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三回目 昔を思い出すと鬱になるんだ。

 とってもSFしてます。

 あと厨ニ臭いですが、自分はそれが好きなのでどうかゆるして……

8.


 試練とは各層ごとに配置されたアンドロイドを完全に無力化することでクリアとなる、ルールとしてはシンプルなものだ。この巨塔は全六層からなり、第一層から第五層までが試練に使われている。つまり試練は五回連続でアンドロイドとバトルして勝利を収めれば終了だ。

 第六層を除き各層は直径四〇m、高さ二〇mの円柱状の空間で壁や床の装飾に違いはあれど、ほぼ統一されている。

 

 春は三段抜かしで階段を駆け上る、踊り場にその速度を維持したまま飛び込み、空中で体を半回転、踊り場の壁をバネのように両足をそろえて蹴り、次の階段に飛び込む。

 幾度となく繰り返し、数えるのをやめて数分たったころ、ついに階段は終わり厳めしい扉が現れた。

 春はすぐさまその大きな扉を開き中へと入って行った。その直後、金属同士が激しくぶつかり合う甲高い音と人の男性のものと思われる怒声がいっぺんに聞こえてきた。

 第一層では三名の男達が金属の鎧に身を包み、剣と盾をそれぞれの手に持ち、一体のアンドロイドと激戦を繰り広げていた。

「うわ、すげー骨董品、OT-A1の初期型だ。博物館で見たことある」

 OT-A1は本来の火器をすべて取り外し、両手に鉄剣を装備した二刀流の状態であった。春に骨董品扱いされようとも、三人の剣士にはちょうどいい相手のようだった。

 人間の腕よりも構造的に優れているOT-A1の二本の球体関節アームは三方向から襲い掛かる剣戟をその場でアーム以外動かすことなくいなし続けていた。

 三人の剣士に焦りの色が見え始める。いくら、何処にどの様に打ち込んだとしても最小の動きだけでしのがれてしまう。それに比べて自らの剣は重くなるばかり、焦りは禁物であると解ってはいてもこの不可解な人型に遊ばれているようにも感じられ、マイナスな方向に思考が加速していくばかりだ。

 きっかけが何であったのかは不明だがついに均衡が崩れた、一人の剣士の極わずかでかつ小さなミスをOT-A1が見逃すはずはなかった。

 OT-A1の剣が一人の剣士の手首を手甲ごと切り落とした。

 激しい痛みにたまらず剣を手ばなし床に膝をついた。そこから先はあっと言うまであった。OT-A1の剣が一人を貫き、一人を切り飛ばし、三人の剣士をあっという間に無力化してしまった。

 そして機械音が響き渡り、OT-A1は動きを止め、三人は光に包まれると姿を消した。試練に敗れ行動不能と判断されたものは強制的に塔の外へと排出される。

「適正者と言ってもこんなもんか……」

 春の顔に恐怖の色は一切な無く、そうつまらなそうに呟くきゆっくりと中央へと歩きながら、背中に固定されたブルーワンドを手に持った。

 春はOT-A1のちょうど五m手前まで近寄り、ブルーワンドを正眼に構えた。OT-A1も動作を開始したようで、かすかにモーターの駆動音が聞こえる。OT-A1は両腕をだらりとたらした自然体のままであった。 酸化防止剤を塗っただけの鈍い銀色をした装甲には細かな傷が刻まれ、銃弾のものと思われる焦げ付いた凹みが無数にある。

 よく見ると、右アームは左アームに比べて比較的新しい。他にも細かなパーツが取り替えられている。

 頭部に取り付けられた傷だらけのバイザーの奥に人間のそれであるようにレンズが二つうかがい知れた。

(なるほど……そうきたか)

 春にとっては取りに足らない相手であることには間違いない。

(情に訴えかけるとは何て陰湿な)

 春は自身の兄が、わざわざボロボロのOT-A1を用意し、自らの手で修理している様を容易に思い浮かべることができた。

 春は一つため息をつくと、一気に地面を蹴った。

 OT-A1は移動速度からその一撃をよけることは出来ないと即座に判断した。両手の剣をクロスさせ、身を守る体制に移行する。

 春は正眼の構えからブルーワンドを左の拳が額にくるまで振り上げ、OT-A1を肩口から二本の剣ももろとも真っ二つに叩き切り、春はそのまま左へと抜け、残心をとっていた。

 機械音が鳴り響き、春は第一層を突破した。

 OT-A1は光に包まれ、散らばった小さな部品もろとも消え去った。


9.


