第四話 孤児院を造ります②
元違法奴隷の女性たちの前で、俺はベルに頼みたい事の説明をした。
「……という理由で、これからこの街で孤児院を造るんだけど。何が必要なのかわからないから、ベルに聞きながら造ろうと思って来たんだ」
「そういうことですか。それなら、喜んで手伝います。どのくらいの大きさの孤児院をつくるんですか?」
「ゴッツの家を改造して孤児院にしようと思っているんだ。あそこなら、たくさんの人が暮らすことができるでしょ?」
「そんなに大きな孤児院を造るんですか? そんなにたくさんの子供たちを、いったい誰が面倒をみるのですか?」
確かに大きいけど、この街の人口を考えると妥当な大きさだと思うよ?
「新しく造る孤児院では、元々ゴッツの屋敷で働いていたメイドたちに働いて貰うことにしたよ」
本当、メイドさんたちがすぐに快諾してくれて良かった。
新しく募集するとなると、時間がかかって大変だっただろうからね。
「そうなんですか、わかりました。それじゃあ、向かいましょうか。必要な物などは、あっちに行ってから色々と言っていきます」
「うん、ありがとう。皆も、ベルを連れ出しちゃってごめんね」
俺は、転移する前に皆に謝った。
ベルとリーナだけが皆の心の拠り所だから、ベルを連れて行ってしまうのは可愛そうだよな……。
あ、そうだ。行く前に、リーナに皆と一緒にいるように頼んでおくか。
「大丈夫です。そこまで心配して頂かなくても大丈夫です。それより、今話していた孤児院の話ですが……」
「ん? 孤児院がどうしたの?」
何か、彼女的に問題点とかがあったのかな?
「私も、そこで働かせて貰えないでしょうか?」
え? あ、そういうこと?
「だ、大丈夫なの? まあ、あそこは女の人しかいないし……そうだね。うん、思ったよりも働く環境としてはいいかも。わかった。働いてみなよ」
あそこなら、子供以外の男は入って来ないからな。
後で、門番も女の人に変えておこう。
「いいんですか!? ありがとうございます!」
「あ、あの……」
「わ、私たちも……」
アンヌさんが許可されたのを見て、他の人たちも申し出てきた。
「皆も? わかった。それじゃあ、これから皆で行くか。それじゃあ、どこでもいいから俺に触って」
まあ、メイドさんだけだったらどうせいつか子供が増えていったら人手不足になっていただろうから、二十人くらい増えても全然大丈夫だろう。
そんなことを思いながら、俺は皆と一緒に転移した。
「着いたよ」
転移して来たのは、元ゴッツの屋敷の広い庭だ。
「外だ~」
「久しぶりのお日様だ……」
「風が気持ちいいです」
これまでずっと、監禁されていて、解放されてからもカーテンを閉め切って部屋に籠っていたアンヌさんたちは、久しぶりの外にそれぞれ喜んでいた。
「皆、嬉しそうだね」
「はい。これまで、ビクビクしながら部屋に籠っていましたからね」
アンヌさんたちを見て、ベルも嬉しそうにしていた。
まあ、ベルはずっと彼女たちと一緒にいたから、俺以上に嬉しいだろうね。
「これまで辛かっただろうな……。これから、良くなるといいね」
「そうですね」
「それじゃあ、屋敷の改造を始めるか。屋敷を見て回りながら、必要な物があったら言って」
そろそろ改装を始めないと、今日中に孤児院が完成しそうにないから話をそっちに移した。
「わかりました」
ベルの返事と共に屋敷に向かって歩き出すと、アンヌさんたちが慌ててついて来た。
「ん? ここにいていいよ。終わったら、ここに戻ってくるから」
俺がそう言うと、アンヌさんは凄く悲しそうな顔をした。
「いえ、まだ私たちだけでいるのは不安なので……」
「あ、ごめん。そうだよね。それじゃあ、一緒に屋敷を見て回ろうか」
よく考えたら、そうだよね。
よく考えれば気がつけることなのに、俺は本当に馬鹿だな。
頭の中で反省をしながら屋敷に入ると、ここのメイド長が出てきた。
「あ、レオンス様。そちらの方々はどうしたのですか?」
「えっと……。まずこっちから説明しよう。この子は、俺の専属メイドで……他の子たちは、これからここで働いて貰う人たちだよ」
「そうですか、わかりました。私は、ここでメイド長をしているカミラと申します。これから、よろしくお願いします」
俺の説明を聞くと、メイド長はすぐにベルやアンナさんに向けて自己紹介をした。
「よろしくお願いします」
「よ、よろしくお願いします」
カミラさんの挨拶に、ベルとアンヌさんが答えた。
他の人は、まだ相手が女性でも初対面の人とは話すことが難しいみたいだ。
少しずつ、ここのメイドさんたちを相手に慣れていって貰おう。
「それじゃあ、ベルとこの屋敷を改造してくるよ。カミラさん、皆と一緒にいてくれる? それと、他のメイドたちもここに集めて」
「はい、わかりました」
「皆も、これから働く場所の仕事仲間なんだから、今のうちに仲良くなっておきな」
これからここで働くなら、カミラさんやここにいるメイドたちと仲良くならないとやっていけないからね。
「は、はい」
うん、大変だろうけど頑張れ!
