第十三話 闇市街に潜入します②
闇市街に出ると、人が多いことに驚いた。
こんなに人がいるの? てか、広いな!
市街と言われるだけあって、街と呼べるくらいには広かった。
地下の街だけど、街灯があるから夜の街って感じだ。
そんな街に、怪しげな店がびっしりと並んでいた。
薬屋を覗いてみれば……
《ヒュドラの血》
この世界で最もと言われるほど殺傷能力が高い毒
気化したものをほんの少し吸っただけで死んでしまう
《インキューバスの血》
この世界でサキューバスの血と並んで一番強い媚薬
女性に特効性があり、使用するには細心の注意が必要
《人魚の涙》
人魚が流した涙
嬉しい時と悲しい時に流した涙で効能が違う
嬉しい時は、飲めば全ての病気、怪我が治る
悲しい時は、飲めば即死
この涙は悲しい時に流しました。
どれも、地上で売っていたら即逮捕されてしまいそうな物ばかりだ。
というか、どれもどうやって手に入れたのか気になるんだが……。
とんでもない値段だから、そうとう大変だったのはわかるけど。
俺は、この薬たちが誰かの手に渡らないことを祈りながら薬屋を出た。
次に入った店は、魔法具屋だ。
地上だと売ることが出来ないような魔法具とは、いったいどんな物なのか気になったので入ってみることにした。
入ってみると、目立つところに三つの魔法具が飾られていた。
《狂化の剣》
これを装備した人は狂ったように目に入った物を全て斬り始めます
装備時のステータスは全て十倍
創造者:不明
《魔の召喚石》
魔界と空間を繋げて、強力な魔物を大量に召喚します
一回使うと壊れます
創造者:不明
《昏睡のオルゴール》
このオルゴールが奏でる音を聞けば、どんな人も寝てしまいます
一回音が始まったら半日は絶対に止まらないので注意してください
創造者:不明
鑑定してみると、どれも魔法アイテムだった。
ただ、どれも使われるとマズイものばかりだ。
店もそれをわかっているのか、値段がとんでもなく高い設定にされていた。
これを買える人、いない気がするな……貴族でも買えないぞ?
まあ、もしかすると売るつもりはない商品なのかもしれないけど。
そんなことを思いながら、俺は店を出た。
やっぱり、この街は危険だな……売っている物が危ない物が多すぎる。
この街を潰す前に、この危ない薬や魔法アイテムが地上に出回らないようにしないと……。
そんなことを考えながら歩いていると、大きな建物が見えてきた。
(アンナ、あれは何?)
(闇市街のオークション会場です。世界中の珍しい物が集められ、世界中の富豪たちがそれを狙って参加します)
(オークションもあるのか……。何が売られているの?)
(様々です。珍しい武器、薬、魔法アイテム、特に人気なのは奴隷みたいですが)
(なるほどね……。参加条件は?)
(会員証を持っていれば参加できます。顔は隠すのが規則です)
(なるほど。それじゃあ、俺も参加できそうだね)
まあ、参加したら共犯になってしまいそうだからやんないけど。
とりあえず、潜入してみるか。
オークション会場の入り口に近づくと、鎧を着た兵士二人が入り口を塞いでいた。
この二人に触らないで中に入るのは難しいな……。
そんなことを思っていると
「会員証を見せて貰っても?」
「え?」
俺が見えているの?
と、思ったら違かった。
「これで問題ないか?」
なかなか派手な仮面を着けた男の人が会員証を兵士に見せていた。
「はい。大丈夫です。それでは、どうぞ」
兵士は会員証を確認すると、男に返して道を開けた。
お、チャンスだ!
俺は、男に紛れて中に入ることに成功した。
中に入ると、既にオークションは始まっていた。
「百万ベクター!」
「百十万ベクターだ!」
「百二十万ベクター!」
「百三十万ベクター!」
ちょうど、二人の男が大きな声を出しながら、競っていた。
二人とも一歩も譲らず、十万刻みで勝負していた。
このままこの二人のどちらかが勝つのか?
と、思ったら……
「三百万ベクター!」
俺と一緒に入って来た男の人が一気に値段を引き上げた。
「「……」」
これには二人とも、黙ってしまった。
「はい、決まりました! 三百万ベクターで百五番さん!」
凄いな。1ベクターが約三十円だから、この男の人は九千万円を入ってすぐに使ってしまったのか。
どこの金持ちなんだろう……。
「続きましては、奴隷でございます。性別は女性。種族は人族、年齢は十六歳、名前はシエーラ・モーランド。名前でお気づきになった方もいると思いますが、アルバー王国の公爵家であるモーランド家のお嬢様です」
そう紹介されてステージに出て来たのは、凄く綺麗な女性だった。
『おお~』
会場がどよめいた。
「領地から王都に移動中に誘拐されたと聞いたが、あの噂は本当だったのか……」
「あの美人を手に入れられるなら、いくらでも出すぞ」
「くそ……。もっと金を残しておけば……」
会場は、大いに盛り上がっていた。
一方、オークションの商品としてステージに立たされているシエーラさんは、恐怖で震えていた。
助けてあげたいけど……ちょっと難しいな……。
転移を使えば出来ないことはないけど、逃走防止の鎖が足に巻かれているんだよな……。
あそこに転移して、鎖を切って、城まで転移するまでに顔が見られてしまう……。
というか、俺が転移を使えることは広まってるから、顔を隠しても俺だってバレてしまうな……。
仕方ない。とりあえず見守るか。
一旦諦め、彼女が誰に買われるのかを見届けることにした。
「それでは、二百万ベクターより開始いたします」
最初から六千万円か……それだけ、彼女には価値があるということか。
「三百万ベクター!」
「四百万!」
「五百万!」
「七百万だ!」
「千万でどうだ!」
「千二百万!」
「千四百万!」
「千五百万!」
・
・
・
・
「三千百万!」
『……』
白熱した戦いが続き、四十六番の男が勝ち取ったようだ。
もちろん、仮面をしているから誰なのかはわからない。
「はい、決まりました。三千百万ベクターで四十六番さんです」
約九億円……。公爵令嬢の値段としては安いのか……高いのか……。
「ちくしょう。ここまで高くなるとは」
「仕方ない。あの四十六は、モーランド家の当主自身だろう。お嬢さんを助けるなら、全財産を出すつもりだったはずだ」
え? そうだったの?