 春は再び階段を上り続け、第二層に到達した。

 第二層のある高度二〇〇〇メートルまで登ってきた春だったが、息が上がることもなく、疲れは感じていないようだ。

 第一層と同じように春の真ん前には厳めし扉が立ちはだかっていた。春は事前にブルーワンドの固定を取り外し、肩に担ぐ。開いた左手で扉を押し広げ内部へと入っていった。

 待ち受けていたのは一体のアンドロイドで第一層のOT-A1よりも全体的に一回り大きいようだ。OT-A1よりも分厚く、隙間なく装甲板が取り付けられていた。アームは簡略化され多少の損傷では壊れることは無くなった。

「AC-AN6の陸戦型か、そろそろ本気を出してきたな」

 AC-AN6は人間が扱うにはあまりにも大きな銃器を腰の位置に構え、微動だにせず大きな銃口を春に向けていた。

 開始のブザーが鳴らされた。

 ――と同時に春は床を勢いよく蹴って真横に飛んだ。途端に大きな銃声が鳴り、数瞬前まで春が立っていた位置に弾痕が刻まれた。

(あぶねーやっぱり撃ってきた)

 ほっとするのもつかの間、銃口がぴったりと春に向けられる。春はとっさにブルーワンドを盾にした。

セミオートで発射される五〇キャリバーの弾丸はブルーワンドの分厚い腹できれいに潰れ、貫通することはおろか傷つけることすらできなかった。

 だがその強烈な振動は直に腕に伝わり、腕がしびれ始めた。春は歯を食いしばりこらえ続ける、ブルーワンドが腕の中から弾け飛びそうで、じりじりと春の体は衝撃で後退していった。

 永遠とも思える時間が十五秒ほど過ぎたころ、ついにチャンスが訪れた。それはリロードである。五〇発の弾薬を撃ちきり、AC-AN6はリロードを行うために後退を始めた。春がそれを逃すはずもなく追撃する。AC-AN6もそれに見事に反応し、ふくらはぎに設置されたホルスターから拳銃を抜き放つ。

 後ろ向きで飛ぶように後退し続けながら、拳銃を春に向け、引き金を絞った。

 放たれた弾丸は春の肩口を貫くには力不足だったようで、弾丸は潰れてキノコ状になり床に落ちた。春はバランスを崩しかけるも前進をやめなかった。

 初めの一振り目で拳銃を弾き飛ばし、返し刀で左アームを切り飛ばした。春の追撃はさらに続く、三振り目はAC-AN6の左胴体にめり込んだブルーワンドを引き抜くように体を横に倒す。引き抜かれた勢いを生かし、右足を軸に体を回転させ、ブルーワンドを頭部に叩き込んだ。金属が潰れた音と同時に細かな部品が飛び散り、オイルが噴き出す。それでも頑丈さが取り柄のAC-AN6の制御回路は死んではいなかった。甚大な損傷が発生した場合のマニュアルに乗っ取り撤退に入る。

 春は切っ先をAC-AN6の背中に狙いを定め、一気に駆け出した。瞬く間に距離は縮み、春渾身の突は堅牢な装甲板を突き破りその奥の動力炉を完全に破壊した。

 炉を破壊されたAC-AN6は力なく崩れ落ち、物言わぬ鉄塊へと戻った。

 終了の合図が鳴り響き、AC-AN6の残骸は光とともに消え去った。

「ふぃー」

 春はブルーワンド背中に固定してからやっと人心地にが付いた。さすがの春にも若干疲れたのか額の汗をぬぐい、床に座ると、腰につけられた小さなポーチから水筒を取り出し口に含んだ。

「……血の味がする」

 どうやら口の中を切っていたようだ。戦闘中は一切気づかず、一息ついてから初めて気が付いたようだ。水筒をしまうと春は立ち上がり、向かい側の壁に開いた扉から次の第三層を目指した。


10.


 地上から三〇〇〇mの位置に第三層の扉があった。

 だが今までと違うのはその巨大な扉の右端に小さな別の扉が設置されており、何点かのイラストを交えてこの扉が途中リタイアの扉であること、ここまで登ってきたことに対しての報酬を支払うとの旨が記されていた。

 もちろんリタイヤする気もましてや報酬などには全く興味はない春は第四層に踏み入った。

「うわ、ついに出た。こいつ固いんだよまったく」

 AC-AN6をはるかに上回る四m超えの巨体、遥かに分厚い装甲板。背中に張り付けるように取り付けられた二挺の機関砲は装甲車にマウントさせしっかりと固定しなければならないような大きなもので、けして人に向けて撃つために設計されているのではないと容易に理解できる無痛銃の類だった。

