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黄金の天子 ~我が皇帝に捧ぐ七つの残光~  作者: イブスキー
第五章 黒南風(くろはえ)
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第111話 朔風、吹き荒ぶ

 南門の事件と、部屋の前でちょっとした小競り合いがあった翌日、ユーリィは寝覚めの悪い朝を迎えた。

 今日はいよいよヴォルフの父親と再会する。食欲は相変わらずなかったけれど、朝食で出されたものはすべて食べ切った。


(今、倒れるわけにはいかないから……)


 一年前のことを思い出すと、なんだか落ち着かない。そのせいなのか、普段なら存在すら忘れているリビングの大鏡で、自分の姿を確認してしまった。


(そういえばあの人に、グラハンス家の嫁として認めるとか、理解不能なことを言われたっけ)


 もちろん信じているわけじゃない。あれは跡取り息子が男と関係を持ったというショックで、うわごとを呟いただけだ。堅物で敬虔なマヌハンヌス信者のあの父親が、自分の息子が皇帝の愛人であることを喜んでいるはずがない。ましてや、だれかに自慢するような真似はしてないだろうから、その点では安心だけれど、だからなんだという話だ。


(ひ弱だって散々文句を言われたから、勇ましい感じになれば気に入られるかな?)


 自分でも貧弱だと思う容姿に、前ほど嫌悪感は抱かない。だけど王者に相応しいかどうかは別。しかも、もともと軍人の家系であるグラハンス家の家長は、鍛錬という言葉も行為も大好きのようだった。


(筋肉はともかく、髭は……うーん、無理か)


 十年後二十年後、自分がどうなるかなんて分からない。けれど(たくま)しさとは無縁だろうし、貧相な男のまばら髭なんてみじめに見えるだけだ。

 いや、それ以前に、息子が筋肉隆々な髭面男の愛人であることを父親が喜ぶかどうか。

 たぶん、かなり厳しい。


(あっ、髪、伸びすぎてる)


 前回、髪が長いこともグラハンス子爵から指摘された。

 前髪はいいとして、襟足は肩まである。ただでさえ女のようだと言われるのに。せめてもの抵抗として、いつものように左耳に髪を掛けてみるが、印象が一変するわけでもなく。


(今から髪師は呼べないし、仕方ない)


 着る服は白と決めていた。なぜそう思ったのかは分からない。別に潔白であることを魅せようとしているわけでもないというのに。

 袖口と肩にレースが付いている白い上着は、襟がやたら広い。刺繍が施された薄いグレイのベストには金ボタンが三つ。ズボンも靴も白で統一しているのは、シュウェルトのセンスだ。金に糸目を付けないというコンセプトで作られている。だから胸元のスカーフを留めている紫水晶のブローチも相当な価値があるはずだ。


(あの時よりはマシだろうけど、やっぱ軍服っぽい方が良かったかなァ)


 一年前まではまともな服など持っていなかった。ほとんどが古着で、きつかったり緩かったりを適当にごまかしていたものの、寒くなければ十分だった。

 それが今ではチェストふたつ分は服がある。ほぼ毎日布屋と仕立屋が来て、並べられた商品からシュウェルトが選び、デザインまですべてを決めるのだ。


(チョビ髭に無駄遣いを止めさせないと。あいつ、仕立屋の息子だったなんて自慢してたし、放っておくとこの部屋がチェストで埋め尽くされるほど作りそうだ)


 けれど服に関して言えば、もっと酷いものがある。

 それは、王宮時代の悪風とも言うべきマント。

 大昔は背後から射られた矢の威力を軽減させる役割をしていたらしいが、今では飾りでしかない。タイプも様々で、背中を覆うようなものもあれば、左肩に吊すだけのものもある。共通しているのは、身分が高い者のみが纏うことを許されているという点。

 そして今日ももちろんマントを纏う。

 すぐ横にあるサイドテーブルの上に、赤紫の長いタイプの ――フィスと言うらしい―― マントがある。普段ならこれをコレット以下世話係が持ち運び、部屋に入退室するたびに脱着を繰り返す。その儀式に何の意味があるだろうか。

