第十一話 次の計画②
師匠との二人だけのお話し合いを終え、俺はエルシーさんが待っている作業場に戻ってきた。
うん……。どんな顔をして入ればいいんだろう……。
「お、レオ! 久しぶり。元気にしていたか?」
エルシーさんにどう接すればいいのか悩んでいると、作業場に見たことがあるが微妙に違うような気がする人がいた。
「ん……コルトさん!? めっちゃ痩せましたね」
初めて会った頃は、あんなにブクブクだったのに……。
コルトさんの締まった腹に、思わず驚愕してしまった。
「ああ、真面目に働いているからな。レオも、新しく領地を貰って忙しいんだって?」
「そうなんですよ。領地を貰ってから毎日忙しくて」
「まあ、貴族の仕事はよくわからんが。あのミュルディーンなら、そこまで苦労はしなくて済みそうだな」
「そんなことないですよ。もう、やることだらけで……」
俺も最初は楽だと思っていたんだけどね。
「どうしたんだ? あそこって、もともと帝国が管理していたんだろ?」
「その役人が凄いレベルで汚職をしていたんですよ」
「汚職? その役人は何をしていたんだ?」
「基本的に横領ですね。それと……コルトさん、闇市街って知っていますか?」
「え、えっと……それは……」
俺に闇市街のことを聞かれ、コルトさんが急に歯切れ悪くなってしまった。
ん? もしかして……
「その様子だと、知っていたようですね。もし、会員証をまだ持っているならさっさと燃やした方がいいですよ。まあ、もしもですけど……」
もし何か関わっているなら、早く証拠を燃やした方がいいと思うな……。
知り合いが捕まるのは嫌だからね。
まあ、もしもの話なんだけど。
「あ、ああ……」
「その、闇市街ってなんだ?」
急に表情が暗くなってしまったコルトさんを余所に、師匠が質問してきた。
「ミュルディーン領の地下には、一つの街があるんですよ。凄いですよ。そこら中で違法な商品が売られているし、街を歩いているのは大体が犯罪者」
暗殺者とかね。
そういえば、違法な魔法具たちはどうなったんだろう?
ほとんどの店が壊れていたから大丈夫なはずなんだよな。
まあ、あとでルーと一緒に壊れた店を一つずつ壊していけばいいか。
「す、すげ……物語みたいだな」
「それで、その街はどうしたんですか? まさか、レオくん一人でどうにかしまったんですか?」
まさか、そんな危ないことはしていませんよね? みたいな目でエルシーさんが見てくる。
うん……この目、どこかで見たことがあるな。
あ、わかった! ベルが俺に魔の森に行かないように注意する時の目にそっくりなんだ。
俺はこの目に弱いんだよな……。
「違いますよ。流石に、俺はそこまで出来ないよ。危ない魔法具や薬がいっぱいあったからね。下手に刺激出来なかったんですよ」
「え? でも、俺は……てことは?」
流石コルトさん、鋭いね。
「うん……これから話すことは、超極秘なことですからね? このことは、皇帝と一部の人しか知らないことですから、誰にも話さないように」
「わ、わかりました……」
「ああ、心配するな」
「商人は口が硬いからね」
三人は、そう言ってすぐに頷いてくれた。
うん、この三人なら大丈夫だろう。
「本当に、お願いしますよ。実は……闇市街の奴隷商で違法奴隷を扱う店があったんですよ」
「違法奴隷?」
「はい。エルフや獣人みたいな珍しい種族を誘拐して売っていた店なんですけど……。そこに、魔族の奴隷がいたんですよ」
「え? 魔族!? どうやって?」
魔族と聞いて、エルシーさんが驚いた顔をした。
そりゃあそうだろう。たぶん、魔族が人間界に来るのは、魔王以来なんだろうからね。
ということは、一般人にルーの存在を知られたら魔王が現れたと勘違いをして、大混乱になってしまうだろう。
「上手く騙して連れてきたみたいなんだけど。余りにも危険すぎて飼いきれなくなっちゃったみたいなんだ」
「まあ、そうなるだろうな……。それで、逃げ出して暴れたのか?」
「まあ、大体そんな感じ。邪魔な俺に売りつける為に運んでいる時に逃げ出したんだ。そしたら、大暴れ。闇市街は魔族の女の子に壊滅状態にさせられてしまったんだ」
「それで……どうなったんですか?」
うん……負けた方が奴隷になるという勝負をしたってことは言わない方がいいよね。
師匠たちだけなら問題なかっただろうけど、エルシーさんには言ってはいけない気がする。うん。
「えっと……なんとか交渉して、飯と寝床を保証する代わりに今は大人しくして貰ってます」
う、嘘はついてないよね? 少し暴力的な交渉をしただけさ。
「うえ? お前、魔族の少女を家で飼っているのか?」
飼ってる?
「まあ、そうですね。まあ、今は俺の魔法アイテムで行動を縛っているので安全ですよ」
うちでゴロゴロしているルーを思い出しながら、確かにあれはペットみたいだな、と思わず笑いそうになってしまった。
「そ、そうか……。それで、どうして俺たちの所に来たんだ?」
お、やっと本題だな。
「実はですね。エルシーさんたち、ホラント商会に依頼なんですが……元闇市街だった地下空間を再開発するのを手伝って貰えませんか?」
「お、やっと俺たちの出番か!」
「い、いいんですか? レオくんの創造魔法があれば無駄にお金を使わないし、すぐに出来てしまいそうですが?」
嬉しそうにしている師匠の横から、申し訳なさそうな声が聞こえてきた。
「そうかもしれないですけど。街の開発は、なるべく創造魔法なしでやりたいんですよね」
「どうしてか聞いてもいいですか?」
うん……どう説明しようかな?
「そっちの方が街の為になるからですよ。これは、人の手でやるから意味がある」
「ど、どういうことだ?」
やっぱり、簡単に説明するのは難しいな。
「簡単ですよ。地下市街を開発するには、たくさんの人手が必要になる。そのおかげで、俺の街にいるホームレス……道ばたで寝ている人たちに仕事が与えられる。そして、その人たちが街で金を使うようになれば、街の景気も良くなる。どうですか? 絶対、こっちの方が良くないですか?」
これは、俺の街の最大の問題であるたくさんのホームレスに仕事を与えるための計画だ。
これが上手くいけば、孤児がいなくなり、憲兵が増えてきたから、街の治安が悪いのは解決されるだろう。
「そ、そうだな。お前……本当に子供か?」
「ハハハ。流石だな」
師匠は俺に疑いの目を向けつつ、コルトさんは笑いながら俺の頭を撫でてくれた。
「そうですね。流石、レオくんです。もう、考えることが凄すぎますよ」
エルシーさんからの視線が熱い……。
「あ、ありがとうございます」
「それで、地下市街はどのような建物を建てる予定なんですか?」
「そうだな……。あそこはレジャー施設にしようかな。地上に山ほど店があるから、わざわざ普通の店を並べても仕方ないですからね。それと、せっかくだからホラント商会にしか作れないものがいいと思いました」
得に、師匠にしか作れない魔法具だよな。
ふふふ、師匠にはこれからたくさん発明して貰うからね。
「それは面白そうだな。いいぞ。それで、お前のことだから何か案を考えてきたんだろ?」
「はい。それでですね……」
それから、俺は三人に地下市街の開発について、細かく説明した。
そして、三人から了承を得たので、この計画が始まることとなった。
今日は、漫画版の更新日です!