 春はいつもより慎重にブルーワンドを抜き放つ。その行動をしっかりと凝視していたその機体は春の行動に合わせるようにして背中の機関砲を一挺取り外し、両手に抱えた。

「さすが、ソラ兄とノア姉が共同開発した甲殻外装シリーズの第一世代〈ディーン〉……いつみても威圧感がすごいや」

 春が〈ディーン〉と呼ぶその機体は今も頭部のバイザーの奥に青白く発光するモノアイを機敏に動かし、春に敵勢が有るか否かうかがっているようだ。

(あれっ? もしかして無人機かな……だったらまだ付け入るすきがあるな)

 〈ディーン〉は胸部がコックピットになっており、人が搭乗し、操縦することが可能だった。春は一連の挙動と前回第一層で現れた時とを比較して、無人であると断定した。

(まだ、この世代の無人機技術は直線的でAIも貧弱、しかもAIは威嚇射撃はしても先制攻撃は絶対にしない……はず。先手はもらったっ!)

 春は〈ディーン〉に向けて一直線に駆け出していた。開始の合図には一切気が付かなかった、そのくらい春は本気で、精神的に追い詰められた状態であった。

 春は〈ディーン〉に直前まで切っ先を向けないようにブルーワンドを床に引きずって〈ディーン〉の懐に飛び込んでいった。

 ブルーワンドが床と擦れ眩い火花が散っていく。春の目的はただ一つ、〈ディーン〉左わき腹部分の装甲下にある制御系統の延髄、オートエイム機能を統括するバランサーにダメージを与え、正確無比な銃撃に狂いを生じさせようというものだった。

 幸いなことに現在〈ディーン〉は機関砲を装備した状態、右アームで引き金に指をかけ、機関砲に設置されたハンドグリップは機体の内側に向けられ〈ディーン〉は左アームをそのグリップに添えているため、左わき腹ががら空きであった。

 目標はもう目前と言うところで春は額がひりつく感覚を感じ、突撃をやめ床に突っ伏した。春に向けられた機関砲からビンからコルクを抜くような気の抜けた音が三回聞こえた。

 と、ほぼ同時に後方の壁が爆発した。

(撃ってきた……しかもグレネードタイプかよ、前回は通常弾だっただろ くそっ)

 春はもう躊躇していることすらできなかった。春はブルーワンドを盾代わりに銃口が向けられることも構わず突撃した。ブルーワンドに機関砲から発射された四〇mmのグレネード三発が立て続けに炸裂する。体がはみ出していたのか肩口に破片が食い込む、爆音で耳がどうにかなりそうだった。

「うおおぉぉぉ!」

 春は爆風の中を突き進みきり、渾身の力をブルーワンドの重量に加算させ、制御系統の延髄にAC-AN6の装甲をアームの上から潰して見せた一撃を食らわせた。

 手ごたえは確かにあった。だが、ブルーワンドが〈ディーン〉の左アームで、万力のように固定され春は引き抜くことが出来なかった。

 〈ディーン〉は左アームのみでブルーワンドごと春を持ち上げるとそのまま放り投げた。春は小さなオモチャのように放り投げられ二〇m先の壁に激突した。

 脳ミソがシェイクされ意識がもうろうとする中、春は自分に向けられる二挺の機関砲の銃口を見た。

「――やば」

 方や装甲車両の破壊に長けた四〇mmグレネード自動擲弾砲、方や面制圧に長けた散弾砲だった。

 オートエイム機能にダメージが入ったようで初期のような針の糸を通すような精密な射撃ではなくなったものの、そこは面での攻撃で完全にカバーされていた。容赦のない完全フルオートで数百の弾薬を撃ち尽くしていった。

 もうもうと煙が立ち込めるなか〈ディーン〉はリロードの体制に入った。

 その瞬間を春は虎視眈眈とうかがっていた、一気に距離を詰めブルーワンドを装甲板のわずかな隙間に突き立て、右アームの制御系統を断ち切った。

 〈ディーン〉は散弾砲を放棄し、後退に移った。それを春が逃すはずがない、追随し猛烈な勢いで斬撃を叩き込んでいく、〈ディーン〉は非常に頑丈で一度や二度同じ場所に現在の満身創痍の春の攻撃がヒットしたところで、凹ませるのが関の山だった。しかし、春は執拗なまでに斬撃を一か所に集中させた。

 一〇、二〇と与えていくうちに、一番装甲の厚い胸部の装甲板に亀裂が入った。春はそれを穿り返すようにブルーワンドを突き入れ、ひっかき回す。〈ディーン〉もただやられている訳ではなかった。すでに両アームは破壊されていたものの、頭部に設置された九mmマシンガンが火を噴いた。

 だが九mmパラペラムでは春に十分なダメージを与えることはかなわなかった。春は〈ディーン〉の頭部を拳で殴り続け銃口を黙らせた。

 その時終了のブザーが鳴らされた。

 春はそれでも止まらず、〈ディーン〉の機体が光に包まれるまで破壊を続けた。


11.


