一日の終わり
あの後の清水清羅は不機嫌極まりなかった。
学校にいる時と全く変わらない態度で、俺に接してきた。
それに加え、話しかけてもどこか返答も刺々しい。
「飽きた」と言い放って、バッティングセンターからすぐに出て行き、俺の斜め前をズンズンと歩き、帰路についた。
……結局、告白の真意も何も聞けないまま、授業をサボって神社で他愛も無い話をして、バッティングセンターへ行っただけで、今日が終わった。
ポケットから紙切れを取り出すと、丸っこい字で書かれた夏輝の携帯の番号と住所が目に入る。
一応、懐かしの幼馴染に会えて、嬉しかったのは事実だし、俺も夏輝の転校の理由や、帰ってきたわけを聞きたかったので、電話をかけてみようと思い、気が付いた。
そういえば俺は、清水清羅の電話番号すら知らない。
脅迫的とは言え、一応告白をされ、それを受けた間柄だ。
そんな相手の電話番号も知らないって、どういうことだよ。
自分の中で自分に突っ込みを入れ、ボフッと自分の枕に顔を埋めた。
冷静に考えてみると、告白から一日経った今日。清水清羅との関係性は曖昧な物だった。
イエスという態度は示したが、なんというか、付き合っているという感覚が薄くて、どこかすっきりしない。
そもそも、本当に彼女の事を好きなのか? 彼女が欲しいという理由だけで承諾していたのでは、いくらなんでも失礼じゃないのか? というか、清水清羅の告白も失礼とかそういう次元を超越した何かだったんじゃないか?
そんな思考の迷宮に嵌って、何がなんだか分からなくなって、頭を掻く。
「どしたの? 頭、かゆいの?」
いつのまにか、人差し指を咥えながら、首を傾げて俺に尋ねるありすがそこにいた。
「ご飯が出来てるから、下りておいでって、ママが言ってるよ」
右手で握った不細工なたぬきのぬいぐるみをブンブン振り回して、俺に付いて来るように示すと、踵を返して部屋から出て行った。
小さなおちょんぼを頭のてっぺんに作り、明らかにサイズの大きい白いワンピースを着た、どう見ても可愛いあの女の子は薦田ありす。俺の妹だ。
五歳なのに時計も読めるし、お兄ちゃんの言うことをよく聞き、話もよく理解する力がある。
羽根さえ生えていないが、どう考えても天使だ。
そんな風に妹に見とれている間に、先程の悩みは一度頭から抜けてしまった。
また考え直すのも面倒くさいので、とりあえずご飯でも食べようとリビングへ向かう。
「お兄ちゃんね。清水さんって人の番号聞き忘れたって悩んでるみたいだったから、遅いんだと思うよ」
リビングのドア越しに聞こえた、ありすから両親への報告。
まさか考えが言葉に出ていたとは思わなかった。
しかしながら、優秀すぎる妹を持ち、兄としては鼻が高い。
その高くなった鼻が邪魔で、ドアを開けられないくらいに。