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黄金の天子 ~我が皇帝に捧ぐ七つの残光~  作者: イブスキー
第三章 朧月
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第79話 時の穿孔 前編

 小雨に濡れる廃屋という名の箱は昨夜と同様、なんの気配もない。灰色に白を混ぜたような暗雲が、その背景画には相応しく感じられた。不気味に思うのはこちらが警戒しているためだろうか。しかし前庭の木々に絡みついたつるは変わらず、来る者を拒絶する。ただし一部フェンリルが焼き開けた箇所があり、そこから正面玄関が見えてはいた。

 雨雲を見上げていたユーリィは、フッと息を吐いて、錆びた鉄格子の向こうにある屋敷に視線を戻した。一瞬だけとはいえ、現実逃避は雨の中でするものではないなと思う。髪も服もじんわりと濡れ始め、少々肌寒くなってきた。

 鉄門は半分ほど開いている。昨夜きちんと閉じて帰らなかったのか、あとにから来ただれかが閉じなかったのかは分からない。たぶん後者だとユーリィは判断した。


「ブルーがいることは間違いなさそうだね、ヴォルフ」


 隣にいる狼魔の警戒レベルは最高値だ。蒼い体毛が荒れた波のように逆立っている。


「とにかく入ろう」


 門をくぐり、冬に枯れた雑草が伸び始めた庭を歩き、やがてつるが絡む木々に遮られる場所にまで到達した。

 玄関まではフェンリルが作った穴を通ればいい。昨夜よりは苦労せず行けるだろう。

 ただし__


「あいつ、なんにもしないよね?」


 フェンリルにその答えを求めたわけではないけれど、つい尋ねてしまった。

 正面には焼き切られた蔓の先端が、何本も垂れ下がっている。足元には黒く焦げた枝や葉が一面に落ちていた。

 加減はしただろうけれど、よくぞ延焼しなかったものだ。フェンリルがその気になれば、ちょっとした林なら数分で丸焦げにすることができるのだから。

 いや、そんなことはどうでもいい。

 問題はその焼けた蔓の狭間にいる物体について。乳白色で、ドロッとした感じのもの。なにが一番似ているか考えてみて、結論として鳥のふんだ気づき、ユーリィはウエッとなった。

 巨大な鳥が落としたようなそれは、穴の上、蔓木が絡み合っている部分で垂れ下がっている。その下を通るにはかなりの勇気が必要だった。


(あれは鳥の……じゃなくてシーツだ! そう、白いシーツ。風に飛ばされたシーツが引っかかってるだけだから!)


 そう自分に言い聞かせてみたものの、鳥の(ふん)だと一度思ってしまったら、それ以外どうにも見えなくなる。中心部分が若干灰色ぽいのも、それらしいではないか。


(やっぱりフェンリルに違う穴を開けてもらおうかな……。延焼したらしたで、先制攻撃っぽいかも)


 だけど、少しためらってしまった。

 もしもすぐに決断していたのなら、違った運命が待っていたのだろうか?


 急に雨が強まった。前髪から左目の睫毛へと水が滴り落ちる。瞳の中に入りそうで、ユーリィは前髪の水と一緒にそれを拭った。

 辺りを叩く雨音が激しくなり、それに混じってなにかが軋むような音がした。

 屋敷の扉が開かれたのだと分かった刹那、屋敷から現れた者たちに息を飲む。ひとりは黒いローブをまとったロジュだ。抱えているのは幼児らしい。

 そしてもうひとり。ロジュの隣に立っているのは背の高い黒髪のエルフ。両腕が不自然に背中へと回っている。


「ブルー!!」


 名前を呼ぶと同時に、雨音に混じって返事が戻ってくる。


「俺、捕まってるんです!」


 見れば分かる。


「行った方がいい?」

「来ちゃダメです!」

「分かった、行かない」

「前言撤回。やっぱりできるだけ助ける感じでお願いします!」

「早っ!」


 感じってどんなんだよと思わなくもなく。

 ブルーらしいと言えばブルーらしいが、あまりにも軽すぎる。むろん助けに来たのだし、こんな状況も想定していた。それに狙いは自分なのだから、フェンリルがいればなんとかなると思っていたユーリィであったが……。