 第三層をクリアしてからも春はブルーワンドを投げ出して床で横になり動けないでいた。〈ディーン〉に壁まで放り投げられ一斉射撃を受けた際に受けた傷が思いのほか深刻で、右上腕と右大腿には散弾が直撃し、傷口が握りつぶしたトマトのようであった。体中に細かな鉄片が食い込み、血がにじんでいる。

 出血もひどく、もうじき致死量に達しようとしていた。

 だがやはり、あの森の中の家でニアが目撃したように、傷は目に見える速さで修復されていった。小さく響く金属音は傷口から鉄片が排出され床に落ちた音で、ビー玉を転がしたような音は上腕と大腿から直径六mm、BB弾程度の鉛玉が傷口から排出され床を転がっていくものだった。

 一時間ほど経過した頃、春に意識が戻った。ゆっくりと体を起こし傍らのブルーワンドを杖代わりにして立ち上がる。

 春はうつろな目で向かい側の壁に開いた第四層への入り口を見つけると、ブルーワンドを慣れた手つきで固定し歩き始めた。

「あー、腹減った……」

 春はそう愚痴りながら階段を永遠と駆け上がる。明らかに今までの間隔よりも層と層の間隔が開いていた。春が前回敗退したのが今さっきいた第三層なので新記録ではあるのだが、春は手ばなしでは喜べなかった。

(前回なんて第一層でいきなり〈ディーン〉が現れたから、それを考えると格段に難易度が低くなってる……でも、この塔は全第五層、第三層で〈ディーン〉が出てきたとすると次の第四層は前回通り〈ディーン〉の発展型第1.5世代機である可能性が高いな)

 思考の海に埋没していた春はついに第四層の扉を発見した。現在高度は六〇〇〇m、この塔を六割上ってきたことになるようだが、この塔には一切窓が無いため自分が地上六〇〇〇mにいる実感がわかなかった。

 春は第四層の扉を手で触りよく観察した。その結果、どうやらこの扉は第一から第三層までの扉とは材質が異なるようだった。春の頬を汗が伝わる。

「いや、まさかね……。でもそれ以外考えられないな……」

 春は扉の横に設置されたリタイヤ専用の出口を凝視し、熟考を始めた。

 春の心はこれまで以上に揺らいでいた。 

(この扉の向こうに立ちはだかるのは最善の場合で第1.5世代機。最悪の場合、第2.5世代機に足を踏み入れている可能性もある)

 春は壁を背にして座り込んだ。

(第二世代までなら前回の経験をもとに何とかなるかもしれない。でもそれ以上の機体が現れたら? ブルーワンドの重量に任せた物理的な攻撃はあいつらの装甲に意味をなさない。……リタイヤすべきかな)

 ため息を一つ。どれだけ悩んだところで答えなどでないということを知った春はやけくそな思いで扉をあけ放った。

 第四層の中央部に一体の人影があった。

「なんだと……」

 黒曜石のような艶やかなで黒く、洗練された剣のようにシャープでいて鋼よりも遥かに強固な装甲板で全身を包み、頭部に埋め込まれた一対の眼球型カメラが春を油断なく監視していた。

 その体躯は〈ディーン〉に比べれば半分程度で装甲厚も見た限りでは非常に薄い。

 そして銃器の類を体に装備していなかった。外見だけで判断するならば春に勝機が十分あるように思える。

 だが春は第二世代機よりもいっそう人間の形、大きさに近づいた、目の前の機体をよく知っていた。もちろん現在の自身が手も足も出ない存在であることも。

 春の脳裏に映し出されるのは春の兄、ソラに初めてこの機体を見せてもらった時のことだった。

『いいか、春。長くてめんどくさいから一度しか言わないが、覚える必要は無いからな? こいつの正式名称は第三世代型魔力核併用式惑星間航行戦闘用甲殻外装〈ファントム〉だ』

 そう一息で言い切り、目の前の液体で満たされた高さ三m弱のポットを指さした。その中には黒い人型をした二m程度の機体が脱力した格好でポットの中に固定されていた。

『こいつは第一世代や第二世代に比べればやせっぽっちで貧弱そうに見えるが搭載された核融合による人工太陽炉が生み出すエネルギーは単純計算で第一世代機の一〇〇〇倍、第二世代機の二〇〇倍に相当する。防御面でも心配は無用だ、1.2L級の魔力炉が作り出す障壁がいかなる障害からも機体を守り抜く』

