第2章
「本日もお水を分けていただきます」
森に入る前に両手を合わせてお辞儀をする。これは森の主に対しての礼儀で、入る前には必ずすることと、一番最初に凛に言われていた。森の主とやらがどんなのかは知らないし見たこともないが、やらずにトラブルを起こすよりかは全然手間がないからな。
道なき道――といってもそれなりに歩き慣れているため、過去に自分が雑草を掻き分けてできた獣道(自分で作った道なのに獣道っていうのも変な表現だ)を進む。毎度のことながら、妖精たちが俺が森に入る度に木の位置を変えて迷わそうとする。しかし何故かこの獣道だけは消さない。俺に迷ってほしいのかそうでないのか……。ま、そのおかげで、こうして無事に水汲みすることができてるんだけど。
『魔女が来た』『魔女だ、魔女』『久しぶりに見たね、魔女』
「ん?」
ふと、そんな話し声が耳に入った。横を見れば、三匹の妖精たちがヒソヒソ話をしているではないか。いつもは聞き流しているが、今日だけは、その何度も出てきた聞き慣れない単語が頭の隅に引っかかり、ついつい口を出してしまった。
「魔女?」
突然の横やりに驚いた妖精たちが、ピューっと即座に飛び去っていったり、その場で姿を消したりしてしまう。あ、やっぱり逃げちゃったか。
『あのね、隣の山に住んでる魔女が、今この森の中にいるの』
今度は俺が驚かされる番だった。耳元で囁いた声は、逃げた妖精とは別の妖精だった。妖精って、人間に慣れてる奴とそうでない奴の差が激しいらしい。
「隣の山に住んでる魔女?」
『そうよ。たまにこっちを訪れるの。きっと私たちを捕らえて、新薬の実験体にするつもりなのね。嗚呼、恐ろしいわ。あなたも、手足を捥ぎ取られた挙句、薬漬けにされないようにせいぜい気をつけることね。フフフ』
「あ、おい!」
呼び止める間もなく、妖艶に微笑んだその妖精は、煙のように森の奥へと消えていってしまった。
「なんだよ一体……」
魔女、か。今の話だけなら嘘って可能性もあるけど、妖精同士の雑談も耳にしたから、まあ本当なんだろうな。妖精は総じて頭が弱く、言葉で人を欺くのは向いてないって凛も言ってたし。
にしてもどうするか。手足捥ぎ取られて薬漬けにされるっていうのはさすがに大げさだろうけど、魔女って単語にあまりいい印象は浮かんでこない。このままのこのこと水汲みに行って、魔女に遭遇するのも嫌だしなぁ。
……。
いや、むしろ怖気づいて帰ったあとの凛の方が怖いか。手ぶらで帰宅なんかしたら、どんな厭味ったらしく罵られるか分かったもんじゃない。
「ま、為るように為れだ」
森っつったって、一つの山を囲うくらいの広さだ。遭遇する確率なんて、消費税以下だろう。また遭遇したとしても、まさか出会って早々襲撃されるわけでもあるまい。
前向きな意見を自らに言い聞かせ、前回のコースを三分の二ほど歩いた所で、だんだん不安になってきた。
静か過ぎる。前来た時には、妖精の囁き声や鳥のさえずり、時には風で木々が揺れる音など例外なく聞こえていたはずなのに、今はそれらが一切無い。サクサクサク。自分の足が雑草を踏み分ける音のみ。
妙に緊張してきた。これほどまでに静かで、冷たく張り詰めた空気を体験したことはない。
しかし警戒心を高めたのも束の間、ようやく見慣れた泉へと到着した。
その泉に名は無い。大きさは直径百メートルほどの円形だが、自然のまま成長した樹が泉の中へと侵食していっているため、実際よりも小さく見える。水質はとても綺麗で澄んでいるのに、深さは分からない。何故なら泉の真ん中はぽっかりと穴が開いていて、底まで光が届いていないのだ。
故に、見える範囲では底無しと同等。泳ぐことはできても、足はつかない。
「……!」
泉の真ん中で水浴びをしている人の姿を発見し、俺は反射的に茂みの中へと身を潜めてしまった。木々の間から、様子を窺う。
(人……だよな?)