「じゃあ、行ってくるよ」
メイドが集まって来たところで、俺とベルは屋敷の見回りを始めた。
「まずは、寝る場所の確保だと思うんだけど。どう?」
たくさんの子供達がここで生活するためには、それだけベッドの数が必要だよね。
「はい。この屋敷を目一杯使うのでしたら、たくさんのベッドが必要だと思います。それと、皆で食事をする食堂が必要だと思います」
確かに、皆で食べる場所が必要だな。
「そうだね。食堂は、パーティー会場があるから、そこを食堂に変えてしまおう。あと、メイドさんたちの部屋と金庫に繋がる部屋以外で使っていない部屋は、全部寝室にしちゃおうか」
この広い屋敷に住んでいたのはゴッツだけだったから、使っていなかった部屋が山ほどあったみたいだ。本当、税金の無駄遣いだよな。
「そうですね」
「他に、何か必要な物はある?」
「えっと……出来れば、でいいのですが……。勉強をしたり、本を読んだりする部屋が欲しいです」
あ、忘れてた! ベッドを造るだけじゃダメじゃん!
「そういえば、そうだね。学びが無いと、自立できないな。よし、本は帝都でたくさん買い占めて来るとして、勉強……を教える先生は、どうしようかな……」
これから、先生を募集するしかないかな?
「ここにいるメイドの中に一人は、教えられる人がいると思います。それに、アンヌさんたちなら、魔法や体術も教えられると思います」
「確かに、エルフなら魔法が得意だし、獣人なら体術が得意だもんな」
よく考えたら、エルフに魔法を子供の頃から教えて貰えるなんて凄い贅沢だよね
「はい。ここで戦い方を学べるだけでも、冒険者として生活していけると思います」
そうだよね。戦い方も知らないで冒険者になるよりも、格段に成功率、生存率が上がるだろうからな。
「確かにな。それに、強かったら、俺の騎士団に加えてもいいし」
将来、俺が造るかもしれない騎士団に加えようかな。
あとは、勉強を頑張って貰って、俺の文官になって貰うのもいいな。
よし、教育を充実させないとだな。
「いいですね。帰ったら、アンヌさんたちに聞いてみましょうか」
「うん、改造が終わったら聞いてみるか。よし、それじゃあ改造を始めるぞ!」
そんなことを言いながら、一つ目の部屋を覗いた。
「まずは一階からだな。この無駄に広い応接室は要らないから、ここは図書室にするか」
応接室にある机や椅子を材料にして、本棚をたくさん創造した。
これだけあれば、たくさん本を買って来たとしても大丈夫だな。
「次、厨房は……たくさんの料理を作らないといけないから、スルーでいいな」
元々大きいから、大丈夫だろう。
次の部屋は風呂だった。
「この風呂は……壊さないでおこう。お風呂は、身も心も癒してくれるからね」
お湯が出て来る魔法具のところだけ改造して、風呂場は後にした。
「その次、ここら辺は、メイドたちの部屋だな。ここは触らないで、先に進もう」
これまで暮らしてきた場所だから、変に変えるよりはこのままの方がいいだろう。
「で、メイド達の部屋の奥にあるのが、例の地下に行ける階段が隠されている部屋だね。ここは、俺やベル、リーナが泊まった時に使う部屋にしよう」
ここは、立ち入り禁止にしておいて、俺たちだけが入ることが出来る部屋にしておこう。
「よし、二階に行くぞ!」
二階に行くと、誰も使っていない部屋が並んでいた。
「まずは、無駄な部屋たちを寝室に変えていきま~す」
部屋の中に、二段ベッドを二つ創造して回って行く。
二段ベッドにしたのは、ちゃんと部屋で遊べるようにするためだ。
部屋がベッドだけで埋まっていたら、病院みたいだからね。
「そして、この凄く無駄なゴッツの部屋は、机とかを取っ払って自由に遊べるスペースにしよう」
部屋に置いてある高そうな机や椅子を材料にして、積み木や人形など、室内で遊べるようなおもちゃを創造した。
「最後に、ゴッツの無駄に広い寝室は……改造して教室にしてしまおう」
大きなベッドを材料に、机や椅子、黒板を創造した。
「ふう、終った。こんな感じでいいかな?」
全ての部屋の改造が終わった俺は、ずっと後ろで見ていたベルに確認した。
「はい。大丈夫だと思います。後は、必要に応じて変えていけばいいと思います」
「そうだね。それじゃあ、急いで皆のところに戻るか」
皆、玄関で待たせているからね。
「終わったよ。どう? 少しは仲良くなった?」
戻ってくると、アンヌさんたちは、ここのメイドたちと普通に会話をしていた。
うん、他の人たちもメイドさんたちと見た感じは仲良くなれているな。
「はい。大丈夫です」
「それは良かった。あ、一つだけ聞きたい事があるんだけど、この中で、子供たちに勉強を教えられる人はいない?」
「私、出来ます」
その声と共に、カミラさんを含む何人かのメイドたちが手をあげた。
「お、やった~。これから、子供たちに勉強を教えて貰ってもいい?」
「はい。わかりました」
やったー!! 本当、ゴッツのメイドたちが優秀で助かった~。
「よし。あとは、魔法を教えられる人はいない?」
「はい」
返事をしたアンヌさんと共に、三人のエルフが手を挙げた。
「良かった。これから四人には、子供に魔法を教えて貰ってもいい?」
「はい。大丈夫です」
「良かった。あとは……体術や剣術や弓の使い方を教えられる人はいない?」
『はい!』
これには、たくさんの人が手を挙げた。
皆、何かしら護身術を身につけているんだね。
まあ、この街の治安を考えたら不安だもんな。
「たくさんいて良かった。それじゃあ、頼んだよ」
『はい』
「よし。それじゃあ、改造が終わった部屋を説明していくから、皆ついて来て!」
それから、俺は皆に部屋を見せながら説明していった。