第15話 馬車の中の密談戦
「お伺いしたいことがあるのですが、ライネスク侯爵」
真向かいに座るジョルバンニが、それまでの沈黙を破って口を開いた。ユーリィが馬車の窓枠にひじをかけ、見るとはなしに外を眺めていた時だ。
景色はずっと麻と木綿の畑が続いていて、ところどころ刈り取られたり摘み取られたりしてあるが、大半は手つかずである。それだけ人手が足りていないのだろう。
早急に、イワノフ領における各種農作物の生産高を調べる必要がある。今までは自分とは関係ないことだと興味すら湧かなかったが、今日からは違う。領地の管理を一から勉強し、任せられる人材を確保しなければならない。父の時代にいた者たちは、当てになどできなかった。
馬車は順調に進んでいるようだ。ヴォルフも今頃のんびりと景色を眺めていることだろう。彼の軍服姿は好きなので、できれば馬を並べて走りたい。それなのに、今はその位置にあのヘルマンがいた。
(ヴォルフの奴、余計なことを言ってないだろうな?)
忘れたい過去をわざわざ披露して、同情を買ってまで友人が欲しいわけじゃない。それに、あの書類にサインをした時から、身分違いの相手とは親しくなれないと悟っていた。
「侯爵?」
聞いてないと思ったのか、ジョルバンニがふたたび問う。
「聞いてるよ。質問があるんだろ?」
「本当にソフィニアにお戻りにならなくてよろしいのですね?」
「反対ってこと?」
「いえ、侯爵がイワノフ城へ向かわれることに、私はどうこう言える立場ではありません。ただイワノフ公がおっしゃっていたこと、つまりアーリング士爵が裏切ることへのご懸念はございませんか?」
「ああ、それ」
窓の外から視線を離し、ユーリィは前に座る男を凝視した。
彼がどういうつもりで尋ねたのか、その表情からは読み取れない。そもそも他人の気持ちを理解するには、自分は経験不足だと分かっている。ましてや相手はこの男。珍しい一重まぶたのせいか、常に機嫌が悪いという印象しか受けなかった。
分からないことを考えても仕方がないと、正直に答えることにした。
「アーリングが自分でソフィニアをどうにかしたいって思うなら、そうすればいい。僕が望んでいるのは、支配ではなくて平和なんだし。アーリングにだって十分にそれができる」
「だから事が終わるまで待つと?」
「まるで僕が卑怯者みたいじゃないか」
内心そう感じていたので、少々言葉が荒くなる。父親に似たとは思いたくないが、自分でも嫌になるほど器が小さい。どんな場面でも冷静さを保てる度量は、いつか手に入るのだろうか。
子供っぽい反撃をさぞ不快に思ったろうと、ユーリィは相手を探り見た。
「卑怯だなんて思っていませんよ、侯爵」
穏やかなジョルバンニの口調で、余計に傷ついた。
「あ、いや、別に怒ったわけじゃないから……」
「ええ、分かっています」
「ええっと、ソフィニアに行かないのは、アーリングが動いている時に僕がノコノコ出ていったら、あいつだってやりにくいかなぁって。どうするつもりなのか、遠くで見守りたいっていうのもある。動向によっては、イワノフのすべてを差し出す覚悟はあるしね」
実のところ、面倒臭そうな状況なので出ていきたくないというのが本心だ。まるで自分がギルドを潰そうとしていると思われるのも嫌だった。ギルドのいざこざはギルドで解決するのが本筋ではないかと、そう思った。
「なるほど」
何を納得したから知らないが、ジョルバンニは小さく頷いた。
それにしても、解せないことばかりだ。父親のくだらない打ち明け話は別として、ヴォルフの態度にも納得いかない。彼はジョルバンニに対して、不信感を出しているようには見えなかった。この眼鏡男の文句を言っても黙って聞いているだけ。時には同調するようなことまで言い出すので驚いてしまう。まさかヴォルフもグルなのかと、ユーリィは少々心配になってきた。
しかし性格から考えれば、意気投合できるようなふたりにはとても思えない。直情的なヴォルフに対して、目の前の男は対極の位置にいるのは間違いなさそうだ。
