攻略対象者は悪役令嬢に迫られている
呼び方が紛らわしいです。
悪役令嬢が婚約者を呼ぶとき →婚約者様
攻略対象者が悪役令嬢を呼ぶとき →婚約者殿
わかりずらくてすみません。
名前を決めてないわけではないです。わざとだよ?
柔らかい陽射しがおりてくる、麗らかな午後。
学園の中庭で、香り高いお茶を、我が婚約者殿とゆったりと楽しんでいた。
午前中の講義の感想、最近読んだ本の紹介など、とても有意義な時間だったのだが、数日後に来るらしい編入生の話題を出した途端、婚約者殿の表情に陰りが見えた。
一体、どうしたのだろう?
「婚約者様?1つお願いがございますの…」
胸の前で祈るように手を組み、かなり思い詰めたような表情で、話しかけてきた。
「…どうした?」
「私のお胸を育てるマッサージに協力して下さいませ!」
「…グッ…ゴホッ…ゴッゴホッ…」
お茶がむせた。
危うく吹き出すところだった。
なんだ、嬉し…けしからん願いは。
あ、バカ!制服の前ボタンを外すな!
俺以外も見てしまうだろう!
「お母様から、お胸を成長させるには、男性に優しくマッサージしてもらうのが、1番だとお聞きしました。ですから、お願いします!」
尚も、前ボタンを外しながら、目を潤ませ顔を寄せてきた。
なんだ?それは、誘ってるのか?
だが、ここは学園の中庭。
誘われても、受けることが出来ないぞ?
おい、後ろに控えている侍従や侍女!
笑ってないで主人を助けろや!
そして、侯爵夫人!娘になんてアドバイスしやがる。
でもナイスです、お義母様とお呼びする日は近いと思います。
「お兄様にも、お聞きしました。婚約者様は、やはり大きなお胸がお好きだと。お尻よりもお胸派だと。ですから、お願いです。私のお胸の成長にご協力を!」
「…あの野郎…あとで、覚えてろよ…」
婚約者殿に聞こえない位の小さな声で呟いた。
婚約者殿の兄は私の友である。よく、剣の稽古や魔法の稽古を一緒に行ったあと、少しエッチな話を、してたな…だって、男が集まると、大抵そんな話になるじゃん?しょうがないじゃん、男の子なんだもん。
だが、今は友に怒りを向けている場合ではない。
この場をどうするかだ。
頑張れ、俺の表情筋!
動揺を隠せ!
俺は氷の宰相の息子!
こんなところで、焦ったり、ましてや、婚約者殿の胸を見て、ニヤニヤしてたりしたら、ダメだ!
いつもの無表情の仮面をかぶるんだ。千の仮面カモン!
「…前を閉めなさい。場所を考えろ。淑女が肌を自ら晒してどうする。」
そっとボタンを閉めてやった。
次は、室内で、2人きりの時お願いします。
ふかふかのベッドがあると尚良いです。
と、心の中で呟きながら。
「…申し訳ありませんでした…でも…私…。」
ションボリしながら謝る婚約者殿。
眼が潤んでるし、ヤッベ、可愛いなおい。
「…何があったか、わからないが、俺はお前がどんな胸でもかまわないし、そんな事を気にしている婚約者殿を好ましく思ってるぞ?」
全てのボタンを閉め終わり、頬をするりと撫で、顔を覗き込んだが、それでも婚約者殿の表情は晴れない。
どうした?
「…今はそう言って頂けても、きっと、彼女が来たら…」
そう、薄く笑い、儚げな印象を残しながら、次の講義があるからと、中庭から去っていった。
彼女って、誰だ?
何が、婚約者殿を憂いさせている?
疑問ばかりが残っているが、まぁいい。
次は室内で2人きりのお茶会を開こうか…。
読んでいただきありがとうございました。
…ご期待に応えられているでしょうか…。