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☆2 センチメンタルな気持ち

 すぐに家に帰る気分になれなくて、目的もなくぶらぶらと繁華街を歩く。ビラ配りのお兄さんの声。カップルの甘いささやき。友達同士の中で沸き起こる黄色い笑い声。どの声も私にとっては雑音だった。でも、その雑音が不思議と心地よい。

 たぶん無音になった瞬間、私の心はセンチメンタルに染まり、涙してしまうのだろう。周りを歩いている人に変に思われないために、私はなんでもないふりをして歩いた。そしたら、意外となんでもないような気持ちになった。

 思えば、本当になんでもないことだったんだ。ただ、想いを伝えて、その想いが届かなかっただけなのだ。

 やがて日は暮れ、赤や青や黄色、様々なネオンがあたりを照らしだす。人ごみにすっかり酔ってしまった私は、すっと細い脇道に入って行った。そこは飲食店が並ぶ筋の裏側だった。餃子やラーメンなどいろんな食べ物の匂いが混じった煙が、換気扇からしゅるしゅると立ち上るばかりで、誰の姿も見当たらない。ネオンの明かりもなく、薄暗闇があたりを支配していた。

 一人になると急に心がぎゅんと痛くなった。その痛みに耐えきれず、私は泣いてしまった。そして、へんてこりんなメロディーに乗せて、でたらめな歌を口ずさんだ。

 

 ああ、どうして。どうして、白血球なの?

 白血球はずっとあなたのそばにはいてくれないよ。

 あなたを想い、一緒に泣いたり笑ったりしてくれないよ。

 病気の時、看病もしてくれない。

 手作り弁当も作ってくれない。

 好きでも、意味がないのに。

 絶対私のほうが優っているのに。

 ねえ、どうして……私じゃ、ダメなの? 



 中学生の時、私はアニメが好きな地味めの女の子だった。高校デビューしたくて、高校へ上がる前の春休み、思い切ってオシャレパーマを当てた。ファッション雑誌を購入し、オシャレの練習もした。

 その成果か、高校へ入ってすぐイケてる女の子たちのグループへ入れてもらえた。毎日キラキラしていて楽しかった。

 イケてる女の子たちの話題は、いつもかわいい小物とクラスのイケメンの男の子のことだった。ストラップやらポーチやらやたらとおそろいのものを持ちたがる。それもブランド物のいい奴だ。私は正直ブランド物には全く興味がなくて、そういったものに大枚をはたく彼女たちのことをだんだん理解できなくなっていた。

 それでもダサいと思われたくなくて、お年玉を叩いてはおそろいの小物を買った。本当はそのお金でマンガ本を買いたかったのに。

 初めのころは、我慢が出来た。しかし、時が経つにつれ、徐々に『無理をしてまで私はこのグループにいる必要があるのだろうか』と疑問を抱くようになっていた。

 そんな時、目に留まったのが後山君の存在だった。

白血球の写真を見てニヤニヤしている後山君は、私のグループの女子からは『マジ、キモイんですけど』とかなり嫌われていた。『ね、二木ちゃんもそう思うでしょ』同意を求められるたび、『ほんと、そうだね』と顔をしかめるふりをして返していた。

 クラスの皆から遠ざけられて、彼はいつも一人だ。どうして後山君はこんなにも堂々と白血球の本を見ているのだろう。〈細胞LOVER〉だってこと、隠していれば絶対にバレないのに。私には理解できなかった。

 が、見ているうちに彼をうらやましいと感じている自分がいることにも気が付いた。

 周囲の目を気にせず、あれだけ自分の好きなことにまっすぐでいられる彼は、きっと幸せなんだろうな。

 私も後山君のように、自然体で生きていきたい。

 彼を意識し始めた。そしたら知らない間にもう、私は恋に堕ちていたのだ。


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