大学
大学は自宅から電車通学で1時間半くらいの県立大学薬学部に進学した。
学力的には医学部に合格できるレベルだったが、センター試験が苦手で、案の定得点が伸びず医学部受験は断念した。
社会人になって振り返ると、医学部に行かず薬学部で良かったと思う。
双極性障害とわかった今は、なおさらだ。
医師の方が個人性が高い職業だから、双極性障害で調子が悪いのでしばらく休みたいなど、無理だろう。
そう考えると、自分は運が良いと思う。
大学1年の前期は講義が少なく、実習もなかったので、読書に耽っていた気がする。
後期になると講義も増え、実習が週3回で入ってきて、忙しくなった。
電車の中で寝て、家に帰るとレポートに追われる、そんな毎日だった。
薬学部性の多いテニスサークルに入っていたが、少人数のこじんまりしたサークルで、先輩から可愛がられたが何となく距離を置いた。
人当たりは良いが、ある程度になると壁がある、そんな人間に見られていたと思う。
貴子自身も、あまり人付き合いが得意でなく、必要以上に人に近づきたくないと思っていた。
たぶん自分に自信がなかったんだと思う。
大学4年になって、研究室に配属になった。
周りは友達と一緒に入ったりしていたが、元々つるむのが苦手で我が強い貴子は、真っ先にとある研究室に名前を書いた。
3年生までの講義で、入りたい研究室は決めていた。
研究室に入ると、また新鮮な世界があった。
研究室は4年生が一番年下で、修士課程や博士課程の大学院生もいて、年長者の集団と感じた。
年長者らしく、年下の女子学生に下心なしに優しかった。
帰りが遅くなると普通に心配してくれ、駅まで車で送ってくれたりした。
最初は戸惑ったが、大人の心遣いだと知った。
多少色恋沙汰もあったが、それなりに穏やかに過ごしていたと思う。
貴子の家庭は、大学院まで行くのが当たり前という家庭で、ほとんど何も考えず大学院に進学した。
研究に熱意はなかったが、就職する気もなかった。
大学院も普通に過ごし、普通に卒業した。
研究職に進む気はなくなっていたので、近所の調剤薬局に就職することにした。