 そう思って何気なくマントに手を伸ばすと、背後からいきなり声をかけられた。


「大侯爵、もしお色がお気に召さないのでしたら、すぐにお取り替えをいたします」

「うわっ、びっくりした!」


 室内にだれかいることなどすっかり忘れていた。

 隣には怪訝な表情を浮かべるコレットが立っていて、その後ろには朝食の後片付けをしているメイドが二人。さらに鏡の中には薄ら笑いを浮かべているハーンの姿があった。


「マントはここで付けていく」

「ダメですわ」

「なんで?」

「その為に私がいるのですから」


 その言葉に、“ああ、そうか”とユーリィは納得した。

 マントの脱着に意味はない。要するに入退室の一番狙われやすい時に、警衛が接近して刺客から身を守る為。つまり水係と同じ理由だった。


「そういうことか」


 昨日までなら大げだと言ってしまったことも、今はあり得ることだと実感できる。自分自身も、常に命を狙われる場所にいるのだと。


「あの……?」

「そばにいるのはいいけど、マントの脱着は必要ないから」


 これまで以上に本気でやらなければならない。ディンケルが重傷を負って、改めて自分は多くの者たちの運命を背負っているのだと気づかされた。


「ですが、ジョルバンニ議長のご指示を仰がないと……」

「もうすぐ僕はこの帝国の最高権力者になる。でも今から初めても構わないだろ?」

「それは……」

「さて、そろそろ時間だから、みんな廊下で待ってろ」


 きっぱり言い切り、ユーリィは扉の方を指さした。

 コレットは戸惑い気味になにか言いかけ、しかし諦めてメイドたちともに部屋から出ていった。

 残るは一人。

 全員出て行けと言ったはずなのに、ハーンは扉の前に立ったまま動かない。

 いったい何を期待しているのだろうかと思いつつ、ユーリィはマントを羽織り、首元でボタンを留めた。

 それから横目でハーンを睨むと、


「もしかして僕にもう一度質問して欲しいのか?」

「なんのことでしょう?」

「お前がラシアールに濡れ衣を着せようとしたとか、ブルーが騒いだ件だよ」


 するとハーンは少々口をすぼめて、


「昨夜も申し上げたとおり、自分はラシアールが犯人などと言った覚えはありません。犯人は黒髪だったと告げただけですので。その後、話が変わったとしても、自分の関知するところではありません」

「だれに言ったんだっけ?」

「知らせを受けて駆けつけてきたアーリング士爵にですよ。ただ混乱している状況でしたので、その場にいた兵士は全員聞いていたと思います」


 ユーリィ自身は、その混乱した状況を知らない。すぐに馬車に押し込められ、この部屋に閉じ込められた。アーリングからは絶対に部屋の外に出るなと言われ、ブルーとハーンの口論も扉を挟んで聞いていただけだった。


「外はどうなってる?」


 廊下に通じる扉に視線を走らせユーリィが尋ねると、


「衛兵、巡回兵は普段の倍以上いますね。こんな状況で、彼女の護衛任務を軽減させるなど、およそ信じられませんが」

「マントのことか。でもあんなことしたって、狙われる時は狙われるだろ。もういいよ、お前も外で待ってて、すぐに行くから」


 今日はハーンと話す気にはならなかった。

 昨日助けられたという事実に、なんだかヴォルフを裏切ったような感覚に襲われる。そんな感情を抱えたままで彼の父親に会った時、冷静でいらるかどうか。

 なぜそんなふうに思うのか分からず、ユーリィはもやもやとした気持ちを抱えたまま、部屋から出て行くハーンを横目で見送った。




 接見の義は、謁見の間で行われた。ミュールビラーは円卓の間ですることに最後までこだわっていたが、ユーリィは完全に無視をした。南門の一件で侯爵の提案はしばらく聞き入れないと心に決めたからだ。