「ですが、彼の支配を民衆が納得するでしょうか?」
「アーリングは英雄とまで言われている戦士なんだぜ? それに、民衆なんて結局自分たちに都合が良ければなんでもいいと思うけどね」
「よくご存じで。ではラシアールは?」
「ラシアールは……」
眼鏡の奥にある瞳にあるものを探そうとしたが、やはり無理だった。
やっぱり諦めて、抱えている疑心を素直に尋ねるしかないらしい。
「ジョルバンニ、お前はあの長老とつながってない?」
「つながる? それはどういう意味でしょう」
「僕がお前の立場なら、ラシアールを放置しておくわけがないと思っただけ。長老のシュランプを上手いこと言い包められれば、アーリングが暴走しても、ギルド連中が抵抗しても、そして民衆が刃向かっても、何とかなりそうな感じがするだろ?」
「すると私にそれほどの器量があるとお思いなのですね、それは嬉しい限りです」
「そういうのはいいからさ、あるかないか返事しろよ」
またはぐらかされそうになったので、必死にしがみつく。少しでもジョルバンニの本音を聞き出すチャンスのような気がしていた。
「分かりました、では正直にお答えしましょう。シュランプ老とは会談いたしました」
「やっぱりね」
「もちろん侯爵を陥れたり、陰謀を企んだりしたわけではありませんが。ラシアール族の立場をはっきりさせたいと思ったのです」
「どういう意味?」
「彼らが何を望んで協力しているのか、少々探りを入れてみました。結論で言えば、それほどはっきりとした希望を持っているように見受けられませんでしたが、従うなら侯爵にという意思だけはあるようです。もちろん私見ですが」
自分より読心術に長けてそうだから、ジョルバンニがそう言うのならそうなのかなとユーリィは考えた。反面、ここまで力を貸してくれるラシアールに何もしないのも申し訳ないと感じてしまう。
「あのさ、落ち着いたらでいいんだけど、エルフ族についてはその地位も含めて考えた方がいいんじゃないかな。ラシアールはもちろんだけど、そのほかの種族や、捕まえたククリについても……」
「ラシアールは昔から人間との関係が良好で、人間社会にいることに強い反発があったわけではないので問題はないと思います。しかしククリやジーマ、サルバンウ族などは、エルフ同士であってもかなり排他的ですので、その辺りは色々難しいのではないでしょうか」
「まあね」
エルフ種はもともと繁殖力が弱いので、その人数は年々減少しているらしい。数千年前はこの大陸を支配していた彼らだが、現在では大陸全土で五万人もいないだろう。ソフィニア地方だけならせいぜい一,二万程度だ。
しかし少ないから軽視していいというわけではない。彼らが魔法を使えるということも、無視はできなかった。
「ジョルバンニは、前に僕が話した魔法部隊についてはどう思う?」
「悪くはないとは思います。今回のことも、ラシアールや侯爵の使い魔らがいなければ、到底勝てませんでしたから。ただ昔からソフィニア人は魔法に関しては、やや及び腰なので、どうなのでしょう」
「昔からって言うわけでもなかったんじゃない? 二〇〇年ぐらい前に一度、ギルド軍に魔法部隊を作ろうって話も持ち上がってるし。でもエルフにソフィニアを乗っ取られるって意見があって、エルフからは戦争に利用されるって抵抗されて、うやむやになったから。その頃の伝記にそんな話が書いてあったけど……。あれ? 知らない?」
「いえ、存じ上げませんでした」
有名な話だと思っていたのに、ジョルバンニが知らないことに少し驚いた。
「眼鏡をしてるから、本をいっぱい読んでるんだと思ってた」
「これは生まれつき弱視だからですよ」
「あ、そうなんだ、ごめん……」
生まれつきのことを言われて気に障ったかもしれない。だから素直に謝ったのに、ジョルバンニの反応は眼鏡を何度か押し上げただけだった。
「お気になさらずに。それよりも、魔法部隊の話をもう少し詳しく教えてください」
