第十四話 魔界の魔物たち①
剣を振ると、魔物たちに斬撃が飛んでいく。
そして、前列から順番に切られていく。
どうやら、ドラゴンみたいな硬さを持っている魔物はいないようだ。
でも、三列程度までしか斬撃が届かず、これから長い戦いになる予感しかしなかった。
「マジか……。アンナ、後ろの様子はどうなってる?」
魔物たちを近づけないよう全力で斬撃を飛ばしながら、アンナに後ろの状況を確認させる。
(はい。シェリア様たちは移動が終わり、現在はルー様とレオ様の間で固まっております。ルー様は、楽しそうに破壊魔法を使っておりますが……数が多すぎるのと、薄暗くて奥の方が見えないのもあって、レオ様と同様にそこまで数を減らせていません)
「そうか……。これは、本気で長期戦になりそうだな」
魔力切れは心配ないけど……体力が持つか?
「まあ、根性でどうにかするしかないよな」
SIDE:シェリー
ど、どうしよう。怖くて体が動かない。
さっき、もう守られているだけは嫌とか偉そうに言ったくせに……結局、守られているだけじゃない!
う、うう……なんなのあの魔物たちは?
昔読んだ魔物図鑑に載っているどんな魔物よりも凶暴に見えるわ。
そういえば、さっきレオが魔界から召喚された魔物って言っていたわね……。
あの、物語に出てくる魔王が住んでいた魔界。
非常に魔力で満ちている場所で、人間界とは比べものにならないくらいの魔物がウジャウジャいるという場所。
そんな場所の魔物たちがこんなにもたくさん……。
これ、レオでも大丈夫なの?
そう思い、レオに目を向けると……苦い顔をしながら必死に剣を振っているレオが見えた。
「レオでも大変なんだ……」
あんなレオの顔は初めて見た。
いつも、どんな時でも私を心配させないために余裕な表情でいてくれたレオが、不安を顔に出しちゃってる。
これは、本当にダメかもしれない……。
隣を見ると、私と同じことを感じ取ったリーナが不安で固まっていた。
ベルは、不安な顔をしながらも、私たちを守るために腕を変身させ、身構えていた。
エルシーさんは……
「二人とも、しっかりしてください!」
バン! バン!
エルシーさんが急に、私とリーナの頬を両手で挟むように叩いてきた。
「しっかりしてください。レオくんも、ルーさんも私たちを守る為に戦ってくれているのですよ? それに、戦う力があるというのに、どうして戦わないんですか? このまま、何もしないで死にたいのですか!?」
肩に掛けていたバッグから魔銃を取り出し、エルシーさんはそう言いながら順番に私とリーナの目を見つめてきた。
私たちは、頬がヒリヒリするのを感じながら、エルシーさんの目を見つめ返した。
と同時に、心の中の不安が少し収まってきた感じがした。
それに、ちょっと勇気も沸いた気がする。
「ご、ごめんなさい。戦います」
「すみません。私も、出来ることをやります」
「良かった。正気に戻ってくれましたね。それじゃあ、私たちも戦いましょう。シェリーさんは、ご自慢の魔法で魔物たちの数を頑張って減らしてください。リーナさんは、定期的にレオくんとルーさんの体力を回復させてあげてください。ただ、お二人が怪我した時にすぐ治せる魔力は残すように心がけてください」
「「は、はい」」
エルシーさんの的確に指示に、私たちはすぐに返事をする。
「焼け石に水だと思いますが、私は魔銃を使って援護してみます。魔石はたくさん持っていますので、魔力が尽きることは無いと思いますが、もしもの時はベルさんに魔力の供給を頼んでもいいですか?」
「はい。問題ないです」
「ありがとうございます。それじゃあシェリーさん、攻撃を開始してください」
「わかりました」
エルシーさんに返事をしてから杖を取り出し、私は魔物の大群に向けて一番得意な雷魔法を全力で撃ち出した。
『お願い! 効いて!』
そう願いながら。
バアン!!!
魔物たちに魔法が当たると……すさまじい爆発音と共に魔物たちがはじけ飛んでいった。
「う、うそ……。私の魔法が魔物たちに効いた?」
私の魔法に当たった魔物たちがちゃんと死んでくれた!