(なんとか話を引き延ばして、打つ手がないか探すしかないか)


 ブルーの隣に立つロジュを見やる。彼が抱いている幼児は身動きすらしない。生きているのかさえ疑問であるが、死体を見せびらかすほどあのエルフは悪趣味ではなかったはずだ。


「ロジュ! お前が返事は夕方だと言ったはずなのに、これはちょっと卑怯じゃないか?」

「後先考えずに暴走する者がいると、昨日も申し上げました」

「だったら今すぐ二人を解放しろ」


 こういう時の常套句なので一応言ってみる。その要求が受け入れられるとはさすがに思ってはいなかったが、ロジュはすぐさま意外な行動にでた。

 抱いていた子どもの背中をトントンと軽く叩く。それが合図のように子どもはロジュの肩から顔を離すと、状況を確かめるように辺りを見回した。さらに下ろされると今度は、雨を確かめるように空を見上げる。そんな子どもにロジュは何ごとか囁いたようだ。小さくうなずいた子どもは、たどたどしい足取りで雨の中をユーリィの方へ向かって歩いてくる。フェンリルの開けた穴は通りやすくはなっているが、ところどころ蔦が残っているので、それを避けるのも苦労している。それでもなぜか両手はギュッと握りしめられていた。

 いっそ迎えに行こうかと一歩踏み出したユーリィだったが、隣にいる狼魔がそれを遮った。どうやらまだフェンリルの警戒は解かれていないらしい。

 ハラハラとしながら幼児の動きを見守り続ける。やがてドロベタの下まで来たが、魔物は大人しく蔓にぶら下がっていて、懸念することはなにも起こらなかった。

 雨の中びしょ濡れになりながら、森閑としたこんな場所で、しかも二体の魔物も目の前にいて、幼児は平然としたものだ。幼すぎて状況が分かっていないのか、恐怖のあまり感情が消えているのかどちらだろうと、ユーリィは小首を傾げて近づいてくる子どもを見下ろした。

 フェンリルの前まで来て子どもはいったん立ち止まる。しかし臆することなく、巨大な狼の前を歩いて、ユーリィのそばまで来ようとした。

 すると、フェンリルが鼻先で子どもの体を強く押した。


「ちょ、フェンリル!?」


 幼子の体は濡れた地面へと仰向けに倒れ込む。瞬間、片手からなにかが転げ落ち、それと同時に子どもは火がついたように泣き叫んだ。まるで消えていた感情が蘇ったように。

 雑草の間に転がったそれは、小石ほどの赤い水晶だった。


「これって“惑わしの石”……?」


 昔ソフィニアの闇市で売っていた怪しい一品。名前のごとく人を惑わすというのが、即効性があるわけではなく、握っているとジワジワと効いてくるという代物だ。だが、よほど理由をがなければあんな物をずっと握っている奴などいるわけがないと、一度も買ったことがなかった。しかし幼子なら、“宝物”とでも言えば信じて握りしめているだろう。

 なるほど、そういう使い方もあるのかとユーリィは感心した。ただし子どもを惑わす事情があればの話だが。

 子どもは手足をばたつかせ、まだ泣き叫んでいる。その声に混じって雷の音が聞こえた。稲光はまだない。けれど嵐の気配に、草木がざわついていた。


「大丈夫か?」


 そう言って、子どもを助け起こそうとユーリィは半歩前に出る。刹那、襟首をつかまれた感覚で後ろに引っ張られた。

 気づけば首元にだれかの手が回っている。その手に握られたナイフのせいで振り替えれなかったが、黒いローブの袖がだれなのか想像はついた。

 相手の息が襟足にかかっている。背は自分より低いようだ。


「大人しくしてないと刺すよ」


 声変わりのない少年の声。紛れもなくブルーたちを連れ去ったククリだろう。

 子どもの泣き声がますます激しくなる。加えて、そばにいるフェンリルが怒気を発して吠え始めた。雨足がふたたび強くなっている。まるで世界の終わりが来たような喧噪だ。うるさいなぁとユーリィは正直思った。


