生きるの? 死ぬの?
春先のまだひんやりとした空気が、森の中を走ってさらに冷たくなり、俺の髪を揺らす。
目の前にいるのは、俺の喉下にナイフを突きつけた、あの女。
「もし、今日死んでも、後悔しない?」
そう問う彼女の目は、明らかにマジだ。
人気の無い雑木林の中にある、無人の神社。
叫んでも誰かに声が届くことはないだろう。
そう思っていると、彼女がスッと俺に近づいてくる。
――ヤバイ。
そう思って目をギュッと閉じた。
……が、数秒経っても、何も起こらない。
「この神社、知ってる?」
そんな俺の心境と裏腹に、俺の少し後ろ。賽銭箱の前に腰をかけて、彼女が言った。
少しホッとして、俺は頷いた。
ここは最近のお気に入りスポットでもあるからだ。
人が全く来ない上に、動物が寄り付くので、犬猫好きの俺としては、時間をつぶしたりするのに持って来いの場所だ。
ただ、他にここを知っている人がいるとは思っても見なかった。
「ここ、考え事をするのに、丁度いいんだ。誰も来ないから」
そう言いながら、大きく伸びをする。
「だから、薦田くんをここに連れてきたかったの」
パンパンとお尻についた砂を払いながら、彼女が立ち上がる。
「で、質問に戻ります」
言いながら、彼女は俺の目の前に来る。
「もし、今日死んでも、後悔しない?」
先程は怖いとも思えた問いかけだが、よく見ると、困ったような、助けを求めるような切実さが表情に表れている気がして、質問の真意が読めなくなっていた。
「……私は、後悔しないよ」
俺が答えあぐねているのを見て、彼女が言った。
「だって、ちゃんと薦田くんに気持ち、伝えられたから」
照れ隠しで笑う彼女は、不覚にもドキっとするほど綺麗で、何も言葉が口をついて出なかった。