一糸纏わぬ姿の女性がそこにいた。
彼女の位置までは、五十メートルほど離れている。完全に目視できる距離ではあるが、女性はこちらに背中を向けているため、隠れたところは見られていないはずだ。
俺は木を陰にして、女性が靡かせる鮮やかな黒髪に魅入ってしまっていた。
(……)
女性の裸体を見て欲情とか、そんな矮小な感情が湧かない。あれは女神。そう、一種の芸術品と言ってしまってもいいだろう。大自然の真ん中に、女神が一人。澄みわたった泉で泳ぐその姿は、絵画という幻想に迷い込んでしまったかのような感覚だ。
ともあれ、その神秘的な光景を一番に演出しているのはやはり、俺に女神と称されるほど美しい肢体をしたその女性そのものだろう。見事としか言いようのない引き締まった身体に、大きすぎず小さすぎず、適度に発達した乳房。全体的に色白い肌と絡み合う、水滴によって輝くきめ細かい黒髪。どんな美しい背景であろうと、その女性の前ではエキストラのように霞んでしまうのは必須。
ゴクリと唾液を喉に落とすのと同時に、やっとこさ我に返った。そして自らが置かれた現状を冷静に思い返してみるが。
これって滅茶苦茶やばいだろ! まさか茂みから出て、何事もなく水を汲みに行くわけにはいくまい。だからといって今引き返すと音で気づかれる危険性もあるし、何のためにここまで来たと思ってるんだ。このままあの女性の水浴びが終わるまで待つか? けど、もしばれたら俺ってもしかして覗き犯? あぁ、駄目だ! 頭では否定していても、どうしても目が離せない!
混乱して焦る頭の中とは逆に、瞳だけは冷静のまま女性に釘付けとなっていた。
ほとんど瞬きもしないまま数分が過ぎて、ようやく水上の女神は水浴びを終わらせるつもりなのか、ゆっくりと泳いで岸まで歩む。彼女の荷物が、俺の目の前になくて本当によかった。こっちに向かってこられたら絶対に見つかっていた。
女性が行動を起こしたことにより、俺は万が一のためすぐに逃げ出せるように、反射的に一歩引いた。だがしかし、こちらに一瞥もくれないことから、間違いなく気取られてはいない。逃げ出すのは、あくまでも相手に見つかった時のみだ。そこ、少しでも長く美女の裸体を拝んでいたいのかエロ野郎などと罵らないでくれよ!
岸辺に置かれたバックからタオルを取り出し、身体を拭く。髪はある程度水分を拭ったくらいで、乾いていないまま下着を装着し始めた。女性の下着のことは全然詳しくはないのだけれど、下界で売っているようなデザインの下着を、黄金比の権化のようなあの女性が身につけている姿は、むしろ裸体よりも……エロい。
しかしそうはいっても、俺の要望どおりいつまでも下着姿のままではない。続いて取り出したのは妙に際どいデニムのホットパンツ、上は動きやすそうな真っ白のポロシャツへと姿を変える。そして仕上げにナイフを手に取ると、……ナイフ?
