第十三話 エルシーと視察
エルシーさんとシェリーたちが部屋から出てきた。
どうやら、ちゃんと仲良くなれたみたいだ。
さっきまでムスッとしていたシェリーの顔が柔らかくなっている。
ただ……どうしてベルの顔があんなに赤いんだ?
あの顔は、ベルが恥ずかしい時にする顔だな。
部屋の中で、何か恥ずかしいことがあったのか?
後で、本人に聞いてみるか。
「よし。それじゃあ、お昼ご飯にするか」
「わかりました。ルーさんを呼んできます」
赤い顔がなかなか収まらないベルがそう言って、すぐそこにあるルーの部屋に入っていった。
たぶん、いつも通りまだルーは寝ているだろう。
「ルーさん?」
「昨日説明した魔人の女の子だよ」
首を傾げたエルシーさんに、ルーの説明をしてあげた。
「あ、違法奴隷だったという……」
「そう。今は一応、犯罪奴隷ということで行動を縛っているんだけどね」
「そうなんですか」
バアン!
「ご飯だ! ご飯の時間だ! ……あれ? 皆どうしたの? それと、新しい人?」
凄い勢いで飛び出してきたルーが、廊下に勢揃いしている俺たちに驚きつつ、見たことがないエルシーさんに目を向けた。
「ああ、これからここに住むことになったエルシーさんだ。たぶん、この国で一番お金を持っている女性だぞ」
「そうなの? レオよりも?」
「うん、そうだと思う」
たぶん、そうだよね?
ゴッツの横領した金を俺の物とするなら、微妙だけど。
あれは、ミュルディーン領の金ってことだからね。
「へ~。レオよりも金持ちなんだ。エルシー、はじめまして。私はルー。ルーって呼んで」
「わかりました。ルーさん、よろしくお願いします。ちなみに、そんなにお金は持っていませんよ。ほとんど、レオくんの調査に……いえ、なんでもありません」
うん? なんか、良からぬ言葉が聞こえたぞ!
絶対、俺を盗撮したりするのに金をたくさん使ったってことだよね?
まあ……俺も人のこと言えないから文句は言わないんだけど。
「うん、よろしく! それにしてもレオ、もうそろそろ女に手を出すのを控えたら? 次あたり、シェリーに刺されるかもよ?」
「う、うん……。肝に銘じておくよ」
流石にね。俺も、そろそろ殺されそうな気がしてきたよ。
昨日の夜も、何度謝って許して貰ったことか……。
別に、意図して増やしているわけじゃないんだけどな。
次からは気をつけるか。
「それで、午後からは何をするの?」
「皆で地下市街を見に行こうかなと思ってね。もう、安全な場所になったからシェリーたちが来ても大丈夫だろうからね。それと、もしものことがあってもルーがいれば安全でしょ」
もう、残党処理もしたからね。
真っ暗な場所だけど、誰も入れないから安全でしょ。
まあ、もしもの時の為に、俺もいつもの冒険者スタイルで行くしね。
「外に出られるの? やったー!」
俺の言葉を聞いて、ずっと部屋に籠もっているルーが誰よりも早く喜んだ。
飯食って部屋でゴロゴロ出来ればいいのかと思ってたけど、やっぱり部屋にずっと籠もっていたらストレス溜まるか。
ルーにストレスは危険だから、後で対策を考えないとな。
「え? 私たちも連れて行ってくれるの?」
次に反応したのは、シェリーだった。
「うん。一緒に行こうよ」
ここで、エルシーと二人だけで行くとかそんな勇気、俺には無いからね。
というわけで、皆で地下市街にやって来ました。
ワナテラスで周りを照らしながら、皆で広い地下空間を歩いて回っていた。
「うわ~。こんなに広かったのですね。こんな空間、どうやって造ったのでしょうね?」
「魔法じゃない? 何人もの魔法使いを使って大きな穴を開けたのよ」
「それはあり得ますね。古代の魔法使いたちが造った地下の街なのかもしれませんね」
「それ面白いな。この街を宣伝する時に使わせて貰うよ」
古の魔法使いたちが創造した地下市街……うん、いいな。
「やったー。役に立てました」
「魔法を使って造られたという案は、私だからね?」
「はいはい。二人ともありがとう」
シェリーの機嫌が悪くなりそうだったから、すぐにそう言って二人の頭を撫でてあげた。
すると、すぐに二人は満足そうな顔をした。
「本当、凄い場所ですね、ここを私が開発していく……」
エルシーさんは、地下市街の広さに圧倒されながらそんなことを呟いていた。
まあ、暗くて先が全然見えないから、余計に広く見えるというのもあるよね。
「そうですね。まずは、壊れた街灯たちを全て魔法具にして貰えませんか?」