 ジョルバンニは“街にネズミが紛れ込んでいる”と言ったが、ククリが放ったネズミだけとは限らない。矢を使うなど、人間の仕業であると考えた方が納得できる。だからこそ、ラシアールの件はあまり信じなかった。


 謁見の間で待っていたのは、グラハンス子爵だけではなく、他に二人の男が随行していた。ひとりはヴォルフのそれよりはやや色が濃い銀髪の男で、もうひとりは黒服を着た男だ。初見で想像した通り、黒服はマヌハンヌス教皇が遣わした司祭だった。

 三人とも一段低い場所で畏まって待っていた。後方にはミュールビラーを筆頭に数人の貴族と、ギルドの者 ――ジョルバンニの手先だろう―― が立っている。そんな彼らの前に、ジョルバンニとアーリングを伴ってユーリィは登場した。


「お久しぶりです、ライネスク大侯爵」


 まずはグラハンス子爵が、代表して挨拶を述べた。以前と変わらず、無愛想もない物言いであるが、以前と違い慇懃さは垣間見られた。


「子爵もお変わりがないようで。そういえばご息女が生まれたと聞きましたが?」

「ええ、次女が」

「おめでとうございます」


 子爵の片眉がぴくりと動く。

 その表情にユーリィは内心ヒヤリとした。跡取りを奪った相手の祝辞など、嬉しいはずはないではないか。

 だから素早く話題を変えて、なんとか取り繕った。


「陛下もお変わりありませんか?」

「先月、酷い風邪を患われましたが、今はすっかり回復しております」

「そうですか。それは良かった」

「大侯爵にまたお目に掛かることを陛下は楽しみにされております。以前は娘姿でしたが、今回はぜひ貴公子としてお越し下さいとのこと」


 だろうなと思っていたが、やっぱりバレていた。

 あの時の女装をチクチク言われるかと思うと、あまり会いたくない。もちろんそんな気持ちはおくびにも出さず、「恐れ入ります」と返事をした。


「セシャール王国は、このたびの立国を歓迎すると陛下からの伝言がございます。昨今はフェンロンギルドが少々厄介な存在になりかけていますので、ソフィニアがギルド体制を改め、ふたたび君主主義の道を歩まれるのは大いに喜ばしいと」

「ソフィニアとフェンロンが繋がることを恐れていた。そういうことですか?」

「端的に言えばそうです。セシャールとしてみれば、南北から攻められることになるのは、さすがに厳しいですので」

「なるほど」


 セシャールとしてみればそうだろう。かの王国は大陸の中でも一番古く、四百年近く一つの王族が支配している。当然ギルド政権とは相容れるわけがない。


「ところで……」


 突如グラハンス子爵の右隣にいる銀髪が口を開く。名前はラッシュ・アグレム。のちに聞いた話によれば、セシャール国王の側近の一人であるという。鼻音を強調したセシャール訛りが少々耳障りだった。


「戴冠式について話をする前に、いくつか貴公に確認するよう陛下から申し遣っているのですが、よろしいでしょうか?」

「というと?」

「まずは前回、貴公が我が国を訪れた経緯です。陛下には色恋沙汰のもめ事と説明をし、あまつさえ女装までされていた。その件に関し、陛下はとても気に病んでいますので」


 ユーリィはグラハンス子爵がわずかに顔をしかめるのを見た。どうやら彼も苦しい立場にいるようだ。彼自身もあの茶番劇に荷担した一人なのだから。


(あの人と同じ説明をしないとダメだろうな……)