「お前を見損なったよ、本当に!」


 ロジュはまだ玄関先で立っている。その元守護者へと蔑みの言葉を投げてみたが、周りの音にかき消されて伝わらなかっただろう。

 彼の隣にはブルーの姿が消えていた。


(そういえば、ブルーの様子もなんか変だったけど……。あっ、しまった!)


 素早く視線を動かすと、長身のエルフはドロベタがいる場所からやや右手に立っている。そのドロベタはさっきまでシーツのような形状だったはずなのに、縄のように細く形を変えていた。


「待て!」

「行け!」


 ユーリィの声と重なって、ブルーが命令を下す。次の瞬間、乳白色の縄は強風に煽られたがごとく、こちらに向かって飛んできた。


「フェンリル!」


 止める隙などなかった。

 それほどの速度で、縄は吠える狼魔の口へと進入したのだ。

 フェンリルは口を閉じようとしたがもう遅い。見る間に狼魔の体内に吸い込まれる寄生獣に、ユーリィはただ呆然とした。


「いったい……」


 まさか操ろうというのか。

 狼魔は火を何度も吐き出して苦しんでいる。内なるモノを吐き出そうとしているのかもしれない。そばにいた子どもが泣き叫びながら、慌てて逃げていった。


「ヴォルフ!」

「心配なされなくても大丈夫ですよ、ユーリィ様」


 その声にハッとして、ユーリィはフェンリルの向こうを見やる。いつの間にかロジュがブルーに並んで立っていた。


「どういう意味だ、ロジュ!?」

「ポノバチとフェンリルでは力の差がありすぎますから、長時間の寄生は無理でしょう」


 それがドロベタの正式な名称らしい。


「だったら、なんでこんなことを?」

「彼を取り戻したいのですよ、過去から」

「まさか……」


 フェンリル、その昔はゲオニクスと呼ばれていた狼魔には、時を操る力があるという。実際にユーリィが以前会ったフェンリルは未来からやって来て、劣悪な環境にいた自分を支えてくれて、ヴォルフとの出会いも導いてくれた。

 あの中にヴォルフの魂が宿っていたのか、今となっては分からない。分かるのはこんな運命でも良いのだとフェンリルが思っていたことだ。

 だけどアイツを過去から連れてきたら、ふたたび運命が狂ってしまう。


「ふざけんな。そんなことをすればどうなるか分かってるのか?」

「ええ、あの悲劇は起こらなかったかもしれない」

「もっと悲惨な現実が待っているかもしれないだろ」

「私には、貴方が彼とのことが消えることを恐れているようにしか思えませんね」


 一瞬ユーリィは返事をためらった。

 その通りなのかもしれない。

 けれど運命に翻弄され続けても、過去をやり直したいとは思わない。哀しみに満ちた時の中にも甘い時間は確かにあり、あれ以上のものを求めるほど自分は強欲ではないと。

 それにヴォルフは必ず自分の元へ戻ってくる。

 そう信じていた。


「お前だって、アイツを取り戻したいのは、見捨てた息子とやり直したいからだろ?」


 彼はロジュと実の妹の間に産まれた不義の子だった。その事実から逃れるため、ロジュはククリの一族から離れて、イワノフ家の守護として働いていた。

 しかしエルフの世界を作るという息子の野望を知った時、ロジュは息子と運命をともにする道を選んだ。まるでそれまでの罪滅ぼしをするかのように。その野望が、以前自分が抱いていたものなのだと言い訳をして。