疑問符が浮かぶよりも先に、金属の先端が目の前に姿を現した。俺は一直線に飛んでくるナイフを反射的に避け……れるわけないだろ! 放たれたナイフは俺の頬を五ミリほど抉り、後方の木に刺さった音が聞こえた。驚きたまげた衝動で、その場にペタリとへたり込む。でも逆に避けられなくて良かったかもしれない。もし下手に動いていたら、ナイフの顔面直撃を食らっていた。
バックのファスナーを閉め終えた女性は、毅然とした態度でこちらへ向かってくる。やばい早く逃げないと……。あれ、身体が……。
「はん! あたしの裸を覗き見るなんてどんな度胸の持ち主かと思えば、なんだ、ただの餓鬼じゃねえか!」
あれれれ、見事に俺の想像していた性格とは正反対の口調で話されましたな、この人。もっと本物の女神のように御淑やかなのを期待してたんですけれども。
しかし間近で見た彼女の顔立ちと、先ほどの第一声から感じ取られる彼女の性格がより良くマッチしているなと、妙に納得してしまっている自分がいる。顔のパーツが美人を構成しているのではなく、美人が顔のパーツを構成しているその表情は、何者にも屈さないと誓ったような強みを感じられるからだ。
「あん? どっかで見たことある顔だな?」
「ひぇ?」
情けない声が喉の底から吹き出てきた。
そういえば、なんだか身体の様子がおかしい。手足だけでなく、全身に微量な電流が走っているかのように痺れて動けないのだ。さらに舌も回らず、口からは、ひゃ、ひゅ、ひぇ、以外の言葉が出ない。
「ああ、悪いな。実はさっき投げたナイフには痺れ薬が塗ってあってな。しばらくはそのままだ」
なんてことを飄々とおっしゃる。道理で頬の傷が痛まないわけだ。ぼたぼたと頬からシャツに血が滴り落ちてるのに、痛みはまったくない。
「んなことはどうでもいいよ。しっかしどこだったかなー。どっかでお前の顔を見たことがあるような気がするんだが」
などと呟きながら、俺の顔のわずか十センチほど手前でまじまじと覗き込んでくる。いやその距離は近すぎますから。照れますから。
しかしこの状況は一体なんなのだろう。意外にも覗いていたことのお咎めはなく、それでいて痺れ薬によって行動不能にされた挙句、なんかじっくりと観察されて……。
いやそれにしても恥ずかしすぎます。こんな美人なお姉さん(この顔、この身体で年下は有り得ない。二十歳前後かな?)にキス寸前まで顔を近づけられて。それにほら……まだ完全に乾かないままシャツを着たもんだから……透けてブラが丸見えになっているので……目のやり場に困るんですけど。
「なーんてな。嘘嘘。さっき会った顔を忘れるほど、あたしゃ耄碌してないよ。お前、凛のところにいた奴だろ?」
「ひゃっき?」
さっきっていつのことだ? この人は俺が凛の家に居候している身だということを知っているらしいが、俺からしてはてんでさっぱりだった。この女性のことなど、微塵にも知らない。こんな美人なら、一度すれ違っただけでも忘れないと思うんだけどなあ。
「おっと、名乗りが遅れたな。あたしは莱夢ってんだ。隣の山に住んでる。人によってはあたしのことをジョーカーやら『桃源郷の魔女』とか口汚く呼ぶこともあるが、ま、気軽に莱夢って呼んでくれ。よろしくな」
と、この莱夢という女性は、俺の動かない左手を取って無理矢理握手した。
っていうか、魔女って言ったかこの人! 隣の山に住んでるとも言ったし、間違いない、さっき妖精たちが噂していた魔女だ! まさか消費税以下の確率に遭遇するなんて。……消費税の存在って大きいなあ。
冗談はさておき、魔女と耳して、俺は全身の毛がよ立つほどに身震いした。逃げる手段も失く、身体の自由も奪われている今、凶悪な魔女を目の前にして絶体絶命。
「お前の名前はなんてんだ?」
いや、だからあなたのせいで喋れないんだってば。
「へー、桜井カズキってんのか。面白みも何もない名前だな」
「!」
「別に驚くことでもないだろ。お前が話せないのは知ってるから、勝手に読心させてもらっただけだ」
おいおい。読心術ってのは、相手の挙動を読み取って考えてることを当てるってことじゃないのか? そんなんで相手の名前なんか分かるわけないだろ。まさか本当に心を読んで……。魔女だから……?