 口裏を合わせることは当然できない。

 一瞬考え、ユーリィはゆっくりと口を開いた。


「もちろんイワノフ家による内部紛争から逃れるために」

「つまりセシャールに逃げ込んだと?」


 当然だという顔をして、ユーリィは大きくうなずいた。


「あの時、僕はだれが味方か分からなかったからね。セシャール国王ですら敵なのか味方なのかも。信じられたのは友人たちのみ」

「それがグラハンス子爵のご子息と、フォーエンベルガー伯爵だと?」

「そうです」


 和やかに微笑むと、相手はひるんだように口を閉ざした。

 しばらくして__


「分かりました。実はグラハンス子爵からも説明は聞いておりましたが、貴公から直接お伺いしたかったものですから。ではもう一つ。ソフィニアス帝国となった時、フォーエンベルガー家との関係はどうなされる予定で? ご存じの通り、我が国と伯爵家は親密な関係を築こうとしている最中です。伯爵とご友人だと明言なされたのですから、むろん立国に際して、なにか確約あるのでしょうな?」

「密約はある」

「ほう、密約ですか」

「けれど口約束程度で、なにかに記したわけではないよ。むろんセシャールとフォーエンベルガーとの関係を阻害することはない。いずれ正式に契約を結ぶことになるはずだ。その前に伯爵の口からセシャール国王に説明があると思う」


 面倒臭いのでリカルドにすべてぶん投げた、という意図は悟られなかったようだ。男は「そうですか」と返事をして、それ以上は蒸し返さなかった。

 

 すると今度は黒服の男が口を開く。


「私からもよろしいでしょうか?」

「どうぞ」

「前回、貴方がセシャールにいらっしゃった際、女装をなされたとか」


 それも蒸し返すな!

 ユーリィは心で叫んだ。


「その姿がたいそうお美しかったようですね。ここだけの話ですが、第三王子もしばらく“イワノフの令嬢”と親交を深めたいとおっしゃっていたほどです」


 あの時じろじろと遠慮なく眺めていた王子だ。歳は同じぐらいか、少し上か。


(確かリカルドの妹と結婚する第二王女とは双子だったはず……)


 しかし名前も顔もはっきり覚えていなかった。


「それで?」

「教皇もその話を耳にされ、新皇帝の名前がユリアーナであると知り、とても気にされているのです」

「なにを?」

「ええと、つまり貴方が本当に男子であるかどうかと……」

「この場で裸になれと?」

「あ、いえ、滅相もございません」


 狼狽したように男は一歩さがった。


「ではどうしろと?」

「ご存じかと思いますが、マヌハンヌス教において女帝や女王は認められておりません。ですので、戴冠をする前に、男子であるとおっしゃっていただきたく……」

「見てのとおり男ですよ」

「ええ、そのようですね」


 と言いつつも、舐めるような視線にユーリィは内心イラッとした。


(やっぱ髭? 髭なのか!?)


 妙な沈黙がしばし続く。

 やがて場の雰囲気を払拭するように、グラハンス子爵がコホッと小さく空咳をした。


「以前お目にかかった時より、たくましくお強くなられたようですな。安心いたしました」

「ありがとうございます」


 世辞だと分かっていても、ヴォルフと同じ栗色の瞳がどこか優しげに見えたから、なんだか嬉しくなった。

 本当は息子のことを尋ねたいだろうに。ユーリィもちゃんと話したかった。

 けれどしばらくは無理だと言うことは、銀髪の視線でなんとなく感じ取れる。

 昔は名家だったグラハンス家はすっかり落ちぶれている。執権まで握っていた時代もあったそうだが、公爵から子爵へと降格し、領地もソフィニアの街半分にも満たない。ヴォルフの話では経済面ではかなり厳しいらしい。

 しかしそのグラハンス家が新帝国と繋がりを持ったことで、色々と疑われているのだろう。セシャール国王から遣わされた本当の使者は、きっと子爵ではなく隣にいるアグレムの方だ。