「凄いじゃないですか。でも、まだまだ魔物はたくさんいますから気を抜いてはいけませんよ!」
「は、はい」
エルシーさんに褒められて嬉しくなった私は、それからは不安も緊張も感じることなく魔物を倒し続けた。
SIDE:レオンス
戦い始めて、どのくらいが経っただろうか……。
たぶん、一時間は過ぎたはず。
終わりが、全く見えない。
斬っても斬っても、奥から魔物がやって来る。
それでも、シェリーたちのおかげで少しは楽になったが。
やっぱり、シェリーの魔法は凄いな。
一回目の攻撃で自信がついたのもあって、それから魔物の数を減らすのに貢献してくれている。
リーナの聖魔法も凄くありがたかった。
リーナのおかげで、一時間以上経っても疲労を感じずに動くことが出来ている。
本当、エルシーさんのおかげだな。
恐怖と不安で固まってしまった二人を鼓舞してくれなかったら、今頃俺たち全員とまでは言わないが、誰かは死んでいただろう。
魔銃の攻撃もなんだかんだ功を奏していた。
たくさんある魔石と、ベルの魔力による弾の補充により、弾切れのことを心配せずに撃てるので、そこそこ魔物を倒せることが出来ていた。
でも……四人とも、そろそろ魔力が尽きそうだ。
俺やルーがチートなだけで、普通は使っていれば枯渇するものだからな。
あと少しで、四人からの援護は無くなると考えていいだろう。
「アンナ。あとどのくらい残っているんだ?」
(当初の四分の一程度です)
「お、あと二十分の我慢か」
それぐらいなら、リーナからの支援が無くなったとしても体力は持ってくれるかな。
(ただ、動きの遅い魔物が数体、更に後ろから近づいてきています)
「なにそれ、めちゃくちゃ怖いんだけど! 絶対、強いじゃん!」
くそ……そいつらと戦う体力も残しとかないといけないのか……。
しかも、そいつら絶対強いじゃん!
「何か策はないのか……? あ、いいことを思いついた」
俺は、目の前に広がる死体の山と、そこから何個か見える魔石を見つけて、ニヤリと笑ってしまった。
「シェリー!」
「な、なに?」
俺が振り返らずシェリーに話しかけると、後ろからシェリーの返事が聞こえてきた。
「これから一旦、俺は攻撃を止める。その少しの間、残りの魔力を全部使っていいから代わりに攻撃してくれないか?」
「わ、わかったわ」
「よし、三、二、一。交代だ!」
そう言って、俺はすぐにしゃがみ、地面に手をついた。
頭上を魔法が飛んでいくが、シェリーのコントロールなら心配ない。
そう思いながら俺は、魔物の死体たちに向かって創造魔法を使った。
イメージする物は、ゴーレム。
少しでも戦力になってくれればいい。
すると……俺が斬り倒した魔物たちが光り、変形し始めた。
死体同士がくっつき、別れを繰り返し、気がついたらたくさんの魔物が出来上がっていた。
あれ? これは失敗か?
「いや、確認している暇は無い。おい、お前たち! 目の前の敵を倒せ!」
頭上を魔法が通過しなくなったことに気がついた俺は、鑑定することを諦め、ゴーレムであることを願いながらすぐに命令を出した。
すると、俺が創造したゴーレム(?)たちが動き始めた。
魔物の方に向かって。
そして、魔物たちと戦い始めた。
見た感じ、一体同士だとあっちの方が強いかな?
ただ、こっちの方が数は多いから、何とかなっているという感じだな。
そう思いながら、俺はゴーレムたちと鑑定してみた。
〈ゾンビゴーレム〉
死体から造られたゴーレム。
核を壊されない限り、永遠に体が再生する。
体力: -
魔力:200
力:6000
速さ:50
スキル
超再生
なんか、凄いな。
でも、レッドゴーレムの方が強いね。
最大の弱点は、動きが凄く遅いことだな。
たぶん、数で勝っていなかったら、一方的に殴られて終わりだったな。
ちなみに、魔物の方はこんな感じ。
<キメラLv.207>
体力:3180/4300
魔力:200
力:17000
速さ:8000
運:10
スキル
頑丈
見ての通り、ゴーレムと比べると凄い強く感じるでしょ?