「うーん、でもそれ以上は何もないよ。ただ裏でイワノフが絡んでいたんじゃないかっていう憶測はできる。ちょうどその頃からイワノフの当主がギルド乗っ取りを開始しているんだ」
「ほう、どんなふうに?」
「政略結婚さ。娘をセシャール国へ嫁に出したんだよ。“セルギアの婚姻”って聞いたことない? ギルド革命の時に戦ったセシャールとソフィニアギルドの関係が、あの結婚によって修復したんだよ」
「ああ、それなら存じていますよ、有名ですから。エレオーラ王妃のことですよね?」
ユーリィは“うん”と小さく頷いた。
フェンロンにおけるマインバーグ提督のギルド革命は、数年後このソフィニア地方へと飛び火した。それまでこの地方には二つの王国があり、どちらの国も王族の放漫な治世と、奢侈に没頭した浪費ぶりに、民衆は苦しめられていた。
そんな中起こったフェンロンの革命は、民衆たちと一部の貴族たちの不満に火を点けた。同時多発的に反乱が発生し、やがて一つになった反乱軍は、両国の王族とその臣下を処刑した。さらに協力した貴族とギルドが手を結ぶ形で現在に至っている。
しかしその革命に一番反発したのが、隣国のセシャールだった。セシャール王家はこの地方の王族から分かれた家系であった上に、自国への飛び火をおおいに恐れた。それにより勃発したのが、ソフィニアギルド軍とセシャール軍の戦争である。ヴォルフの先祖が活躍したのもその戦いだ。
「セシャールの王子と、イワノフのエレオノーラ嬢が出会った場所がセルギア城だから、その名がついたんだ。今はフォーエンベルガー領にある小さな城らしいよ。そこで秘密の舞踏会が開かれてね。王宮時代を懐かしんだソフィニア貴族とセシャール貴族が大勢集まったらしい」
出会った若いふたりが恋に落ちるというのはよくある話だ。
王子とエレオノーラが、舞踏会のその夜にふたりだけの結婚式を開いたことは有名な話で、数々の戯曲になっている。
「エレオノーラはたいそうお美しい方だったようですね?」
「まあ、そうかな。ダーバ……僕の住んでいた城に肖像画があるよ」
「ダーバンシュワイツェルトフォーヌ城にですか」
「そう、そこ」
ジョルバンニがさらさらとその名前を言ってのけたので、ユーリィは少々げんなりした。
そもそも“ダ”のつく城も“ゲ”のつく城も、無駄に名前が長すぎる。王宮時代の名残だというが、こんな名前をつける精神だから処刑されたに違いない。きっと三回連呼する間に、敵兵が流れ込んできたのだろう。
ソフィニアのガーゼ宮殿の正式名も、“ガーゼなんちゃら・メラ・なんちゃらー”だと前にジョルバンニから教えてもらったが、もちろん瞬間で脳内から排除していた。
「王子、つまりジュテファン三世はエレオノーラ王妃を溺愛されていたとか」
「そこにつけ入って、イワノフはセシャール産の石炭、小麦、それと銀などを独自に輸入して財産を増やし、領地も広げたのさ。それからギルドへの影響力も強めて、ギルドの管理地も手に入れたんだよ」
「ベレーネク領やメチャレフ領のことですね?」
「うん、正確には次男と三男に渡したんだけど。さっき言った“裏でイワノフが絡んでいた”っていうのは、ソフィニアギルドが軍事力をつけると、一番困るのはセシャールじゃないかなっていう勝手な想像」
「とても説得力のある説ですね」
大まじめに言われて、ユーリィは何だか恥ずかしくなってきた。内心では偉そうな子供だと笑われているような気がした。
「あ、えっと、こういうことは歴史に詳しい人なら考えてるんじゃないかな。ただイワノフ家についての考察は事実上御法度になっているから、だれも言わないけど」
「イワノフ家の方が言うことが大切なのです。ああ、それで思い出しました。セシャール国王の親書に、ライネスク侯爵にもう一度会いたいという旨が書かれてありましたが?」
「えっ!?」
女装して謁見した件だ。まさかバレていたとは思っていなかったので、反射的に叫び声を上げていた。
「お心当たりがある?」
「あ、あるといえばある、ないといえばないって感じかな……」