 ユーリィのそんな想像が真実だとでも言うように、アグレムは新たなる難問を投げかけてきた。


「では最後に一つ。大侯爵は、ソフィニアス帝国をエルフ国にしようという考えがありますか?」

「言っておくが、僕はエルフであるけど人間でもある」

「つまり人とエルフとの共存国家を?」

「理想はね」


 そう答えつつ、後方にいるミュールビラーを盗み見る。

 さすがにはっきりとした表情は出ていない。しかし下唇をわずかに舐めるという行為が、腹に一物があるようにユーリィには感じられた。


「なるほど、理想ですか。そういえば我々を迎えに来たエルフは将軍職に就いているとお伺いしましたが?」

「魔法軍のね。これからは魔法戦が無視できないと先の戦いで学んだので」

「ですがソフィニアにおけるあの惨劇は、イワノフ家の内紛というよりも、人間とエルフとの戦いであったとセシャール国内では認識しておりますよ」

「エルフ全体ということではなく、一部の種族だけだ」

「ええ、存じております。ククリ族でしたね。“砂漠の囚徒”と呼ばれていたとか。そして水晶鉱脈もその砂漠にありますね」


 なにか企みがある。それだけは分かった。

 だから今は黙って聞いていた方がいいと判断し、ユーリィは視線だけで先を促した。


「ご存じの通り、セシャールは大陸随一の金産出国。これはまだ公式には発表してはおりませんが、実は先月、新たな金鉱脈が見つかりました。そこで水晶と金の対価取引を、新帝国と結びたいというのが、陛下のご意向なのです。

 先ほど大侯爵もおっしゃっていたとおり、今後は魔法戦を念頭に置いた戦が主流になっていくでしょう。けれど特定の人間以外は魔法を操るのは難しい。しかし水晶があれば、魔法に準じた力を持つことは、人間でも可能ですから」

「フェンロンで作られる魔法玉のような?」

「ええ、それです。フェンロンは近い将来、我々の共通の敵となり得る存在でしょう。しかし現状では、フェンロンの技術力に我々は遙かに及びません。なので今のうちに準備をしたいと国王はお考えです」


 言いたいことはだいたい分かったし、交易としては悪くはない。

 しかし先ほどのエルフの件とどう繋がるのかがまだ見えず、ユーリィは「それで?」と言って、さらに続けさせた。


「帝国がエルフを利用することに異存はありません。しかしエルフに乗っ取られるとなると話は別です。セシャールではエルフ族の移民移住は一切認めておりませんので。もちろん奴隷エルフはいますが」


 きっぱり言い切ったアグレムの度胸には感心したものの、ユーリィにしてみれば愉快な話ではない。かといって過剰に反応すれば、相手の策にはまるようで嫌だった。


「で、僕にどうして欲しいと、国王はご希望か?」

「まずは水晶鉱山の視察を我々にさせて頂きたく存じます。彼の地が人の手に渡ったという確たる証拠を見たいのです。噂によれば、未だにエルフが奪回を企んでいるそうですな?」


 すると、ユーリィが答える前にアーリングが口を挟んだ。


「それに関しては、人間部隊である陸軍が常に鉱山を警備していますので、心配には及びませぬぞ」

「ですが採掘に関してはいかがですかな? 以前はエルフが魔法で採掘をしていたとか聞いていますが、現在は人力で行われているのでしょうか? セシャールとしましても、帝国と独占取引をすべきかどうか決めるのは、やはり採掘量が安定してからのことですので」

「それは……」

「それに関しても問題はございません」


 代わりに返事をしたのはジョルバンニである。彼の有無を言わさぬ物言いに一瞬ひるんだ相手であったが、しかしなかなか引き下がらなかった。


「問題があるかどうかは、我々が判断いたしましょう」

「まさかと思うけど、三人で視察したいってことなのか?」

「いえ、私とグラハンス子爵だけで、司祭は残られます。教皇のご使者になにかあっては、由々しき問題となりますから。それから、大侯爵もご同行をしていただきたい」


 すでに決定事項のようにアグレムは言う。

 ユーリィは目を細め、そんな男を睨みつけた。


「話は分かった。だだし了承したという意味ではない。こちらとしても急なことなので協議する必要がある」


 まったく次から次へと面倒が降ってくるものだ。

 なにひとつ解決法が見つからないというのに。


 挨拶もそこそこに、ユーリィはマントを翻し、謁見の間をあとにした。


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