「ぷ……」
すでに俺の前から顔を離して、煙草に火をつけていた莱夢さんは、突然表情を緩めて噴き出した。
「ぷはははは。悪ぃ、悪ぃ。お前があまりにも間抜け面してたもんで、ちょっとからかってみただけだよ。お前の名前は、さっき凛から聞いたんだ」
「ひん?」
だいぶ痺れが解けてきた。
この人、凛の知り合いってことは疑いの余地もなさそうだが、果たして俺はいつどこでこの人と対面したんだ? そして凛はいつどこでこの人に俺のことを話したんだ? あいつ、あまり家から出てないだろうに。
「面倒臭ぇから、てめぇが疑問に思ってることをいっぺんに教えてやるよ。お前の顔を見たのは、ほんの一時間前だ。あたしが凛の家に野菜を届けに行った時、縁側で休んでただろ。そんでその時、凛からお前の名前を聞いた。それだけのことだ」
「へ?」
唖然とする俺。辻褄は合っても人物が合いません。どこをどう思い返してみても、あれはよぼよぼの老婆であった。魔女という呼び名は伊達ではなく、もしかして老婆の姿に変身とかしてたとか?
「変身ねぇ。いい線いってるけど、全然違う。ありゃ特殊メイクだ」
「ファッ!?」
特殊メイク!? 顔はともかく、身長や骨格まで違うんですけど!
「まぁあたししかできないような方法の変装だからな。骨格いじるのも、時間かかるし結構痛いんだ」
顔を歪めた莱夢さんが、肩と首を回し始めた。
俺はというと、驚きというよりもむしろ諦めの方が大きかった。桃源郷という未知の世界には、そんなすごいことができる人もいるのかぁ(感嘆)。
しかし凛の知り合いか。あいつ、そんなことは一言も言ってなかったけど。いや、確か白蓮を埋葬する際、知り合いに手伝ってもらったとか言ってたっけ? たとえそれが莱夢さんのことだとして……野菜を届けるだけで、どうして変装する必要があるんだ?
「あぁ、凛はあの婆さんがあたしだってことを知らないんだよ。あの餓鬼、どうもあたしのことを嫌ってるようだから、この姿で持ってっても受け取らねーんだ。だから人の良さそうな老婆に化けてるわけ」
なるほど。あの気難しい性格の娘が、この莱夢って人のような上から目線の物言いの人と打ち解けあえるとは思えないもんな。
「ちなみに、あの老婆のモデルはトトロだ」
「でしょうね」
あ、だいぶ喋れるようになってきた。
「おう、ようやく話せるようになったか。じゃあ次は何もかも教えてあげた優しいお姉さんからの質問だ」
そう言って莱夢さんは、俺の前にヤンキー座りをしたかと思うと、おもむろに煙草の先端を俺の眼球の前に突きつけてきた。反射的に振り払おうとしたが、痺れる右手はほんの少し浮いただけで再び地面へと落ちた。目の前に火の点いた煙草を突きつける、この威嚇とも捉えられる行動。まるで、「あたしの質問に正直に答えなかったら、すぐにでも目を潰す」と言っているようで、俺は身を竦ませると同時に気を引き締めた。
「お前、どうやって凛の屋敷に到達した?」
蛇のような鋭い視線が俺を射る。答えるしかない。しかし簡潔に、言っていることが本当だと信じてもらえる程度に。
「えっと、祖父の遺言で本当は白蓮に弟子入りするはずだったんですけど……」
「それは凛から聞いた。ああいや、質問が悪かったな。どうやってあたしに気づかれず、あの家に入ることができたんだ?」
質問の意味が分からない。俺が凛の屋敷に入れば、確実にその情報が莱夢さんに伝わるってことなのか?