「それはどういうことでしょう?」
「色々あって、その色々のために色々しなくちゃならなくなって、流れとして国王と謁見しただけ……」
頼むからそれ以上は訊かないでくれと心底願う。
例の魔物襲来について公表していない事情を告白する気にはなれないし、ヴォルフとの関係を知られるのも非常にマズかった。
「やはり複雑なご事情がおありなのですね。親書には“わが第三王子の妃にと考えたほどお美しく”と書いてあったのですよ」
「げっ……」
第三王子とは、あの謁見で国王の隣にいた男だろう。女装していたとはいえ、嫌らしい感じでじろじろ見ていたあの眼は、思い出すだけでゾッとなった。
「私個人の意見としては、それも悪くないとは思っています」
「妃になれってか!?」
僕はヴォルフの嫁だから、とかそういう意味ではなく。
「違います。セシャール国王にお会いになるという意味です。今後のことを考えれば、セシャールとの関係を確固たるものにした方がよろしいですから。それに、あの親書は書記係の書き損じなのかもしれません」
「書き損じって?」
「“第三王女”の間違いだったのではと。あちらもソフィニアとつながりたいのでしょう、“セルギアの婚姻”の時のように」
「政略結婚とか、マジやめろ」
「ですが、公爵位はお子様が継承するのですから、お相手はご身分がある方がよろしいですね」
「子供なんて作らない、というかできないかもしれないぜ? 僕はエルフの血が強く出てるんだ。もう十七になるけど、人間の男にあるような体の変化もあんまりない。もしかしたら人間でもエルフでもない化け物で、子供なんて一生できないかもよ?」
先に牽制しておこうと、そう思った。
ヴォルフとは一生離れる予定はないから、子を作るだけの結婚なんて真っ平ごめん。もしも子ができたとしても、自分と同じ思いなどさせたくはない。そんな気持ちだった。
だが、ジョルバンニは食い下がる。
「エルフの成熟期は二十五,六歳だと聞いたことがあります。だとしたら、侯爵もそのお年頃になるまでは分かりませんよ」
「こんな弱々しいみかけの男なんて、女が寄りつかないさ。もういいよ、この話は」
気がつけば余計なことをベラベラと喋っていて、ユーリィは少々焦っていた。ジョルバンニとはなるべく距離を置きたいのに、いつの間にかペースに乗せられている。このままでは本当にこの男に操られそうで恐ろしかった。
車輪の音が耳障りなほど車内に響いている。たぶんそのせいで気分が落ち着かないのだと無理やり納得することで平常心を取り戻した。
「そういえば、イワノフ城にいらっしゃるのはなぜでしょう?」
「行きたくないのなら、お前だけソフィニアに戻ってもいいよ。グラハンスの馬を使えばそれもできるだろうし。ディンケルとあの新兵も一緒に連れていけばいい」
「ただの素朴な疑問です」
「ならいいんだけど……」
言いながら、ユーリィは窓の外へと視線を戻した。
丘の上に建つ城が遠くに見えていた。“ゲ”の城とは違い、あちらは完全に戦争のために作られたので、城壁がぐるりとその周りを囲む。ただしその一部は崩されて、まるで廃城にも似た風情だ。
「母に会いに行くんだよ」
本当はそんな理由ではない。別に会いたいとも思わなかった。
欲しいのは人材だ。周りにいるのはジョルバンニの手中にある者たちばかりで、孤立無援な状況が続いている。それを打破するには、あの男しかいない。
近づいてくる城を、ユーリィはしばし眺めていた。相変わらず車輪の音がうるさい。しかし邪魔だと感じたことも、時が経てば案外慣れてしまうもので、その音も頭の中にまでは入ってこない。
ジョルバンニもそうだ。
初めて会った時は、目つきのためか雰囲気のためか、どうにも好きになれなかった。案の定、そばにいるだけでイライラし、すべてが気に入らない。馬鹿丁寧な言葉使いもその感情をさらに悪化させてくれた。
ところが、少しずつ慣れ始めている自分がここにいる。ついつい語ってしまうのもそのせいだ。
それに、父との面談で彼が示した態度は、ちょっぴり嬉しかった。