 だがロジュは小さく首を振り、ユーリィの言葉を否定した。


「だっったら、なんで……」

「彼の力が欲しいんだよ。性格はともかく、彼以上の力を持ったククリは、いや、エルフはこの世に存在しないから」


 背後にいるククリがロジュの代わりに返事をした。


「制御不可能な力など、自分達の身も滅ぼすぞ」

「その前にあんたに滅ぼされそうだけどね」

「こうなったのは自業自得だろ」

「ククリは馴れ合いなんて求めていない」


 平行線な話をこんな場面で続けてもしかたがないとユーリィは諦め、火を吐いていたフェンリルを見やる。先ほどと同じく怒気は全身から拭き抱いているものの、体が言うことを聞かないらしく、狼魔は荒い息を繰り返していた。


「ブルー、目を覚ませ。ドロベタをフェンリルの体から出せ!」

「デロデロちゃんは寄生獣なんで、やっぱ寄生していた方が落ち着くんですよ、侯爵」

「デロデロちゃんって……」


 ポノバチよりもドロベタよりもヒドイ命名だ。

 いや、そんなことはどうでもいい。とにかく早くどうにかしなければ、本当に奴が復活してしまうかもしれない。

 そんなユーリィの心を読んだかのように、ロジュが冷たく告げた。


「そう、時間がありません。さあ、フェンリルに“時の穿孔(せんこう)”を」

「へいへい」

「止めろ、ブルー!」


 操られている彼が、そんな言葉で理性と取り戻すはずもなく。


(そうだ、レネ)


 首にナイフは押しつけられているが、幸い両手は拘束されていない。多少の傷を覚悟すればあるいは……。

 右手を気づかれないようにそっと腰に持っていく。

 指先が剣の柄に触れ、風の精霊に命令を下そうとしたその時だった。


「動くな。変なことをしたら遠慮なく殺せと言われてるんだよ」


 雨よりも冷たいナイフの剣先が皮膚に食い込んだ。


「僕がどうなろうと……」

「貴方がいなくなったら、その狼魔はこの世を救うなんてしないでしょう、ユーリィ様」


 剣の柄に触れていた指が自然と離れていく。

 確かにヴォルフなら、間違いなくこの世界に復讐を誓うだろう。彼が狂うほどに自分を愛してくれていることをユーリィは知っていた。

 どうしたらいいかわからず、狼魔の様子をただ見つめる。ブルーグレーの巨体は濡れそぼっている。長い尾がいつもより細くなっていた。


「ヴォルフ、戻ってこいよ」


 今、もしも人間へと変化できれば、魔物にだけ寄生するというドロベタも体内から出ていくかもしれない。ほんの僅かな可能性を信じて、そう呟いていてみる。

 しかしフェンリルは本当に体が動かないようで、こちらに向かって右前肢を動かしただけで止まってしまった。意識すら朦朧としているらしい。色違いの瞳の中に常にあった光が、どこか混濁しているように見えた。

 ブルーの声が聞こえてくる。唱えるは古代語の呪文。いくつかの単語の中に“時間”という言葉が混じっていた。

 雷鳴が雨空に轟く。フェンリルの体がその稲光と同じ色で光り始めた。あれは時空を開こうとしている前兆。


「へぇ、寄生獣って凄いんだな。狼魔の奴、自分のしている意味が分かってないらしいや」

「うるさい、黙れ!!」


 背後でヘラヘラと笑うククリに苛つきが抑えきれない。やはり無茶をしてでも逃れるべきなのか。相手は自分より背の低い非力なエルフ。やってできないことはないかもしれない。

 けれど__

 勢いに任せて行動を起こす恐怖が、急にユーリィの胸をついた。

 虚勢を張ったところで、ここにいるのは所詮着飾るしか能がない人形。後先考えずに行動をして、常に新たな不幸を呼び起こしてきた過去が、決意を鈍らせる。

 そうしている間にも、フェンリルの光はますます強くなって、今にもなにかが起こりそうな気配になった。


(やっぱり一か八か、やってみないと)