「その通りだよ。実はあたし、凛の屋敷の周りに結界を張っていてね。大きさはだいたいあの家を中心としてこの泉よりもうちょっと大きい円形なんだが、その境界を人間や妖怪その他諸々が通過すれば、あたしが察知できることになってるんだ。だから初めてお前を見たときにはビックリしたよ。なんせこのあたしが気づきもせずに、お前は当たり前のようにそこに居たんだからな」
もう一度煙草を咥え、莱夢さんはぐっと顔を近づける。
「で、どうやって入った?」
再び同じ質問。俺には莱夢さんが何を訊きたがっているのかを計りかねているため、少し長くなりますよと断ってから、俺が桃源郷へ来るに至った経緯、またその後の生活を事細かに話した。
最初は俺が嘘をつかないか見極めるためなのか、莱夢さんは真剣な顔で聴いていたが、すぐに納得いったと言わんばかりに頷いた。
「あぁなんだ。お前、甫劉の孫だったのか。どうりであたしの結界を軽々と越えてくるはずだ」
「甫劉の孫だと結界を抜けられるんですか?」
「ん、お前知らないのか?」
目的語が抜けている。桃源郷には俺の知らないことしかない。
「なら教えてやる。白蓮とお前の祖父、甫劉は、『桃源郷の三大仙人』といわれるほど実力者なんだよ。その一人である甫劉の通行手形をお前は持ってたんだ。もしその手形になんらかの力が掛けてあったのなら、あたしなんかの結界なんぞ簡単に素通りできるぜ」
聴いていて呆然というか驚愕というか。まさかあのボケたじいさんが、そんな強大な力を持っていたなんて……。言葉が出ないどころか、出す言葉も思いつかない。
「しかし……どういうことだ? 甫劉の孫がここにいるってことは……二年前に白蓮が死んだのも……。関係性はないのか? くそっ、あぁウゼぇ。何考えてんだ、あの糞餓鬼ども。今度顔見たらこのあたしが直々に天国を拝ませてやる」
「あのー、莱夢さん……?」
「あん?」
「ものすごく物騒な呟き声が聞こえたんですが……」
「なんでもねえよ。お前のじいさんが殺されたら、たぶん犯人はあたしってことだ」
なんでもなくねえじゃねえか! けど俺のじいさんはすでに老衰で死んでるからな。先に死んどいてよかったね、じいさん。
「そっか。よし、実はな、これから凛の家に行こうと思ってたところなんだよ。お前のことをもっと詳しく知りたくてな。だけどここで会っちまったわけだから、凛に顔を合わせずに済むな。先にちゃっちゃと仕事を片付けるか」
「仕事?」
「おうよ。せっかくだからお前も来い」
俺の腕をつかんで、強引に立たせようとする。一瞬だけビリッと全身に痺れが走ったが、すでに行動できるくらいには回復していた。ほら、脚が痺れて病人みたいにたどたどしい足取りで歩くくらいにはね。
「えっと……俺、凛に水汲みしろって言われてんですけど」
「かまわねぇよ。仕事っつったってお前に何かしてもらうわけじゃないし、三十分くらいで終わる。あたしが何してるか、お前に見といてほしいんだよ」
「でも……」
「うだうだ言うんじゃねぇ!」
怖ぇ。完全にチンピラだ。
しかしそれ以上強引に俺を引っ張ることはなく、裏に企みを秘めた笑みを浮かべた。
「来てくれるんだったら、下界に降りる方法を教えてやるよ」
「えっ……」
下界に降りる方法だって?
願ってもいないような話が、思わぬところで湧いて出た。
「ぜ、是非! 地の果て海の果て地獄の果てまでお供させてください!」
「現金な奴だな、お前。まぁいいや。あれだな、罪歌桃を食って下界に降りれなくなったんなら、それ以上食べなきゃいい。腹の中の罪歌桃を完全に出して、罪を洗い流せ。つまりクソして禊すりゃ終わりだ。二日くらいで帰れるようになる」
「なるほど。……ん?」
あれ。今言っちゃったよな、この人。
不意打ちを食らって呆けていると、突然莱夢さんが肩を組んできた。って、胸が頬に当たってますから!
「聞いたな。聞いちゃったよな、お前。じゃあ付いてくるしかないよなぁ」
「……行きますけども」
下界へ帰る方法を餌として目の前にぶら下げられちゃ、断る理由がない。けど、ちょっとやり方が汚いよなぁ。
妖精が話していた通り手足を捥がれることはなさそうだが、魔女に関わるとロクな目に遭わないのは確かだった。