 記憶の中のソラは笑っていた。

『え? 武器は何って? はははっ。聞いて驚くなよ? こいつは甲殻外装初の光学兵器、つまりビームを搭載している。宇宙での亜光速戦闘も視野に入れて開発したから当然と言えば当然だけどな。ちなみにビームは粒子加速砲を採用した。チリならたくさんあるからな』

 そう言ってソラはにやにやしながら〈ファントム〉に異常がないか細かな確認をしていた。

『こいつの量産プラントが完成すれば大宇宙連合など、くくくふはははははっ!』

 ソラの高らかな笑い声と共に記憶はそこで途切れていた。

 あの時もそうであったように今現在〈ファントム〉背部にある八か所の小口径魔力加速砲は完全に解放され、充填を開始した。

 開始を知らせるブザーとともに放たれたビームは空中で三度急カーブを描き、八本の光の束は盾にしたブルーワンドを見事に避け春の体容赦なく貫いた。

 同時に春の視界は暗転する。


12.


 強烈な光によって少女は目をさました。

 しばらくすると肌や髪が白くさらに白衣を着た白尽くめの少女が現れ、その外見からは想像できない男勝りな口調で少女に異常なところはないかと問うてきた。

 白尽くめの少女は何やら話していたがある大きな疑問が少女の心を支配し、話を理解することができなかった。少女はたまらず白尽くめの少女に尋ねた。

「えっと、その……変な質問だってことはわかるんですけど……私は誰ですか?」

 白尽くめの少女はその問いかけにかすかに笑った。すぐにその笑みは消え去り白尽くめの少女は少女にいくつか質問をした。

「何か覚えている記憶はある? 思い出とか小さな時にした思い出とか」

 白尽くめの少女の問いかけに少女は目を伏せて何かを覚えていないか必死に思考を巡らせた。その数分間白尽くめの少女は少女をにやにやとした目つきで観察し続けた。

「どうやら、本当に何も覚えていないようだな」

「……すいません」

「謝る必要なんてないぞ? ――そうだ、いいことを思いついた。君、オレと一緒に来い。君の身柄の安全、衣食住、知識、そして自由。君が望むならそのすべてを無償で与えよう。だから一緒に我々の住んでいる場所に来てほしい。もちろん君が記憶を取り戻し、またここに帰りたいと思うならその時も君に協力するぞ?」

 記憶が無いせいで恐怖や不安に憑りつかれた少女はその提案を即座に受け入れた。

「よし。そうと決まればさっそく出発だ!」

 白亜の巨塔その第六層が青白い光に包まれたのはその直後だった。すぐにその光は収まり、その場に二人はもういなかった。


 

 春は思わず飛び起きた。

「ここは……」

「森の中の家だ」

 春は声が聞こえた方向を向いた。そこには椅子に座り、分厚い原本らしき書類の束を読んでいる少女がいた。

「ノア姉さん。僕はあれからどうなったの? やっぱり不合格?」

「いい知らせと、おそらく悪い知らせどっちから知りたい?」

「じゃあいい知らせから」

「そうか。じゃあまずいい知らせから、お前は一応合格。これが証明章バッチ、発展途上文明との接触と術式の行使を認めるものだ。おめでとう」

 ノアからバッチが手渡された。バッチには広がった二対の翼が装飾され、第四階位〈ドミニオン〉と記されていた。

「それで、悪い方は」

 春はそのバッチをポケットに放り込み、ノアを見据えた。

「おいおい、そんなに睨むなよ……。お前だってわかってたはずだろ? 彼女は科学発展途上文明、魔術未発展文明の人間で、お前は先進高度発展文明の人間だ。これはルールだからな、まあ拘束力はないに等しいが……だが立案したのは我々だからな、ちゃんと守らないと示しがつかない」

「……ニアは今どうしてるんだ?」

「学校に通ってる。楽しそうだったぞ?」

「そう……。ならいいか」

 春はベッドから起き上がり階段を下ると修練場に向かった。修練場からブルーワンドを持ってきた春はそれを壁に立てかけ、旅立ちの準備を始めた。

「本当に行くのか?」

「止めるの?」

「いや、止めはしない。お前が勝ち取った権利だからな、まあ気が済むまで遊んで来い」

 

 その日、少年は自身の長けよりも長い一振りの大剣と少しばかりの荷物を持って魔の森を離れた。

 戦闘メインでした。最後の方が駆け足だったのは一回消してしまいモチベーションが激減したからです。

 

 次回からやっと中世要素が入ってきます。

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