少し、変わり始める。
人の噂も七十五日なんて言うが、一週間もすれば学校全体の熱は下がっていた。
清水清羅が夏輝とやりあおうとも、夏輝が俺に異様にくっついてきても、もはやそれは日常の一部に組み込まれたらしく、誰もわざわざ見に来たりせず、周りの人間もチラ見だけして終わりだ。なんなら時にはため息すら吐かれる。
ギャラリーがいなくなったのは嬉しくて仕方ないが、俺とクラスメイトとの溝は深まった気がする。
ただ、清水清羅とクラスメイトの溝はかなり浅くなった。
「清水さん、この雑誌のモデルどう思う?」
「今度カラオケ行かない?」
そんな、今まででは耳を疑うような言葉が簡単に飛び交うようになった。
しかも、清水清羅は若干の笑みを浮かべて対応するようになったから、さらに話しかける人が多くなった。
一方の夏輝は、もうクラスに友達じゃないやつがいない。と、言っても過言ではない。そして、ソフトボール部を覗きに行き、練習に一度参加しただけでほぼレギュラー扱いされている。
「久しぶりだなぁ……」
半ば感傷に浸るようにヒロシゲが言う。
昼休みの屋上には、俺とヒロシゲ。いつの間にか完成した戦艦大和は、屋上の貯水タンクのわきに透明なケースに入れて飾られていた。
ヒロシゲはパンを食べ終わったのか、少年誌を枕にしてゴロリと寝転がる。その寝顔もどこか幸せそうだ。
元々、人とつるむのが好きではないヒロシゲが、途端に注目を浴びるような面子に自分の時間を支配されてしまったのだ。たまに自分の時間ができてここまで幸せそうになるのも無理は無い。
ヒロシゲ曰く「お前はいてもいなくてもあんまり変わらねぇからどっちでもいい」とのことなので、気の置けない仲だと言っていると解釈している。
「……嫌な予感がする」
今にも天に召されそうな顔で眠ろうとしていたヒロシゲが、急に真顔になって目を開けた。
「これは当たるタイプの予感だ」
起き上がりながらそう言うと、少年誌を脇に抱えて屋上を去ろうとドアに手をかけた。
「あら?」
それと同時に、鈍い音をあげて吹き飛ぶヒロシゲと、その感触に驚く清水清羅がいた。
「まぁいいわ。菰田くん、ご飯にしましょう」
無かった事にして、俺に微笑みかける清水清羅と、動かなくなったヒロシゲ。
先程眠った時に天に還っていればこんな事にはならなかったろうに……。
相変わらず若干近い距離で座り、重箱に入ったおかずを頬張っている。
……本当に少し頬が張っているのは、先日のラーメン屋のお陰なのかは分からない。
「……菰田くん」
突然、思い立ったように清水清羅が箸を置いた。
「私の事……。好き?」
首を傾げて、少し涙目で聞いてくるのは異常に可愛いのだが……。
俺はそのスカートのポケットからはみ出ているカッターナイフを見逃してはいないぞ。




