と言っている気がする……。
「わ、わかったよ。それじゃあ、シェリーたちが待っているからさっさと帰るぞ」
「わかった。お腹すいたな~。今日の夕飯は何だろう?」
「何だろうな? 今日はいっぱい動いたから、いつもよりご飯が美味しいんじゃないか?」
そんなことを言いながら、俺はルーの手を握ってシェリーたちのいる城に向かって転移をした。