もう、力が凄いよね。
あれに攻撃されたら、ドラゴンの一発よりも大きなダメージを食らっちまうよ。
近づけたら、終わりの魔物だな。
「おっと、考え込んでいる場合じゃない。ゴーレムが生きているうちに数を減らさないと」
《二十分後》
「そりゃ! はい、ラスト!」
最後の一体を倒して、ようやく魔界の魔物軍団の一波を無事耐えきることに成功したみたいだ。
「全員、急いで俺に掴まって!」
全ての魔物が倒されたことを確認した俺は、喜びたい気持ちを抑え、皆に指示を出す。
「え? 終わったんだよね? どうしてそんなに焦っているの?」
「もっと強い魔物がこっちに向かっているの! その前に逃げるぞ!」
戸惑うシェリーたちに必要最低限の説明だけをして、すぐに動くように促す。
「わ、わかった」
「よし、全員掴まったね」
全員が集まったのを確認して、すぐに転移した。
「ふう、死んだかと思った……」
部屋に転移してきた俺は、疲れや安心感からその場で倒れ込んだ。
「ねえ、何があったの? どうして、あんなに強い魔物がたくさんいたの?」
同じように、俺の横で寝転がったシェリーが質問してきた。
「どうやら、地下市街にあった魔法アイテムが誤作動を起こしたみたい。ごめん。ちゃんと確認しておくべきだった」
残党の処理だけじゃなくて、違法商品もちゃんと調べておくべきだったな。
全部ルーが壊した、と思い込みをしていたのが良くなかった。
「そんな。謝らなくていいわ。皆、無事だったわけだし」
「でも、もしかしたら誰かが死んでいたかもしれないんだよ? 今回は、それくらい危なかった」
シェリーたちの援護が無かったら……俺かルーの体力が尽きていたら……俺がゴーレムを造ることをひらめかなかったら……。
一時間半くらいの戦いだったが、本当にどうなっていたかわからなかっただろう。
「もう、いいですよ。まずは、無事に帰ってこられたことを喜びましょうよ。私たちも強くなれましたし」
シェリーと反対側に寝転がったリーナがそう言いながら、俺の手を握って微笑んできた。
「わかったよ……。そういえば、シェリーとリーナのレベルが上がったんだよね」
あれだけの魔物を倒していれば、相当レベルが上がっただろうな。
「そうよ。見る?」
シェリーがそう言って、ステータスカードを差し出してきた。
「いや、いいよ。それは、一仕事終わらせてからのお楽しみにしておくよ」
「一仕事? まだあるの? そういえば、まだ強い魔物がいるって言っていたわね」
「そうなんだよ。早く倒さないと、もっと大変なことになりそうだからね」
雰囲気的に、凄く強そうだからね。
しかも、アンナが言うには数体いるとのこと。
これを野放しにしておくわけにはいかないだろう。
「わかりました……。危ないと思ったらすぐに帰って来てくださいね?」
「了解。それじゃあルー、行くぞ!」
ルーに呼びかけながら、起き上がる。
「え? 私も行っていいの?」
「いや、むしろお前がいないと困る。あ、その前に造っておきたい物があったんだ」
おっと、いけないいけない。焦りは禁物だ。
部屋の端に転がっているバッグから、ダンジョンで手に入れた宝石をジャラジャラと出す。
そして、魔石を一つ出し、創造魔法を使った。
いつも通り光って出来た物は、大きな水晶だった。
直径が俺の身長よりも長い。
俺はすぐに鑑定をした。
<模擬太陽&月>
高いところから光を降り注ぐことが出来る
地上の太陽にあわせて光を調節し、夜の間は月になる
あくまで模擬、見た目だけなので光だけしか放出しません
創造者:レオンス・ミュルディーン
「よし、思った通りの物が出来た」
これなら、夜があるから街灯を取り付けなくていいということにはならないな。
「これは何ですか?」
大玉をペタペタと触りながら、エルシーさんが質問してきた。
「太陽みたいな物だよ。昼の間だけ明るくしてくれるんだって。明るくしないと、ルーが本気で戦えないだろ?」
「なるほど、昼の間だけ……。凄く合理的ですね」
お、やっぱりエルシーさんなら俺の意図がわかるか。
「でしょ? それじゃあ、行こうか」
そう言って、俺は模擬太陽を触りながら、ルーの手を握って再び地下市街に向けて転移した。