だからと言って、このまま手中に落ちていくのも気にくわない。
ふたたびジョルバンニの無表情な顔を見る。すると眼鏡の奥にある真の姿を暴いてやりたいという気持ちが沸いてきた。
攻撃は最大の防御なり。こちらから仕掛けてみるかと腹に力を入れた。
「僕からも質問していい?」
「どうぞ」
「なんであの新兵を連れてきた?」
「彼は侯爵と親しいと小耳に挟みました。お父上にお会いになるのはお嫌なようだったので、心穏やかになるのではと考えたのですが。余計なことでしたでしょうか?」
「あ……いや……」
違うと言えば詮索される気がして、言葉を濁した。
「じゃ、じゃあ、あれはどうするつもり? ギルドの管理地について書いてあったあれ」
「これはこれで有効にするのも悪くないと思いますが?」
上着の内ポケットに差し込まれている二つの書類を探るように、ジョルバンニは自分の胸に手を当てた。
「無茶言うな。それにギルドの管理地には多くのエルフが住んでるんだぞ?」
「そうですね、再考する必要はありそうです」
「宮殿は今までどおり僕が使っててもいいの? なんなら僕はイワノフ城か、あっちの城に移動するけど」
「アーリング士爵のご意向も確認しなければなりませんが、宮殿に関してはギルドからライネスク侯爵へ譲渡する手続きしようと思っています。侯爵がソフィニアを離れれば、それこそ民衆の不安が強くなる。貴族を抑えるにもその方がよろしいでしょう」
「そもそも、ギルドにしても貴族らにしても、まったく動かないのが不思議だよ。変な話、ソフィニアを乗っ取る好機じゃないか」
さりげなく相手の表情を観察する。彼が支配者になることを望んでいるのなら、何か見えるのではないかと内心は必死だった。
「ソフィニア人は昔から事なかれ主義ですからね」
しれっと返事をされて、イラッときた。
「でもお前は上手くのし上がったよな?」
「いえ、違いますよ」
薄笑いを浮かべられ、ゾクッとなる。
こちらの意図を見透かされたような気がした。
「侯爵が使い魔をいくつもお持ちであることを、彼らは恐れていたのです。そこで侯爵との交渉を私に押しつけてきました。終戦後、彼らが一番気にしていたのは市民ではなく、自分たちの生活でしたので」
「と言うと?」
「今でこそ言いますが、ラシアールが運んでくる物資には多少の干し肉や果実なども入っていたのですよ。それを優先的に回すように命令され、不本意ながらそうしていました」
「ちょっと待て。命令って何?」
「ギルド上層部におけるジョルバンニ家の立場は高くはありませんので」
「上下関係があるのか?」
「ありませんよ。ギルドの精神は常に“平等”です」
眼鏡の奥の眼が細められる。瞳に鋭い光が宿った気がした。
「ですが、“平等”を振りかざす方ほど、自分より下を作りたがるものなのですよ。分かっていただけると嬉しいのですが」
案外この男も苦労しているのかなと思ってから、ハッと我に返った。
ヤバい、手中に落ちるところだったと改めて気を取り直す。言葉ではとても勝てそうもないから、自分の意志をしっかり持って会話を続けなければ、知らない間に玉座に座らされて、王冠を被せられることになりかねない。
やや顎を引いて、ユーリィは相手を睨みつけた。
「で、とうとう我慢できなくなってやつらを捕まえようって思ったわけ?」
「私情はいっさいございません。ギルド資金における不正があったと思われる証拠を見つけたので、拘束をするだけです」
それから彼は、アーリングが捕まえているだろう八人の名前をそらんじてみせた。
「以上の者たちは、ギルドにおける正式な裁判にかける予定です」
「それ以外は?」
「今言ったのは貴族との癒着が特に際立っていた者たちです。それ以外に十八名おりますが、ほとんど古くより各種産業に携わっています」
「へぇ、じゃあ、ジョルバンニ家は?」
「革命以前よりガラス工芸に従事しております」
その完璧な答えに、これ以上の攻撃は無理だと判断し、ユーリィは口を閉ざした。