「いいんですか? 全て魔法具なんてしたら凄く高くなりそうですが? それに、ここまで広い場所となりますと店にある在庫では全然足りないので、それだけで時間がかかってしまうと思うのですが?」
そのことも、ちゃんと考えていますよ。
「それなら、ここで魔法具職人を育てましょうよ。街灯くらいの魔法具なら一週間もあれば作れるようになりますよ」
「え? 流石に一週間は無理ですよ。私の店にいる新人さんだって、簡単な魔法具でも一人だけで作れるようになるのには、最低でも半年はかかりますよ」
「知っていますよ。でもそれは、一人だけだからでしょ?」
「一人だけだから? すみません、どういうことなのか説明して貰えますか?」
「えっと……魔法具の製造過程って、魔方陣を作って、それに魔石をいい感じに取り付けて、外側を作るというやり方じゃないですか?」
「はい。そうですね」
「これ、一つ一つが難しいんですよ。職人さんは、これを全て一人でやらないといけないんですよね?」
「そうですね」
「でも別に、分担して作ってもいいと思いませんか? それぞれの工程を分担して作るんです。そうすれば、覚える時間が短縮出来ますし、生産スピードが格段に上がるはずです」
別に三つと言わず、もっと細かく行程を分けてもいいかもね。
これの良いところは、職人に作って貰うよりも人件費が安くなるから安く作れるということなんだよね。
「た、確かに……。流石、レオくんですね。わかりました。帰ったら、さっそく手配します」
「はい、頼みました。まずは、この暗いのをどうにかしないと、何も始められませんからね」
街灯が出来てから、人をたくさん雇って本格的な開発の始まりだな。
「そうですね」
「それじゃあ、もうちょっと見て回ったら帰るか」
「レ、レオ様……」
俺が歩き始めると、凄く不安そうな顔をしたベルが話しかけてきた。
「うん? どうしたベル?」
もしかして、暗いところが苦手? 可愛いな。
「なんか……魔物の匂いがします。しかも、凄くたくさんの……」
うん? 何て言った?
「魔物がたくさん……魔物が……魔物!? ちょっと待って」
ようやく、状況が確認できた俺は、慌ててアンナを装着した。
「アンナ。このあたりに魔物がいる?」
(はい。いますね。魔界から召喚された強力な魔物たちが)
「魔界から召喚された魔物? うん? どこかで聞いたことがあるぞ……」
何だったかな……。凄く印象的だったんだけどな。
(覚えていますでしょうか? 前に闇市街で見つけた『魔の召喚石』という魔法アイテムを)
「あ! あった! 嘘でしょ? 壊れてなかったの? それに、どうやって作動したの?」
この前、確認に来た時は店ごと壊れていたのに?
どこかに運ばれていたのか?
(わかりません。誰かが作動させたのか……。それとも、誤動作なのか……。とにかく、急いで戦闘態勢に入ってください。レオ様たちの存在に気がついた魔物たちが近づいてきています!)
「もう来てるの!? 皆、めっちゃ強い魔物がこっちに向かって来ているから急いで固まって」
(転移している暇はありません! もう、すぐそこに来ています!)
そう言って、アンナが暗くて見えない魔物たちのシルエットをゴーグルに映してくれた。
うわ! 本当にたくさんの魔物がこっちに向かっている。
今、俺たちは緊張なんて微塵もしてなかったから、一人一人がそこそこ離れている。
確かに、全員俺の所に集まって、転移して、をやっている間に、魔物がここに到達してしまうだろうな。
「皆、急いで固まって! ルー! 出番だ! 見えた魔物は全部消しちゃって」
転移することを諦めた俺は、すぐに皆に指示を飛ばす。
まず、俺の許可がないと破壊魔法を使えないルーに許可を出す。
「え? 壊していいの? やったー!」
「もし俺たちが魔物を取りこぼした時はベル、よろしく。シェリーたちを守ってくれ!」
「ちょっと。私も戦うわ! もう、守られているのは嫌なの!」
「わかった。安全なところから魔法の援護を頼む」
そう言いながら、俺は上に向かって光り魔法を撃った。
すると……思っていた以上に見た目が凶悪な魔物たちに囲まれていることが目視することが出来てしまった。
これは……シェリーたちが動き始める前に使わなくて良かったな。
たぶん、これを見たらあまりの恐怖で動いてくれなかっただろうからね。
「ははは。こんな緊張感は久しぶりだな」
乾いた笑い声を出しながら、二本の剣を魔物の大群に向かって振った。