 まずは背後のククリを撃退し、ブルーのところまで行って、彼の目を覚ましてフェンリルの体内からベタドロを引きずり出してもらう。

 しかし首元のナイフが離れる様子はない。少しでも動けば致命傷を負いそうだった。

 その時だ。

 フェンリルの体を包んでいた青白い光が弾かれるように大きく広がった。同時にすぐ近くで稲光がして、間髪入れずに雷鳴が轟いた。


「あっ!!」


 叫んだのはユーリィではない。

 フェンリルの青い光が一筋の線となって上空に昇っていく。雲間から稲妻が一閃し、その光を混じり合い、そのまま弧を描くように屋敷の屋根に襲いかかった。

 一瞬の沈黙。

 屋敷に落ちたのが雷なのか、魔力なのか分からぬまま、一同は唖然して見守った。

 そして__


 なにも起こらなかった。

 火がつくわけでもなく、屋根が崩れるわけでもなく、屋敷は古びた外観を保っている。ただ先ほどと違うのは、その輪郭がどこかぼやけているように見えることだ。激しくなった雨のせいなのだろうか。


「……なるほど、屋敷の中に……」


 雨音に混じってロジュのそんな言葉が聞こえてきた。


(つまり屋敷に時の穴を?)


 驚いてフェンリルの方を見る。

 魔物は力尽きたかのように後ろ肢を折って、犬のように座っていた。


「凄い……」


 背後からククリの声が再度聞こえてくる。そっと見下ろすと、首からナイフが少しだけ離れていた。

 チャンスは今しかない。

 ユーリィはククリの手首に思い切り噛みついた。


「痛っ!」


 叫びつつも手首を返してナイフを刺そうとする相手めがけ、後頭部を打ちつける。

 痛みが攻撃の成功を知らせてくれた。

 ひるんだ相手の手をさらに押し、拘束者から逃れようと試みる。鎖骨の辺りに鋭い痛みが走った。

 それでもなんとか逃れると、腰から短剣を抜いて振り向いた。

 相手はナイフを捨てて魔法を使おうと、片手を前に突き出している。少年にしか見えないその相手へと剣を振れば、レネが素早く反応し、ローブの袖口を切り裂いてくれた。

 だが今は戦っている余裕はない。一撃の牽制をしたのち、ユーリィはブルーの方へ突進した。

 距離はわずか十数歩。それなのに遠く感じるのは、ブルーの隣にいるロジュがこちらに攻撃を仕掛けようと身構えてるのが分かったからだ。


(間に合うか!?)


 すると踏みしめた地面のすぐ横の土が、はじけ飛んだ。背後からの攻撃だ。あの程度の牽制では数秒も保たなかったらしい。

 次は確実に狙われる。その前に後ろの相手をやるべきか。しかしロジュにはやられるだろう。


(くそっ!)


 ダメだったのか。

 無茶をすれば必ず間違いが起こるといういつものごとく__


「うぁぁあああ!」


 断末魔とも言える叫びに驚いて、ユーリィはふたたび首を巡らせ顧みた。

 ククリが目を大きく見開き、天を仰いでいる。苦痛に歪んだ幼い顔は、ほぼ死人のそれだった。

 雷光と迅雷が同時に起こった時、少年の体は前へと倒れていった。

 その背中には太い矢が刺さっている。

 鉄格子の向こうには、馬に乗った男が弓を構えてこちらを睨んでいた。


「侯爵、前!!」


 言われて正面へと顔を戻すと、ロジュが魔法を発動する直前だった。すぐさま歩みを止めて、ユーリィは応戦しようと剣を構える。

 だがレネに命令するより先に、一本の矢がロジュの方へと飛んでいった。

 残念ながら避けられて命中には至らなかったが、代わりにユーリィへの攻撃も至らず。


「雷の中で剣や矢を手にするのは大馬鹿ですから、貴方も自分も!」


 振り返れば、雨の中を走る男の姿。その片手が握る大剣の先は、地面を差していた。

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