「ああ、それじゃあ仕方ないな。公爵家の全財産には流石に勝てるはずがない」
どうやら、シエーラさんは無事家に帰ることが出来るみたいだ。
うん、余計なことをしなくて良かった。
それにしても、仮面を着けていても誰かはわかる人にはわかるんだな。
仮面を着けているから大丈夫と思うのは、やめておいた方がいいな。
「それでは、今日最後の品となってしまいました。今日、この為に来た方も多いのではないでしょうか? 今日の目玉である幻の魔宝石の登場です」
進行役の紹介と共に……何やら見覚えのある物が運ばれて来た。
(あれ、俺が魔力を注いだ魔石だよね?)
(はい。あの魔石にはレオ様の魔力がこめられています)
(あれが今日の目玉?)
(はい。レオ様は知らないと思いますが、あれほど魔力が入った魔石は市場に出回ることはありません)
(そ、そうだったんだ……)
これから、もうちょっと大事に使わないとだな。
「大きさは普通の魔石ですが、輝き、魔力量が幻級と言われ、魔宝石と呼ばれる品です。普通なら、地上のオークションで出品されるはずでしたが、訳ありでこの会場に出品されることになりました」
訳あり? 俺の魔石のどこが訳ありなんだ?
「確か、盗難品だから、地上では出品できないって聞いたぞ」
「ああ、そうだ。地上だったら、とんでもない金額になっていたんじゃないか?」
俺が疑問に思っていると、さっきのおじさん達が教えてくれた。
なるほど、盗まれた物なのか。
(アンナ、いつ盗まれたかわかる?)
(いえ、あれはレオ様が素材屋で売った後に盗まれたみたいです)
(素材屋? あ、そういえば、小さい頃にミスリルを手に入れるために売ったな)
確か、白金貨十枚だったはず。
三千万円くらいか……もしかすると、本当はもっと高かったのかも……。
素材屋の親父、俺が子供だからって騙したな?
「ここもそんなに変わらないと思うぞ。お前、気がつかなかったか? 今日、この会場に女が多いことを」
「ああ、確かに。言われてみれば、女連れが多いな……」
俺が素材屋の親父のことを思い出していると、おじさん達からそんな会話が聞こえてきた。
確かに、言われてみればそんな気もするな……。
「あなた、あれを絶対に手に入れてくださいね?」
「ああ、わかった」
「ダーリン、私、あれ欲しいな~」
「ああ、任せておきなさい」
少し見渡しただけで、そんな声が聞こえてきた。
これはまた、白熱した戦いになりそうだ。
「それでは、五百万ベクターから開始いたします」
一億五千万円からか……。俺の魔石にそんな価値があるのか?
そんなことを思っていると、オークションが始まった。
「千万ベクター!」
「二千万!」
「三千万!」
「三千五百万!」
「四千万!」
「五千万!」
「六千万!」
隣に女性がいるからか、男たちはどんどん高い金額を言っていく。
これからどこまで上がるのかな……。
「一億!」
『……』
この会場にいる人全てが一億と発言した男に目を向けてしまった。
そして、誰も何も言うことはなかった。
「はい、決まりました。なんと、一億ベクターで十一番さんです」
三十億円……。数えられない程度には、あれと同程度の魔石が俺のリュックに入っているんだよな……。
絶対、三十億円の価値は無いと思う。
「くそ……。また王女の物になってしまったか……」
「ここ最近、宝石類は全て王女の部下が落札してしまうからな。この前もありえない金額で落札していたぞ」
また、おじさん達が情報提供してくれた。
そうか、十一番はアルバー王女の部下だったのか。
だから会場にいた人は、一億発言をした十一番を見て諦めたんだろうな。
国相手に戦っても勝てるはずがないからね。
あの国の王族は、強欲で有名だからな。
部下にいくらかかっても落札して来いとか言っていたんだろう。
「さて、終ったことだし、一旦帰るか」
情報はそこそこ収集できたし、あとはネズミにでも任せようかな。
俺はポケットに入れていたネズミ数匹を放してから、城に転移した。